虚偽のナラティブ
- 「辺野古建設で普天間飛行場返還の保証はない」というナラティブ
- 稲田朋美防衛大臣「普天間飛行場返還には他の条件が充足の必要」答弁
- 平成25年の沖縄における在日米軍施設・区域に関する統合計画
- 琉球新報など沖縄メディアや翁長県政が騒ぎ立てる
「辺野古建設で普天間飛行場返還の保証はない」というナラティブ
「辺野古基地建設で普天間飛行場返還というのは繋がりが無い、その保証はない」
こういう言説がネット上では存在し、令和5年末の現時点でもX(旧Twitter)などで度々言及されているものですが、虚偽のナラティブです。
この話は平成29年(2017年)以降、広がっています。
辺野古移転に賛成する人の多くは「世界一危険な普天間基地が海上の辺野古に移転すれば沖縄県民のリスクは減る」と信じる善意の人たちなのでしょう。でも、米軍が普天間基地を返還する保証はありません。普天間は最近も大規模改修工事をしたばかりです。使用を止める基地を補修しますか? https://t.co/1lcrXGoYjf
— 内田樹 (@levinassien) 2018年9月3日
「辺野古移設」という言葉からは、私たちは、「辺野古に基地が移設されれば普天間基地は返還されるのだろう」と考える。いや、考えるまでもなく、それを意識せずに前提としている。しかし辺野古に基地ができても普天間が返還される保証はないのだという。だからこそ「辺野古新基地建設」なのだと。
— 上西充子 (@mu0283) 2018年9月2日
辺野古軟弱地盤、面積20万坪、最深水面下90m。
— 俵 才記 (@nogutiya) 2019年2月22日
建設総費用2兆5千億。
工事完了時期めど立たず。
普天間返還の保証なし。
米国の専門家が在沖縄海兵隊は戦略的価値なしと断言。
さらに最も大切な事だが沖縄県民が反対。
これだけの理由があるのに、安倍政権は再検討しようとしない💢倒すしかない。
沖縄が県民投票で示した意思は安倍首相がいう「負担軽減」ではなく「辺野古埋め立て反対」だ。話をすり替えるのは不誠実極まりない。しかも辺野古を埋め立てても普天間が返還される保証はない。マスコミが「辺野古移設」の言葉を使うのは安倍政権の印象操作への加担である。https://t.co/PhmbfC1a32
— 鮫島浩✒️ジャーナリスト『朝日新聞政治部』『政治はケンカだ!』『SAMEJIMA TIME』 (@SamejimaH) 2019年2月25日
https://archive.is/abTr8 https://archive.is/MjJ4z https://archive.is/7Mqq9 https://archive.is/HF7GI
彼らが論拠としてるのは「稲田朋美が防衛大臣の時の国会答弁で、辺野古建設でも普天間が返ってくる保証は無いという(趣旨の)発言をした」から、というものですが…
- そもそも稲田氏の答弁から「返還の保証がない」とは評価できない
- 元々は平成25年の日米合意で明らかだった事項で、当時騒がれたことも意味不明
こうした実態を一つ一つ見ていきます。
稲田朋美防衛大臣「普天間飛行場返還には他の条件が充足の必要」答弁
取り上げられている「稲田朋美防衛大臣答弁」とは、以下のことです。
第193回国会 参議院 外交防衛委員会 第24号 平成29年6月6日
○藤田幸久君 ~省略~
これは、沖縄等米軍基地問題懇談会におきまして防衛省から出てきたペーパーでございます。一番下の五行ほどでございますけれども、「「普天間飛行場代替施設では確保されない長い滑走路を用いた活動のための緊急時における民間施設の使用の改善」が普天間飛行場の返還条件とされておりますが、現時点で、この点について具体的に決まったものがあるわけではありません。」というふうに文書が出ています。この場で別の議員が、同時進行であっても返還条件が整わなければ普天間飛行場は返還されないのかという質問に対して、防衛省は、そういう理解ですと答えました。これで間違いないですね。○国務大臣(稲田朋美君) 緊急時における民間施設の使用の改善について、現時点で具体的な内容に決まったものがないため、米側との間で協議、調整をしていくこととしております。
そして、御指摘のその懇談会における防衛省職員の説明、このような具体的な内容について、米側との協議によることを前提として、普天間飛行場の返還のためには、緊急時における民間施設の使用の改善を含む返還条件が満たされる必要があるということを述べたものでございます。
仮に、この点について今後米側との具体的な協議やその内容に基づく調整が整わない、このようなことがあれば、返還条件が整わず、普天間飛行場の返還がなされないことになりますけれども、防衛省としては、そのようなことがないよう、返還条件が満たされ、普天間飛行場の返還の実現の支障とならないように対応をしていく考えでございます。
実際には、平成29年6月15日の答弁が特に問題視されました。
第193回国会 参議院 外交防衛委員会 第27号 平成29年6月15日
○国務大臣(稲田朋美君) 仮に、今委員が御指摘のように、この点について今後米側との具体的な協議やその内容に基づく調整が整わないことがあれば、返還条件が整わず、普天間飛行場は返還されないこととなりますが、防衛省としては、そのようなことがないよう、緊急時における民間施設の使用の改善に係る返還条件が満たされ、普天間飛行場の返還の実現の支障とならないように対応をしていくという、そういう考えでございます。(発言する者あり)
この発言後、議場ではひと悶着ありました。
実際には以下のように実質的に言い直されました。
○国務大臣(稲田朋美君) 仮定を置いた上で、協議が整わなければ、普天間の前提条件であるところが整わないということになれば、究極の危険性除去という意味においては実現はいたしません、でよろしいでしょうか。
6月15日の稲田答弁には不用意な点があると言えなくもないですが「辺野古基地の建設は普天間飛行場の返還の十分条件ではない」という意味では正しい事を言っています。
ただ、現実には他の返還条件を満たすことが予定されているわけで(時期のズレが生じる事は問題ない)、「辺野古基地建設で普天間飛行場返還の保証はない」ということにはなっていません。
これは何も平成29年になって初めて防衛省や稲田大臣が答弁した、ということではなく、従前から明らかであった話です。
平成25年の沖縄における在日米軍施設・区域に関する統合計画
防衛省・自衛隊:米軍再編の主な進捗状況⇒【嘉手納飛行場以南の土地返還(キャンプ桑江)(キャンプ瑞慶覧)(普天間飛行場)(牧港補給地区)(那覇港湾施設)(陸軍貯油施設第1桑江タンク・ファーム)】⇒沖縄における在日米軍施設・区域に関する統合計画(仮訳)平成25年4月
平成25年の時点で、【代替施設では確保されない長い滑走路を用いた、緊急時における民間施設利用】などが返還条件として予定されているというのが分かります。
防衛省・自衛隊:普天間飛行場代替施設についてを見ると、現時点での進捗状況は以下の画像にまとめられています。
Q6 普天間飛行場の返還条件には、代替施設の建設以外のものもあり、このため代替施設が完成しても、普天間飛行場は返還されないと聞きましたが、本当ですか?
返還条件の中核は辺野古への移設A 普天間飛行場の返還条件は、平成25(2013)年に日米両政府で作成し、公表した「沖縄における在日米軍施設・区域に関する統合計画」において、以下の計8項目が返還条件として示されており、これらについて、着実に進捗しているところです。そして、返還条件の中核は辺野古への移設であり、その他の条件は、これに関連したものです。したがって、辺野古移設完了後も、普天間飛行場が返還されないという状況は全く想定されません。
さらに言えば、普天間飛行場の返還条件として、代替施設への移設以外の条件があるということは、平成18年の段階でも示されていました。
防衛省・自衛隊:再編実施のための日米のロードマップ平成18年5月1日
●普天間飛行場代替施設への移設は、同施設が完全に運用上の能力を備えた時に実施される。
●普天間飛行場の能力を代替することに関連する、航空自衛隊新田原基地及び築城基地の緊急時の使用のための施設整備は、実地調査実施の後、普天間飛行場の返還の前に、必要に応じて、行われる。
●民間施設の緊急時における使用を改善するための所要が、二国間の計画検討作業の文脈で検討され、普天間飛行場の返還を実現するために適切な措置がとられる。
琉球新報など沖縄メディアや翁長県政が騒ぎ立てる
ところが、稲田大臣の不用意な発言の揚げ足を取って沖縄メディアや翁長県政が騒ぎ立てる、という動きが平成29年当時に発生していました。
稲田氏発言が波紋 普天間返還条件 未達成なら「返還なし」 2017年7月4日 11:00 琉球新報
米軍普天間飛行場の返還を巡り、稲田朋美防衛相が移設先の名護市辺野古の新基地建設が進んだとしても、それ以外の返還条件が満たされない場合は普天間が返還されないと明言し、沖縄県議会で議論になるなど波紋を呼んでいる。
平成29年(2017年) 第 3回 沖縄県議会(定例会) 第 3号 6月29日 知事(翁長雄志)
~省略~
次に、2の(5)、普天間基地の継続使用についてお答えをいたします。
政府はこれまで、普天間飛行場の返還実現のため、辺野古への移設を着実に進めていくと説明しておりましたが、去る6月6日及び15日の参議院外交防衛委員会稲田防衛大臣の答弁により、辺野古新基地が建設されても、緊急時における民間施設の使用の改善について米国との調整が整わなければ、普天間飛行場が返還されないことが明らかとなり、大きな衝撃を持って受けとめております。日米両政府においては、辺野古新基地建設を拙速な形で進めるのではなく、辺野古が唯一の解決策という固定観念にとらわれずに、国際情勢の変化を踏まえ、普天間飛行場の県外、国外移設について再検討していただきたいと考えております。
他の議事録でも稲田答弁を取り上げて議事がスムーズに進行しない状況が見られます。
現在のネット上で見られるナラティブは、この時の残滓です。
揚げ足取りによる政治・報道の産物であり、現実に対する妨害でしかありません。
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