事実を整える

Nathan(ねーさん) 法的観点を含む社会問題についても、事実に基づいて整理します。

【ネット上の嘘】司法試験でハングル・朝鮮大学校卒は一次試験免除というデマ

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デマです。

ネット上で、「朝鮮大学校卒は司法試験で一次試験免除となる」、「司法試験でハングルが選択可能」というデマがあるので、なぜデマなのか整理していきます。

「朝鮮大学校卒は司法試験で一次試験免除・ハングルが選択可能」というネット上のデマ 

このデマの主な出所は「余命三年時事日記」なるサイトのようです。

ネット上では高齢者層に人気があるようですが、法的に間違った記述によって読者を煽動したことで、読者が弁護士から訴訟提起されてしまいました。

現行の司法試験の制度:一次試験、二次試験の区分はありません

まず、現行の司法試験(新司法試験)は、一次試験、二次試験の区分はありません。

毎年5月中旬に4日間で短答式試験と論述式試験が行われるだけで、それ以外にありません。

受験資格は、①法科大学院を修了する、②予備試験に合格する、の2パターンしかありません。

現行の予備試験:朝鮮大学校出身者の優遇や韓国語科目はない

受験資格

法務省:平成30年司法試験予備試験に関するQ&A

http://www.moj.go.jp/content/001242226.pdf

予備試験とは司法試験の受験資格を得るための試験です。受験資格及び受験期間の制限はありません。

よって、朝鮮大学校出身だからといって優遇されているなどということはありません。

試験科目 

予備試験の科目は以下です。

(1)短答式試験
      法律基本科目(憲法,行政法,民法,商法,民事訴訟法,刑法及び刑事訴訟法)
      一般教養科目
(2)論文式試験
   法律基本科目(憲法,行政法,民法,商法,民事訴訟法,刑法及び刑事訴訟法)
   一般教養科目
   法律実務基礎科目(民事・刑事)
(3)口述試験
   法律実務基礎科目(民事・刑事)

以上より、予備試験においても韓国語やハングル文字は関係ありません。

旧司法試験の制度について:朝鮮大学校出身者の優遇や韓国語科目はない

受験資格と試験科目

法務省:旧司法試験の概要

第一次試験
受験資格の制限はありませんでした。大学(短期大学を除く。)を卒業した方等は免除になっていました。
試験科目は,大学卒業程度の一般教育科目(人文科学関係(哲学,倫理学,歴史,文学等),社会科学関係(法学,社会学,政治学,経済学等),自然科学関係(物理学,化学,生物学,地学等)の各系列ごとに,論文式及び短答式の方法で行われる。)と,外国語科目(英語,フランス語,ドイツ語,ロシア語,中国語から1つ選択し,その外国語和訳及び和文外国語訳)でした。

第二次試験
第二次試験の受験資格は,(1)当該年度までの第一次試験に合格した者,(2)司法試験法(旧法)第4条の規定により,第一次試験が免除された者でした。

口述試験
憲法,民法,刑法,民事訴訟法及び刑事訴訟法について,試験を担当する委員から発問がなされ,これに受験者が回答する口頭試問の形で試験が実施されていました。試験は,憲法,民事系(民法及び民事訴訟法)及び刑事系(刑法及び刑事訴訟法)について行われていました。

はい、韓国語、ハングル文字はありませんね。

口述試験も、当然日本語で行われていました。

考えれば当たり前の話:日本の法律はハングルで記述されてません

これはちょっと考えればわかる事なんですが、司法試験は「日本の法律の理解度」を試験するものです。日本の法律はハングルで記述されてません。

当然、勉強する段階で日本の法律の文なり、基本書なりを読むのですから、ハングルができたからと言って無意味。むしろ、日本語⇒ハングルへの変換の手間がかかって不利です。

こんな簡単な事もわからず、ただ在日朝鮮人や韓国、北朝鮮を叩きたいだけの自称保守という不法行為集団がいます。これは本来、似非保守と呼ぶべきものです。

それに、実際上一次試験を受ける人はあまりいませんでした。

なぜデマが発生しているのか?:旧司法試験時代の4年制大学一次試験免除の要件が関係

再掲

法務省:旧司法試験の概要

第一次試験
受験資格の制限はありませんでした。大学(短期大学を除く。)を卒業した方等は免除になっていました。

4年制大学卒業者は旧司法試験時代は一次試験免除でした。この部分が関係しています。

朝鮮大学校卒業者は、かつては4年制大学卒業者と同等以上の学力があるとは言えないという扱いを受けていました。したがって、朝鮮大学校を卒業しても、旧司法試験の一次試験免除を受けることはできませんでした。

それが、「規制改革・民間開放推進3か年計画」が閣議決定されたことで変わりました。閣議決定の趣旨は、学校教育法施行規則の改正を受けて、「学歴・実務経験等の資格要件の見直し等を通じ,資格取得を希望する者の負担を合理的かつ可能な限り軽減することを目指す。」いることなどを考慮して司法試験の受験資格を見直そうというものです。

関係する改正は以下ですね

(1)  司法試験委員会において,個別の受験資格審査により学校教育法に定める大学(短期大学を除く。)を卒業した者と同等以上の学力があると認められる者で,受験しようとする年の3月31日までに22歳に達しているものに対し,司法試験第一次試験を免除する規定を加える。

したがって、朝鮮大学校卒業者は、学校教育法施行規則の改正と連動して、他の4年制大学と同じく旧司法試験の一次試験免除がなされるに至ったに過ぎません。

まったく優遇されていたという事実はありませんし、実際上一次試験免除をしたとしても合否にはほとんど影響はありませんでした。

そもそも、司法試験の受験資格には制限はなかったのですから。

そして、何度も言いますが、現在はこのような制度は廃止されています。

この点がどうも、誤解されて伝わっているようです。

司法修習生の国籍条項について:2009年に「国籍条項」を削除

国籍条項 - Wikipedia

司法試験の受験資格や弁護士には国籍条項はないが、法曹資格を得るための司法修習では検察庁で容疑者の取り調べをしたり、裁判所で非公開の合議に立ち会ったりする機会があるため、 1956年2月に最高裁は「公権力の行使や国家意思の形成に携わる公務員には日本国籍が必要」との内閣法制局の見解を準用して、外国籍の司法試験合格者には日本国籍取得を司法修習生として採用する際の条件としてきた[34]。 1976年に司法試験に合格した在日韓国人が韓国籍のままでの採用を希望したことがきっかけで、最高裁は1977年3月に国籍条項は残したまま「相当と認めるものに限り、採用する」との方針を示した。1990年までは外国人の司法修習生にのみ「憲法と法律を遵守する」という誓約書を提出させていた。2009年までに140人以上の外国籍の合格者が司法修習を受けた。2009年に最高裁は司法修習生の選考要項から日本国籍を必要とする「国籍条項」を削除した。

現在、司法修習生の選考要項には「国籍条項」はありません。

「選考要項」とあるのは、司法修習の過程でも試験があり、試験に落第すると裁判官、検察官はおろか、弁護士登録することすらできません。司法修習の最後に受ける試験を「二回試験」と呼び、これに合格しなければ法曹三者にはなれません。

なお、アメリカなど、外国人が弁護士登録することを許容する国は複数あります。

まとめ:「知らない」ことが疑心暗鬼を生む

以上、ウィキペディアや法務省ページのみでは情報が多すぎるので、この記事で整理した次第です。ネット上のデマによる情報汚染は検索の邪魔なので、駆逐しましょう。

以上