事実を整える

Nathan(ねーさん) 法的観点を含む社会問題についても、事実に基づいて整理します。

志村けんの24時間以内の火葬は違法ではない:新型コロナウイルスの感染症法と墓地埋葬法

f:id:Nathannate:20200402170008j:plain

05villageさんによる写真ACからの写真

SNSでは新型コロナウイルスに関連して「24時間以内に火葬することは違法」などと言ってる人が居ますが、これは明確に誤りです。

墓地埋葬法は24時間以内の埋葬・火葬を禁止

昭和二十三年法律第四十八号
墓地、埋葬等に関する法律

第二章 埋葬、火葬及び改葬
第三条 埋葬又は火葬は、他の法令に別段の定があるものを除く外死亡又は死産後二十四時間を経過した後でなければ、これを行つてはならない。但し、妊娠七箇月に満たない死産のときは、この限りでない。

墓地埋葬法=墓地、埋葬等に関する法律では、「死亡又は死産後二十四時間を経過した後でなければ、これを行つてはならない」と書いてあります。

これは本当は死んでいないのに、或いは蘇生したのに人為によって死亡させることが無いように万全の配慮を行うべきことから、医師が死亡診断書又は死体検案書に記載した時刻から24時間以内に埋葬・火葬をすることを禁止する規定です。

「志村けんの24時間以内の火葬は違法」と言ってる人はこれを根拠にしています。

しかし、他の法令に別段の定があるものを除く外という規定文言を無視しています。

志村けんの御遺体に感染症法が適用:24時間以内の埋葬・火葬

感染症の予防及び感染症の患者に対する医療に関する法律 (平成十年法律第百十四号)

(死体の移動制限等)
第三十条 都道府県知事は、一類感染症、二類感染症、三類感染症又は新型インフルエンザ等感染症の発生を予防し、又はそのまん延を防止するため必要があると認めるときは、当該感染症の病原体に汚染され、又は汚染された疑いがある死体の移動を制限し、又は禁止することができる。
2 一類感染症、二類感染症、三類感染症又は新型インフルエンザ等感染症の病原体に汚染され、又は汚染された疑いがある死体は、火葬しなければならない。ただし、十分な消毒を行い、都道府県知事の許可を受けたときは、埋葬することができる。
3 一類感染症、二類感染症、三類感染症又は新型インフルエンザ等感染症の病原体に汚染され、又は汚染された疑いがある死体は、二十四時間以内に火葬し、又は埋葬することができる

感染症法では、感染症のまん延を防止する観点からは不都合な点があるために24時間以内の火葬・埋葬が認められています。

この法律は対象が「一類感染症、二類感染症、三類感染症又は新型インフルエンザ等感染症」となっていますが、新型コロナウイルス感染症は1月28日に政令に指定感染症に指定され、政令によって30条の規定が準用されるようになったので、30条3項が適用されるということになります。

なお、同様の趣旨として船員法15条に水葬の規定があります。

新型インフルエンザ等としての新型コロナウイルス患者の御遺体に対する厚生労働省の見解

新型コロナウイルスに関するQ&A(関連業種の方向け)|厚生労働省4月2日時点魚拓

3 遺体等を取り扱う方へ
問1 新型コロナウイルスにより亡くなられた方の遺体は、24時間以内に火葬しなければならないのですか。
新型コロナウイルスにより亡くなられた方の遺体は、24時間以内に火葬することができるとされており、必須ではありません(感染症の予防及び感染症の患者に対する医療に関する法律第30条第3項、新型コロナウイルス感染症を指定感染症として定める等の政令第3条)。感染拡大防止対策上の支障等がない場合には、通常の葬儀の実施など、できる限り遺族の意向等を尊重した取扱をする必要があります。

「新型インフルエンザ等(新型コロナウイルスもこれに含まれるようになった)」の対策としての御遺体の扱いも規定されているようです。

「24時間以内の火葬は必須ではない」とありますが、これは法律上の話であることは記述の通りです。

参考:新型インフルエンザ等対策ガイドライン平成25年6月26日(平成30年6月21日一部改定) Ⅹ 埋火葬の円滑な実施に関するガイドライン

火葬に先立ち、遺族等が遺体に直接触れることを希望する場合には、遺族等は手袋等を着用させる。

「遺族等が御遺体に直接触れることを希望する場合には、手袋等を着用させる」

この規定ぶりだと、原則として対面できるような規定となっています。

この規定が新型コロナウイルス対策のページに記載されているということは、こちらの運用の方が適用されると考えられますから、地方公共団体や保健所等の関係機関はこちらのガイドラインを見ていただきたいと思います。

ただ、都道府県ごとにも対策が策定されているので、そちらとの関係で現場の運用は多少の差異が出てくる所があろうと思われます。

厚生労働省の一類感染症で死亡した患者の御遺体の火葬の取扱いに関する通知

○一類感染症により死亡した患者の御遺体の火葬の取扱いについて(通知)〔墓地、埋葬等に関する法律〕(平成27年9月24日)(/健感発0924第1号/健衛発0924第1号/)

第2 感染症指定医療機関において一類感染症患者が死亡した場合の対応

1 対応の原則

(1) 感染症の予防及び感染症の患者に対する医療に関する法律(平成10年法律第114号。以下「感染症法」という。)第30条第2項の規定に基づき、一類感染症により死亡した患者の御遺体は、火葬しなければならないものとする。また、同条第3項の規定に基づき、御遺体は24時間以内に火葬するものとする。

実は厚労省の通知にはもう一つ、一類感染症患者の御遺体に関するものがあります。

こちらについては24時間以内に火葬することが義務化される運用になっています。

これは法律ではないのですが、24時間以内に火葬することができると法律で書いてある枠内での運用ですのでそれ自体に違法性はありません(これに違憲訴訟をする人は出てこないであろう)。

そして、ご遺族への対応も以下のようになっています。

3 御遺族への対応

保健所は、御遺体からの感染を防ぐため、御遺族に次の事項を説明して理解を求めるものとする。

(1) 感染症法第30条第1項の規定に基づき、御遺体の火葬場以外の場所への移動を制限すること。

(2) 御遺体に触れることのないようにすること。

(3) 御遺体の搬送や火葬場における火葬に際しては、非透過性納体袋に収容・密封し、棺に納めるとともに、そのままの状態で火葬しなければならないこと。

なお、御遺族が非透過性納体袋に収容・密封されていない状態の御遺体に直接対面することを要望され、これを認める場合には、感染症指定医療機関の病室内において対面させること。この場合においても、御遺族が御遺体に触れることのないように注意すること。

このような書きぶりだとそれは例外的な扱いであることが読み取れます。

ただ、新型コロナウイルスの場合には新型インフルエンザ等の対策の方が適用されるため、この記述は関係ないということになります。参考程度に掲載しています。

まとめ:志村けんの24時間以内の火葬自体は違法ではない

志村けんの24時間以内の火葬自体は違法ではないです。

ただ、御遺体との対面については様々な場合がありえ、葬儀業者も対面をしない方が良いと説得する場合がありますし、志村けん氏の場合において現場でどういうやり取りが行われたのかを知る由もないため、ここで何かを言うことはありません。

参考:東日本大震災「葬送の記」鎮魂と追悼の誠を御霊に捧ぐ【電子書籍】[ 菅原裕典 ]

どうしても対面を希望、という場合には上記の新型インフルエンザ等の厚労省ガイドラインを根拠にすれば良いと思いますが、それでもどのような場合に認められるかはわかりません。対面が認められなかった具体的な場合に被った精神的苦痛が法的に認容されるのかは別問題です。

より詳しい現場の実態はこの動画が参考になります。

以上