事実を整える

Nathan(ねーさん) ほぼオープンソースをベースに法的観点を含む社会問題についても、事実に基づいて整理します。

「環境型セクハラ」とは?法的な意味と政府見解のまとめ

環境型セクハラ

日本赤十字社の献血ルームにおいて、「宇崎ちゃんは遊びたい」という漫画のキャラクターのポスターが掲示されていることに対して「環境型セクハラだ」と言っている人がいました。

この言葉は法律用語なのでむやみに使ってよいものではありません。

法的根拠と政府見解を整理します。

厚生労働省の政府見解とセクシュアルハラスメント対策啓発

セクシュアルハラスメント対策に取り組む事業主の方へ |厚生労働省

セクハラについては厚生労働省が定義を作っています。

対価型と環境型のセクシャルハラスメントの意味

f:id:Nathannate:20191025155900j:plain

厚労省ではセクシャルハラスメントを「対価型」と「環境型」に分類しています。

対価型セクハラとは

労働者の意に反する性的な言動に対する労働者の対応(拒否や抵抗)により、その労働者が解雇、降格、減給、労働契約の更新拒否、昇進・昇格の対象からの除外、客観的に見て不利益な配置転換などの不利益を受けることとされています。

こちらはパワハラに近いニュアンスですね。

環境型セクハラとは

労働者の意に反する性的な言動により労働者の就業環境が不快なものとなったため、能力の発揮に重大な悪影響が生じるなどその労働者が就業する上で看過できない程度の支障が生じることとされています。

一般的には意に反する身体的接触によって強い精神的苦痛を被る場合には、一回でも就業環境を害することとなり得ると解されています。

身体的接触のみならず言葉によるセクハラも対象になっているといえるでしょう。

典型例として「事務所内にヌードポスターがあることによって…」とあるように、ポスターが対象になり得るということが書いてあります。

このような厚労省の分類は法的な根拠があります。

男女雇用機会均等法上での環境型セクハラ

雇用の分野における男女の均等な機会及び待遇の確保等に関する法律(雇用期間均等法)

第二節 事業主の講ずべき措置
(職場における性的な言動に起因する問題に関する雇用管理上の措置)
第十一条 事業主は、職場において行われる性的な言動に対するその雇用する労働者の対応により当該労働者がその労働条件につき不利益を受け、又は当該性的な言動により当該労働者の就業環境が害されることのないよう、当該労働者からの相談に応じ、適切に対応するために必要な体制の整備その他の雇用管理上必要な措置を講じなければならない。

いわゆる男女雇用機会均等法の11条に「性的な言動により当該労働者の就業環境が害されることのないよう…」と書かれている部分。

これが環境型セクハラが規制対象になっているということの法的根拠です。

したがって、「環境型セクハラ」という用語をむやみに使うと、法的な意味合いを持ってしまうので気を付けるべきでしょう。

宇崎ちゃんポスターは環境型セクハラなのか?

そもそも男女雇用機会均等法上のセクハラは「職場」でのものが対象なのですが、それを措いておくとして、厚労省の啓発文書ではセクハラに当たるのか否かは「平均的な女性/男性労働者の感じ方」を基準にして判断するべきだとされています。

「宇崎ちゃんポスター」には「その労働者が就業する上で看過できない程度の支障」を生じさせる影響はあるといえるのでしょうか?

ごちゃごちゃ言うまでもなく、無理があります。

男女共同参画会議女性に対する暴力に関する専門調査会の報告書でも、性的な表現とは「わいせつ図画」を念頭に置いており、ヌードポスターはこれに当たるからこそ禁止される例として挙げられているのです。

まとめ:太田啓子弁護士は安易に「環境型セクハラ」と言ってはいけない

太田啓子弁護士は「環境型セクハラしてるようなもの」と書いており、「環境型セクハラである」とは言い切っていないと言えます。

しかし、弁護士という立場を明記したアカウントで、まるで一般的に嫌悪感を催すものであるかのように「宇崎ちゃんポスター」を論評しつつ、法律用語として存在する言葉を使用しているということは、実質的に「環境型セクハラである」と言っているのと同視されるでしょう。

単に「自分個人が気に入らない表現である」とだけ言えばよかったのです。

規範判断をしている風を装って対外的に発信することは誤解を招く行いでしょう。

以上