事実を整える

Nathan(ねーさん) ほぼオープンソースをベースに法的観点を含む社会問題についても、事実に基づいて整理します。

脱退一時金年金部会の新資料「4か月で永住者への支給決定件数が41件」「2回以上支給決定が3万3000」

新しい情報と、隠された情報がある。

脱退一時金問題に関する年金部会

外国人の脱退一時金問題」を端的におさらいすると…

外国人が厚生年金・国民年金の脱退一時金支給を受け、その後日本国に定着して永住資格を有する外国人や元外国人の帰化日本人として定年を迎えた場合無年金乃至は低年金状態となり、生活保護を受給せざるを得なくなるケースがあり、このままでは今後膨大な数になると予想される、という問題です。

11月15日の年金部会にて、従来から予測されていた事項についての詳細データが出てきたので以下記事などで触れてきましたが、本稿ではそれ以外の事項について読み取れる内容を指摘していきます。

第20回社会保障審議会年金部会|厚生労働省

2024年11月15日資料2 脱退一時金について 厚生労働省 年金局

第20回社会保障審議会年金部会 議事録|厚生労働省

4か月で永住者への脱退一時金支給決定件数が41件

この資料は「参考資料」としてPDFの末尾に提示されていることから、当日の説明や議論の中では触れられていないものですが、非常に重要なものが含まれるものです。また、そこから推測されるデータも味わい深いものがあるため、これを中心に検討していきます。

まず、上掲画像の左下に「永住者の支給決定件数」が「41件」とあるのが分かります。
※「特別永住者」を含まない在留資格

これは対象期間が「令和5年12月~令和6年3月」の4か月?という中途半端なものになっていますが、これを10年換算*1すると1230人にも上ります

注2に「脱退一時金の請求書において永住許可有りと記載のあった者について集計したもの」とあることからは申告ベースの可能性もあり、漏れがあり得るように思われます。

この数字が出てきた理由、このような請求書の様式になったのは、昨年の11月に稲田朋美議員が「永住者資格がある外国人が年金脱退一時金を受給して帰国し、その後再入国して収入が少ないという理由で生活保護を受給することも現在の制度運営上可能」という事項について当時の武見敬三厚労大臣に質疑し、「実態把握に努める」という答弁を得たことがきっかけと思われます。

永住外国人・元外国人の生活保護が増える現実的可能性が示された

出国外国人の滞在期間別人数

「永住資格外国人の脱退一時金受給者の10年間の見込みが1230人」と資料上の数字から単純計算しましたが、外国人の受け入れについて「現状の流れ」が続くならば、これはさらに増えるのが確実です。

まず、上掲のグラフでは短期滞在者を除く「出国外国人」に関して【3年超5年以内の滞在期間割合】【5年超10年以内の滞在期間割合】が令和3年以降急激に増えているのが見て取れます。

【滞在期間10年超】の人数が減ったりしているのは、「日本国籍に帰化している」者が相当数含まれているからと考えられます。

では、全体の在留外国人の数はどうなっているのか?

在留外国人数の推移

このように、コロナ禍で一時的に微減しただけで、5年で50万人も増えています。

この数字は単なる旅行者を含んでいない(含めていたら2500万人を超える)ので、この数字から将来的に日本社会に定着する人数の伸びがある程度予測できます。その精度をより高めたのが先ほどの出国外国人の滞在期間別人数と言えます。

人手不足の業界がある中でこの流れはしばらくは続くでしょう。

人間が、人の人生が絡んでいる話なのですから、「ハイ、ここからストップ」などと強権的な処理をするわけにはいきません。

永住者の脱退一時金受給と社会保障協定の通算処理対象国の少なさ

もちろん、現時点で永住者が脱退一時金を受給していたからといって、それが制度趣旨から望ましくないものかどうかは分かりません。たとえば社会保障協定の通算処理対象外の国から50代を過ぎてから日本で働き定着したものの、年金加入期間が10年に満たないため、老齢基礎年金の受給資格を得ることができないから支給を受けたという者も居るかもしれません。

そこは永住資格の認定や維持の際の考慮事項にするべきなのかもしれませんが、そちらは法務省・出入国在留管理庁の話になってきます。

また、各国と協議して社会保障協定を締結したり、その内容の見直しをすることで改善するものもあるかもしれません。

上掲図は脱退一時金受給者のうち、「通算あり協定発効国」の割合がたった13.9%しか居ないことを示しており、半数が協定未発効国であることが分かります。

協定締結の予備協議中の国にベトナムとタイがあることから、国も必要性は感じていると思われますが、特にベトナム人の労働者が飛躍的に増えている現状では(在留外国人数が中国に次ぐ2位の56万人)、社会保障協定に頼る政策は手遅れになりかねません。

なお、ネパール・インドネシア・ミャンマーもそれぞれ17万、15万、8万人と6,7,8位を占めており、これらは協定未締結ですからなおさらでしょう。

参考:令和5年末現在における在留外国人数について | 出入国在留管理庁

支給決定2回以上が3万3000?本当の数字はどうなのか?

図表を再掲

今度は上側の円グラフに着目すると、支給決定が2回以上の「受給者数」が直近10年で3万3000あることが示されています。人数なのか件数なのか不明ですが、表題に従って理解するなら人数ということになります。3回以上支給の場合がどうなっているのかはとりあえずこのグラフからはわかりません。

注には「平成26年度から令和5年度までの支給決定情報を基に作成。時点等の違いにより、厚生年金保険・国民年金事業統計における脱退一時金の裁定件数の数字とは必ずしも一致しない。」とあります。

しかし、2回目以降の支給だということについては、どうやって調べたのでしょうか?

というのは、脱退一時金の支給を受けた後に再度入国した当該外国人の年金番号は別のものが割り振られることになっており、従前は事実上、紐づけが困難な状況だったと言われていたからです。そのため、この円グラフのようなデータは出てきませんでした。

永住許可を有する者の脱退一時金受給者数の算定の対象期間が「令和5年12月~令和6年3月」であったことを思い出すと、この「3万3000人という数字は令和5年度のみ?」という疑問が浮かんでくるのであり、この点を明確にする必要はあると言えます。*2

さて、右側の円グラフは2回目以上支給を受けた者の資格喪失から再度厚生年金保険に加入するまでの期間ですが、半年以内の再加入が半数ということは、もう最初から再入国して加入する目的の者が大量に居るということが示唆されると言えるでしょう。

この1ページだけの図表で、これだけの味わい深い中身があるのが分かります。

まとめ:現在明らかになっていない今後の実態把握に必要なデータの整理を

11月15日の審議では、再入国の場合に通知が行くのか?など、改正後の運用については検討するとしています。出国段階での脱退一時金制度の説明を充実させるということも指摘されていますが、既に案内はされている例があるようです。*3データの紐づけは、省庁におけるDXの推進によって可能になることが期待されています。

さて、現在明らかになっていない今後の実態把握に必要なデータは何でしょうか?

  • 在留資格別の生活保護受給者数
    特に永住者や定住者など、本来の措置制度が中心的な対象としていない者
  • 永住者や定住者の日本国籍取得者数
    日本人の生活保護受給者数にどれだけこの数字が紛れているのかの推定に
  • 脱退一時金受給者の日本国籍取得者数
    日本人の生活保護受給者数にどれだけこの数字が紛れているのかの推定に

差し当って、この辺りが考えられると思われます。

外国人が居住する自治体は集中するものですから、自治体財政に与えるインパクトは、単に数字上のもの以上になります。

それを未然に防ぐためにも追跡可能なデータ管理、件数の算定は継続的に行うべきでしょう。

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*1:なぜ10年かというと、老齢基礎年金の受給資格が保険料納付済期間と保険料免除期間などを合算した期間が10年以上であることだから。

*2:3回以上支給の場合が書かれていないのも、3回目支給を受けるような期間は調査対象期間がカバーしていないからということが原因の可能性が疑われる

*3:https://www.nenkin.go.jp/international/japanese-system/withdrawalpayment/payment.files/I.pdf