事実を整える

Nathan(ねーさん) ほぼオープンソースをベースに法的観点を含む社会問題についても、事実に基づいて整理します。

IR政策の基本:IRカジノとパチンコ・スロットに関するデマ

カジノIR

2018年7月20、特定複合観光施設区域整備法=IR整備法(IR設置法とも)が成立しました。

この法律が「カジノ法案」として専らカジノに焦点が当てられ、ギャンブル依存症との関係でしかほとんど報道されていない状況は、はっきり言って異常です。

IR=総合型リゾート施設という政策の主要な一部としてのカジノという立ち位置が重要であること、その理解によって何が変わるのか、既存のギャンブル等に与える影響などを簡単に整理していきます。

関連法規や資料については以下の記事でまとめたリンク先が重要です。

本エントリでは特に特定複合観光施設区域整備推進会議取りまとめ~「観光立国」の実現に向けて~を参考にしています。

IR=総合型リゾート施設政策の基本構造

世界のIRとカジノ、日本におけるIRとカジノの関係を確認しましょう。

この項で図示するものは全て特定複合観光施設区域整備推進会議の取りまとめからのものです。

諸外国におけるIR・カジノ

特定複合観光施設区域整備推進会議取りまとめ~「観光立国」の実現に向けて~では以下のようにまとめられています。

シンガポールやアメリカ、オーストラリア等の諸外国では、民間事業者が統合型リゾート、いわゆるIR(Integrated Resort)と呼ばれる、「観光振興に寄与する諸施設」と「カジノ施設」が一体となった施設群を設置・運営している。ー中略ー

このIR を公共政策として位置付けるコンセプトは、2005 年のシンガポールにおいて登場する。ー中略ー

同国においてIR とは、国際的に魅力ある観光資源として、「レジャーやエンターテイメント、ビジネスの場」であり、「ホテル、レストラン、ショッピング、コンベンション施設、劇場、美術館、テーマパークといったありとあらゆる施設が立地」するものと概念づけられている。
その中で、カジノについては、あくまで「プロジェクト全体の経済的継続
性を支える」相対的に「小規模な施設」として位置付けられ、「カジノの導入について検討しているのではなく、IR の導入について検討している“Not a Casino,but an IR”」と明言されている。このように、カジノの導入そのものを目的としているものではない旨が明確に示されている

報道では殊更に「カジノ」と「ギャンブル依存症」がクローズアップされていますが、カジノはあくまでも「IRの一部」であるという位置づけが無視されています。

施設群については「MICE施設」と呼ばれ、企業等の会議(Meeting)、企業等の行う報奨・研修旅行(Insentive Travel)、国際機関・団体、学校等が行う国際会議(Convention)、展示会・見本市、イベント(Exhibition/Event)などのビジネスイベントの総称が意識されています。

日本におけるIR・カジノと諸外国との違い

上記のようなIRの構造は日本においても目指されています。

他方、諸外国のIRと日本のIRの違いとして以下述べられています。

諸外国のIR は、カジノ以外の施設が併設されている場合であっても、カジノのライセンス制度を含むカジノ規制法に依っており、カジノ以外の施設は法制度により管理されているものではない。他方、我が国のIR 制度は、MICE 施設や宿泊施設、レクリエーション施設等の集客施設にカジノを加えた統合型リゾート施設を一体として、その設置・運営等を法制度の中に位置付ける世界初の取組である。

IR法制度の中にカジノを法的に位置づけるというのは世界初みたいです。

この仕組みがあることで、カジノ収益の再配分・徴収においてメリットがあります。

IRは民間事業者が設置運営、都道府県等が選定、国(国交省)が許認可

IR事業開始までの手続、プロセス

現時点からIR運営に至るまでのプロセスの概要は以下の通りです。

  1. 国土交通大臣が区域整備の基本方針を策定
  2. 都道府県等が上記基本方針に即して実施方針を策定
  3. 民間事業者がIR事業計画を都道府県等(政令市含む)に提案
  4. 都道府県等(政令市含む)がIR事業者を公募
  5. 都道府県等(政令市含む)が関連地域や組織と協議
  6. 都道府県等(政令市含む)がIR事業者を選定
  7. 都道府県等とIR事業者が区域整備計画を策定
  8. 都道府県等が国に対してIR区域の申請
  9. 国(国土交通省)がIR区域の認定
  10. 都道府県等とIR事業者が実施協定を策定、締結
  11. IR事業者が施設等を設置運営

IR整備法の5条~14条を読むと、この流れはわかります。 

その後のIR事業全体の実施状況については、国土交通大臣が都道府県等から報告を受け、内閣総理大臣が本部長であるIR推進本部からの意見を聞いて評価をしていきます。IR事業全体については、国土交通省が所轄であると言えます。

都道府県(政令市含む)がその領域内の特定の区域をIR区域に指定するので、例えば「船の上のカジノ」などは認められません。

IR事業者の単一性・一体性と収益の還元の仕組み

IR事業者の一体性

一つの「IR区域」の中(地理的一体性がある場所)に「IR施設」がなければならず、そこにおいて管理運営をする「IR事業者」は単一でなければならないという規制がかけられています。カジノ事業を行う者は、IR事業者と同じでなければならないとされています。
(ただし、一定の業務については第三者への委託を認める余地がある)

土地や施設の所有者はIR事業者と別の主体となる場合も認められていますが、その場合にはカジノ事業免許とは異なる許認可を受けることとなっています。

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こうした一体性を確保するようにしているのは、主な収益源と考えられているカジノ収益をIR事業内に還元し、IR事業全体の相乗効果を発揮させるためです。

要するに、カジノ事業による収益が専らカジノ事業に投資されたり、「外部」に流出することがないようにする仕組みが担保されることになっています。

この仕組みは、実は他の点においても効果を発揮することになるので後述します。

カジノについては、カジノ管理委員会(内閣府)が許可・監督する

カジノ管理委員会はIR整備法213条により、内閣府設置法49条3項に基づいて内閣総理大臣の所轄に属します。

IR区域認定が国交省という省庁であったのに対し、これは内閣府の外局に設置される独立した行政委員会です。
政府系機関では「内閣府設置法に規定された機関としての三条委員会」と言われる。「三条委員会」とは国家行政組織法3条に基づく機関という意味が主だが、名称と実態にズレがある。実質的な意味での「三条委員会」とは、その権限行使について上級機関(例えば,設置される府省の大臣)からの指揮監督を受けず,独立して権限を行使することが保障されている合議制の機関と言われる(実態は多少の揺らぎがある)。IR整備法216条には「カジノ管理委員会の委員長及び委員は、独立してその職権を行う」とあり、職務執行に際して内閣総理大臣に建議することなどは求められていないため、カジノ管理委員会は三条委員会であると言えるだろう。IR推進法の附帯決議13項では「独立した強い権限を持ついわゆる三条委員会としてカジノ管理委員会を設置」することとされている。このようにして「三条委員会」とは、単に国家行政組織法3条を根拠法令とする機関を指すにとどまらず、上級機関からの独立性が制度として確保されている或いはそのように運営されている国家機関を指す用語として使用されているのが実態である。)

納付金・入場料制度

IRカジノギャンブル

IR整備法ではカジノ利用者に対して入場料を徴収する事となっています。

国に3000円、都道府県等に3000円の計6000円という名目です。

入場から24時間以内の再入場には更に3000円が徴収されることになっています。

そして、「カジノ行為粗収益」の15%ずつを国庫納付金として国と都道府県等に納付する形になります(一次的には国が徴収し、国が都道府県等に払い込む)。

国は納付金を一般財源として扱えるため、IRとは無関係の政策に対しても利用できることになります。都道府県等に払い込まれた納付金の一部は、都道府県等がIR区域の自治体に対して交付できるような制度設計が推奨されています。

「カジノよりも学校にエアコンを」などという横断幕を掲げて反対していた野党議員がいましたが、これがどれだけ無意味なことかが分かるでしょう。

ギャンブル依存症対策

ギャンブル等依存症対策基本法が2018年7月13日に成立しています。

ギャンブル等依存症対策推進関係閣僚会議で議論が重ねられてきました。

これをベースとして、IR整備法では以下のような項目が義務とされています。

  1. 入場料の徴収
  2. 入場回数制限
  3. コンプ禁止
  4. クレジットカードによるチップ購入制限
  5. チップの譲渡・持ち出し禁止
  6. 入退場時のマイナンバーによる本人確認
  7. 広告規制

入場回数制限は、週に3回、月に10回までという制限です。

クレジットカードによるチップ購入は日本人や日本在住の外国人は利用不可能です。

細かい決まりはカジノ管理委員会規則で決められることになりますが、大枠としてはこのような規制がかけられているということです。

小括:IRと一体のカジノと言う位置づけが大切

IR制度の基本中の基本の理解を整理しました。

「カジノは一般国民とは関係がない」という意見が散見されますが、カジノという木しか見ずにIR政策全体という森を見ていないがために起こる理解不足が原因でしょう。

ここの理解があるだけで、以下に指摘するデマ、誤解、誤魔化し、印象操作を見抜くことが容易になります。

IR、カジノに関する誤解とデマ

IR制度に関する正確な報道が欠けていることに加えて、ネット上で誤解されている点や意図的に誤解させ、不安を煽る者がいます。

一つ一つ確認していきましょう

1:「カジノ法はトランプ法ダー!」というデマ

7月21日、TBSの「新・情報7days」の中でIR整備法を「トランプ法」と紹介。

「成立を急いだのはトランプ政権への配慮ダー」と言っていました。

IR整備法ができたのは「IR推進法」でIRについて整備する法律を早く作りなさいと規定されたからです。IR推進法は2015年4月28日に提出されました。

トランプ大統領就任は2016年11月。時系列からしておかしいですよね。

如何に【テレビ界隈がカジノが成立しては困る】かというのが理解できるでしょう。

2:カジノ議連(IR議連)に小沢一郎が居りパチンコ換金合法化が目的?

「カジノ議連の最高顧問は小沢一郎だからカジノを推進するのは危険だー!」
「カジノ議連はパチンコの換金合法化を狙っているからカジノは危険だー!」

これらの意見が2018年7月現在もありますが、これは誤解に基づいています。

IR議連=国際観光産業振興議員連盟と特定複合観光施設区域整備推進会議

カジノ議連とは国際観光産業振興議員連盟(略称:IR議連)のマスメディア上の呼称です。

元民主党の小沢一郎が最高顧問を務めていた時期は確かにあります。

しかし、最高顧問は4人いた時期があり、小沢一郎の他に安倍晋三、麻生太郎、石原信太郎が名を連ねていました。途中、最高顧問の数には変遷があります。

また、平成27年3月27日の時点での最高顧問は維新の会の片山虎之助です。

IR推進法が国会に提出されたのが平成27年4月28日(同12月15日成立)ですが、この法律にはIR整備についての議論は内閣の特定複合観光施設区域整備推進本部で行う(1条、14条)と規定されましたので、それ以降の議論は特定複合観光施設区域整備推進会議で行われ公開されています。IR議連の議論は一定程度こちらに持ち越されています。

したがって、現在のIR議連の最高顧問がどうであるかはあまり意味のない話というわけです。むしろ、これから設置されるカジノ管理委員会の構成員がカジノ管理委員会規則を決めるのですから、そちらの委員の構成がどうなるかがより重要です。

IR議連はパチンコ換金合法化を目的として設立されたからヤバい?

パチンコスロットの三店方式の仕組み構造

IR議連はパチンコ合法化を目的としているというのは、2010年4月14日の産経新聞の報道が確認できます。

しかし、実は既にパチンコの換金は実質的に合法であるという公的な意見が出ています。平成28年11月18日、緒方林太郎の質問主意書に対する答弁書、同月29日の再質問主意書に対する答弁書において、政府から以下のように回答されています。

客がぱちんこ屋の営業者からその営業に関し賞品の提供を受けた後、ぱちんこ屋の営業者以外の第三者に当該賞品を売却することもあると承知している。

風営法の規制の範囲内で行われるぱちんこ屋については、関係法令の規定に基づいて適切に行われるものであって、刑法(明治四十年法律第四十五号)第百八十五条に規定する罪に該当しないと考えている。

ぱちんこ屋の営業者以外の第三者が、ぱちんこ屋の営業者がその営業に関し客に提供した賞品を買い取ることは、直ちに風営法第二十三条第一項第二号違反となるものではないと考えている。もっとも、当該第三者が当該営業者と実質的に同一であると認められる場合には、同号違反となるほか、刑法第百八十五条に規定する罪に当たることがあると考えている。

要するに、いわゆる三店方式(「パチンコ店」「景品換金所」「問屋」の三店)と呼ばれる換金方法が行われていることについて政府は認識しているということ、それは直ちに違法になるのではなくパチンコ事業者と換金業者が実質的に同一である場合には風営法違反であり、刑法で禁止する賭博罪に当たる場合があるということです。

こうして既にIR議連とは無関係なところでパチンコ換金が実質的に合法化であるという認識が示されています。しかも、緒方林太郎はIR議連に居ません。

それに、IR議連の役職者の推移を見ればわかるように、当初は民主党が力を持っていましたが、最終的には自民と維新などが議連内部での地位を確立していたという力関係の変遷が分かります。

さらに、「PCSA(Pachinko Chain Store Association)の政治分野アドバイザーにIR議連のメンバーが居るからパチンコ業界の利益を誘導しようとしている」という人がいますが、アドバイザーに就任しているからといってパチンコ業界の利益をIRカジノに持ち込もうとしているかは不明です。そういう議員は一部は居るでしょうがIRカジノの法制度に影響を与えることができるのはどの程度居るかはかなり怪しいです。

ちなみに、元民主党の議員らは結局IRカジノ推進法、IRカジノ整備法案に反対しました。

したがって、IR議連についての古い情報に基づいて「カジノは危険」と思うのは勘違いに過ぎません。 

3:「カジノはパチンコ業界によって推進されている」というデマ

IR議連の項でも触れましたが、IRカジノを推進している議員がパチンコ業界に一定の関係を持っていることは確かです。しかし、それがパチンコ業界の意向を受けて利益誘導しているというには無理があるということは示しました。

運営企業とソフト開発、機器製造会社、カジノ運営企業を混同させる

他の手法でカジノはパチンコ業界によって推進されていると印象操作する者が居ます。

出井康博デマ

プレジデントオンライン:出井康博:http://president.jp/articles/-/24677?page=3

ここで行われているのは【パチンコ運営企業とパチスロ機器製造・ソフト開発企業の混同】です。

「セガサミーホールディングス」 はパチンコ業界の企業ではありますが、エンターテイメント会社のセガと経営統合した企業です。事業内容はパチンコ・パチスロのソフト開発、機器製造、販売であり、パチスロ店の営業は行っていません。

将来的にカジノ機器の開発製造は、現時点でパチスロ機器の開発製造をしている企業が多くを担います。これらの企業はパチンコ・スロットを行わせるという営業形態で収益を得ているのではなく、機器の提供・販売によって収益を得ているだけです。要するにソフトウェア会社、製造業であって、いわゆるパチンコチェーンではありません。先に引用したPCSAにはセガサミーは入っていません

したがって、パチスロ店が廃止されたとしても、代替的な仕事が存在していれば全く痛くもかゆくもないわけです。セガサミーは海外でカジノ運営も行っていますが、ということは他のパチスロ運営企業の意向を受ける必要が全く無いわけです。自社でやれるのですから。

既存のパチンコ・スロット機器はカジノに使われるのか

パチスロをやったことがある人は分かると思いますが、現在のパチスロは単に球が打ち出されたりスロットが回ったりするだけではなく、アニメーションなどの凝った演出が施されています。ソフトウェアが入っているということです。利用者が勝つ確率が変動する「設定変更」が行われることもあります。

こうしたパチスロ機器は、カジノにおいて使われません。

特定複合観光施設区域整備推進会議では、公正なカジノ運営の確保のためにカジノ行為の結果に影響を及ぼす不正な行為を禁止するべきだとされ、パチスロのような風俗営業適正化法(風営法)の「遊技」として認められているものをカジノ施設内で導入するのは適切ではないという方針が示されています。

パチスロ機器がカジノに導入されないということは、パチスロ機器設計製造の業界の利益誘導もIRカジノにおいてはできないということになります。

もちろん、パチスロ機器の設計製造で得た技術をカジノ機器に転用することは在り得るでしょうから、カジノが出来ることでそうした企業に需要が生まれ、利益になるでしょう。しかしそれは健全な市場競争なのであって、殊更問題視するのはおかしな話です。

パチスロ業界が食い込もうとしているかもしれないが…

もちろんパチスロ業界もカジノ利権に食い込もうとしているかもしれません。それは否定しきれないでしょう。しかし、パチスロ業界が先導して推進してる、などという事実はありません。

そこまでしてカジノを成立させたくない勢力って何なんでしょうね?

4:「外資に乗っ取られる」という妄想

IRカジノ

新制度が検討されると「外資に乗っ取られるぅー!」と叫ばれるのは良くある話(笑) 

「日本国内にカジノを単独運営できる企業は無い」はその通りでしょうが、日本国外でカジノ経営をしている日本企業も居る上に、 現存の日本企業がノウハウを寄り添ってジョイントベンチャーを作ることもできるわけですから、まず外資が必ずIRカジノをやるという前提がおかしい

その上で、外資がIRカジノ事業者になったとしても、その利益は国内に残るわけです。しかも、そこで働く人は現地の方が相当数いるでしょうから、外資だろうが雇用は創出されるわけです。

カジノ収益がIR事業に再配分されるという仕組みはすでに説明しましたし、納付金30%が国と都道府県に納められるということも説明しましたから、こういうところで「利益が外部流出するうぅー!」といったような不安を感じることは無いでしょう。

「外資ガー!」はもっとも頭の悪い陰謀論でしょう。

マネーロンダリングに関して外資の危険が言われることがありますが、それはまた別の話。

5:「カジノ収益の試算が無い」「収益は低い」というデマと印象操作

カジノはパチンコとの比較で論じられることが多いですが、市場規模と収益、税収に関するデマが横行しています。

「カジノ収益の試算が無い」という印象操作

IRカジノ政策を行った場合にどの程度の収益が見込まれるのかというのは、IRカジノ政策の議論の当初はシティグループなどがパチンコ業界の収益から試算を報告しています。

これに対して、「カジノ収益の試算が無く、いいかげんな計画だ」という主張がなされることがあります。これはIR制度の理解不足から来る誤解を元に政策を批判するレトリックです。

思い出しましょう、IR区域は都道府県等が決定します。そして、区域整備計画も出します。ということは、地域によって収益の予想が異なるのであり、将来的な施設拡充によっても変動するのです。よって、正確な試算がIRカジノ政策の議論の当初でできるハズもなく、それを求めるのは筋違いということになります。

シンガポールのような狭い地域に国家のファシリティが全て揃っている場合には試算は可能でしょうが、日本のIRではパチンコを参考にするのが最も適切でしょう。

カジノ専門家の木曽崇もブログで以下のように述べています。

私自身、カジノの市場性調査を己の主たる業務の一つとしているワケですが、特定地域における市場規模予測を行うにあたっては、最低限の前提要件として1)カジノ税率、2)域内競合施設数、3)各競合施設の立地の3つが確定していなければ数値が弾けません。

こうした試算は条件が決まってくるごとに何度か行われ、複数調査を参考にすることになるので、過去の一つの調査結果だけを取り上げて「精度が低い」と言うことには何も意味が無いどころか有害な言説です。

「カジノの市場規模はパチンコよりもかなり低くて税収が見込めない」というデマ

そして、「日本のパチンコ市場は世界のカジノ市場と同等」「同等なので、カジノを1つ2つ作った程度では大して税収に貢献しない」というデマも酷いものがあります。

日本のパチンコ市場の規模の算出に使われている会計基準は「顧客が賭けた額=貸玉料」で計算されるグロス方式。

一方、世界のカジノ市場は「顧客の負けた額=カジノ事業者が勝った額」で計算されるネット方式です。詳しくはこちらをどうぞ。

国内産業における規模として約20兆円という数字を持ち出すことはまだいいですが、会計基準の異なるものと比較するのはデマ拡散の目的以外に考えられません。

カジノの会計基準に引き直すと、日本のパチンコの規模は2~3兆円です。

対して、IR整備法の大枠が固まった後に3地域における市場規模を試算した一例としては、7850億円というものがあります。

パチンコはパチンコ税などというものは現時点では存在せず、法人税等のみが企業に課されているだけなのに対して、カジノは「カジノ行為粗収益」に対して30%の税収(国は15%)が発生しますから、「税収が見込めない」という批判はもはや通用しないということになります。

6:ギャンブル依存症に関する誤解

IRカジノ

カジノの運営方針について、ギャンブル依存症との関連で誤解が広められているケースがあります。

特定金融業務で「貸金業法が無適用で貸付上限が無いから依存症になる」というデマ

これらは全てデマや間違った考えです。IR整備法が成立した後なのにこれ。

IR整備法85条以下に、特定資金貸付業務の規制について規定されています。

  1. 本法内に住居を有しない外国人
  2. カジノ管理委員会規則で定める金額以上の金銭をカジノ事業者の管理する口座に預け入れている者

1番又は2番に該当する者にしか貸付はできないようになっています。

では、2番の金額はいくらになるか?整備推進会議のとりまとめでは、シンガポールの例では日本円にして約800万円とされており、この金額を参考に日本のGDP等に照らして決定するのが良いのではないか?という議論がされていました。

貸金業法で年収の3分の1以上の貸付制限がありますが、それが適用されないということは確かです。しかし、IR整備法86条では貸付にあたって返済能力に関する調査等をすることとされています。

利息については85条3項で無利息とされています。返済期限を超えても支払いがない場合の遅延損害金が14.6%と規定されているだけです。 

上記の妄言がデマや間違いであるということが明らかというのが分かるでしょう。

カジノ敷地内に消費者金融機能を持つATMが並ぶというデマ

カジノ施設内でのATM設置は禁止され、カジノ周辺施設でも貸付機能が無いATMのみの設置が認められるとされています。 

細則の制定過程が不透明だ!IR整備法はザル法だ!331項目ガ―!

これはあながち間違いではない可能性も十分にあるのが注意です。

というのは、IR整備法で規制をかけるとされている項目の詳細については、カジノ管理委員会規則に委ねるなど、未だ内容が確定していないからです。しかも、政令を制定するのは国会ではなく内閣における閣議決定で行われます。

閣議決定は事後的に公開されますが、議論の様子は国会中継のように逐一公開されるわけではありません。ですから、手続が(相対的に)不透明であると言われたりします。

ただ、「331項目も政令に委任している」という批判は意味不明で、政令に細目をゆだねている法律はいくらでも存在しています。むしろ法律レベルで全てを規定することに無理があります。

たとえば憲法で選挙制度の全てが規定されていませんが、それが問題だと主張する者はいません。

規定の抽象レベルを合わせることや改正の難易など、様々な要素を考慮して立法は為されるのですから、批判する者が法律に盛り込む必然性を説明しなければなりません。しかしそうした議論は国会でほとんど行われませんでした。

実質週6回ダー

週3回という規制を、2週間でみるとそういう期間ができるという話に過ぎません。

金土日で区切るとして次週の月火水もカジノに行けるだろうということです。

しかし、その場合は当該月で残っているカジノ入場可能日数は4日のみです。

こうやって目先の数字で騙そうとしているのは何が目的なんでしょうか?

魚拓:http://archive.is/MrFNu

7:「持統天皇が双六を禁止したからカジノはダメ」という無知

IRカジノ

2018年7月20日の内閣不信任案趣旨説明における枝野幸男の演説内で出てきた主張です。7世紀末に持統天皇は双六禁止令を出したからカジノはダメだという意見です。※追記:それ以前の質疑においても別の議員や参考人から同じ話が持ち出されたことがありました。

しかし、天皇のお言葉を重視するというのならば、歴代天皇のお言葉をもまた重視しなければなりません。

11世紀の白河法皇は「双六は思うようにならない」と言っているように、天皇が双六をプレーしていたということです。また、元禄時代(17世紀終盤から18世紀初等)に朝廷が寺社における富くじを解禁したという記録もあります。これは幕府の財政不足によって寺社の修繕ができない状況を改善するために、規制がかけられた上で許可されたものです。

ここで、賭博がなぜ違法とされているのか?という基本的な理解が重要です。 

「射幸心を煽る」よく使われる表現ですが、これが賭博が禁止される根本的な理由です。これによってギャンブル依存になり、仕事をしなくなる、お金を使い果たす、生活が荒れる、種々の弊害が生じるという因果関係にあります。

つまり、逆に言えば射幸心を煽る程度に比例して適切なギャンブル依存対策を講じた上であれば賭博の悪性は払しょくされるのであり、だからこそ競馬、競輪、競艇などの公営ギャンブルが存在しているのです。

基本的な考え方も知らず、スポット的な知識としてだけ天皇のお言葉を引用して自己の主張の正当化を図るというのは不敬極まりない行いです。

未来予想:マスコミカケキャンペーンと同じ構図に?

「カジノ事業者は内閣総理大臣のトモダチだー!だから利益誘導ダー!」
(おそらくIRカジノが運営される頃には安倍晋三は総理大臣ではないでしょう)

カジノ管理委員会が内閣の外局であり内閣総理大臣が所轄であることからこのようなマスコミのキャンペーンが貼られる未来が見えるのですが、今から言っておきましょう。頭狂ってますよ。

IR事業者を選定するのは都道府県や政令指定都市なのですから、内閣総理大臣が選べるという仕組みではないのです。

なんだか国家戦略特区の「マスコミカケキャンペーン」に似てますよね?

まとめ

元々この記事でIRカジノの設置がパチスロ業界やオンラインカジノ業界に与える影響まで書きたかったのですが、あまりにもデマが膨大過ぎて1記事で扱うのは適切ではないと判断しました。

そちらについては別稿を書く予定です。
※追記:書きました。

それにしても、ここまでデマが横行するのは、いったい誰にとってIRカジノの設置は都合が悪いのでしょうね?(すっとぼけ) 

この行為もカジノ法案の採決にあたって行われましたし。

以上