表現の不自由展再開に対して名古屋市の河村市長が座り込み抗議をしていた件で、大村知事による条例違反の指摘がありましたが、河村市長が反論しました。
ここでも条文と事実関係を詳しく検討していきます。
- 大村知事の河村市長に対する公開質問状
- 河村市長の反論
- 愛知芸術文化センター条例、管理規則、栄施設管理規程の解釈
- 結論:河村市長は「センターの利用者」ではない余地がある
- 他の条例違反の検討
- まとめ:河村たかし名古屋市長は条例には違反しない可能性がある
大村知事の河村市長に対する公開質問状
大村知事の河村市長に対する公開質問状では、河村市長がプラカードを持って2Fペデストリアンデッキで座り込みをした行為は、条例等に違反すると書かれています。
愛知芸術文化センター条例等に違反
指摘されている条例等の違反は、文章でまとめると以下の通りです。
【愛知芸術文化センター条例】9条の「利用者の義務」規定に基づき、【愛知芸術文化センター管理規則】39条では、規則に定める他はセンター長が定めることになっている。センター長が定めるルールは【愛知芸術文化センター栄施設管理規程】にあるが、河村市長は6条の「指定の場所以外においてポスター、看板、旗、けん垂幕その他これに類するものを掲示、貼付等の方法により、公衆の目にふれる状態に置く」際の許可を取得していないこと、及び禁止事項に反する。
2Fペデストリアンデッキ部分は愛知県の敷地内
2Fペデストリアンデッキ部分は愛知芸術文化センター2階入り口につながる部分であり、愛知県の敷地内であるということです。
これを前提として、河村市長がツイッター上で反論しました。
河村市長の反論
河村市長はツイッターで端的に反論を書いています。
自分は「利用者」ではなく「センター」は屋内を意味する
自力入力。県からの質問状で指摘されている内容について。愛知芸術文化センター条例第9条では、義務の対象者を「センターの利用者は」と限定している。当該場所においては利用者以外も通行する開かれた場所であり、私はじめ街頭活動を行っていた者は通行人と同様に「利用者」には当てはまらない。
— 河村 たかし(本人) (@kawamura758) October 18, 2019
愛知芸術文化センター栄施設管理規定第6条および第7条は、物品販売の承認等、禁止行為について「施設において」と指定している。同規定第3条には「施設に出入りしようとする者に対し」とあることから、ここで「施設」とは建物内部であることが前提のように読める。
— 河村 たかし(本人) (@kawamura758) October 18, 2019
「施設」の定義規定もない。したがって管理規定には反しない。
— 河村 たかし(本人) (@kawamura758) October 18, 2019
河村市長の反論まとめ
河村市長の反論をまとめると以下になります。
愛知芸術文化センター条例9条は「センターの利用者は」とあるが、それは「建物の内部の利用者」という意味と解されるので、自分は「利用者」には当たらない。愛知芸術文化センター栄施設管理規程を見ても、「施設」の定義が無いので、それは当然にして「センター」の中であると解される。よって、2Fペデストリアンデッキでのプラカード掲示等は、条例等に反しない。
この主張を検討します。
愛知芸術文化センター条例、管理規則、栄施設管理規程の解釈
関連規定は愛知県例規集の「13編 教育」の「5章 文化」にあります。
愛知芸術文化センター条例の「センター」の意味と場所
【愛知芸術文化センター条例】では「センター」とは以下の施設を指します。
- 愛知県美術館
- 愛知県芸術劇場
- 愛知県文化情報センター
- 愛知県図書館
これらはいったい、どの場所を指すのでしょうか?
「別表第一」に書かれているようです。
別表第一に見る各センターの位置
これだけではどこが2Fペデストリアン部分が該当するのかわかりませんが、「業務」の欄を見ると、「建物の内部」の印象を持ちます。
実は「別表第二」もあり、各施設の業務の詳細が書かれています(長いので割愛)。
そこでもやはり「建物内部」が想定されており、「共用部分」や「屋外」部分は記述されていません。
愛知芸術文化センターのHPでの施設案内
愛知芸術文化センターの施設案内ページ(魚拓)では、『当センターは、平成4年10月30日栄地区にオープンした愛知県美術館、愛知県芸術劇場、愛知県文化情報センター(アートスペース、アートライブラリー、アートプラザ)と、平成3年4月名城地区にオープンした愛知県図書館により構成されています』と書かれており、上図でそれぞれの施設部分が色分けされています。
これを見ると、2F部分は愛知県芸術劇場のエリアとなっていますが、ペデストリアン部分(「至 NHK連絡口 オアシス21連絡橋」)は色分けされていません。
これを見るとレストラン部分もあり、ここは愛知県芸術文化センター条例上の「センター」ではないようです。
「愛知県芸術文化センターという愛知県の施設の敷地内」であるとは言えますが、法的な概念としての愛知芸術文化センター条例上の「センター」ではない、といえる余地があるといえます。
結論:河村市長は「センターの利用者」ではない余地がある
これまでの検討により、河村市長がプラカードを掲げて座り込み抗議をしたペデストリアン部分は「センター」には該当しないため、河村市長は「センターの利用者」ではないから、愛知芸術文化センター条例、同管理規則、栄施設管理規程違反ではない可能性が示唆されました。
したがって、河村市長がツイッターで主張した内容は一定の妥当性があると思います。
では、ほかの条例には抵触しないのでしょうか?
大村知事は「街宣活動」「シュプレヒコール」と指摘していることから、「示威運動」についての一般的な規定があればそれに拠ることになります。
他の条例違反の検討
一応ですが、ほかに関連しそうな条例も調べました。
行進又は集団示威運動に関する条例
【行進又は集団示威運動に関する条例】
第一条 公共の安全を保持し、公衆の道路等を使用する権利を保護するために、行進又は集団示威運動が道路、公園若しくは広場を行進し又は占拠する場合は予め公安委員会の許可を受けなければならない。但し、左の各号の場合には許可を要しない。
一 五百人未満(名古屋市、豊橋市、岡崎市、一宮市、半田市及び津島市の区域においては、五十人未満)の場合
名古屋市では50人未満の場合には公衆の道路等での集団示威運動をする場合でも許可は必要ではないと書かれています。
河村市長の座り込みの人数は50人未満
報道されている映像を見る限り、せいぜい20人程度が居るだけなので集団示威運動に関する条例の違反にも当たらないでしょう。
拡声機による暴騒音の規制に関する条例
愛知県例規集14編第一章
拡声機による暴騒音の規制に関する条例
第二条 この条例において「暴騒音」とは、別表に定める方法により、当該音を生じさせる装置から十メートル以上離れた地点(当該装置が権原に基づき使用する場所において使用されている場合にあっては、当該場所の外の地点に限る。)において測定したものとした場合における音量が八十五デシベルを超えることとなる音をいう。
拡声器を用いた演説の際には、このような規定の違反にならないように注意しているはずですが、どうでしょうか?そこまでうるさいとは思えませんが。
これもおそらく抵触していないでしょう。
愛知県迷惑行為防止条例
こちらもかなり行為が限定されているので、該当する行為はないでしょう。
もしも該当しているというのなら、同時に栄施設管理規程の禁止行為にも抵触しているような気がします。
まとめ:河村たかし名古屋市長は条例には違反しない可能性がある
- 愛知県芸術文化センター条例上の「センター」にはペデストリアンデッキ部分は含まれない余地がある
- よって、河村市長は「センターの利用者」ではない可能性がある
- 愛知芸術文化センター栄施設管理規程では「施設」の定義はなく、「センター」内についての規定であるとする余地があるので、河村市長は関連規定の違反には当たらないと考えることに一定の妥当性がある
愛知芸術文化センター栄施設管理規程の条文の全文が明らかになっていないのですが、「センター」の定義は条例に従っており、それをそのまま「施設」に置き換えているだけと思われるので、河村市長の主張の方に分があると感じます。
そもそも愛知県の大村知事は「補助金不交付は憲法上の検閲だ」「電凸は威力業務妨害」などとメチャクチャなことを言ってきた人間なので、どちらを信用するかという話です。
以上