事実を整える

Nathan(ねーさん) 法的観点を含む社会問題についても、事実に基づいて整理します。リンク切れに備えて魚拓を活用しています。

外国人の入社・募集・採用の拒否は違法なのか?

外国人の入社拒否は適法か

外国人の入社・募集・採用の拒否は違法なのでしょうか?

結論から言うと、すべてが違法になることはなく、むしろ法的原則は適法でしょう。

求人者・雇用主たる事業主に対する外国人労働者に関する厚労省の啓発

外国人の雇用拒否・募集拒否・採用拒否

厚労省啓発パンフレット

「求人の募集の際に、外国人のみを対象とすることや、外国人が応募できないという求人を出すことはできません。」

このような強い表現ですが、このパンフレットが根拠であるとしているのは厚労省の「指針」です。これを見ると実態は異なります。

外国人労働者の雇用対策についての厚生労働省の指針

外国人労働者の雇用管理の改善等に関して事業主が適切に対処するための指針」という告示があります。

厚労省の外国人労働者の雇用に関するQ&Aなどは、この指針に基づいています。

しかし、実は指針の中身を見ていくと、上記の厚労省の説明とは齟齬があります。

以下のページに改正内容も含めて掲載されています。

外国人雇用対策 Employment Policy for Foreign Workers |厚生労働省

外国人労働者の雇用管理の改善等に関して事業主が適切に対処するための指針
(平成十九年告示第二百七十六号)

入社拒否、採用拒否の禁止は職業紹介事業者に求人申し込みした場合に限定

外国人の雇用拒否・募集拒否・採用拒否

外国人労働者の雇用管理の改善等に関して事業主が適切に対処するための指針

厚労省の「指針」の『第四の一の1「募集」』の項の『ロ 「職業紹介事業者等の利用」』を見てみると、職業紹介事業者等が職業紹介を行うにあたっての国籍を理由とした差別的取り扱いは職業安定法上禁止されているとされています。

職業安定法(均等待遇)
第三条 何人も、人種、国籍、信条、性別、社会的身分、門地、従前の職業、労働組合の組合員であること等を理由として、職業紹介、職業指導等について、差別的取扱を受けることがない。但し、労働組合法の規定によつて、雇用主と労働組合との間に締結された労働協約に別段の定のある場合は、この限りでない。

事業主については「十分留意すること」という表現にとどまっています。

これは当然で、職業紹介者に国籍の有無で区別はつけるなと言ってるのに、職業紹介業者を利用している採用企業が、隠れた基準として国籍の有無を設けているという事があったなら、それは公平ではないからです。

しかし、自らが雇い入れを行う場合に関する規定ではないのです。

これは、この指針の根拠法令を見ると更に明確になります。

雇用対策法7条の事項は募集段階ではなく雇用者の規定

指針 第一 趣旨
この指針は、労働施策の総合的な推進並びに労働者の雇用の安定及び職業生活の充実等に関する法律(昭和四十一年法律第百三十二号)第七条に定める事項に関し、事業主が適切に対処することができるよう、事業主が講ずべき必要な措置について定めたものである。

「指針」の1条には、この指針は、いわゆる「雇用対策法」の第7条の事項について定めたものであると宣言されています。

労働施策の総合的な推進並びに労働者の雇用の安定及び職業生活の充実等に関する法律(雇用対策法)

第七条 事業主は、外国人(日本の国籍を有しない者をいい、厚生労働省令で定める者を除く。以下同じ。)が我が国の雇用慣行に関する知識及び求職活動に必要な雇用に関する情報を十分に有していないこと等にかんがみ、その雇用する外国人がその有する能力を有効に発揮できるよう、職業に適応することを容易にするための措置の実施その他の雇用管理の改善に努めるとともに、その雇用する外国人が解雇(自己の責めに帰すべき理由によるものを除く。)その他の厚生労働省令で定める理由により離職する場合において、当該外国人が再就職を希望するときは、求人の開拓その他当該外国人の再就職の援助に関し必要な措置を講ずるように努めなければならない。

雇用対策法7条では、「その雇用する外国人が」と書かれている通り、既に外国人を雇用している場合における待遇について書いてあるのです。

よって、「募集段階」においては明示的に規定していないのです。

指針が「十分留意すること」という表現にとどまっているのも、国籍を理由にする雇い入れの拒否を違法とするための法令上の根拠が無いからです。

それは当然です。

私人たる事業者・会社には、憲法上の権利として結社の自由や経済活動の自由、財産権が保障されているからです。

憲法22条の経済活動の自由等に基づく契約締結の自由

憲法22条の経済活動の自由等に基づき、採用を拒否した事例があります。

募集段階と雇い入れた後の段階は別

三菱樹脂事件最高裁判決

 (三) ところで、憲法は、思想、信条の自由や法の下の平等を保障すると同時に、他方、二二条、二九条等において、財産権の行使、営業その他広く経済活動の自由をも基本的人権として保障している。それゆえ、企業者は、かような経済活動の一環としてする契約締結の自由を有し、自己の営業のために労働者を雇傭するにあたり、いかなる者を雇い入れるか、いかなる条件でこれを雇うかについて、法律その他による特別の制限がない限り、原則として自由にこれを決定することができるのであつて、企業者が特定の思想、信条を有する者をそのゆえをもつて雇い入れることを拒んでも、それを当然に違法とすることはできないのである。

面接時に秘匿していた思想信条が試用期間にバレて入社拒否したことが問題になった事案ですが「募集段階」と「雇い入れた後の段階」とを分けて論述を展開しています。

「いかなる者を雇い入れるかについては契約締結の自由により原則自由に決定できる」

憲法22条の経済活動の自由や憲法29条の財産権に基づき、このように解されているのです。また、何らかの法律等によっておよそ一般に「外国人の就労を拒否してはならない」とされていることはありません。

企業における雇用関係の本質論

三菱樹脂事件最高裁判決

また、企業者において、その雇傭する労働者が当該企業の中でその円滑な運営の妨げとなるような行動、態度に出るおそれのある者でないかどうかに大きな関心を抱き、そのために採否決定に先立つてその者の性向、思想等の調査を行なうことは、企業における雇傭関係が、単なる物理的労働力の提供の関係を超えて、一種の継続的な人間関係として相互信頼を要請するところが少なくなく、わが国におけるようにいわゆる終身雇傭制が行なわれている社会では一層そうであることにかんがみるときは、企業活動としての合理性を欠くものということはできない。

サービス提供の場合とは異なり、企業においてある人間を入社させるか否かは、相互信頼を基本とする継続的な人間関係を構築するか否かの話であると言う雇用関係の本質論が重要です。

そこに国家権力が介入して強制的に現実を変更したとして、果たしてその企業・団体は存続するでしょうか?それは紛争解決になるのでしょうか?

採用に当たって外国人であっても日本人と異ならない扱いをするべきだという強い必要性が無い限り、国籍を理由にした入社拒否はできるのが原則であるということになるハズです。

憲法21条の結社の自由による募集拒否

また、国籍を理由にした募集の拒否ができるというのは、憲法21条1項の結社の自由によっても裏付けされていると言えます。

特別永住外国人の入会拒否が適法になった事例

たとえば、株主会員制を採っているゴルフクラブにおいて特別永住外国人の入会拒否をした事案である東京地裁平成13年5月31日判決平成7年(ワ)19336号、は、憲法21条の結社の自由を根拠の一つとして外国人の入会拒否をしていることは違法ではないとしました(三菱樹脂事件最高裁判例も引用)。

同じく株主会員制の事案である平成8年(ワ)6833号や東京高裁平成14年1月23日判決平成13年(ネ)3550号は三菱事件最高裁判例のみ引用して私的自治から論じている。

株主会員制:ゴルフ場の経営を目的とする会社の株主となることでその事業に出資をさせ、会社の経営に参加させるのと併せてゴルフクラブを組織した上で株主を同時に会員としてプレーさせる形態

そこではゴルフクラブの娯楽サービスを提供する機能よりも、株主会員制という団体の性質の側面を重視しています。

東京地裁平成13年5月31日判決平成7年(ワ)19336号、平成8年(ワ)6833号

ゴルフは趣味的に行われるスポーツの一種であって、これを楽しむ機会が失われたとしても直ちに衣食住のような生活の基盤が損なわれたり、健康で文化的といえる最低限度の生活が困難となったりするような性質のものではない。

中略

原告は、被告クラブにおける外国人に対する入会制限を違法とする理由として、ゴルフ場等に係る会員契約の適正化に関する法律によってゴルフ会員権募集等に公的規制がされてることをあげているが、同法は誰をゴルフクラブの会員として入会させるかについてのゴルフクラブの判断を規制するものではない

ゴルフクラブの「公的規制」においても、入会者の待遇において差別をするなという意味であって、誰を入会させるかについての規制ではないということで、三菱樹脂事件の判示と同じく、入会前の段階と入会後の段階とで扱いを異にしています。

国籍の違いによる差異は前提

上掲の裁判例においては国籍の違いによる種々の差異についても考察されています。

東京地裁平成13年5月31日判決平成7年(ワ)19336号、平成8年(ワ)6833号

主権国家が併存している現在の国際社会においては、「国民」と「外国人=国民でない者」とを国籍によって区別することを所与の前提の一つとしながら、国家の安全と国民生活の安定を図りつつ、主権を持った各国が他国と交際し、友好関係を維持・発展させるという国家間の外交や、国民相互の人的な国際交流、国際経済活動などを辻て国家と国際社会の発展を期している。各国は、自国民に対し対人主権を有するとともに、他国に対しては自国民について外交的保護権を国際法上認められており、個別の条約による自国民の扱いについて特別な合意をする場合もある。その他、国籍は国際法上及び国内法上、種々の法律関係(権利・義務の享有・負担)の基準となるものである。したがって、ある自然人と別の自然人の帰属する国家が異なる場合、全面的に同一の法秩序に服し、同一の法主体・法客体になるものではなく、国籍を異にする自然人同士がときに利害の複雑に絡み合った、相対立する立場を有する場合もあり得ることは否定できない。個人の私的生活の場面でみても、人は国籍によって帰属する国の歴史・政治・経済・文化・社会・宗教・民族等に関する理解や考え方、利害状況等と全く無縁であるとはいえず、実際的にみても、生活様式、行動様式、風俗習慣、思考方法などに関し、外国人は、しばしば日本人と異なる個性が認められることも否定できないところである。このような個性や差異は…中略…いわゆる在日韓国人であるからといって、それ故に当然に当てはまらないというものではない。

国籍が違えば全面的に同一の法秩序に服し、同一の法主体・法客体になるものではない」という指摘は鋭い視点でしょう。

たとえばチャイナは「国防動員法」という法律があり、有事の際には国民はこの法律に従う義務があり、海外居住者にも適用されるとされています。この場合に共産党中央政府からの命令で何をするよう言われるか。場合によってはわが国の法秩序と相反する事態になりかねませんから、チャイニーズがそのような法客体であるという事情から何らかの別異取り扱いをすることが直ちに違法になると考えるのはおかしいでしょう。

特別永住外国人の入会拒否が違法になった事例

注意点ですが、株主会員制ではないゴルフクラブにおいては、外国人の入会拒否が違法になった事例があります。

東京地裁平成7年3月23日判決平成4年(ワ)21675号

しかし、他方、今日ゴルフが特定の愛好家の間でのみ嗜まれる特殊な遊技であることを離れ、多くの国民が愛好する一般的なレジャーの一つとなっていることを背景として、会員権が市場に流通し、会員募集等にも公的規制がなされていることなどからみれば、ゴルフクラブは、一定の社会性をもった団体であることもまた否定できない。

このように「ゴルフクラブの社会性」を観念して、入会については完全な自由裁量ではないとした上で、当該事案においては入会拒否を違法としました。

私は、ゴルフクラブに「社会性」があり、完全な自由裁量ではないということはその通りだとは思いますが、そこから直ちに入会拒否が違法になるとするのは根拠が弱過ぎると思います。

しかも「会員募集等にも公的規制がなされている」という部分は東京地裁平成13年判決では「誰を入会させるかについて」のものではないとされたのですから、当該公的規制の対象が、平成13年と平成7年とで異なっていたり、その後規制が変更されたりしたのでなければ、平成7年の東京地裁判決では判断に誤りがあったということになると言えるでしょう。

まとめ:外国人の入社・募集・採用の拒否は原則適法だが、違法となる場合も

まとめると、外国人の入社・募集・採用の拒否は原則適法だが、違法となる場合もあると言えるでしょう。

厚労省が決して「違法である」という書きぶりをしていないのも、そのような背景があり、しかし表立って「OK」と言うことは憚られるからだと思います。

以上