事実を整える

Nathan(ねーさん) 法的観点を含む社会問題についても、事実に基づいて整理します。

本人の名前入りタスキ:選挙運動以外の政治活動での着用は掲示規制の公職選挙法違反なのか?

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公示日前には選挙運動は許されませんが、そうではない政治活動において、本人の名前入りのタスキをかけている人が散見されます。

これって公職選挙法違反なのでしょうか?

選挙期間外の本名入りのタスキの規制

選挙期間外の本名入りのタスキが禁止されている根拠は、選挙運動時の文書図画の掲示について定めた公職選挙法143条1項3号と言われています。

(文書図画の掲示)
第百四十三条 選挙運動のために使用する文書図画は、次の各号のいずれかに該当するもの(衆議院比例代表選出議員の選挙にあつては、第一号、第二号、第四号、第四号の二及び第五号に該当するものであつて衆議院名簿届出政党等が使用するもの)のほかは、掲示することができない。
ー中略ー
三 公職の候補者(参議院比例代表選出議員の選挙における候補者たる参議院名簿登載者で第八十六条の三第一項後段の規定により優先的に当選人となるべき候補者としてその氏名及び当選人となるべき順位が参議院名簿に記載されているものを除く。)が使用するたすき、胸章及び腕章の類

たすき」が公職選挙法上で表れているのはこの条文だけです。

なので、反対解釈をして、「選挙運動のためでない場合には、たすきは掲示することができない」と言われています。

ただ、実際には運用はバラバラです。

おそらくですが「この条文は選挙運動の場合について規定しているだけで、政治活動の場合については何も言ってない」という解釈があるのだろうと思います。

国会答弁にも顕れています。

国会質疑における名前入りのたすきがけの公職選挙法違反

198回 衆議院 政治倫理の確立及び公職選挙法改正に関する特別委員会 3号 平成31年04月10日

泉委員 ー省略ー

ちょっと具体的に触れていきたいと思いますが、いわゆる八時前の朝の活動でありますが、たすきをつけて無言で立礼をする。あるいは、音楽を流して立礼をする。そして、おはようございますとのみ挨拶をする。これは違法でしょうか。
○大泉政府参考人 お答え申し上げます。
 まず、基本的には、それぞれの態様によって具体の事実に即して判断されるべきという前提ではございますけれども、公職選挙法上で時間規制がされているのは街頭演説と連呼行為でございます。街頭演説とは、街頭又はこれに類似する場所において、あるいはこれらの場所に向かってする演説と解されているものでございます。連呼行為とは、短時間に同一内容の短い文言を繰り返し呼称することと解されております。
 これにつきましては規制があるわけでございますけれども、今お尋ねのありました、たすきをつけて立礼する、あるいは音楽を流すというのは、今言った定義からはちょっと外れてくるので、街頭演説にも連呼行為にも当たらないというふうなことで、したがって、時間制限の対象ではないというふうになってくると思います。一般論でございます。
 一方で、おはようございますとのみ挨拶するというようなことをした場合には、その態様によってはやはり連呼に当たる場合もあるというようなことで、個別具体に判断されるということとなっております。

たすきをつけて立礼することが規制対象かどうかという質疑に対して、時間制限=選挙期間外規制の対象ではないだろうという政府参考人の答弁があります。

単純にたすきをつけて選挙期間外に政治活動をした場合を問うたものもあります。

190 衆議院 政治倫理の確立及び公職選挙法改正に関する特別委員会 3号 平成28年03月18日

○本村(賢)委員 次に、公職選挙法の運用について、地域によって差があるんじゃないかなと。
 これに関しては公職選挙法第百四十三条の十六項の規定が当てはまると思うんですが、例えば、日本全国、北海道から沖縄県まで同じ基準で公選法が運用されるべきだと考えているんですが、もちろんこれは当然の話でありますけれども、これについて政府の見解をお伺いしたいと思っております。
 例えば、当人の名前が入ったたすきやのぼりやジャンパーを使用して日常の政治活動を行うことは一般として違反になるのかどうか。この点もちょっと、基本的な話でありますが、確認のためお伺いします。
○大泉政府参考人 お答えいたします。
 公職選挙法の解釈、判断等につきましては、立法時における議論、あるいはこれまでの長年における判例あるいは実例などの積み重ねによりまして、その考え方を明確にされてきたところでございます。
 総務省としましては、これらの内容を周知するとともに、質疑応答などの形で一般的な解釈をお示ししておるところでございまして、都道府県選管、市町村選管におきましては、その解釈については共通だというふうに考えております。
 しかしながら、選挙運動、政治活動の実態につきましては極めて多様でございまして、その中で、具体的にある行為が公職選挙法に禁止されるものかどうかということの当てはめにつきましては、その具体の事情を見まして、態様、すなわち時期、場所、方法、数量、対象などにつきまして総合的に勘案して、実態的に判断していく。最終的には司法の判断ということとなると思っております。
 そういうことでございますが、法の適用など統一性の確保が図られるような必要なことにつきましては、さまざまな機会を通じまして、選挙管理委員会等関係機関に周知を図ってまいりたいと思います。
 また、お尋ねのたすきなどにつきまして公職選挙法に違反するかどうかにつきましては、今申しましたとおり、個別の態様によって判断されるべきものでございますので、お答えは差し控えたいと思います。
 ただ、その上で、一般論としてということで申し上げますと、現行法上、候補者の氏名または氏名類推事項が表示された文書図画の掲示につきましては、委員御指摘のとおり、公職選挙法第百四十三条の十六項に列挙されているもの以外は掲示することができないとされております。例えば、政治活動用事務所に掲示する一定数の看板、立て札などを除きまして、それ以外は掲示できないということとなっております。
 したがいまして、個別に判断するしかないのですが、今御指摘のありましたものにつきましては、一般的にこれに当たらないことが多いのではないかと考えられます。
○本村(賢)委員 個別事案の話ということでありまして、今の事案に当たらないような話もされておりましたが、例えば、私の地元の相模大野駅で、私がたすきをして、個人旗をつけて、個人ジャンパーを着て政治活動をしていた、選挙中じゃないですよ、日常活動、この場合は違反に値するんじゃないでしょうか。もう一回、お願いします。
○大泉政府参考人 先ほど申しましたとおり、公職選挙法百四十三条十六項については、掲示していいものにつきまして列挙されていて、氏名あるいは氏名類推事項が記載されているものについては、定められているもの以外を掲示したら違反になるというような規定がございます。
 具体的な当てはめについてはできませんけれども、そこの規定から見ると、当たらないものであれば違反になるということでございます。

公職選挙法第百四十三条の十六項に列挙されているもの以外は掲示することができないとあるので、選挙期間外であれば、たすきはアウト、ということになりそうです。

実は、最近出た政府の閣議決定があるのでそれを見てみましょう。

政治活動における本人の名前入り襷の着用に関する政府の閣議決定の答弁書

衆議院議員高木錬太郎君提出選挙運動・政治活動の態様に関する質問に対する答弁書

平成三十年十二月十四日受領 答弁第一一四号
内閣衆質一九七第一一四号 平成三十年十二月十四日

公職の候補者又は公職の候補者となろうとする者(公職にある者を含む。以下「公職の候補者等」という。)の政治活動のために使用される当該公職の候補者等の氏名又は氏名が類推されるような事項を表示する文書図画及び公職選挙法(昭和二十五年法律第百号)第百九十九条の五第一項に規定する後援団体(以下「後援団体」という。)の政治活動のために使用される当該後援団体の名称を表示する文書図画については、同法第百四十三条第十六項各号に掲げるもの以外は掲示することができないこととされている。

一方、後援団体以外の政党その他の政治活動を行う団体の政治活動のために使用されるたすきについては、一般的には、選挙運動のために使用されるたすきと認められない限りにおいては、掲示することができるものと考えている。
 いずれにしても、個別の行為が同法に違反するか否かについては、具体の事実に即して判断されるべきものと考える。

公職選挙法143条16項には、たすきという文言はありません。

よって、公職の候補者等は、政治活動のためには、本人の名前入りのたすきは着用できない こととされています。

ただ、「後援団体以外の政党等」の「政治活動のため」に「たすき」を掲示することは「一般的には」可能だということが示されています。この場合には個人の活動ではないから、個人の本名の入ったたすきが使用されることが想定されていない、ということなのでしょうか?

このように考えると、公示日前、つまりは選挙期間外である場合には、選挙運動はできず、政治活動ができるにとどまるのですから、本人の名前入りのたすきの着用は、公職選挙法違反になるとしか読めません。

ただ、いずれにしても、「具体の事実に即して判断」すると書いてあります。

少なくともかなり濃いグレーであると言えます。

自治体のHPに見る本人のタスキをかける行為の規制

選挙期間外、政治活動、名前入りたすき

四万十市:選挙運動・政治活動Q&A

Q9 街頭演説等で公職の候補者等の氏名の記載されたのぼりを立ててもいいの?

A9  公職の候補者又は公職の候補者となろうとする者(公職にある者を含む)の政治活動の一環として、街頭や駅前などで行われる街頭演説やあいさつ行為において、これらの公職の候補者等の氏名又は氏名が類推されるような事項が表示された、のぼり、旗、プラカード、たすき、腕章を掲示(使用)することはできません。 これに違反した場合には、罰則規定(公職選挙法第243条)もあります。  
なお、以下のものについては認められます。 
 ① 選挙運動期間中に候補者自らが使用するたすき、胸章および腕章の類 ② 政治活動のためにする演説会、講演会、研修会その他これに類する集会の会場において当該演説会等の開催中使用されるのぼり等

このページがトップ表示されることが多いと思います。

あくまでも自治体の判断なので、これが全国的に通用するという保証はありません。

公示日前、政治活動、名前入りたすき

特に千葉市は『禁止されている文書図画の掲示』になることを明示し、さらに加えて「事前運動の禁止に抵触する恐れ」もあると指摘しています。

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こうしてみると、多くの自治体において、選挙期間外の名前入りのたすきについては、公職選挙法違反である、という慣行が定着していると言えるでしょう。

まとめ:でも共産党は関係ねぇ!

共産党は「グレーゾーンだったら何も問題無い!」と言っているかのようです。

いったいどういう理屈で問題ないと言っているのか不思議で仕方がありません。

以上