3月19日の話ですが、豊洲市場の地下水の汚染状況について、豊洲市場における土壌汚染対策等に関する専門家会議が第10回目のモニタリング調査結果を公表しました。これについて小池都知事は「重く受け止める」としています。
豊洲問題は安全性評価全般の考え方にかかわる話でありますから、 この際にしっかりとまとめてみました。
- 最初に結論:十重二十重にも塗り固められた嘘
- 「基準」という言葉の整理
- 飲料水基準とは:簡単にまとめると
- 「地下水」とは何を指すのか
- 地下水の汚染物質と豊洲市場内の安全安心の問題
- 移転延期判断は妥当かということと、移転延期を継続することは妥当かということ
- まとめ:地下水のベンゼンが環境基準の100倍ということの意味
- ※追記
最初に結論:十重二十重にも塗り固められた嘘
- 地下水の安全性は過剰な値が設定されている
- 地下水の安全性と市場の安全性はほとんど無関係
- 地下水の環境基準適合性と豊洲移転・操業は全く無関係
安全性の以前に、そもそも「関連性がない」「無関係」であるということが言えます。
ただ、この問題では、そもそも「地下水に環境基準の100倍のベンゼン」ということの意味を正確に把握しなければなりません。そして、更にその前に、「環境基準」などの用語についてもまとめ、整理しなければなりません。
「基準」という言葉の整理
土壌汚染対策法関連法規には、いくつか〇〇基準という用語がありますが、ベンゼンに適用され、検討されているのは地下水基準です。*1*2
厳密には異なりますが、地下水基準が環境基準といっていいです*3
また、排水基準というのは、地下水基準=環境基準より緩い基準であり、おおむね10倍の許容量が設定されています。*4
さらに、地下水基準=環境基準=飲料水基準を意味します。*5
そして、飲料水基準とは
70年間、1日2リットルの地下水を飲用することを想定し、健康に対する有害な影響が現れないと判断されるレベル又はリスク増分が10万分の1となるレベル
を意味します。
まず、70年間、1日2リットルの地下水を飲む人間が存在するか、疑問です。
また、リスク増分が100000分の1というのは、他の安全性基準では見る事のないほどに厳重な基準です。
したがって、この基準を100倍超えた水を70年間飲み続けた場合、リスクが1000分の1=0.1%だけ健康被害のリスクが高まるということを意味します。
飲料水基準とは:簡単にまとめると
- 環境基準≒地下水基準≒飲料水基準
- 排水基準は、環境基準より10倍の量で良いこととされている
- 飲料水基準は、一生飲み続けたら健康に有害な影響が生じる可能性があるという量を意味する
- 飲料水基準は、それを超えた水を飲みつづけたからといって確実に健康に有害な影響が表れるということを意味しない。
「地下水」とは何を指すのか
先日の日記にもUPした地下水管理システムの概要図を再度掲載します。
http://www.shijou.metro.tokyo.jp/toyosu/pdf/pdf/gijutsu/siryo/18-3.pdf
これを見ると、「地下水」というのは、市場の建物の下のコンクリートの、更に下層にある土壌に含まれる水分ということを意味するようです。
そして、コンクリのすぐ下まで「地下水」が上がってきていますが、これは浄化槽に流し込むためにポンプで押し上げているものであり、人為的に地下水を安全なものにするために設けられた配管の内部を通っているものです。
「汚染された地下水が上がってきている」
こういう表現がとある界隈でなされていますが、実態は上記に示した通りです。
これを見るだけで、地下水の汚染が市場の安全性に直接影響を与えるということは、ほとんど関係が無いのです。特に絶対に勘違いしてはいけないのは、「地下水」というのは、「水道水」とは全く別のものであるということです。
地下水の汚染と豊洲市場の安全性は、ほとんど関連性がない
基本的には、このような関係にあるとまとめられます。
しかし、問題はベンゼン等は揮発性があるため、市場内に侵入するおそれがあるということです。その点でいえば、明らかに関連性はあります。
追記:一般的客観的には、関連性があるとはいえないことについて後述しています。
ただし、このときに検討されるべきは、現に地下水の中に含まれている汚染物質の量ではなく、揮発して市場内に到達した場合の汚染物質の量であるという事です。
地下水の汚染物質と豊洲市場内の安全安心の問題
専門家会議の報告書概要がUPされていますので、これに基づきまとめていきます。
http://www.shijou.metro.tokyo.jp/toyosu/pdf/pdf/senmonkakaigi/houkokusho/houkokusho_001.pdf
また、仮に地下水中のベンゼンやシアン化合物が揮発して室内に侵入し、室内空気に含まれるベンゼンやシアン化合物が生鮮食料品の表面に付着している水分に溶け込んだとしても、その濃度はベンゼンが飲料水の水質基準の1/1000 未満、シアン化合物が1/10 未満と非常にわずかであり、食の安全・安心の観点から見ても、悪影響が及ぼされる可能性は小さいと考えられる。
このように評価されていることからも、地下水の汚染が豊洲市場の安全に影響がある、と言い切ることが、どれほど非科学的であり、かつ、安心の面からもおかしな話なのかがわかります。
しかし、専門家会議は、「安心」の面のハードルを高く設定している方針を変えず、次のような対策を打つことを提言しています。
①生涯曝露による人の健康被害を防止する観点から、汚染土壌を直接曝露、汚染地下水等を曝露、または汚染空気を曝露することによる人の健康被害が生じるおそれが継続して防止されること。
②食の安全・安心という観点を考慮し、揮発ガス(ベンゼン、シアン化合物)が隙間や亀裂から建物内に侵入することによる生鮮食料品への影響を防止する観点から、さらに上乗せ的な安全策が行われること。
①は既に行っているものを今後も継続しましょうと言っているにすぎません。
今回の調査結果を受けて変更することになったのは②の文です。
つまり、100倍の濃度になっていることそれ自体に手を加えることは現実的ではないし必要性もないから、揮発ガス対策を行えば安全のみならず安心にとっても十二分であるとの評価であるということです。
そして、地下水のベンゼンが環境基準の100倍ということは、揮発ガスが生鮮食品に付着すると仮定すると、70年間、1日2リットルの水分を含む豊洲の生鮮食品を食べ続けた場合、飲料水の水質基準の1/1000 未満=単純計算でリスク増分が10万分の1の更に1000分の1であるということ。
(厳密にはこんな単純計算にはなりませんが、概ねこのようにまとめられます)
移転延期判断は妥当かということと、移転延期を継続することは妥当かということ
こうしてまとめて考えると豊洲への移転を一旦は延期した判断には、極わずかながら合理性があると言え、昨年の小池都知事の移転延期判断を、私は一応支持します。当時にはまだ地下水ポンプシステムも稼働していなかったのですから、今回のような調査結果を得、対策を検討することはできなかったのですから。
追記: 「合理性」などあったものではないですね。訂正します。これはシステム稼働前でも予測できる話です。こういうのを「危険だ!」と騒ぎ立てることを「ヒステリー」というのではないでしょうか?これは、そもそも石原都政のもとで厳しすぎる基準を設定してしまったことが逆に問われるべきケースです。
しかし、専門家会議も、「安心」を目指す方向性は変えないようですから、築地市場の安全性との関係で、現在の時点で移転延期を継続していることについては、また別個の評価が必要となってくると思います。
築地は汚染だけでなく、老朽化や流通・搬出経路、コールドチェーンの分断などの問題もあり、それは豊洲であれば解決できる問題です。
したがって、豊洲に移転しないという判断に「安心という意味における合理性」が生まれるのは、操業下では工事ができない、或いは工事を進めるために莫大な費用がかかるという事態が見込まれる場合である。
このような評価が一般的な常識人であればわかるはずで、それが客観的評価です。
私は、操業下の工事が不可になることはあり得ないと踏んでますし、上記にいう莫大な費用というのも、1兆円とかその規模を指し、それもあり得ないと推測します。
まとめ:地下水のベンゼンが環境基準の100倍ということの意味
- 地下水が豊洲市場の建物内で使用されるわけではない
- 地下水が豊洲市場の内部に液体の状態で侵入することはほぼない
- よって、地下水の汚染が豊洲市場の安全性に直接影響することは考えにくい
- ただし、揮発性の汚染物質については、気体の状態で入り込む余地は液体の場合と比べるとある
- ベンゼンの場合、揮発したものが食品等の水分に溶け込むと、その濃度は飲料水の水質基準の1/1000 未満である
- 専門家会議の結果を「重く受け止める」のであれば、揮発ガス対策で十二分であるという認識を持つことになるはずである
- 現時点で豊洲移転延期を継続する判断が「安心という意味における合理性」を持つのは、揮発ガス対策のための工事が、豊洲市場操業下であれば不可能か又は費用が莫大にかかるという理由があるときのみである
安心の観点からも提言された、専門家会議の報告書に、小池都知事はどう向き合うか、近く行われるであろう判断につき注目しましょう。
同様の観点から豊洲の安全性について論じているのが以下
特に橋下さんは、豊洲移転問題とされているものは問題解決全般にとってのケーススタディであるとしていますが、全くその通りだと思います。
※追記
本稿で明確に示すことのできなかった、【地下水の環境基準適合性と豊洲移転・操業が行われることは全く無関係】ということにつき日記を書いたのでこちらもどうぞ。
*1:http://law.e-gov.go.jp/cgi-bin/idxselect.cgi?IDX_OPT=2&H_NAME=&H_NAME_YOMI=%82%c6&H_NO_GENGO=H&H_NO_YEAR=&H_NO_TYPE=2&H_NO_NO=&H_FILE_NAME=H14F18001000029&H_RYAKU=1&H_CTG=1&H_YOMI_GUN=4&H_CTG_GUN=1土壌汚染対策基本法施行規則
*2:http://www.mlit.go.jp/sogoseisaku/region/recycle/pdf/fukusanbutsu/kensetsuodei/odei_file1-6-8.pdf土壌汚染対策法に基づく溶出量基準・含有量基準
*3:http://www.celery.co.jp/mizu-kijyun.html
*4:http://www.env.go.jp/water/impure/haisui.html環境省一律排水基準
*5:https://www.env.go.jp/water/dojo/sesaku_kondan/06/mat02.pdf基準値設定の考え方