事実を整える

Nathan(ねーさん) 法的観点を含む社会問題についても、事実に基づいて整理します。

はあちゅう伊藤春香、Twitterなりすましが認定され敗訴:事実的法律的根拠を欠く不当訴訟、アイデンティティ権の侵害は?

不当訴訟の不法行為

はあちゅう伊藤春香、Twitterなりすましが認定され敗訴

「はあちゅう」こと、本名:伊藤春香が、Twitterアカウントのなりすましをしていたとして訴訟提起されていた事案でなりすましが認定され敗訴しました。

ねこピ氏の以下のツイートが前訴で対象となった事案です。

本件については以下でまとめられています。

訴訟提起自体が事実的法律的根拠を欠く違法訴訟

本件は、はあちゅうによる前訴名誉毀損訴訟の提起が事実的、法律的根拠を欠く違法な訴訟提起であったと認定されたという重大な事件です。

なりすましをしているのは事実なのに、なりすましだと指摘したツイートが違法だとして訴えたのですから。

が、本件では精神的損害が5万円、不当訴訟提起による損害が5万円の合計10万円のみが損害額として認められたに過ぎず、事案として公平性が欠ける判断だという印象です。

不当訴訟と「アイデンティティ権の侵害」で損害額はもっと大きいはず

原告のねこぴ氏の主張を判決文から読み取れる範囲で見ると、肖像権・プライバシー・名誉権侵害を主張しています。

が、明示的には「アイデンティティ権の侵害」を主張していないようです。

「アイデンティティ権の侵害」は、他者との関係において人格的同一性を保持する利益の侵害のことであり、地裁でその存在を認めた例があります。

参考:アイデンティティ権とは 【ネット誹謗中傷用語集】意味・解説 | 弁護士法人アークレスト法律事務所

人格的利益侵害の一つとして名誉権等があるのであり、それ以外の人格的利益の侵害というのはあり得るでしょう。

特に本件では、なりすまし行為それ自体が問題になっているのであり、上掲の権利等の侵害では捉えきれない人格的利益の侵害があったと見るべきだろうと思われます。

これでは、なりすまし行為が無い通常の名誉権侵害等の事案と変わりない事案処理となっており、違和感が残ります。

本件の地裁判決の論理では、たとえば、何ら肖像権侵害やプライバシー侵害が無い場合(アイコン画像の設定が無いケース、プライバシー事項は掲載していないケース)や、投稿内容が「お上品で」社会的評価の低下が伴わない場合には、なりすましをしても損害がゼロ、ということになります。

が、【自分ではない者が自身の肩書を使って自分の意思にはない行動をされ既成事実が積み重ねられる】という事それ自体の精神的苦痛は非常に大きいと言えるでしょう。

次に、不当訴訟の損害認定が当該前訴の請求額の10%とされていますが、これでは不当訴訟によって生じた損害の填補にはなり得ません。

「不当訴訟を提起した者は10分の1のカウンターしか食らわない」というのでは、まったく抑止力になりません。

これは立法論になるのかもしれませんが、不当訴訟は裁判所を騙す行為でもあるのだから、訴訟経済毀損という側面があるため、懲罰的損害賠償の考え方を採り入れても良いのではないかと思います。

  • その考えを採り入れることは不要で損害を高く認定
  • 考えを採り入れて損害を高く認定
  • 採り入れるには法改正が必要

どれでもいいですが、これでは第二のはあちゅうを防げないでしょう。

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