事実を整える

Nathan(ねーさん) 法的観点を含む社会問題についても、事実に基づいて整理します

サマータイム反対/賛成論:NHKアンケート調査の質問文と経済効果試算

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サマータイム実施について日本国内がざわついています。

サマータイム実施の問題点については各論者が説得力のある説明をしていますが、ここで一元化を図るとともに、元々の報道の理解と含めてまとめていきます。

サマータイム実施は導入方向と決まったわけではない

産経新聞2018年8月6日

五輪組織委員会の森喜朗会長は先月27日、首相官邸を訪れ、安倍晋三首相にサマータイムの導入を要請した。これを受け、政府・与党で検討したところ、国民生活に直結する案件だけに、政府提出法案ではなく、議員立法として超党派で成立を目指すべきだという方針に傾いたという。

森喜朗氏がサマータイム導入を要請したということ、政府与党は内閣提出法案ではなく、超党派で議論して議員立法のルートで行け、ということが分かります。

しかし、この報道は先走っていて、「政府としてサマータイム導入を目指すとの方針を決定したという事実はありません」「国民の日常生活に影響を生じ、大会までの期間が限られている」と2018年8月6日午前の菅官房長官の記者会見で菅義偉氏が明言しています。

安倍総理がサマータイム導入は国民の評価が高いと言ったか?

NHKは8月7日の昼のニュース番組と当日の記事でのみ『安倍総理が「サマータイムは国民の評価が高いと聞いている」と発言』と報じていますが、他の民放各社の報道では「国民の【関心】も高い」というものでした。

NHKが「評価が高い」と報じたのはこれのみで、それ以降は慎重な言い回しになっています。

NHKの報道には信憑性が欠けます。

したがって、サマータイムはネットでは大反対の嵐ですが、「安倍政権が推し進めようとしている、けしからん」といった批判はかなり論拠が危ないと思います。

議院内閣制を理解していないのか?

安倍総理はサマータイム法案をまずは超党派で議論するべきと言っています。

にもかかわらず、それを理解せずに「安倍総理」や「政権」「内閣」を非難している輩が多すぎて困ります。内閣=行政権の側と、内閣ではない国会議員=立法権の側という関係を理解してないですよね。

なお、「内閣としても検討するが」と言っているようですが、それは先行する自民党や各議員らでの議論の結果を受けての話なので、現時点で「内閣の側が推進しようとしている」という批判は的外れであると言うことは変わりありません。

NHKのアンケート調査の質問文

記事最下部ではサマータイム実施に賛成が51%、反対が12%、どちらともいえないが29%とあります。なんと賛成が多いということで、いったいどういう調査方法を行ったのかが気になりましたので調べました。

「2018年8月政治意識月例調査」調査結果】という資料を見てみます。

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上図を見ると、『暑さ対策として』『夏に生活時間を早める「サマータイム」を導入すること』という言い方になっています。

「暑さ対策として夏に生活時間を早める」とだけ聞いて、欧米が実施しているところの「人間が活動する時間帯の日照時間を多くして社会全体が機械システムに含まれている時計そのものを変更する」という意味のサマータイムを認識した上で解答していた者がどれだけいたか、私は疑問です。

この調査はランダムに選択した固定電話と携帯電話に電話をかける「RDD」という方式が使用され、全国18歳以上の男女2162人が回答していますが、上記のような意味で受け取っていたでしょうか?

そもそも欧米がサマータイムを実施している目的は以下です

  1. 人間が活動している時間帯に日が出ている時間を多くすることで
  2. 照明用の電気使用の節約
  3. 交通事故や犯罪発生率の低下
  4. 活動時間の増加による経済活性化
  5. 余暇の充実

暑さを避けるため」という今回の目的とは全く異なる目的です。

そもそも欧米のサマータイムを知らなかった者も居るでしょうし、欧米のサマータイムを知っている人は、今回はそういうものではなく単に「人が行動する時間を意識するだけで変えよう」というものと認識していて、「機械システムに含まれる時間も変更する」というところまで頭が回っていた人が多かったか?というと、そうではないと思われます。

サマータイムについての議論が充実してきた段階で再度アンケートを実施すれば、全く違った結論になるのではないでしょうか?

なお、朝日新聞もRDD方式で調査を行っており、同じような結果となりましたが、質問に誘導が含まれているという指摘はNHKのものと同様です。

魚拓:https://web.archive.org/web/20180811072029/https://www.asahi.com/articles/ASL855GWDL85UZPS007.html

サマータイム実施の問題点

各所から日本におけるサマータイム実施の問題点が指摘されています。

サマータイム導入のコストと犠牲

上原哲太郎氏による日本におけるサマータイム実施の困難性についてのスライド。

  1. インフラ内時計の修正にSEが大量に必要、時間が足りない
  2. 世論の支持があるというのは誤解で、国民は理解していない
  3. 海外は情報機器が普及する以前に夏時間実施しておりプログラミング対応されている
  4. サイバーテロのおぜん立てになってしまう

これらがまとまっています。

SEの方々の観点からはかなり詳細な突っ込みがありますが、ここでは割愛させていただきます。 手頃な解説としては以下が私には分かりやすかったです。

サマータイム実施の経済効果の計算方法と根拠の不足

第一生命経済研究所の永浜利広首席エコノミストは、サマータイム導入で、個人消費が押し上げられ、年間7千億円の経済効果があると試算している。

経済系の方が試算をしているデータがありますが、それについてもいろんな突っ込みがきています。

第一生命経済研究所の永濱利広の試算

第一生命経済研究所の永濱利広氏の試算はこちら

魚拓:https://web.archive.org/web/20180812002629/http://group.dai-ichi-life.co.jp/dlri/pdf/macro/2018/naga20180808summer.pdf

サマータイムの試算:第一生命研究所永浜利広

図をみればわかるのですが、サマータイムの経済効果の試算は「日照時間が増加することで余暇が増える」という大前提があり、それが崩れてしまっては成り立たないということです。

日本の夏の場合、他の国のように日陰に入れば湿度の低い快適な者ではありませんから、日照時間が増えることで余暇が増えるという理屈が成り立つのか疑問です。

ちなみにこの人の試算は「余暇が増えることが絶対条件」と本人が言っています。

本人もそんなに本気で試算通りの経済効果が出るとは思っていないんじゃないでしょうか?
※8月16日の「モーニングショー」の解説で永濱さんが出演し「サマータイムは反対です」と明言しました。

ちなみに日本の気候の海外との比較と経年変化については以下で一部まとめています。

永浜氏の「サマータイムの試算」は単なる日照時間増加の試算

上記の試算の評価を別の観点からすると、永浜氏が示しているのは日照時間と消費の関係のみであり、夏の場合にどうなるか、気温が高い場合にどうなるか、については全く触れていないということが言えます。

仮に夏は一年の中で日照時間が長いから消費が増えるというのであれば冬は消費が減るはずだが、決してそうではない。この点については他の論者も指摘しています。

魚拓:https://web.archive.org/save/http://wedge.ismedia.jp/articles/-/13646?page=3

過去に行われた試算

第一生命経済研究所では2005年にもサマータイムについて試算がなされていましたが、これについても疑問視されています。魚拓:https://web.archive.org/web/20180812003507/http://www.dai-ichi-life.co.jp/company/news/pdf/2005_010.pdf

オリンピックに対する効果

当たり前な話として、サマータイムで時間を早めると、たとえば17時に行われる予定だった競技は15時という暑い時間帯に行われることになります。

こうした意見が起こったためか、なぜかオリンピック用に提唱されたサマータイムが恒久的な制度として設けようという意見があるかのように一部報道されているところです。

五輪サマータイム「党で議論を」|NHK 首都圏のニュース

会談のあと森会長は記者団に対し、「オリンピックでサマータイムを導入することを日本のレガシーとして使ってほしい」と述べた

これは囲み取材で発言していたので間違いないですが、早くも目的が揺らいでいておかしいです。

日本でサマータイムを導入する意義の薄さ

サマータイムは基本的に高緯度地域で導入されています。そのため、夏に時間をずらすことでの恩恵が得られやすいということがあります。日本の場合、北海道が欧州のフランスースペインあたりの緯度に相当するので、それ以外の地域ではあまり恩恵を受けられません。

日本ではかつてGHQ占領下でサマータイムが実施されていたが、不評だった。

占領解除のタイミングでサマータイムは廃止されたという事実があります。

海外でのサマータイム撤廃論議

サマータイム導入論議は海外の事例を参考にしていますが、その海外においてもサマータイムによる経済効果に疑問符がついており、撤廃するべきではないかという議論が湧き起こっています。

ここで紹介されている事例は白夜のあるフィンランドの事例です。

白夜地域の場合、ほぼ一日中日照時間があるので、わざわざサマータイムを実施しなくても日照時間は確保されている。単なる時計合わせの手間がかかるだけ、ということで、フィンランド国民からは不満だそうです。

結局のところ、その国の気候、諸条件を考慮してサマータイムの効果を考えないといけないということですね。

まとめ:ITジャーナリストの宮脇睦を見よ

サマータイム実施は正しいか?

この答えはサマータイム実施に肯定的な論評を書いている自称ITジャーナリストの宮脇睦の論を見れば自明ではないでしょうか?

その完璧さを求める性向が、ひとつの不備を見つけると全体に当てはめ、そして「サマータイムにシステム改修が間に合わない」という暴論を新聞が拡散し、みなが根拠無く同意し、先送りされてきた。これが「平成サマータイム議論」です。

こうした日本人の性向、習性からサマータイムは難しいのですが、反面、本来的な日本人が兼ね備えている「不便を楽しむ」ことができればサマータイムなど難なく乗り切れることでしょう。

以上