事実を整える

Nathan(ねーさん) 法的観点を含む社会問題についても、事実に基づいて整理します。

韓国軍レーダー照射:韓国はCUESを誤解しているのでは?

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防衛省:http://www.mod.go.jp/j/press/news/2018/12/21g.html

韓国軍による海上自衛隊P1哨戒機に対するレーダー照射事件について。

韓国軍はCUES:Code for Unplanned Encounters at Sea(洋上で不慮の遭遇をした場合の行動基準)の理解を誤っているのではないでしょうか?

この点について予想していきます。

※追記:この記事は12月28日に防衛省が映像と資料を公開する前に、日韓の主張を整合的に理解するとこうなるのでは?という予想を書いていましたが、その後の事実からは韓国側が嘘をついているということがほぼ確定です。

CUES:Code for Unplanned Encounters at Sea

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防衛省は韓国軍が火器管制レーダーを照射した証拠があり、CUESに抵触すると指摘しています。

防衛白書によると、CUESとは「西太平洋海軍シンポジウム(WPNS)参加国の海軍艦艇および海軍航空機が、洋上において予期せず遭遇した場合における安全のための手順、通信方法などを定めるもの。法的拘束力を有さず、国際民間航空条約の附属書や国際条約などに優越しない。」と説明されています。

韓国もWPNSの参加国です。

Code for Unplanned Encounters at Seaの原文はこちらですが、2.8.1.aが問題となる条項です。誤解される行動を取らないために避けるべきものが規定されています。

a) Simulation of attacks by aiming guns, missiles, fire control radars, torpedo tubes or other weapons in the direction of vessels or aircraft encountered.

遭遇した船舶や航空機に対して銃砲・ミサイル・火器管制レーダー・魚雷管その他の兵器を向けて攻撃のシミュレーションをすること

火器管制レーダーが入っているのが分かります。

韓国軍は火器管制レーダーを稼働させていた

火器管制レーダーを稼働させていたということは韓国海軍も認めています。

それは12月25日の段階でも否定していません。

韓国側が否定しているのは光学カメラの横に配置されている追跡レーダー(STIRー180)の意図的な追跡目的の照射です。

日本の防衛省は「火器管制レーダー」が追跡レーダー(STIRー180)を指すのか、射撃統制レーダー(MW-08)を指すものか、明確にしていないことに注意すべきです。

どうも、韓国側は射撃統制レーダー(MW-08)を指して火器管制レーダーとしているようであり、それは北朝鮮船捜索のために使用していたから「正常な運用だ」と言っているようです。

さて、韓国軍が照射したのが追跡レーダー(STIRー180)なのか、射撃統制レーダー(MW-08)なのか、その両方なのか。それとも、いずれも照射していないのか。

日韓の報道等を注視していくと、どうも射撃統制レーダー(MW-08)のみ照射していた可能性が高いと思われます。

その線に立ってみると、韓国軍はCUESの解釈を誤っていると思われます。

「攻撃のシミュレーション」でなければOK?

日本哨戒機接近し撮影用光学カメラ稼働 ビーム放射はせず=韓国軍魚拓はこちら

日本政府やメディアは韓国の艦艇が攻撃用の火器管制レーダーを照射したと反発している。だが、韓国軍の説明によると、兵器の使用などとは全く関係ない行為であり、日本側の主張には疑問が残る。

実は韓国軍の説明は一貫しています。

韓国軍の説明は、「日本哨戒機追跡目的でレーダーを運用した事実はない」「人道主義的な救助のため、正常な作戦活動をしたのであり、日本側が威嚇と感じるようないかなる措置もしなかった」というものです。

この文面はレーダー照射の事実それ自体を否定しているものではありません。

レーダー照射はしても「日本側が威嚇と感じるような運用」はしていないというもの。

「追跡目的」とは追跡レーダー(STIRー180)のP1哨戒機に対する意図的な使用を指しているのでしょう。

しかし、射撃統制レーダー(MW-08)の使用を否定していることはありません。

さて、そうだとしても、CUESとの抵触が問題になります。

おそらく、韓国側は『たとえ意図的にレーダー照射をしていても、それは人道主義的な救助(この場合は北朝鮮遭難船の捜索目的)で運用していたのであって「攻撃のシミュレーション」のために運用していたものではないから、CUESに抵触しない』という趣旨の立場と思われます。

再掲

a) Simulation of attacks by aiming guns, missiles, fire control radars, torpedo tubes or other weapons in the direction of vessels or aircraft encountered.

遭遇した船舶や航空機に対して銃砲・ミサイル・火器管制レーダー・魚雷管その他の兵器を向けて攻撃のシミュレーションをすること

確かに文言上は、そのような言い分があり得ることになりそうですが 、これは無理筋でしょう。

「攻撃のシミュレーションか否か」は判断できない

P1哨戒機はどうやって火器管制レーダーを検知したのでしょうか?

それは、レーダーの発する周波数から判定しています。

各種類のレーダーは周波数が異なりますから、防衛省はどのレーダーが照射していたかは把握しているはずです。

では、照射されたレーダーが「攻撃のシミュレーションか否か」はどうやって判別できるというのでしょうか?

これは専らレーダー照射をする側の主観にかかる話です。

照射を受けた側(今回はP1哨戒機側)は韓国軍の意図は分かりません。

P1哨戒機は、その意図を把握するためにレーダー照射をしている者に対して無線で呼びかけを行っています。にもかかわらず、韓国軍側は何ら応答しなかったという事実があります。

こういう事があるからこそ、CUESでは火器管制レーダーの照射を控えるべきものとしているのでしょう。そうしたCUESの趣旨を韓国軍は蔑ろにし、「マニュアル通り」と言っているのではないでしょうか。

 

CUESは法的拘束力がないが

また、韓国軍は「CUESには法的拘束力がない」ということも利用しているのではないでしょうか?

ただ、たとえ法的拘束力がなくとも西太平洋海軍シンポジウムで合意された内容であるので、そうした【国際合意を簡単に破る国】であるという事実は非常に重いでしょう。

韓国軍の運用が異常

  1. 韓国軍はレーダー照射の事実を隠ぺいする嘘をついている
  2. 韓国軍はCUESの取り決めを誤って理解して運用している

報道が錯そうしていますが、1番の話ではないと思われます。

むしろ、見方によっては2番目の事態の方がより深刻です。

【韓国の軍隊は国際合意を都合よく解釈して他国に不要の緊張を与える組織だ】

このように評価されることの方が、かなり深刻なものでしょう。

ただ、P1哨戒機が火器管制レーダー照射について「一定時間継続して複数回照射を受けた」という事実を踏まえるならば、韓国側はそのような行為を敢えてしておいて「捜索目的での照射であった」と強弁しているという可能性もあります。

これを「嘘」と表現するか、CUESの誤解と評するかは議論がありそうです。

いずれにしても、これまでは「政府」の信用の話だったのが、「比較的まとも」と思われていた「軍」ですらこのような態度であるという話であったなら、いよいよ韓国という国家の国際的信頼は地に落ちるでしょう。

まとめ:「コミュニケーション不足」ではない

これを「コミュニケーション不足」という言葉で表現してはいけません。

おそらく、そういう話に持っていこうとするコメンテーターが出現するでしょう。

日韓の当局が再発防止のために協議するのは当然ですが、今回の話はひたすら韓国軍の側に落ち度があるのであって、まるで日本の側に落ち度があったかのように表現することは不適切でしょう。

以上述べてきたことは「日韓の主張を整合的に理解するとこうなる」というものです。

「韓国側が嘘に嘘を塗り重ねている」という可能性も未だ払拭できないでしょう。

それはこれまでの韓国側の行動から、致し方ないと思われます。

なお、12月25日に防衛省から発表された声明文では、韓国側の発表には一部事実誤認があり、「当該駆逐艦の上空を低空で飛行した事実はありません」としています。

以上