事実を整える

Nathan(ねーさん) ほぼオープンソースをベースに法的観点を含む社会問題についても、事実に基づいて整理します。

EU議会がFIFAワールド杯カタールの文脈における人権状況の決議「数千人の移民労働者の死傷」「LGBTQ虐待法規制の廃止」

かなり踏み込んだ決議

EU議会がFIFAワールド杯カタールの文脈における人権状況の決議

World Cup in Qatar: FIFA should help compensate families of dead migrant workers

EU議会がFIFAワールド杯カタールの文脈における人権状況の決議を採択しました。

決議文⇒Situation of human rights in the context of the FIFA world cup in Qatar

「死亡した出稼ぎ労働者の家族への補償を求める」ことが主要な内容であり、他にカタールに対する要請として

  • 国内での移民労働者の死亡について十分な調査を実施すること
  • 労働条件のさらなる改善をすること
  • LGBTQ+ コミュニティに対する虐待的な法規制の廃止すること
  • 女性後見制度の残滓を廃止すること

プレスリリースではこのような要請内容が強調されていました。

FIFA 内の腐敗を「蔓延し、組織的で根深い」と指摘したり、EU加盟国、特にドイツ、フランス、イタリア、スペインなどの大きな国内サッカーリーグを持つ国々に対し、FIFAを根本的に改革するようUEFAとFIFAに圧力をかけるよう強く求めていくとも書いており、【スポーツウォッシング】といった強い表現もありました。

ワールドカップに関連する建設における数千人の移民労働者の死傷

B. whereas in Qatar, there is estimated to be more than 2 million foreign nationals, who make up some 94 % of the workforce; whereas migrants are employed mainly in construction, services and domestic work; whereas it has been reported that worker’s rights have been violated in these sectors; whereas because of this number, Qatar has the highest ratio of migrant workers to domestic population in the world;

C. whereas to work in Qatar, many workers were forced into debt by recruitment companies that illegally charged them fees, and many of them suffered wage theft and were subject to gruelling working conditions in extreme heat that exposed them to the risk of illness, injury and death;

D. whereas thousands of migrant workers reportedly died and many more were injured during construction works related to the World Cup in Qatar;

EU議会は「カタールワールドカップに関連する建設作業における数千人の移民労働者が死亡、多数の負傷者が出たと報告されている」としています。

アムネスティインターナショナルが「カタールがワールドカップを開催することが決定した後の10年間で15000人の移民労働者が死亡」、英ガーディアン紙が「カタールがワールドカップを開催することが決定した後の10年間でバングラデシュ・インド・ネパール・パキスタン・スリランカの移民労働者が約6500人死亡」、という記事を書いていましたが、「ワールドカップに関連した」ということは明示的に書いていませんでした。

が、欧州議会は明示的に「ワールドカップに関連した」「建設作業で」という限定をかけています。人数こそ「数千人」としてぼかしているために正誤判定はできませんが、注意が必要と思われます。

なお、「スタジアム建設で6500人」のような限定がかかっているものは明確にフェイクであり、ドイツの国際放送局のファクトチェックでも「偽」判定となっています。

なぜなら「15000」や「6500」という数字は当該期間中の当該移民労働者の死亡者の全てだからです。「ワールドカップ関連の仕事」だとか「建設業において」という限定はかかっておらず「自然死」や「コロナ罹患による死」も含まれるからです。

カタール政府が公式に認めているのは「現場で3人、非作業時に37人」ですが、それを超えた部分は「統計の方法」や「計測の徹底」、「因果関係の認定」の領域です。

「数千人死亡説」の主な根拠は「猛暑の中での就労の影響」ですが、挙げられている具体的な数字の大半に適用できるものなのかは依然として不明です。ただし、相当数に関してはまったくの無根拠ではないためにEU議会で決議が為されたものと思われ、カタール側の対応が注目されます。

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