生まれつき茶色?
頭髪指導訴訟で最高裁判決が確定
大阪府立の高校に通っていた女子生徒が、教員らが頭髪を黒く染めるよう指導したのは違法だと主張して争った事案の最高裁判決が確定しました。
「頭髪指導は違法ではない」判決が確定 最高裁が上告退ける 2022年6月17日 17時57分
ただ、原告側の主張に「生まれつき茶色の髪だった」というものがあったため、「怒り」を拡散する人たちが居ます。
大阪府の高校の元生徒の女性が、生まれつき茶色い髪の黒染めを強要され不登校になった件についての訴訟。最高裁(菅野博之裁判長)は女性側の上告を退ける決定、頭髪指導の違法性を認めず、学校の裁量の範囲内だと判断。子どもに人権はないと。酷いな。https://t.co/SE7PDwDwZQ
— 松岡宗嗣 (@ssimtok) 2022年6月17日
しかも、原告の訴状では教師からの発言に「生来的に金髪の外国人留学生でも、規則では黒染めをさせることになる」というものがあったという報道があったため、そのような発言をした教師がいたということが確定事実であるかのように広まっていました。
(Twitterで上記文言を入れて検索してみてほしい)
また、最高裁の裁判官に関して「国民審査でバツをつけろ!」と主張する者もいました。
したがって、これは公的な事柄になっているために、具体的な事実をありのままに伝えるべきだろうと思います。
共同通信などで「生来の髪色が黒色だと合理的な根拠に基づいて指導をした」と報道されていますが、何がどう合理的だったのかがきちんと伝わるべきです。
事実審の判決文は以下で公開されています。珍しく色彩表も添付されています。
生まれつき茶色は認定されず「根元が黒い」
原告は「生まれつき髪の色が茶色」と主張していましたが、地裁判決で以下認定。
(イ) しかし,前記認定事実(3)によれば,I教諭は,平成27年5月頃,C中学校の教諭に問い合わせ,原告は,その頭髪の色が中学2年生の夏休み明け頃から茶色になり,中学3年生の時に頭髪指導を受けて頭髪を黒く染めたという中学校における頭髪指導の経過を確認していたこと,本件高校においても,F主任,J教諭,H教諭という複数の教諭が頭髪検査の際に,原告の頭髪の色は根元部分が黒色であったことを直接見て確認したことが認められ,本件高校の教員らは,中学校における頭髪指導の経過や本件高校における頭髪検査の結果等といった合理的な根拠に基づいて,原告の頭髪の生来の色は黒色であると認識していたことが認められる。そして,このような本件高校の教諭らの認識は,証拠(甲53,55,乙8・14頁)によれば,平成28年5月あるいは平成29年11月,12月に原告の頭髪を撮影した写真によっても,原告の頭頂部の毛髪の生え際付近の色が,その先の部分と比較すると黒色に近いと認められることとも整合する。
「頭髪の根元が黒い」という教員らの主張が【頭髪検査の際に撮られた写真】という客観証拠によって基礎づけられています。単に教師の証言だけを根拠にしているのではないわけです。
このスケールでいえば「4番あるいは5番」の色だとされています。
中学校時代に中2の夏休み明けから髪の色が茶色になったために黒に染めるよう指導した記録もあります。
なお、高裁判決では以下の事実も認定されています。
(1)原判決40頁9行目及び同頁17行目の各「生来の」をいずれも「地毛の」
に改め,同頁26行目の末尾に,改行して次のとおり加える。「 また,控訴人は,当審においても,控訴人の頭髪の地毛の色は黒色ではなく,本件高校の教員らが控訴人の地毛の色を黒色と認識していたことを否定する(控訴理由書)。しかし,原審におけるO教諭の証言及びB市教育委員会の調査嘱託に対する回答(乙5)によれば,C中学校では,控訴人に対し,複数回にわたって,控訴人が染髪したことに対する指導が行われており,中学3年時の9月の体育大会の応援合戦に際しては,生徒の中から控訴人の髪の色を元の色に戻してほしいとの声が上がったなどの具体的なエピソードも挙げられているところ,本件高校の教員らは,C中学校への問い合わせをし(前記1⑶イ ),また,根元部分が黒色であったことを直接見て確認しているのであり(前記1⑶ア ,イ ,ウ ,⑷ウ ),少なくとも本件高校の教員らが合理的な根拠に基づいて控訴人の地毛の色を黒色と認識していたと認められる。」
中学校時代には、生徒の側から控訴人=原告の高校生(当時)の髪の色を元に戻してほしいと声が上がっていたと書かれています。
この記述の意味が判然としませんが(ここでの「元の色」が黒色なのか茶色なのかがわからない。大阪地方裁判所で訴訟記録を閲覧し、この回答書の記述内容を見ないといけないだろう)、これは「乙5」の証拠、すなわち被告=大阪府(学校側)が提出した証拠であることや文脈からは、「地毛の黒色に戻してほしい」の意味に思えます。
最高裁の菅野博之裁判長と国民審査:「生来的に金髪の外国人留学生でも、規則では黒染めをさせることになる」という発言の存否
SNSでは最高裁の菅野博之裁判長にかんして、「最高裁判所裁判官の国民審査でバツをつけろ!」のように発信している人がいるのですが…
その理由に「地毛が茶色なのに…「生来的に金髪の外国人留学生でも、規則では黒染めをさせることになる」を適法とした裁判官なんて!」と書いてる人が多いという現実。
(「そもそも頭髪の規則を設けるなんて違憲だ」という主張なら理解はできますが賛同はしません)
学校の規則は「地毛の色」にすることとされているので、本件の頭髪指導の適切さとはほとんど関係ない話です。
※追記:『「地毛の色」にすることと規定されている』と書いていましたが修正。規定は染髪・脱色・変色…等は禁止する旨が書かれ、指導方針において染髪した場合には地毛の色に染め戻すこととされていました。
もちろん、よく理解していない教員がそのような発言をしたことがあったのかもしれませんが、仮にそうだとしても、それは「教員の指導が、根元が黒いことを確認した上で行われたと主張され、それが頭髪検査の際の写真と整合的」などの事情が認定されている状況では、原告生徒とはまったく無関係な内容です。
実は、認定事実以外にも判決文を読むといろいろと気づくことがあるのですが、差し当たっては判決文でどう認定されたかを示しておきました。
追記:詳細版⇒懐風館高校の頭髪指導訴訟の顛末と髪染め禁止ルールの是非について|Nathan(ねーさん)|note
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