事実を整える

Nathan(ねーさん) 法的観点を含む社会問題についても、事実に基づいて整理します。

外国人に住民投票権を付与することは違憲か:武蔵野市の住民投票条例と法制局「選挙権に匹敵も」

武蔵野市住民投票条例条文

東京都武蔵野市の住民投票条例案について。

 

住民投票は「選挙権に匹敵も」衆院法制局が見解 

住民投票は「選挙権に匹敵も」衆院法制局が見解 東京・武蔵野市の条例案 - 産経ニュース

住民の意思を投票によって地方公共団体の政策に反映させる「住民投票」の投票権について、衆院法制局が「地方公共団体の選挙の選挙権に匹敵するものとなり得る」と位置付けていることが2日、産経新聞の取材で分かった。住民投票をめぐっては、東京都武蔵野市が日本人と外国人を区別せずに投票権を認める条例案を市議会に提案しており、違憲の疑いが濃厚な外国人参政権の代替制度になりかねないとの声が上がっている。法制局の見解はそれを裏付けた格好だ。

ー省略ー

法制局は住民投票について「何を対象にするのか、結果の拘束力がどの程度あるのかなど、前提となる要素が整えば選挙権に匹敵し得るだろう」とした上で、「外国人にどこまで投票権を認めるかは十分な議論が必要だと考えられる」との見解を示した。

衆院法制局が住民投票は「選挙権に匹敵も」と見解を出しているとの報道。

東京都武蔵野市の 事案を中心に関連する話を整理します。

東京都武蔵野市:外国人にも投票権を認める条例案

武蔵野市、外国人に住民投票権認める条例案 憲法違反の可能性は? - 弁護士ドットコム

条例案では、市内に3カ月以上住んでいる18歳以上の日本人に加え、定住外国人にも投票権を認める。産経新聞(11月11日)によると、留学生や技能実習生らも含め、日本人と同一条件で投票権を付与する条例は全国3例目

住民投票制度について|武蔵野市公式ホームページ

常設型住民投票条例を定めている全国 78 自治体のうち、投票資格者に外国籍市民を含めているのは 43 自治体あるようです。

東京都武蔵野市の事案は、「常設型」であり、外国籍市民を日本人と同一条件としている点で特異なもの。同一の条件での投票権と住民投票実施の請求権を付与する条例がある自治体として産経新聞では大阪府豊中市神奈川県逗子市が紹介されていました。

こうした住民投票は「法的拘束力が無い」という点が指摘されています。

沖縄県の辺野古基地建設のための埋め立ての賛否を問う条例との違い

沖縄県の「辺野古米軍基地建設のための埋立ての賛否を問う県民投票条例」との違い。

  1. 投票資格は公職選挙法に則っている⇒日本国民のみ
  2. 常設型では無く事案が特定されている⇒事案毎に条例が成立
  3. 沖縄県にイニシアティブが無い事案⇒内閣が移設を決めている

法的拘束力が無い住民投票」という点で大きな話題になったために引き合いに出されがちな沖縄県の当該住民投票ですが、これだけの違いがあります。

また、辺野古への米軍基地の移設は「法律」ではなく条約上の義務を履行しようとする内閣による「行政処分」なので沖縄の一自治体では何も出来ない案件。

憲法95条の問題でもないハズだが、一応そういう議論があるので以下記事を添付。

(2ページ目)【辺野古】住民投票にはわが国の最高法である憲法上の拘束力がある|日刊ゲンダイDIGITAL

日本国・沖縄の国土を守るための軍事基地建設(米軍専用・自衛隊との共用を問わず)が憲法95条が問題となる特別な「負担」や「利益・援助」だとの見方に私は懐疑的。

外国人の国政選挙と地方選挙への参加を禁止した最高裁判例との関係

日本国憲法

第八章 地方自治

第九十二条 地方公共団体の組織及び運営に関する事項は、地方自治の本旨に基いて、法律でこれを定める。
第九十三条 地方公共団体には、法律の定めるところにより、その議事機関として議会を設置する。
② 地方公共団体の長、その議会の議員及び法律の定めるその他の吏員は、その地方公共団体の住民が、直接これを選挙する。

憲法93条2項の「住民」は「国民」と別表記なので外国人も含むかが争われました。

外国人の国政選挙への参加は最高裁判所第二小法廷判決 平成5年2月26日 平成4年(オ)第1928号で否定されています。

また、外国人の地方選挙への参加は最高裁判所第三小法廷判決 平成7年2月28日 平成5(行ツ)163 民集 第49巻2号639頁で一般的に禁止されました。ただ、以下の傍論が先例として機能しているかの理解に争いがあります。

 このように、憲法九三条二項は、我が国に在留する外国人に対して地方公共団体における選挙の権利を保障したものとはいえないが、憲法第八章の地方自治に関する規定は、民主主義社会における地方自治の重要性に鑑み、住民の日常生活に密接な関連を有する公共的事務は、その地方の住民の意思に基づきその区域の地方公共団体が処理するという政治形態を憲法上の制度として保障しようとする趣旨に出たものと解されるから、我が国に在留する外国人のうちでも永住者等であってその居住する区域の地方公共団体と特段に緊密な関係を持つに至ったと認められるものについて、その意思を日常生活に密接な関連を有する地方公共団体の公共的事務の処理に反映させるべく、法律をもって、地方公共団体の長、その議会の議員等に対する選挙権を付与する措置を講ずることは、憲法上禁止されているものではないと解するのが相当である。しかしながら、右のような措置を講ずるか否かは、専ら国の立法政策にかかわる事柄であって、このような措置を講じないからといって違憲の問題を生ずるものではない。

とはいえこれは人を選ぶ「選挙」の話。まったく無関係ではないが、今回の住民投票条例で対象となっている政策についての「投票」は、少し別の論理が働く。

公権力行使等地方公務員への外国人の登用を禁止した最高裁判例との関係

最高裁判所大法廷平成17年1月26日判決平成10(行ツ)93では公権力行使等地方公務員への外国人の登用をしない判断を適法としましたが、その判示を紹介。

(2) 地方公務員のうち,住民の権利義務を直接形成し,その範囲を確定するなどの公権力の行使に当たる行為を行い,若しくは普通地方公共団体の重要な施策に関する決定を行い,又はこれらに参画することを職務とするもの(以下「公権力行使等地方公務員」という。)については,次のように解するのが相当である。すなわち,公権力行使等地方公務員の職務の遂行は,住民の権利義務や法的地位の内容を定め,あるいはこれらに事実上大きな影響を及ぼすなど,住民の生活に直接間接に重大なかかわりを有するものである。それゆえ,国民主権の原理に基づき,国及び普通地方公共団体による統治の在り方については日本国の統治者としての国民が最終的な責任を負うべきものであること(憲法1条,15条1項参照)に照らし,原則として日本の国籍を有する者が公権力行使等地方公務員に就任することが想定されているとみるべきであり,我が国以外の国家に帰属し,その国家との間でその国民としての権利義務を有する外国人が公権力行使等地方公務員に就任することは,本来我が国の法体系の想定するところではないものというべきである。

 そして,普通地方公共団体が,公務員制度を構築するに当たって,公権力行使等地方公務員の職とこれに昇任するのに必要な職務経験を積むために経るべき職とを包含する一体的な管理職の任用制度を構築して人事の適正な運用を図ることも,その判断により行うことができるものというべきである。そうすると,【要旨1】普通地方公共団体が上記のような管理職の任用制度を構築した上で,日本国民である職員に限って管理職に昇任することができることとする措置を執ることは,合理的な理由に基づいて日本国民である職員と在留外国人である職員とを区別するものであり,上記の措置は,労働基準法3条にも,憲法14条1項にも違反するものではないと解するのが相当である。そして,この理は,前記の特別永住者についても異なるものではない。

「普通地方公共団体の重要な施策に関する決定を行い,又はこれらに参画する」ような立場に外国人を置かないという措置を執ることは合理的であり違憲ではないと判示。

判示中、「国民主権」原理が強調されているが、国家主権の話でもあるという補足意見は重要。公務員に外国人を登用するかは当該自治体の人事政策として一定の裁量があるが、例えば副知事(特別職地方公務員)は地方自治法の文言上、国籍の制限が無く、知事が議会の同意を経て選任されるとだけ書かれている。しかし、知事の代理をする者である(知事は公選者)から「当然の法理」によって就任は否定される。

したがって、「憲法上許されない外国人の公務員への登用」は存在する。

※「公務員に関する当然の法理」(参照,昭和48年5月28日自治公一第28号大阪府総務部長宛公務員第一課長回答)参考:https://www.city.ikoma.lg.jp/cmsfiles/contents/0000000/526/1803.pdf

住民投票の対象事案が「普通地方公共団体の重要な施策に参画」するものだったら?

さて、住民投票の対象事案が「普通地方公共団体の重要な施策に参画」するものだった場合、憲法上許されない外国人の公務員の登用と類似の状況が生じると言い得る。

たとえばゴミ出しのルールとかだったら公権力行使「等」ではないと思われるから、その住民投票に外国人が参加しても違憲ではないだろう。

他方で、先述のように地方議員に関する外国人の選挙権を認めない判例があるが、議員が一人で公権力の行使を行うというのは稀であり、議会の議決における投票のような「参画」も許されていないということ。これは住民投票において外国人が参加することと似ている。

確かに、武蔵野市が一般の外国人も参加できるようにと検討してる住民投票は法的拘束力が無い。しかし、その結果を受けて(尊重して)為される諸政策は、公権力の行使等になり得る(何度も言うように住民投票の対象となる事案次第の不確定事項だが)。

つまり、実際上の可能性はともかく抽象的には法的拘束力の無い住民投票によって事実上の拘束力を働かせ、行政を左右することが可能になるということ。

だからこそ衆院法制局も「何を対象にするのか、結果の拘束力がどの程度あるのかなど、前提となる要素が整えば選挙権に匹敵し得るだろう」と言っている。これは私もまったく同意見。

武蔵野市の条例案など、外国人にも住民投票権を認めている所は「常設型」であるからこの時点で違憲であるとする判断は難しいがゆえに危険であると思います。

武蔵野市は「国の投票制度で想定されていない部分を本市の自治のルールの中で補完するという意味合いを持つものと考えます」とする結論を出していますが、常に悪用の可能性を検討する必要はあると思われます。

日本人と同じ三か月の居住要件で外国人に住民投票権を付与する事の是非

「日本人と同じ三か月居住要件で外国人に住民投票権を付与する事」も論点の一つ。

内外無差別の制度を設けてしまうと集中的に移住して簡単に乗っ取りが可能になってしまう。「東京都武蔵野市」という比較的大きな自治体だから問題にならないのだろうが、数千人規模の自治体になれば簡単に「住民意思」を創出可能になるだろう。

「永住」が前提の日本国民と、そうではない外国人を同一視する制度は、果たして法体系上、是認されるのか、という疑問は正当だと思います。

地方自治法の条例制定改廃請求権が日本国民に限定されていることについて

なお、ちょっとだけ誤解が生じそうな点について捕捉。

地方自治法

第十二条 日本国民たる普通地方公共団体の住民は、この法律の定めるところにより、その属する普通地方公共団体の条例(地方税の賦課徴収並びに分担金、使用料及び手数料の徴収に関するものを除く。)の制定又は改廃を請求する権利を有する。

「日本国民たる普通地方公共団体の住民」に条例の制定改廃請求権が限定されているのが分かります。他方、今回問題なのは法的拘束力の無い住民投票条例の投票をする権利=投票権であり、法的拘束力が予定されている条例の制定改廃の請求権ではないので、この規定があるからといって否定はされません。

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