事実を整える

Nathan(ねーさん) 法的観点を含む社会問題についても、事実に基づいて整理します。

日本は統計に無い性犯罪・性被害が多い?「暗数」の海外諸国比較

日本は統計に現れない性犯罪・性被害、つまりは暗数が多いのか?

実は暗数についても実態調査の結果があるのですが、情報がバラバラになっているので、必要な記述に到達できるようにまとめます。

※追記:別の調査もありました。

日本は諸外国と比べて統計的に性犯罪が少ない

2020年版:日本と韓国の性犯罪率、強姦強制わいせつの統計

諸外国との国際比較のデータを上掲エントリで提示していました。

上掲表はCIVITASというシンクタンクが、国連薬物犯罪事務所の調査データを基に、比較的統計的処理が似通っているOECD諸国に限って犯罪データを比較したものです。

ここからは、警察が認識した件数ベースにおいては、オーストラリアやスウェーデンなど欧米諸国の性犯罪率は日本より遥かに高いことが伺えます。

ただ、国により犯罪の法的な定義、司法による認定方法、認知件数(被害を申し出る人が多いか少ないかも含む)、報告の仕方(認知件数で揃えていると思うが親告罪/非親告罪が影響するかもしれない)等によってデータの意味にバラツキがあり得るため、あくまで参考として扱うべきです(年度によって数値が大きく変動する国もある)。

しかし、調査方法が似通った諸国のデータを用いているため、一定の傾向として把握することは可能です。

そんな中、次項のような指摘があります。

日本は統計に現れない性犯罪・性被害が多い?

「統計の定義が違う」「事件化していないだけ=暗数が多いのではないか?」

こういった予測がいろんな者からたびたび主張されています。

さて、実は法務省は「暗数調査」をやっているのでそちらを見ていきましょう。

 

性犯罪被害実態(暗数)調査の結果

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研究部報告55 性犯罪に関する総合的研究 平成28年3月

性犯罪被害実態(暗数)調査の結果ですが、第4回調査では、男女2000人超に調査した結果、法律上の処罰の対象とはならない行為を含む性的事件について被害を受けたと回答したのは27人(回答者の1.3%)ということになっています。

暗数調査は何回も行われており、調査方法や諸外国との比較については記述が一所にまとまっていないので、以下、適宜関係する報告書を引用しながら紹介します。

法務省の性的事件の暗数調査の調査方法

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質問票の例は第三回のものを利用。

統一された調査様式と方式を用いた国際犯罪被害実態調査(ICVS=International
CrimeVictimizationSurvey
が行われており、日本では,ICVSに参加する形で法務省法務総合研究所が調査を実施しています。
※ICVSについて,多数の国をカバーした調査は,2005年の調査以降実施されていない模様

質問票を見ると、性的暴行ではない暴行・傷害とは分けるように記述され、セクハラや痴漢といったものも含めているのが分かります。

なお、性的被害に関しては第2回までは、日本は女性にのみ質問をしています。

研究部報告41 第3回犯罪被害実態調査結果 はしがき・要旨紹介・目次

第5編 参考資料 基礎集計表+第3回犯罪被害実態調査票票+自記式記入票

国際比較は第2回の調査のものにのみ表があるのでこれを利用。

研究部報告39 第2回犯罪被害実態(暗数)調査(第2報告) 国際比較(先進諸国を中心に)

国際比較の基礎集計表は第3部 参考資料から。

なお、最新の調査は第5回です。

法務省:研究部報告61 第5回犯罪被害実態(暗数)調査-安全・安心な社会づくりのための基礎調査-

第3編 犯罪被害の申告及び不申告の理由

 

性的暴行・性的被害の内訳:強制性交・セクハラ・痴漢など

性的被害の内訳・強制性交、セクハラ、痴漢など

法務省:研究部報告61 第5回犯罪被害実態(暗数)調査-安全・安心な社会づくりのための基礎調査-から

第5回のものを見ると、性的暴行・性的被害の内訳として

「強制性交等」
「強制性交等未遂」
「暴行や脅迫は受けていないが意に反する性交、肛門成功又は口腔性交」
「強制わいせつ」
「強制わいせつ未遂」
「暴行や脅迫は受けていないが意に反するわいせつ被害」
「痴漢」
「セクハラ」
「その他の不快な行為」
「わからない」
「記入上の不備」
「無回答」

これらの項目に分けられています。

諸外国・海外の性的暴行・性被害の暗数との比較結果

 

性的暴行の暗数、日本と諸外国の比較

研究部報告39 第2回犯罪被害実態(暗数)調査(第2報告) 国際比較(先進諸国を中心に)から。

日本は1099人中、27人が被害申告、「分からない」が15人と多いのが特徴です。

こうしてみると、日本は暗数調査においても、海外(欧米)と比べて性的暴行(セクハラや痴漢も含む)の被害を申告する者が少ないということが分かります(「分からない」を全て「被害あり」に足したとしても)。

また、統計的に性犯罪が多いスウェーデンやアメリカは、やはり暗数調査においても申告数が多いという傾向が見られます。

ただ、報告書第1部において「女性回答者がどのようなタイプの行為を犯罪と見なすかという点で文化的相違があるため,被害状況の正確な把握が難しい」という指摘があります。

また、「調査結果に含まれる国・地域ごとの文化的な偏りの影響を最小化するため,ここでは,被害者が身体的暴行を含む性的暴行を受けた場合の被害率に焦点を当てた」とあります。

これを見る限り、身体的暴行を含まない性被害については数字に反映されていないことになります(日本刑法に言う「暴行」概念との関係は不明)。

※男性の被害申告者は女性よりも比率が有意に低いことに注意。

なお、第一回~第五回調査にかけて、犯罪被害率は低下傾向にあります(第5回報告書第1編 調査の意義及び概要等

日本で暗数が少なく、欧米諸国で多い理由は?

日本で暗数が少なく、欧米諸国で多い理由は何でしょうか?

  1. 治安の良し悪しがある程度反映されているから?
  2. 日本の回答者は(質問者の意図とは別に)、行為者の「性的な目的」を消極的に解している?
  3. 他方で外国は行為者の「性的な目的」を問わず被害者の主観で「性的被害」を申告させている?
  4. 「被害」を受けたと思う閾値が外国は低く、日本は高い?
    ⇒日本の回答者は(質問者の意図とは別に)「痴漢」や「セクハラ」に該当しなければ被害ではない、言葉だけでは被害ではない、などと考える一方、外国はそうでもない?
  5. 日本はアンケートの回答で正直に答えない?

白紙状態から理論上の可能性を挙げていくと、ざっとこうした要素が考えられます。

また…研究部報告39 第2回犯罪被害実態(暗数)調査 第2部 日本を含む欧米等先進国を中心とした14か国の比較分析においては、性的被害に特化した国際比較の分析は行っておらず、単純比較すべきではないという姿勢が第一にあるためか、法務省がどのように結果を受け止めているかはこれだけでは不明です。

性犯罪統計と暗数統計の違い

性犯罪統計と暗数統計の表を再掲します。

警察の認知件数ベースと被害者の認識(暗数)ベースの数字を見ると、後者の方が日本と欧米諸国の値は近いことになります(※男性の被害申告は有意に低いことに注意)。

こうなる理由はいろいろ考えられますが、例として

  1. 日本では暗数が(警察認知件数から考えると)多かった?
  2. 欧米諸国の警察認知基準が緩かったために数字が肥大化していた?
  3. "rape"犯罪は欧米は多いが、日本はrape未満の性被害が多い?

などなど。いずれにしても日本の被害が欧米に比して低水準であると言えますが。

まとめ:国際犯罪実態調査の元データについて

法務省の暗数調査は国際犯罪実態調査に則る形と書きましたが、国際比較に用いたデータはまた別にあると書かれています。

そちらの記述も含めた考察については以下note記事で書いており、性犯罪統計と暗数統計がなぜ異なるのかのヒントを見つけました。

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