有本香、橋下徹、百田尚樹ら(+長島昭久)がTwitter上で繰り広げた靖国神社論争。
これに関連して、靖国神社問題の論点整理をしていきます。
全てを語ると5万字は超えるので、ここでは議論のスタート地点を確認します。
- 靖国神社問題・A級戦犯合祀・分祀・靖国国立化の思考順序
- 8月15日の参拝は必須ではない
- 橋下徹の出発点とゴール
- 有本・百田らの出発点とゴール
- 東京裁判から解放された思考と、曖昧な思考
- 橋下徹の発信のブレについて
- まとめ
靖国神社問題・A級戦犯合祀・分祀・靖国国立化の思考順序
天皇陛下には靖国神社にご参拝いただきたいが、畏れ多くもそれは天皇陛下のためではなく英霊のためである。ここをはき違えて本末転倒な議論になることは避けたい。
— 谷田川惣 (@yatagawaosamu) July 4, 2019
靖国問題Update
— Nathan(ねーさん) (@Nathankirinoha) July 4, 2019
0:原則は英霊のため
1:昭和天皇の意思を重視するか無視するか
2:重視する場合には富田メモの解釈問題⇒戦争指導者を分祀するべきか否か
3:無視するとしても戦争指導者を分祀するべきか否か
4:国有化するべきか否か、別個の追悼施設を設置するか否か
枠組みは固まったかな。
有本・橋下・百田+長島らの靖国神社問題の議論を観察すると、上記のような分岐点が浮かび上がってきました。これは政策実現の順序ではなく、思考の順序です。
思考の優先順位としては、まず英霊のために考えるべきであるということです。
次いで、昭和天皇の意思、或いは上皇陛下や今上天皇の意思を絶対視するか否か。
ここの考え方の違いが、有本百田と橋下長島らの出発点の違いになっているのです。
それが分祀をする理由や国立化する根拠に繋がってくるからです。
いきなり「分祀は妥当か」「国立化や別個の国立追悼施設を作るべきか」という結果について検討してしまうと、話がごちゃごちゃになってしまうのです。
8月15日の参拝は必須ではない
靖国神社の在り方については別稿で紹介しますが、本来は戊辰戦争以来の戦没者を祀るために建立されたのが靖国神社です。
したがって、8月15日の参拝だけが意味のあるものではなく、春秋の例大祭が最も重要な催しであるという位置づけです。
この点については2年前に指摘しています。
橋下徹の出発点とゴール
何よりも重要なことは、とにかく天皇と首相が英霊を参拝すること。そのために何をすべきか。そもそも英霊、英霊と靖国を語る者でも、旧陸軍墓地について語った者はほぼいない。まずは旧陸軍墓地の英霊にきっちりと対応することが国家の義務。
— 橋下徹 (@hashimoto_lo) June 29, 2019
また一宗教法人に国の英霊を祀ることを任せるのはおかしい。これこそがGHQによる軍国主義解体政策の一環。A級戦犯の合祀は、日本にとって当然のことかもしれないが、悔しいが敗戦国として中国に大いに突っ込まれる余地を残し、現に天皇も首相も参拝できなくなった。
— 橋下徹 (@hashimoto_lo) June 29, 2019
橋下氏のゴールは「天皇と総理大臣が参拝すること」です。
その障害として「A級戦犯が合祀されたこと」を挙げ、昭和天皇が御親拝されなくなった原因も合祀である、という見解のようです。
したがって、橋下氏の見解の場合には本当に昭和天皇はA級戦犯合祀を原因として親拝を止めたのか?という因果関係が問題になります。
昭和天皇の意思はどうだったのか?という話になるので、「富田メモ」に触れざるを得ないでしょう。
有本・百田らの出発点とゴール
何よりまず日本国内で政治家、一般人の別なく靖国や「戦犯」についての誤解を解き、静かな元通りの祈りの環境を取り戻すことが先決です。橋下さん、なぜだか外国の方々の参拝に拘られますが、それはあちら様が希望し決めることで、こちらからプッシュすることではありませんよね。 https://t.co/64RKZiyLkC
— 有本 香 Kaori Arimoto (@arimoto_kaori) June 30, 2019
君が何の本を読んだか知らないが、昭和天皇が参拝をやめられたのは76年からで、A級戦犯合祀が理由と決めつける理由はない。むしろ75年の三木首相の「私的参拝」という発言で「公的か私的か」で国会で大問題になったことではないかとも思える。もちろん陛下の心中を軽々に推し量ることは慎むべき。 https://t.co/EeBGIjrG2l
— 百田尚樹 (@hyakutanaoki) June 30, 2019
有本「何よりもまず誤解を解き、静かな元通りの祈りの環境を取り戻すこと」
百田「昭和天皇が参拝をやめられたのは76年からで、A級戦犯合祀が理由と決めつける理由はない。」「陛下の心中を軽々に推し量ることは慎むべき」
二人は橋下氏と異なり、「静かな祈りの環境を取り戻すこと」がゴール(と表現して良いのかわからないが)であるとしています。これは、谷田川氏が指摘した「まずは英霊のため」という思考に沿っています。
そして、昭和天皇が参拝をやめた理由はA級戦犯合祀ではない、という見解です。
したがって、この見解の場合には、「昭和天皇の意思はどうだったのか?」はフォーカスされず、富田メモに触れる必然性がないということになります。
東京裁判から解放された思考と、曖昧な思考
ここで注意したいのは、すくなくとも有本・百田・長島は、東京裁判の結果からは解放された考えであるということです。
そのため、東京裁判の枠組みである「A級戦犯」という言葉は便宜的に用いているのであって、例えば以下のような見解を持っています。
概ね賛成ですが、正統性も覚束ない東京裁判に振り回されてA級とかB級戦犯を云々する必要はないと思います。(心ならずも戦地に送られた兵士の御霊が合祀される)靖国神社本来の趣旨に戻って、満州事変以降の戦争指導者(文民はもちろん軍部も)は全て霊璽簿から削除することを国会で決議すればいい。 https://t.co/Rc65r5nETO
— 長島昭久 (@nagashima21) June 30, 2019
戦争指導者の批判も含め大東亜戦争の総括が、我が国ではなされていないことは私も認めますが、靖國神社の在り方を論じている中に、そこまで話を広げる必要はありますか?
— 百田尚樹 (@hyakutanaoki) July 2, 2019
橋下さんは必要と主張するのでしょうが、それなら橋下さんの策は、より実現化が難しく、現実的ではないということになりますよ。 https://t.co/LHp6bW7XyM
これに対して、橋下氏は東京裁判史観から抜け出しているのか、非常に疑わしいことを呟いています。
また一宗教法人に国の英霊を祀ることを任せるのはおかしい。これこそがGHQによる軍国主義解体政策の一環。A級戦犯の合祀は、日本にとって当然のことかもしれないが、悔しいが敗戦国として中国に大いに突っ込まれる余地を残し、現に天皇も首相も参拝できなくなった。
— 橋下徹 (@hashimoto_lo) June 29, 2019
議論の当初は、こんな表現でした。外国の見解を気にしている時点で、東京裁判の結果ありきで考えていると思わざるを得ません。
ABCではなく、日本自ら戦争指導者の確定とその責任について総括し、戦争指導者を分祀すれば、百田さんが懸念するように、中韓がBCを持ち出すようなことはできません。とにかく令和には首相と陛下が参拝できることを実行すること。それが絶対的目標で、正論を吐くだけはないというのが持論です。
— 橋下徹 (@hashimoto_lo) July 2, 2019
3日後にはこのような発言をするようになっていますが、発言がぶれているのが分かります。
いずれにしても、東京裁判の結果を受け入れた「A級戦犯」の扱いという議論と、それとは切り離した日本国内の問題としての戦争指導者の責任問題として考えることがあり得るということを、橋下・長島らは考えています。
これに対して有本・百田らは、それは彼らを「もう一度裁く」ことを意味するため反対のようです。
橋下徹の発信のブレについて
選択肢の前に、目標を設定すべきだと思います。選択肢はあくまでも手段です。目標は、靖国に日本の首相も世界の指導者も参拝できること。そのためには分祀が必要で、そのための国立化だと思います。今の靖国が分祀をしてくれたら国立化は不要。しかし分祀は神道上できないということなので。 https://t.co/pl1RPDy4J8
— 橋下徹 (@hashimoto_lo) June 30, 2019
ここは色々な見解がありますが、報道では富田メモの存在もあります。一般公開されていないことが問題ですが。公的私的の問題は憲法20条の改正でクリアです。その問題を解決してから、参拝していただけるのかをお待ちし、それでもダメなら、やはり戦争指導者の合祀が原因と推認されます。 https://t.co/R2j7A8W3no
— 橋下徹 (@hashimoto_lo) June 30, 2019
1枚目:6/30⇒「目標設定が重要。まず分祀、そのための国立化」
— Nathan(ねーさん) (@Nathankirinoha) July 6, 2019
2枚目:7/1⇒憲法20条3項(政教分離規定)の問題を解決してから分祀(合祀が問題かを見定める)
政策の実行順序が変わってるんですよ。こんなの、真剣に議論してるとは思わないですよ。 pic.twitter.com/Kp7256tuNs
最初から意見が固まっていたわけではなかったということがわかります。
沖縄独立同様、まず本当に言いたいことではない、センセーショナルな言葉で炎上させてから、本論に入るいつものパターンを靖国でやってしまった。
— 木星3 (@tetsulovebird) July 6, 2019
その通りですね。
— Nathan(ねーさん) (@Nathankirinoha) July 6, 2019
「ケンカする敵」がいる場合の手法を、靖国でやってしまった。靖国は敵味方という問題ではないのに。
敵味方といってしまったら、それは中韓を相手とすることになり、橋下さんの主張と反する。
私の見解は、橋下さんがブレブレの状態で議論を始めたことで、誤解を解くどころか混乱を招いただけだということです。
結局、有本氏が先決だと言ったことの真逆をやっていたということです。
何よりまず日本国内で政治家、一般人の別なく靖国や「戦犯」についての誤解を解き、静かな元通りの祈りの環境を取り戻すことが先決です。橋下さん、なぜだか外国の方々の参拝に拘られますが、それはあちら様が希望し決めることで、こちらからプッシュすることではありませんよね。 https://t.co/64RKZiyLkC
— 有本 香 Kaori Arimoto (@arimoto_kaori) June 30, 2019
まとめ
靖国問題は前提となる事実の認識そのものからぐちゃぐちゃになっているので、誤解が絶えません。
その辺りを今後のエントリで整理していきたいと思います。
以上