事実を整える

Nathan(ねーさん) 法的観点を含む社会問題についても、事実に基づいて整理します。

穴水高校の自販機破壊報道まとめ:北陸コカ・コーラ「設置先が判断」避難所の運営と災害対応自販機の管理権限

意味のある事実確定とは何か

「穴水高校の自販機破壊報道」の結末はどうなった?

  1. 自販機内の飲料水は避難者に提供された
  2. 自販機内の金銭は警察に預けられていた
  3. 北陸コカ・コーラ社は「自販機の器物損壊」に関して警察に被害届を提出
  4. 北陸コカ・コーラ社に対して1月22日に「自分が壊した」旨の電話が女性からあった。同社は当時の状況に鑑み告訴意思は無く、また、弁済も求めることは無いと表明
  5. 残り2つの自販機メーカーである雪印メグミルクと明治については続報無し

能登半島地震に関して1月5日の読売新聞報道(削除済み)に端を欲した「穴水高校の自販機破壊報道」ですが、一か月が経過しました。これ以上の状況の進展が表に出るかは未知数ですが、一応の結末はこのようなものと言えます。

本件については不毛な憶測も数多く流れたのですが、どのメディアも報じていない内容があるので次項で指摘します。

災害対応自販機の管理権限に関する北陸コカ・コーラ社の認識

1月23日時点で北陸コカ・コーラ社に電話で以下の点について認識を伺いました。

  1. 穴水高校の自動販売機の種類
  2. 石川県との災害支援協定の内容

これらを確認したのは、各所の記事上で「管理者の許可」についての記述の差異があった理由が掴めると思ったからです。取材時もこの点は伝えました。

結論から言うと、穴水高校に設置されていた北陸コカ・コーラ社の自動販売機の種類は「キースイッチ型」で、通電していなければ開けられないものでした。

そして、石川県との災害支援協定において、災害時には設置先の判断で開けることとなっていることが明らかになりました。

穴水高校の災害対応自販機は「キースイッチ型」だが通電が必要

  • 穴水高校の自販機の災害時対応は「キースイッチ型
  • 災害時に設置先の判断でカギを挿して開けて自販機の中の飲料水を提供できるタイプ。
  • 遠隔操作をするものではなく、鍵は高校に在った。
  • ただし、通電していなければ鍵があっても中身を取り出せるタイプのものではない
  • バッテリーが内蔵されているタイプではない
  • なお、このタイプでも発電機と繋いでやれば停電時でも取り出し可能
  • 当時、穴水高校は停電していた

株式会社レイカhttps://www.reika.co.jp/machine/pdf/key.pdf

上掲図は他社の資料ですが、わかりやすいので掲載します。

北陸コカ・コーラ社は「まずは自販機に書いてある連絡先に連絡して欲しい」とし、破壊はケガのおそれがあるので控えてほしいとは言っています。

ただ、当時の穴水町は通信障害もあったことなどから、どこまでそれを求める事が出来たのかはわかりません。

石川県との災害支援協定で設置先の判断で開錠・事後報告

飲料水メーカーと自治体は、災害時に備えて飲料水の提供や自販機内の飲料物の扱いに関して災害支援協定を組んでいることが多いので、この点を伺いました。

穴水高校は県立なので石川県との災害支援協定が関係します。

北陸コカ・コーラ社は、設置先の判断で開けることとなっており、「飲料水の取り出し」については事後連絡でOKとしています。

この点、ネットで検索すると「事前連絡がデフォルトである」という対応になっている災害支援協定が多く出てきますが、石川県と北陸コカ・コーラ社の自販機に関するものはそうではなかったということでした。

「警察に被害届を出した」と「告訴意思は無いこと」の整合性

ネット上では、「警察に被害届を出した」事と「告訴意思は無いこと」について誤解が見られました。

被害届というのは被害事実の申告に過ぎず、「犯人を処罰して欲しい」という意味の告訴意思は含むものではない、という扱いが為されています。

したがって、両者の態度に矛盾はありません。

また、刑事事件ではなくとも交渉や民事訴訟で損害賠償を求めることについても、「弁済も求めることは無い」と表明しているので、この点も考慮せずに済むことに。

器物損壊罪は親告罪・緊急避難や緊急事務管理の話は観念上のものに

なお、器物損壊罪は【親告罪】です。

「被害者」である北陸コカ・コーラ社が告訴意思はないとしている以上、検察は起訴できませんから、本件に関する限りにおいては緊急避難の話をせずに済みそうです。

緊急避難や緊急事務管理の話は一般論・観念上のものとして論じるにとどまります。

避難所の運営と災害対応自販機の管理権限:指定外避難所の住民管理

避難所運営と地域社会

https://www.jesc.or.jp/Portals/0/center/library/seikatsu%20to%20kankyo/202211_Kaji.pdf

穴水高校の自販機の事案を厳密に理解しようとすると「指定外の避難所として自治体が開設を発表した避難所における管理権限の所在」という話に行き着きます。

まず、一般的な避難所運営の形態はどうなっているのか?

地域住民が避難所運営委員会を担うことも多い、という認識が基本です。

事前の取り決めや状況により当該施設の平時の運営・管理権者や行政職員が運営することもあります。当該施設の権限を持つものだとしても、組織体制は平時のものとは異なる可能性があります。被災状況によっては指定避難所でも予め決めた人が不在の状況もあり得ます。

例えば石川県の防災計画穴水町の防災計画などに避難所運営に関して記述があり、「避難所運営マニュアル」がWEB公開されている自治体があったりします。

私は、穴水高校の自販機破壊報道は、この認識が欠けていたために起きた「報道事故」だと感じています。

では、当時の穴水高校はどういう状況だったか?

  • 県立穴水高校は指定避難所ではなかった
  • 近隣の避難所が使えず、穴水高校に避難するよう行政から町内放送があった
  • 穴水町は1月1日の17時45分付けで穴水高校を避難所として扱う旨の処理をしている(穴水町 避難所情報)*1
  • 1日は校長が居なかった(4日になって来た)

許可を出したとする女性の存在を指摘する避難者の記述には「名簿を作っていた」というものがあり、これは一般的な避難所運営マニュアルに沿っている行動に見えます。

https://archive.is/DFGne

まとめ:意味のある事実確定とは?災害時の言論の優先順位を考える

関連報道は上掲投稿でまとめています。

さて、1月1日当時の穴水高校の「管理権者」は、いったい誰だと言えるでしょうか?

「平時の教育機関としての学校」と「避難所としての学校施設の運営者たる住民等(その構成員には学校関係者も居たかもしれない)」と「自治体側(首長下の執行部と教育委員会などで分かれる)」…

最終的な管理権者が学校や自治体側だったとして、実際の運営者である避難所運営委員会による行政財産の使用等には権限が発生しているのか否か…

各所の報道で「管理者の許可」があったとか無かったとか、記述が錯綜した事の背景には、こうした本件の状況の複雑さが背景にあるでしょう。一つの予測ですが、「平時の教育機関としての学校」からの自販機破壊の許可は無かった、と考えれば、整合性は取れるかもしれません。

石川県や穴水町の地域防災計画(町のは県のほぼ引き写し)では行政職員の派遣なども想定されていますが、地域住民での運営も期待されていて、避難所開設期・移行期の権限の所在を厳密に論じようとするのは不毛な気がしています。

例えば、阪神淡路大震災時の県立兵庫高校(指定避難所ではない)の事案では、自治組織を作ろうと努力していたが実際に自治組織はできなかった、兵庫高校教職員は、ほとんど避難所運営に携わることが無く、運営形態の中心にな った関係者は ①神戸市職員(1月 28 日~3月 31 日)②長田区職員(4月1日~8月 31 日)③ガードマン(9月1日~翌年2月 14 日) と変遷したとあります。*2

正直、ここを論じるのは「報道」の役割ではないと思います。

不明確な領域ですし、現在の被災状況からして優先順位が低いテーマ。

「被害者」である北陸コカ・コーラ社の寛大な措置により、告訴意思無く弁済も求めないとしている中で、果たして外部者が今の時期にいちいち確定するべき事実関係なのでしょうか?

震度7の震災があり、家が崩れた者も居た

津波警報が鳴り、十分な準備も無く家を出ざるを得なかった人も居ただろう

他の指定避難所が使えず、緊急的に避難所として穴水高校に避難した人も多い

指定避難所ではないために備蓄している食料や飲料はなかった

被災者の中から「子供のミルクが作れない」声があった

物資がいつ届くのか、その目途は立っているのかも分からない

そういう状況の中で、「災害対応」と書いてある自販機があった

外部者の誰が彼らを責められるというのでしょうか?
(もちろん北陸コカ・コーラ社は「被害者」として主張する資格があった)

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*1:

https://web.archive.org/web/20240203094314/https://pref-ishikawa.my.salesforce-sites.com/P_PUB_VF_ShelterInfoDetails?pid=a4m2j000000FG44AAG&type=&year=2024&city=

*2:阪神・淡路大震災における学校避難所の研究~「記憶」と「記録」を継承するために~ 中平遥香