宮崎文夫容疑者が常磐道であおり運転の末に男性を殴打して逃走した事件。
同乗者女性の喜本奈津子容疑者にはどんな罪が成立するのでしょうか?
ネット上でおかしな主張をみかけたのでそちらの検証もします。
同乗者女性、喜本奈津子容疑者に成立する罪の種類
喜本奈津子容疑者に成立する罪は大きく分けると「彼女が正犯となる罪」と「宮崎文夫の従犯=幇助犯となる罪」に分けられます。
宮崎文夫に成立する罪
宮崎文夫に成立し得る罪は
- 各種道路交通法違反
- あおり運転による暴行罪
- 被害男性を殴打したことによる傷害罪
- レンタカーの無断延滞利用による横領罪
- レンタカーによる(の)器物損壊罪
喜本奈津子容疑者はこれらの幇助犯になる可能性があります。
宮崎文夫に関する詳細は以下で書いています。
喜本奈津子容疑者の犯人蔵匿罪
あおり運転、容疑者の交際相手を逮捕 自宅にかくまう - 産経ニュース
茨城県のあおり運転殴打事件で宮崎文夫容疑者(43)を自宅マンションにかくまったとして、茨城県警は18日、犯人隠避容疑などで、交際相手で大阪市の会社員、喜本奈津子容疑者(51)を逮捕した。喜本容疑者は、宮崎容疑者が男性会社員に暴行した際、現場にいたことは認めているという。
容疑は犯人「隠避」ですが、自宅に匿ったとあるので、「蔵匿」罪が成立します。
刑法(犯人蔵匿等)
第百三条 罰金以上の刑に当たる罪を犯した者又は拘禁中に逃走した者を蔵匿し、又は隠避させた者は、三年以下の懲役又は三十万円以下の罰金に処する。
喜本奈津子容疑者は現場助勢罪?
あおり運転傷害事件、容疑者と同乗撮影女性も「現場助勢罪」で逮捕の可能性 小川泰平氏が指摘(まいどなニュース) - Yahoo!ニュース
この記事などで「現場助勢罪」が成立すると言っている者が居ますが、無理です。
現場助勢罪の条文
刑法(現場助勢)
第二百六条 前二条の犯罪が行われるに当たり、現場において勢いを助けた者は、自ら人を傷害しなくても、一年以下の懲役又は十万円以下の罰金若しくは科料に処する。
「前2条」とは傷害罪(204条)と傷害致死罪(205条)を指します。
一見すると今回の場合に適用されそうな雰囲気がしますが、実務上は有りえません。
現場助勢罪の趣旨と判例
- 本罪を傷害行為の現場における一種の幇助的行為を、野次馬の群集心理に基づく行為であるとの理由で特別に軽減した類型であるとする説*1
- 傷害の幇助行為ならば、傷害の従犯として処罰されるべきものであり、とくにこれを軽くする理由はないとの理由から、傷害の幇助にあたらない行為で、現場で喧嘩闘争をあおる行為を処罰するものと解す説*2
学説としては大別して上記の2つがありますが、判例(大審院大正2年3月28日)は、現場助勢罪は単なる助勢行為を処罰するもので、特定の正犯を幇助した場合は傷害幇助として処罰するとしています。
いずれにしても、複数人が闘争をしていると言える場面においての話です。
その上で、実務上は、闘争そのものを煽る行為が現場助勢罪であり、特定の人物(片一方の相手)に対する応援などをした場合には幇助犯であるという扱いになっているということです。
常磐道のあおり運転の末の殴打では「闘争」「群集心理」など存在しない
このように、現場助勢罪の判例・学説の考え方と常磐道のあおり運転の末の殴打行為は、事案においてまったく異なる状況になっているのが分かります。
あおり運転事件では「闘争」ではなく一方的に宮崎容疑者が加害行為をしている上に、現場助勢罪は減軽類型だとする立場が前提にする「群集心理」も存在しません。
したがって、今回の事案において現場助勢罪が成立するという見解は、上記のいかなる学説においても有りえない話なのです。
刑法の体系を考えても、幇助行為に満たない軽微な行為にまで独立の条文でもって捕捉することに構造的なチグハグさを感じてしまいます。「幇助」よりも程度の低い行為態様として「助勢」が用意されているというのも変な用語法でしょう。
本件では現場助勢罪を適用する意味が無い
あおり運転傷害事件、容疑者と同乗撮影女性も「現場助勢罪」で逮捕の可能性 小川泰平氏が指摘(まいどなニュース) - Yahoo!ニュース
小川氏は「現場助勢罪として逮捕される可能性もある。現場助勢罪とは、傷害罪の行われる現場において『勢いを助けた者』に成立する犯罪です。傷害の現場で、けしかけたり、はやし立てたりする罪になる。あおり運転やその同乗者に対しても、こうして法律を積極的に解釈し、厳罰を求めていくことも必要になる」
そして、本件では現場助勢罪を適用する意義が無いということも言えます。
傷害罪の幇助犯なら15年以下の懲役を減軽することになりますが(本件は軽い傷害なのでどんなに頑張ってもせいぜい懲役数年相当だろうが)、現場助勢罪の正犯は最大でも懲役1年です。
※罰金刑については捨象する
傷害罪の幇助犯が成立せずともあおり運転による暴行罪(2年以下の懲役)の幇助犯、レンタカーの横領罪(5年以下の懲役)の幇助犯の成立の可能性がある上、犯人蔵匿(3年以下の懲役)の正犯の成立は確実と言えます。
日本の刑は、複数の犯罪があればその刑を単純にプラスするのではありません。
確定判決を経ていない2個以上の罪は併合罪(45条)であり、「併合罪のうちの二個以上の罪について有期の懲役又は禁錮に処するときは、その最も重い罪について定めた刑の長期にその二分の一を加えたものを長期とする。ただし、それぞれの罪について定めた刑の長期の合計を超えることはできない」(47条)というルールがあります。
最も重い刑が何になるかは未だ不確定ですが、上記の罪が全て成立すると仮定すると刑の長期は15年の1.5倍の22.5年であり、それは15+5+3+2の合計以内に収まっています。現場助勢罪を適用しても刑の長期の最大値は変わりません。
傷害の幇助も横領の幇助も成立しないという場合でも、犯人蔵匿+暴行罪の幇助で最大4.5年の懲役です。
その枠内での量刑評価には影響するかもしれませんが、本件において殊更に現場助勢罪を適用すること取り上げて「厳罰」と言うのはかなり疑問です。
「元神奈川県警刑事で犯罪ジャーナリスト」らしいですが、やはりこういうのは法律専門家に聞くべきでしょう。
まとめ
- 喜本奈津子容疑者には宮崎文夫容疑者に適用される罪の幇助犯と犯人蔵匿罪が成立する
- 現場助勢罪が本件で適用されることは有りえない
繰り返しTVで放送された常磐道でのあおり運転を中心に見た場合のものですが、宮崎容疑者はどうやら他の地域でもあおり運転をしていたようです。そちらの事件も合わせて考えた場合にどうなるかはよくわかりません。
以上