数字を独り歩きさせたい者が居る
- 慶応大学未公認学生団体Safe Campus性暴力実態調査報告書
- 慶応塾生新聞が「女子の半数が卒業までに性被害」と拡散
- 内閣府男女共同参画局の「性暴力」の意味・定義「望まない性的な行為」
- Safe Campus性暴力実態調査報告書のバイアスと塾生新聞の誘導
- 2021年11月29日 法制審議会 刑事法(性犯罪関係)部会 第2回会議に団体メンバー3名が出席
- まとめ:数字を独り歩きさせてはいけない。繰り返される「性被害」に関する数字の悪用
慶応大学未公認学生団体Safe Campus性暴力実態調査報告書
2022 年度慶應義塾大学における性暴力の実態調査結果報告書 慶應義塾大学未公認学生団体 Safe Campus 2023 年 1 月 13 日(魚拓)
慶応大学未公認学生団体の「Safe Campus」が、性暴力実態調査報告書とするものをUPしていました。2020年のものに続いて第二回目のようです。
しかし、この報告書の定義や調査方法には疑問符が付く点が多く存在していることや、それを報じる側の言説にも問題があります。
しかも、この団体は法務省の法制審議会-刑事法(性犯罪関係)部会にヒアリング対象として出席したこともあるため、その手法を注視すべきです。
慶応塾生新聞が「女子の半数が卒業までに性被害」と拡散
〈慶大 女子の半数が卒業までに性被害「大学は確実な対応を」〉
— 慶應塾生新聞 (@jukushin) 2023年2月8日
未公認団体Safe Campusは「第2回学内性暴力実態調査」の結果を公表した。団体は学内における性暴力の根絶に向けて、慶大に対応を求める方針だ。
#慶応 #慶應 #塾生新聞 #2022塾生会議 https://t.co/k1gidEyK0J
慶大 女子の半数が卒業までに性被害「大学は確実な対応を」 2023-02-08
慶応塾生新聞が2月8日に「女子の半数が卒業までに性被害」と拡散して注目が集まっていますが、内容についてのツッコミが殺到しています。
実態は以下の表の通りです。
本調査では性暴力を「言葉による性暴力」「性的接触」「同意のない性行為」「オンラインでの性暴力」の 4 つに類型化したとあります。
結果は、言葉による性暴力 18.8%、オンラインでの性暴力8.9%、同意のない身体的接触(性的接触?) 7.7%、同意のない性行為 1.6%と報告しています。
この調査・報告では、同意のない身体的接触(「同意のないボディタッチ」)は、性的接触=性暴力とされており、「性暴力」と「性被害」という用語についても同じ意味として使われているようで、用語の混乱が目立ちます。
また、どうやら「研修モジュールの受講」の有無で回答に影響が及んでいるようです。
内閣府男女共同参画局の「性暴力」の意味・定義「望まない性的な行為」
酷いなこれ。
— Nathan(ねーさん) (@Nathankirinoha) 2023年2月10日
内閣府男女共同参画局が性暴力を「望まない性的な行為」としているというの本当だった。でもこのピンク文字のページしか見当たらない。
電話で聞いたらなぜか話途中で切られそうになった。Q&Aも教えてくれなかった。官僚じゃなくて外部委託してるんだろう。 pic.twitter.com/BMYxpuiApo
慶応学生新聞で以下の記述があったので確認しました。
内閣府男女共同参画局は、性暴力を「望まない性的な行為」としている。レイプだけでなく、手を繋ぐ、ハグやキスといった行為も同意がなければ加害行為となる。
性暴力は「望まない性的な行為」である、という点は確かで、手を繋ぐ行為についても男女共同参画局の担当者は排除していませんでした。
どうやら性犯罪・性暴力とは | 内閣府男女共同参画局で書かれているものがそうであるようです。別のページ⇒性犯罪・性暴力とは
要するに供述した者の主観ですべてが決まるようで「何が性的であるか」といった点も曖昧なまま話が展開されています。
手を繋ぐだけで「性的な行為」と評価されることは法令の世界ではあり得ない上に、日本語の国語としてもそうした用語法は無いので、理解に苦しみます。
とにかく、大本の定義がそういうものであるという点は要注意です。
Safe Campus性暴力実態調査報告書のバイアスと塾生新聞の誘導
慶應義塾大学未公認学生団体 Safe Campus は、2020 年度に続き 2 回目となる、2022 年度慶應義塾大学における性暴力の実態調査をオンライン上で実施し、慶應義塾大学に在学する学生や教職員、事務職員、卒業生から 313 件の有効回答を得た。なお、オンライン上での任意回答であるため得られたデータには偏りがある。そのため本調査の結果は慶應義塾大学における性暴力被害の実態を正確には表していない。
調査は、2022 年 9 月 15 日から 10 月 29 日までを実施期間とした。調査開始当初は調査終了日を 10 月 15 日と予定していたが 2 週間延長した。
本調査は Google フォーム を用いてオンライン上での任意回答とした。調査対象は、keio.jp を所持している慶應義塾大学の学生、職員、卒業生である。調査方法として、団体SNS(Facebook、Twitter、Instagram)、Safe Campusメンバー個人のSNS、教授への周知を中心とした。そのため、本調査の結果は、慶應義塾大学における性暴力の実態を完全に明らかにできるものではなく、回答結果にはバイアスが内在している。
調査手法として回答が団体SNS経由のものが多いとみられ、その時点でバイアスがかかってると言えます。
2020年調査は教授の講義後にアンケート用紙を配付するという手法があったようですが、2022年調査では触れられていません。ただ、回答者数にさほど変わりが無かったので、もともとリアルでの回答は少なかったのかもしれません。
慶応塾生新聞の記事の問題は「女子の半数が卒業までに性被害」などと書いていることです。これは調査結果を正確に表していないし、報告書でもそのような評価は為されていません。
慶応塾生新聞はこのグラフの「学部4年生」の女性の数値を見て「女子の半数が卒業までに性被害」などと評しているに過ぎません。
男子の数値を見ると分かるように、学年を重ねるごとに数値が積みあがっていくグラフではなく、単に【その学年の数値がそうである】以上の意味を持ちません。
回答者の中には卒業生も含まれています。
学年別の表では在学生の分しか含まれてないと報告書では言及されています。
そのため、本来「卒業までに」を言うためには卒業生の実態や、被害に遭った年次の経年の精査が必要であるにもかかわらず、危うい書き方が為されていると言えます。
※大学院生が30名回答しているとあるが、内部進学者ではないから分析対象から除外したのだろうか?という辺りもよくわからない。
「性暴力」の中身:宿題を手伝わせる・無視する・悪口を言う・罵倒や人格否定?
この手の調査の場合、犯罪に該当する行為でなくとも、セクハラと言われる類のものは「性被害」として扱われることがあります。
また、「言葉による性暴力」という扱いも違和感は無いです。
参考:日本は統計に無い性犯罪・性被害が多い?「暗数」の海外諸国比較
ただ、そうした要素が無いものである【宿題を手伝わせる・無視する・悪口を言う・罵倒や人格否定】が、「性暴力」の選択肢にある本調査は異質です。
2021年11月29日 法制審議会 刑事法(性犯罪関係)部会 第2回会議に団体メンバー3名が出席
Safe Campus ホームページ on Strikingly
団体HPを見ると「2021年11月29日 法制審議会 刑事法(性犯罪関係)部会 第2回会議に団体メンバー3名が出席」とあります。
他の出席者はNPO法人ぱっぷす理事長や大学の教授・准教授であるなかで学生がプレゼンしているのは異例のことに映ります。
まとめ:数字を独り歩きさせてはいけない。繰り返される「性被害」に関する数字の悪用
本件調査結果について、SNSでは「これだから慶応大学は」「大学として終わってる」のような反応が多く付きました。
同様の脊髄反射は過去のメディアが報じる調査結果に関しても発生していました。
いずれも以下の構造があります。
- 大本の調査内容がおかしい:定義が曖昧、珍奇な用語の採用による印象付け
- メディアの報道姿勢もおかしい:報告書の内容を正しく理解できない構成
- 一般人が過剰に反応:記事の内容を更に過激な方向に曲解するとバズる
本件もそういう傾向で把握できてしまいます。
これが自治体への報告や海外メディアによる報道の対象になったらたまったものではないため、整理しました。学生らにそういう意図は無いのかもしれないが、これらの流れのどこかに、数字を独り歩きさせたい者が出現するのが世の常です。
なお、既にそういう事例があります。
以上:はてなブックマーク・ブログ・note等でご紹介頂けると嬉しいです。