ドラゴン桜2「努力できない脳できる脳」の元ネタ論文を読んだ結果。
- ドラゴン桜2「努力できない脳・努力できる脳」
- 元ネタのヴァンダービルト大学研究チームの論文
- 実験の方法
- 脳の分析:努力できる人かできない人かの判別をする試験?
- 途中で投げ出す人が居た?
- 損得を冷静に計算できる人とEffort-Basedで報酬を選考する人
ドラゴン桜2「努力できない脳・努力できる脳」
ドラゴン桜2 /講談社/三田紀房の「努力できない脳・努力できる脳」という話が話題ですが、この話の一部は以下で読めます。
- アメリカテネシー州のヴァンダービルト大学の研究チームが行った実験
- 利き手ではないほうの小指で21秒間に100回のボタンを押す
- 被験者にはタスクをやり遂げた場合に報酬が与えられる旨を告げる
- その際に脳をPETスキャンを使ってモニタリングした
- 実験の結果、左線条体と前頭前皮質腹内側部、島皮質の働きに違いがみられた
このような実験において脳をスキャンして分析したという内容の論文があるということから話が展開されていきますが、元ネタとなった論文を読んでみました。
元ネタのヴァンダービルト大学研究チームの論文
Dopaminergic Mechanisms of Individual Differences in Human Effort-Based Decision-Making
【人間のEffort-Basedの意思決定における個人差を生み出すドーパミン作用機構】
2012年5月2日にマイケル・T・トレッドウェイらの研究チームがJournal of Neuroscienceに発表した論文が、ドラゴン桜の「努力できない脳努力できる脳」の元ネタ論文です。
実験の目的ですが、神経伝達物質ドーパミン(DA)が費用便益の意思決定において重要な役割を果たすことが示唆されているが、選好の個人差の神経化学的基礎はよくわかっていないため、それを探る、といった感じです。
実験の方法
実験の方法と手順を論文からざっくり抜き出すと以下
- 被験者は25人(男女比、人種比、平均年齢等が書いてある)
- 実験時にはイージータスク、ハードタスクのいずれかを選択してもらう
⇒これらのタスクを「EEfRT or “effort”」と記述している。 - イージータスク (low-effort option)は1ドルの報酬
⇒自分の利き手で7秒間に30回ボタンを押す - ハードタスク(high-effort option) は1.24~4.30ドルの報酬(試行ごとに変動)
⇒利き手でない方の小指で21秒間に100回ボタンを押す - 難度選択後に被験者に対し、報酬が得られる確率は、低い(12%)、中程度(50%)、高い(88%)のいずれかであることが告げられた
- 確率は常にハードタスクとイージータスクの両方に適用され、実験全体で各確率レベルの比率は同じ
被験者は3回のテストセッションを実施。最初の2つのセッションでは、ピルプラセボまたはd-アンフェタミンチャレンジのいずれかを受けながらPETスキャンを完了。3回目のテストセッション中に被験者は「EEfRT」を完了したとあります。
「EEfRT」のスキームは以下の図のとおり。
より詳細なタスクの説明は、Treadwayらの先行研究を参照:Worth the ‘EEfRT’? The Effort Expenditure for Rewards Task as an Objective Measure of Motivation and Anhedonia
これを見ると被験者は20分間プレイしたようです。
実験中、PETスキャンを使って被験者の脳の変化をモニタリングしました。
脳の分析:努力できる人かできない人かの判別をする試験?
論文中の先行研究の一つ、Effort-Based Cost–Benefit Valuation and the Human Brainには、以下書かれています。
In both the wild and the laboratory, animals' preferences for one course of action over another reflect not just reward expectations but also the cost in terms of effort that must be invested in pursuing the course of action.
ざっくり言えば、動物がとある行動を他の行動と比較して選好するのは、「期待値」だけじゃなくて「その行動を取るのに必要な"Effort"」というコストの視点からである、ということが書いてあります。
ここでいうEffortは「努力」というとなんだか意味がぼやけてしまいますよね。
動物が計画を立ててコツコツと…なんていうことは想定できないじゃないですか。
得られる結果の大きさと失敗リスクだけじゃなくて、自分が実際に「手足を動かす・汗をかく」(比喩的な意味)ことを考えて行動決定しますよね、ということ。
よって、元論文における"Effort-Based"も、仕事量とか作業量といった「労力に基づく」、の方がより適切な訳語でしょう。他の先行研究も読むと、どうもこういう意味合いで使用されている用語であることが分かります。
そして、元の論文を読むと、あくまで「個人差」がどういう理由で作動しているのかを見極める実験であって、抽象的な意味での「努力」ができる脳か否かを判別する実験であると表現してよいものかどうか。。。どうでしょうか?
(「努力」と言うとき、「PDCAサイクルを回すようなもの」「コツコツと課題をこなしていく」「状況分析して課題発見して取り組む」「他人に働きかけて巻き込んでいく」…という意味まで想起する人もいるかもしれません。)
途中で投げ出す人が居た?
ドラゴン桜では「最後までやりきる人と途中で投げ出す人に分かれた」とありますが…
元論文では、すべての被験者が、high-effort option と low-effort optionの組み合わせを選択した、とあります。時間制限がありますから、制限時間内にタスククリアができなかった人は居たでしょうが、途中で投げ出したなら特記事項として記述があるはずが、そのような記述は見当たりません。
ちなみに、私は利き手で30回やるのに4秒以内、利き手じゃない方の小指で100回やるのに16秒くらいを、無理なく再現性あるレベルで可能でした。
(ボタンが無いので机の上をタップするだけでしたが)。
漫画はどうやら2012年のとある記事の記述をそのまま採用したのかもしれませんがここでは触れません…
損得を冷静に計算できる人とEffort-Basedで報酬を選考する人
ドラゴン桜では「努力できる人」との対比で「損得を冷静に計算できる人」が出てきますが、元論文上の言葉で捉えると、労力をあまり気にせずに「期待値」で行動を判断する傾向の人、ということになります。
noteの最後のコマでは「努力できるかできないかは脳の機能の違いでありたとえ努力することが苦手でもダメ人間ではない」「そもそも努力が全てではなく成果はいろいろな要素で生み出されるものなの」とあります。
この部分は別に良いんじゃないでしょうか(「努力」という表現は整合的に理解すれば良い)。既述のように、論文の目的は別にありますが。
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