なぜなのか
- 石田英敬「萱野教授は広義の研究倫理違反、大学の研究倫理委員会が審理せよ」
- 池内恵教授の指摘により学外での(政治的)発言を倫理委員会で審査する提言を撤回
- 自分らへ矛先が向く可能性はまったく考慮していない謎:権力は自分の側にあると思っている?
- 石田英敬・東大名誉教授の論では特定個人を非難するオープンレターは手続違反になるが?
- 「研究倫理」とは別個の就業規則等による懲戒処分
石田英敬「萱野教授は広義の研究倫理違反、大学の研究倫理委員会が審理せよ」
石田英敬 https://archive.fo/tdDX5 12:55 AM · Feb 6, 2022(GMT)
本件のように社会に対する啓蒙的活動においても、不正確な知識を人びとに意図的に喧伝したのではないかと疑われるケースについては、大学は自らの自律性を発揮して高い倫理性を担保する必要があるのではなかろうか。
各大学には研究倫理に関わる委員会が存在しているはずだ。
萱野稔人・津田塾大学教授が菅直人議員による「ヒトラー発言」について、2022年1月27日のフジテレビ「Live News α」に出演した際に「フランスやドイツはヘイトスピーチを法律で禁じており、菅直人氏の発言は処罰の対象となる可能性が非常に高い」と評したことについて。
石田英敬・東大名誉教授は、大要、「萱野教授は広義の研究倫理違反、各大学の研究倫理の委員会が審理せよ」という旨の連続ツイートをしました。
池内恵教授の指摘により学外での(政治的)発言を倫理委員会で審査する提言を撤回
こういうことをすでに退職して自分に影響がない名誉教授が公言すると、現役世代に重大な影響が出てるので、撤回してください。研究者の政治的発言を封殺する重大な制度改変を主張していることを自覚してください。学外での政治的発言を倫理委員会で審査する提言について明確に撤回を表明してください。 https://t.co/NZ825hyw97
— Satoshi Ikeuchi 池内恵 (@chutoislam) 2022年2月7日
昨発出の萱野稔人氏に関する私見を述べたツイート、池内恵先生より「退職して自分に影響がない名誉教授が公言すると、現役世代に重大な影響が出てるので、撤回してください。」との申し出を受けました。現役の方への影響を考えずに私見を述べたことを反省し、ここに明確に撤回を表明いたします。
— 石田英敬 (@nulptyx) 2022年2月7日
現役の皆様のご検討に委ねたいと思います。つきましては当該の一連ツイートを削除いたします。
— 石田英敬 (@nulptyx) 2022年2月7日
多数の批判が出た中で、池内恵教授の指摘により学外での政治的発言を倫理委員会で審査する提言を撤回しました。
とはいえ、「退職して自分に影響がない名誉教授が公言すると現役世代に重大な影響が出るため」という理由でのツイート削除ですので、その論自体を自身の中で取り下げたということではないようですから、なおその言説に批評を加えることは有効でしょう。
自分らへ矛先が向く可能性はまったく考慮していない謎:権力は自分の側にあると思っている?
石田教授は学問的な内容についての正誤をベースに大学側が審理するべき、という主張でしたが、研究倫理違反の審理のスキームは既に各大学が詳細に設定しています。
しかし、「広義の倫理違反」となれば、それは当該発言をした教授の専門分野とは無関係の一般的な発言にも及びうることになり得る。
すると、たとえば以下のようなツイートですらいちいち「研究倫理の」審理対象になります(後述するように立場によっては大学の名誉を毀損したなどの就業規則違反の話にはなり得るが)。
イシハラなんかいくら死んでもいいけど、モニカには死んでほしくなかった! www
— 石田英敬 (@nulptyx) 2022年2月2日
Monica Vitti, ‘Queen of Italian Cinema,’ Dies at 90 https://t.co/UpOa5aZAfF
どうして「自分たちにはその矛先が向かわないだろう」という自身があるんでしょう?
石田氏の論は、自分らが権力の側にあるから、自分に近しい意見の者らは皆同じ意見だから大丈夫だ、という感覚があるような気がしてならない。
実際、そうした大学界隈の空気が、オープンレター界隈からは滲み出ていました。
石田英敬・東大名誉教授の論では特定個人を非難するオープンレターは手続違反になるが?
ところで、ほぼ固有名詞の「オープンレター」以前に、こういうオープンレターが2019年5月に提示されました。東京大学に所属する教員と過去に在籍した或いは卒業生で他の大学で教員を務めている者らに限定した呼びかけ人と署名者で構成されています(ほぼ固有名詞の「オープンレター」の呼びかけ人となった者も複数署名している)。
こちらは「距離を取る」まで求めていないソフトなものですが、具体的な名前と言説を挙げて多人数で非難するという性質は同じです。
東京大学大学院人文社会研究科の三浦俊彦教授からは以下の返答があり、言葉遣いは一部悪かったために反省するが、基本的な主張は一切変えない、という結論で終わっています。
もしも、石田名誉教授の言うように「(学外での言説において)広義の研究倫理違反があったのだから各大学の研究倫理の委員会が審理せよ」という論が実現するならば、このような特定個人を非難するオープンレターという手法は手続違反になり得ます。
倫理委員会の委員が所属していないとしても、学内の手続をすっとばして学内の多人数が先に評価を下していることは、学内手続に予断と圧力を与え、適正な手続が行われているものなのかについて疑義が生じるものでしょう。
また、事後的に行われるとしても、それは倫理委員会の審理結果に対する非正規な形での不服申立の意味を帯びてきますから、やはり問題でしょう。
石田教授の提唱する制度が無くとも、そもそも「特定個人を非難するオープンレター」という形態は、やはり不適切ではないでしょうか。
「研究倫理」とは別個の就業規則等による懲戒処分
なお、「研究倫理」とは別個の就業規則等の違反によるダイレクトな懲戒処分(研究倫理違反の場合も最終的にはこれに当たる可能性もある)が行われた例としては東京大学で寄附講座を担当していた非常勤の大澤昇平氏がTwitter上のツイートを理由に懲戒解雇となったことなどが挙げられます。
例えば東京大学教職員就業規則(常勤対象)では
- 大学法人の名誉又は信用を著しく傷つけた場合
- 素行不良で大学法人の秩序又は風紀を乱した場合
これらの場合に懲戒処分となりますが、この際に考慮されるのは研究上の言動に限ったものではありません。
大澤氏は中国人に対する言動で懲戒免職となりましたが、東京大学の教員で、ある属性に対する差別的と思われる発言が為されても何らかの処分を受けた・或いは審理された、という話を聞かないのは、いったいなぜでしょうか?
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