事実を整える

Nathan(ねーさん) 法的観点を含む社会問題についても、事実に基づいて整理します。

岸田総理「核共有は非核三原則の立場から認められない」

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「核共有議論」はどこに向かうのか…

岸田総理「核共有は非核三原則の立場から認められない」

首相「核共有は非核三原則の立場から認められない」 - 産経ニュース2022/2/28 12:45

岸田文雄首相は28日の参院予算委員会で、米国の核兵器を自国領土内に配備して共同運用する「核共有(ニュークリア・シェアリング)」について、「非核三原則を堅持するわが国の立場から考えて認められない」との認識を示した。

安倍晋三元総理大臣の2月27日放送「日曜報道PRIME」においてNATOの核共有に触れた上で「世界はどのように安全が守られているかという現実について議論は少なくともしておかなければならない」と発言したことに端を欲して、政界で「核共有」を考えるべきではという論調が出てきました。

※追記:安倍議員は直接に核共有の議論をすべきとは発言していなかったため修正

それを受けて、立憲民主党の田島麻衣子議員の質疑に対して、非核三原則の立場を堅持しているという防衛大臣の答弁の続いて岸田総理が以下答弁しています。

御指摘のようなニュークリア・シェアリングという課題についてですが、その中身について、平素から自国の領土に米国等の核兵器を置き、有事には自国の戦闘機等に核兵器を搭載運用可能な体制を保持することによって自国の防衛のために米国の抑止力を共有する、そういった枠組みを想定しているものであるとすれば、今、防衛大臣から申し上げた通り、非核三原則を堅持するというわが国の立場から考えて認められないという認識を示しておきたいと思います。

「ニュークリアシェアリングは原子力基本法をはじめとする法体系から認められない」

岸田首相、核共有「議論する考えない」 - 産経ニュース 2022/3/2 10:48

岸田文雄首相は2日午前の参院予算委員会で、米国の核兵器を自国領土内に配備して共同運用する「核共有(ニュークリア・シェアリング)」について「政府として議論することは考えていない」と明言した。「非核三原則を堅持する立場や、原子力の平和利用を規定している原子力基本法をはじめとする法体系からから考えて認めることは難しい」との認識を示した。

3月2日には、立憲民主党の田名部匡代議員の質疑に対して以下答弁しました。 

先日の議論は核保有というか核共有だったと思います。そして、その核共有ということについて、核共有の中身ですが、平素から自国の領土に米国の核兵器を置き、有事には自国の戦闘機等に核兵器を搭載、運用可能な体制を保持することによって、自国等の防衛のために米国の核抑止力を共有する、こういった枠組みを想定しているというのならば、これについては、非核三原則を堅持している立場から、さらに申し上げるならば、原子力の平和利用を規定している原子力基本法をはじめとする法体系から考えても、政府として認めることは難しいと考えております。

官房長官と防衛大臣も「非核三原則を堅持する考えから認められない」

令和4年3月1日(火)午後 | 令和4年 | 官房長官記者会見 | ニュース | 首相官邸ホームページ

官房長官記者会見では「我が国は非核三原則を堅持している」とだけ発言。

岸防衛大臣 米との“核共有”「非核三原則を堅持していく考えから認められない」|テレ朝news-テレビ朝日のニュースサイト魚拓

 岸防衛大臣:「自国の領土に米国の核兵器を置き、有事には自国の戦闘機等に核兵器を搭載。運用可能な体制を保持しておく。こういった枠組みを想定しているのであれば、非核三原則を堅持していくことから認められるものではないと考えております」

岸防衛大臣に対するメディアの取材でも岸田総理の答弁と同様の発言となっています。

非核三原則と原子力基本法、核拡散防止条約などとの関係

外務省: (参考)非核三原則に関する国会決議

非核三原則は「国是」として国会決議されているが、「持ち込ませず」の法的根拠や「持ち込み」の意味については実は曖昧(密約疑惑と関係)

参考:非核三原則と核密約論議 ~反核と核の傘のはざま~ 外交防衛委員会調査室 岡 留 康 文

原子力基本法

(目的)
第一条 この法律は、原子力の研究、開発及び利用(以下「原子力利用」という。)を推進することによつて、将来におけるエネルギー資源を確保し、学術の進歩と産業の振興とを図り、もつて人類社会の福祉と国民生活の水準向上とに寄与することを目的とする。
(基本方針)
第二条 原子力利用は、平和の目的に限り、安全の確保を旨として、民主的な運営の下に、自主的にこれを行うものとし、その成果を公開し、進んで国際協力に資するものとする。
2 前項の安全の確保については、確立された国際的な基準を踏まえ、国民の生命、健康及び財産の保護、環境の保全並びに我が国の安全保障に資することを目的として、行うものとする。

なお、「原子力船」についても、【核原料物質、核燃料物質及び原子炉の規制に関する法律】で原子力委員会の許可にかかるなど規制があります。

核軍縮・不拡散|外務省

191カ国が参加している核兵器の不拡散に関する条約(NPT条約=核拡散防止条約)では、非核保有国に対し、核兵器その他の核爆発装置そのものやその管理を受領しないこと、製造しないこと、製造の援助を受けないことが定められています。

NATOの核共有の内容と岸田総理が否定した核共有の中身とSSBN

「核共有」と言う場合に想定されるのは1960年辺りからNATOが実施している運用

平時においては非核保有国内にある核兵器は米軍と共同で管理され(教育・訓練も受ける)、有事にあっては参加国の軍用機に搭載されるが核兵器自体の管理・監督は米軍にあり、敵国領土への使用の場合の最終判断権は米国にある、というものです。

基本的に自国領土内に侵入してきた外国勢力等に対して使用する戦術核兵器であり、いわゆる「敵基地攻撃能力」のような発想ではありません。

NATO 核共有制度の多角化に向けた取り組み ―アイゼンハワー政権における NATO・MRBM 戦力案の形成過程―新垣 拓(防衛研究所地域研究部)

核兵器シェアリングへの誤解と幻想(JSF) - 個人 - Yahoo!ニュース

「核コントロール」までアメリカが握っているのはアメリカへの使用を避けるためということもあるが、NPT条約との抵触を避けるためという側面もあり、アメリカは戦時にはNPT条約の規制は及ばないからNPTに違反はしないという理屈を採っています。

岸田総理が「核共有の内容」を明示した上で否定しているのは、少なくともこうしたNATO方式の核共有はあり得ないということと言えます。

専門家においては軍事的な意味も無いという指摘が圧倒的です。中でも日本国内に核兵器貯蔵施設を設けたとして、それが攻撃対象となった場合の損害が大きすぎるという指摘が重要でしょう。

村野将 氏は核エスカレーションのコントロールを想定し、関係国との協議メカニズムの整理や通常戦力や電磁波領域、サイバー攻撃も含む抑止力を議論すべきとしています。

さらに、3月2日には岸田総理は原子力基本法の観点からも上掲のような核共有は認められないとしました。

となると、攻撃対象となる可能性を限りなく低くするために原子力潜水艦に戦略・戦術核兵器を積んだSSBN/SSGNの共同運用があり得ると仮定しても、原子力基本法では「民主的な運営の下に自主的にこれを行うもの」とあるため、米軍のコントロール下に置くことは違法ではないか、と言っていることになるのかもしれません。
※米軍の核弾頭付きSSGNは退役済み

仮にそれが適法だとしても(法改正/特別立法で適法化しても)NPT条約との抵触を避けるために米軍人が乗り合わせる必要があるため意思決定上の意味が無いのではないか。

それに、相互確証破壊の成立要件を充足させるには1発だけでは意味が無い。

そして、日本はアメリカと同盟国で、その「核の傘」に既に入っており、アメリカがSSBNを持っており、核抑止力が働いている。その状況でわざわざ日本に「共有」させるメリットはアメリカには無いのではないか?という指摘も多い。

要するに合理的に考えた結果、現在の非核三原則の状況で適していると判断されているのだろうということ。

ただ、今のアメリカの「軟弱化」(軍人募集CMにLGBT親を持つ子の自己実現というテーマを用いたりしてる)の度合いだと、敵国相手だとしても核兵器使用の罪の意識を和らげるために日本との共有という形を取るという政治的な思惑が働く可能性は無いのだろうかとは思う。そうなった場合に日本はどうするかは考えておかないといけない…という議論は、到底あり得ない想定として唾棄されるのだろうか?

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