事実を整える

Nathan(ねーさん) 法的観点を含む社会問題についても、事実に基づいて整理します。

女系天皇容認派撃退マニュアル2:高森明勅、小林よしのりの論理破綻

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致命的な論理破綻

高森明勅「そこまで言って委員会」で女系天皇論の珍説

2017年5月7日の「そこまで言って委員会」にて、女系天皇容認派の学者、高森明勅先生の発言がありました。

女系天皇容認派がどういう理屈を持っているのかが明らかになった放送であり、今回はその際の発信を中心に、彼らの理屈に乗ってはダメな理由について検討していきます。
※番組の動画は公開されているものは削除されてしまいました

なお、前提知識として以下の記事も併せて読むと理解が明確になるかと思います。

「皇統」「男系」「女系」という用語の意味は、以下のマニュアル1に記述してありますので必要があれば参照ください。

高森明勅「男系の血筋を引いたことのない天皇は元正天皇」

番組の50分以降で、竹田恒泰先生から、「男系の血筋を引いたことのない天皇はいますか?」という問いに対し、高森先生から「元正天皇」という回答がありました。

これは、「皇統」についての理解が、女系天皇賛成派と男系護持派(伝統論者)とは全く異なることを意味します。

この発言の異常さを理解するために、皇統譜がどういうものかを確認しましょう。
過去に、どういう皇位継承が行われてきたのかが一覧できるようにしました 

皇統譜(簡略化版)谷田川惣著「皇統は万世一系である」

文字だけではわかりにくいので、皇統譜についての図を作成しました。
谷田川惣 著「皇統は万世一系である」の巻末の皇統譜を参考にしています。

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あまり上手い図ではないですが、簡略図としては問題ないという点について、著者からもお墨付きを頂きました

さて、「皇統」をどう考えるのか。

伝統的かつ正統な理解では、以下の図のように考えます。

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岡宮天皇や田原天皇について、生前は即位しておらず、草壁皇子や志貴皇子という名称であったが、没後、諡名を与えられて天皇と呼ばれるようになったということです。

また、皇極天皇については、孝徳天皇に譲位した後、2回目の即位があったため、2回目の天皇としては斉命天皇という名称がついた、ということです。 

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この図を見れば、敏達天皇 以降の代の天皇は、敏達天皇に連なる男系の血筋であることが一目瞭然であることがわかると思います。

高森先生が「男系の血筋を引いたことのない天皇は、元正天皇」という見解を示したことは、上記理解とはかけ離れているということがわかったと思います。

女系天皇容認派の理解は、以下の図のように考えます。

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高森先生と小林よしのりが同じ見解かは怪しいですが、小林氏の見解は以下の通り 

斉明天皇から天智天皇は女系継承、元明天皇から元正天皇へも女系継承 

というものです。
※天皇論シリーズの一コマでの記述です。

ここでは、「皇統」は「血筋」ではなく、「皇位を継いだ順番の中に、女性が一人でもいれば女系である」と言っていることを意味する(本人は気づいてないのだろうか?)。

事実ではなく「21世紀の理論」に基づく女系派

つまり、血筋は無視し、直近の天皇が女性であったかどうかを重視しているということがわかります。

私達が承認している男系女系の理解とはかけ離れたものです。

このような理解は、「血統」という「事実」に基づいているのではなく

「21世紀に生きる女系天皇容認派が編み出した理論に基づけば、女系天皇は認められる」と言っているに過ぎません。

「男系か女系かは関係概念」という女系派理論

高森先生は、竹田先生とのやりとりの間で

「男系か女系かは関係概念」という言葉を発した。

高森先生が「関係概念」という語をどういう意味で使っているのか不明であるため解説はできないが、少なくとも何らかの相関できまるもの、という公約数的な理解でいいだろう。

しかし、血統とは、親が誰であるかを問題にするのであって、「静的な事実」そのものです。誰かとの関係で相関的に決まるものではありません。 

「皇統が男系かは制度を前提」との女系派理論

竹田先生が同じ質問を再度したとき、上記のような返答もありました。

ここで言う「制度」とは「養老令・継嗣令」を指します。

そこにおける「女帝子亦同」という語の解釈が問題になっていますが、これは「皇女もまた同じ扱いとせよ」という意味であるという解釈がなされています。女系派である高森氏は異なる見解ですが、この点についてはこの日記の最下部で紹介している谷田川さんのHPか、「皇統は万世一系である」の41~46ページを参照ください。

制度の解釈はさておき、他の番組出演者である須田信一郎さんなどが指摘していたように、「事実」の問題を解釈の問題にすりかえているということです。

女系天皇積極推進論者の理論に沿って考えた場合の疑問

図を再掲

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1:直近の女性天皇からの継承だから、という見解と仮定すると矛盾

女系派の理解が、直近の女性天皇からの継承だから女系とする見解だと仮定します。 

とすると、皇極天皇から孝徳天皇への譲位の時に、既に女系継承が行われていることになるはずです。

しかし、高森先生や小林よりのりは、そのような主張をしていません。

よって、 このような見解だとするとなぜこの主張をしないのか

首をかしげてかしげてもげそうになり」ます。
とある漫画家の一コマのパロディです 

2:即位してない皇子の子は男系の血筋ではないとの見解と仮定しても矛盾

元正天皇について、即位していない草壁皇子の子だから男系の血筋は引いてないという見解だと仮定します。

この仮定の下では、高森先生は血筋で皇統を考えていることになります。

すると

「男系か女系かは関係概念である」

「男系か女系かは制度を前提とする」

この発言は矛盾していることになります。

以上みてきたように、要するに、高森先生は、その場しのぎの、いいかげんな答えをしているのです。

その他の論理破綻について:谷田川惣による完全論破

今回はTV番組での一人の人間の発言について検証しましたが、それ以外にも、女系天皇容認派の理論は、事実誤認にとどまらず、事実誤認を誘導させる発信を際限なく行っています。

そのことについては、既に多くの伝統論者が指摘しており、「皇統は万世一系である」でも解説がなされています。

私の日記では、そのような細かい点については、彼らの著作物等に譲り、ここまでとします。細かい理論を知りたい方は、谷田川惣さんのHPであるこちらをご覧ください。

小林よしのり「ウソ・詐欺全集」〜天皇論追撃編を撃墜する/皇統は万世一系である

「状況論」としての女系天皇検討:やむにやまれぬ消極的選択

以上みてきたように、女系天皇容認派が「理論」として挙げているものは、全く理論として成立していないばかりか、その内部において破綻しています。

こういうことになるのは、歴史的に積み重ねられてきたものを、21世紀に生きる者が無理やり論理的に構成しようとしているからです。

ただ、一方で考えなければならないのは、このまま悠仁親王殿下の後代に男児が生まれることを期待するだけでいいのだろうか?というもの。

この点の危惧については、本来、伝統論者も女系派も一致しているはずです。

似たような状況は、歴史上何回かありました。

当時は側室制もありましたし、皇位継承権を持つ皇族も多くいたという違いはあるものの、歴史的事実として、男系継承のための方策を採ってきたのが

「皇祖皇宗の遺訓」です。

したがって、まずは安定的な男系継承が可能となる方法についての議論が第一に検討されるべきであり、女系天皇容認論が現在で検討されるべき優先順位にはありません。

仮に、あらゆる男系継承の可能性が絶たれるような状況が見えてしまった場合の最終手段として、女系天皇について検討するというのは、排除しません。その場合は、現在のイギリス王室などと同じような発想を持つことになるということですね。

ただし、それは、「状況論」としてのやむを得ない女系天皇検討です。

そして、その場合「歴史的に女系継承が認められてきた」と強弁するのではなく

「新しい皇位継承の形」として議論されるべきものです。

何度も言いますが、そのような検討・議論を行う状況にはありません。

まとめ:安定的な男系継承のための議論を

本来、女系継承や女性天皇、女性宮家、といった議論に振り回されるべきではないのですが、同時に、男系継承が歴史的に選択されてきたということも浮き彫りになり、21世紀に生きる我々が再認識することになりました。

その限りにおいて、女系天皇容認派が投げかけた議論には意味があったと思います。

その上で、安定的な男系継承のための議論がなされるべきなのです。

それは何も

「側室制度を復活させる」(今上陛下は消極的)

「旧皇族の皇籍復帰」

というものに限りません。

例えば、浩宮家が自動車で移動するときは白バイ先導があり、信号も青に切り替わるのに対し、秋篠宮家である悠仁親王殿下の場合は、そのようなことがありません。

その結果、事故の可能性が高い、という問題が現実に存在しています。

これはどうにかしなければならないと思います。

このような議論が行われることを、今後に期待しようと思います。

※追記:2024年は野党からも旧皇族の皇籍復帰案支持、皇室全体の安定策も

本稿執筆の平成29年=2017年から状況は大きく変わりました。

日本政府が旧皇族の皇籍復帰と女性皇族が婚姻後も皇室に残る策を検討するとし、日本維新の会がそれを支持する意見書を提出。

令和5年=2023年は内閣法制局が旧皇族の皇籍復帰について限定的な形において違憲違法ではないとする解釈を国会答弁し、翌令和6年=2024年には、いわゆる「NHK党」から具体的な皇室全体の安定策についての意見書が提出されるに至っています。

以上