事実を整える

Nathan(ねーさん) 法的観点を含む社会問題についても、事実に基づいて整理します。

朝日新聞「自衛隊の逐次投入、遅い・初動を甘く見た・政治主導のパワーを感じない」⇒記事中に根拠無し

お気持ち品評会

朝日新聞「自衛隊の逐次投入、遅い・初動を甘く見た・政治主導のパワーを感じない」

「初動を甘く見た」首相批判も 能登地震1週間、被害の全容つかめず 能登半島地震 西村圭史 矢島大輔 成沢解語 土井良典 西崎啓太朗2024年1月8日 6時00分

朝日新聞のこの記事では立憲民主党の泉健太代表の「戦力の逐次投入、遅い」という弁を紹介し、『防衛省内からは「初動を甘く見た」との声も漏れ』『かつて官邸で災害対応にあたったある省の幹部は「政治主導のパワーを感じない」と話す』などと書かれています。

しかし、このような評価に至る根拠となる事実がゼロ

なぜそう感じたのかの具体的な事情と理路を示さないのは単なるお気持ち。

これでは、なんとか政府批判がしたいために他人の言葉を使って腹話術しているとしか見えません。

自衛隊の派遣人数について、能登半島の地域特性が書かれた毎日新聞源馬のぞみ記者の記事とは対照的だなと思います。

「戦力の逐次投入は悪」論に対しては、既に木原稔防衛大臣や防衛省の認識を理解した上念司氏、自民党の山田宏・和田政宗議員らが説明しており以下でまとめていますが、本稿では、朝日新聞記事とコメントプラスにおける論者らの「初動」に関する感想があまりに根拠のない話なので、必要な情報と一緒にまとめます。

「自衛隊派遣人数が少ない!戦力の逐次投入は悪!」論が木原防衛相、上念司、山田宏、和田政宗らに撃破される:能登半島地震

牧原出(東京大学先端科学技術研究センター教授)「画像こそ首相のSNSの役割」???

記事本文とは別の欄である「コメントプラス」では、数人が投稿していますが、その内容があまりにも突拍子もないので取り上げます。

まず、牧原出(東京大学先端科学技術研究センター教授)の主張ですが4点気になるものがあります。

新年会(新年互礼会)はビデオメッセージにするべきだった

なぜそういう価値判断が出てくるのか意味不明でしょう。

会場となったホテルに到着してから出発するまで17分の滞在時間で、何が不満なのか。

画像こそ首相のSNSの役割

これもわけがわからない。政府・行政のSNSの投稿の仕方としてそれが王道である、という方法論が確立しているということはありませんし、文章による説明でも十分、というか、その方が正確に政府がやっていることのロジックが分かるでしょう。

首相官邸のSNSでは写真が並び

これは事実認識がおかしい

「SNS」とは何なのか不明ですが、X(旧Twitter)とFacebook、Instagramあたりを押さえておいて間違いではないでしょう。

これらにおいて、「首相官邸」のアカウントは、現在までに能登半島地震の被災地に関する写真を独自投稿していません。

特にXでは「首相官邸@Kantei」とは別に「首相官邸(災害・危機管理情報)@Kantei_Saigai」という別アカウントがあり、防衛省等のアカウントによる自衛隊や消防等の活動動画・画像の投稿をリポストしていますが、独自に画像投稿しているのではありません。

岸田文雄アカウントでも同様に6日7日に数件リポストしているのであるから、「写真が並び」をリポストも含めて理解しているのならば、8日14時にコメントしてる牧原氏が気づけないということはないでしょう。

被災地への通行規制は、首相自身のSNSではなく、首相官邸のSNSの役割

これも個人のお気持ちの押し付けに過ぎず、役割分担をそうすべきという何らかの知見が社会のどこかであるという話は無い。

たとえば、X上ではアメリカの「@POTUS」みたいに、大統領が変われば運用者が変わる公的なアカウントがありますが、個人アカウントと政府アカウントを分けろ、というSNS運用論なんでしょうか?

それならばそれ自体は理解できますが、ならばコメントプラスでのそれまでの話は無かったことになりますよね。

藤田直央(朝日新聞編集委員)「この記事に露わな岸田内閣の初動の鈍さ」

この記事に露わな岸田内閣の初動の鈍さ

藤田直央(朝日新聞編集委員)による「初動」批判ですが、実際には官邸対策室が震度7の地震発生1分後に設置され、5分後には総理が関係省庁に対応指示をしています。

防衛省の能登半島地震における災害派遣まとめ

https://www.mod.go.jp/j/approach/defense/saigai/

自衛隊を見ると、16時30分には航空偵察をし、陸自は1645に災害派遣要請を受理、2日から約1万人が即応態勢、人命救助活動を実施。

他の震災時と比べて条件があまりにも異なるという点も重要です。

テレビ朝日は、以下報じています。

“大動脈”寸断・空港も閉鎖 海上ルートで運搬も…隆起が影響 支援物資に遅れ

今回の地震によって海岸の広い範囲で隆起が確認されています。輸送艦が接岸できる状態ではありません。沖から物資を運ぶのは、ヘリやホバークラフトに頼るしかないのが現状です。

自衛隊の主要な基地が被災中心部から遠く、もともと時間がかかる交通事情だった道路の多くが寸断され、海底隆起により港湾の利用も困難な所があり、重機の搬入には時間がかかる、という事情があったために人命救助活動まで時間がかかりました。

この間には1月1日の夜間が挟まっていたのであり、夜の暗い中で状況確認は困難を極めたはずです。この事を考慮すれば「鈍い」と言うのはおかしいのではないでしょうか?

藤田氏は続けて以下主張します。

「被害の深刻さの一端が見えてきたのは午後10時を回ってから」

これにも唖然とします

自社の記事をよく読んだらどうだろうか?

朝日新聞の記事本文には午後10時に政府が把握したとする「被害の深刻さ」の中身として重機の搬入や物資輸送=救助・救援活動にとっての障害も込みになっています。

藤田氏がコメント下部で並べているような(しかも政府発表のものも書かれている)、単に現地で発生している事情の認識に留まっていません。

「深刻さの一端」については各人によって対象となる事実関係に幅があると容易に予想できるのに、細切れの事実を把握した時刻の先後を競う意味は無いでしょう。

海上ルートによる大型重機の輸送の必要性と、その実施のタイムラグについて

朝日新聞記者の中でも鬼原民幸氏は2日午前の段階で重機の海上輸送について記者会見で質問し、Xでもこの点を指摘しました。

既に総理の冒頭発言で「海路輸送ルート確立のための港湾の安全確認などを行っている、午前10時に津波警報が解除されたので今後本格的に、海路を通じた輸送ルートを確保していく」旨を表明していましたが、重要な政府の動きを国民に知らせる有益な質問だったと思います。

令和6年能登半島地震についての会見 令和6年1月2日(救助に当たる方の規模感及び重機を搬入するためのルートの確保について)

海上ルートの重機の輸送は、実際は3日夜に開始され、4日から現地に搬入されました。

「初動」の時間幅を72時間ほどと捉え、このタイムラグについて問うなら理解はできると思います。現時点でまとまった説明が為されていないものですから。

しかし、藤田編集委員の観点は1月1日中の総理官邸の動きしか見ていませんでしたし、当該朝日新聞記事本文の「逐次投入で遅い」は、ただの人数しか見ていない。

他の朝日新聞記者がまともな報道や認識を示してるのに、編集委員レベルで変なのが居て出てくる記事が歪んだものになってる例がある、ということが分かった話ではないでしょうか。

海上輸送については取り急ぎ、以下の事情をまとめています。

以上