事実を整える

Nathan(ねーさん) 法的観点を含む社会問題についても、事実に基づいて整理します

「北朝鮮人は2019年12月22日までに強制送還」について:国連安全保障理事会決議第2397号

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国連安保理決議で北朝鮮人は2019年12月22日までに強制送還される

このような言説がありますが、ちゃんと理解しないと実態と異なることになります。

調べた結果をまとめます。

国連安全保障理事会決議第2397号(UNSCR2397)

国際連合安全保障理事会決議第2397号 和訳(外務省告示第7号(平成30年1月18日発行))として、文書が公開されています。魚拓はこちら

この件で関係するのは以下の部分です。

8.決議第2375号(2017年)17の規定の採択にもかかわらず、北朝鮮国民が、北朝鮮の禁止されている核及び弾道ミサイル計画を支援するために北朝鮮が使用する対外輸出収入を生み出す目的で、他国で引き続き働いていることに懸念を表明し、加盟国が、当該北朝鮮国民が当該加盟国の自国民である、又は、適用可能な国内法及び国際法(国際難民法、国際人権法、国際連合本部協定並びに国際連合の特権及び免除に関する条約を含む。)に従って送還が禁止されていると認定する場合を除くほか、加盟国が、直ちに、ただし、この決議の採択の日から24か月以内に、当該加盟国の管轄権内において収入を得ている全ての北朝鮮国民及び海外の北朝鮮労働者を監視する全ての北朝鮮政府の安全監督員を北朝鮮に送還することを決定するとともに、さらに、全ての加盟国が、この決議の採択の日から15か月以内に、この決議の採択の日から12か月間に送還された、当該加盟国の管轄権内において収入を得ていた全ての北朝鮮国民に関する中間報告(該当する場合には、なぜそのような北朝鮮国民の半数に満たない数しか当該12か月の期間終了までに送還されなかったのかについての理由の説明を含む。)を提出すること、及び、全ての加盟国が、この決議の採択の日から27か月以内に、最終報告を提出することを決定する。

「収入を得ている」という限定つきで北朝鮮国民は送還対象であり、北朝鮮政府の安全監督員も送還対象であるということです。

これだけを見ると、たとえばJリーグのプロサッカー選手として各チームに在籍している北朝鮮籍の選手もこの決議による送還の対象となることになります。

ただし

適用可能な国内法及び国際法(国際難民法、国際人権法、国際連合本部協定並びに国際連合の特権及び免除に関する条約を含む。)に従って送還が禁止されていると認定する場合を除くほか

このような扱いを受ける北朝鮮人が居るのか否かは定かではありません。

なお、「この決議の採択の日」は原文を読むと2017年12月22日です。

「北朝鮮籍」と「朝鮮籍」、「韓国籍」

ところで、「北朝鮮籍」と「朝鮮籍」は異なるということは確認するべきでしょう。

「朝鮮籍」は、1910年の韓国併合により朝鮮が日本の領土となったことに伴って日本国籍とされていた朝鮮人のうち、朝鮮の独立後も引きつづき日本に居住している朝鮮人及びその子孫について、1947年以降日本の外国人登録制度の対象になったことに伴い韓国籍を始めとしたいずれの国籍が確認できない者が登録されることになった便宜上の籍です。

この前提知識が無いと、安保理決議の内容を早合点してしまいます。

いわゆる「在日」と言われている者のほとんどを占める特別永住者の中には「朝鮮籍」と「韓国籍」はあるが、「北朝鮮籍」はありません(その他数十の国籍と無国籍者の区分がある)。

したがって、国連安保理決議は特別永住権者を対象にしていません。
(ただし、脱法的重国籍者は分かりません)

 

北朝鮮国籍者は原則入国禁止

外務省は【国連安全保障理事会決議第2397号の我が国における実施に関する同理事会への報告】において、

イ 決議第2397号で北朝鮮労働者等の送還が決定されたが、日本は、以前から北朝鮮籍者の入国をその目的にかかわらず原則禁止している

としています。

日本政府は平成28年2月から、北朝鮮籍の人間の入国を原則禁止しています。

北朝鮮籍の者は原則入国禁止なのですから、不法入国の実態が把握できれば即、退去強制の対象になっています。

そのため、ここでは入国禁止措置の前から適法に入国し、引き続き日本国内に在留している北朝鮮人がどれほど居るのか、という話になります。

「朝鮮籍」の在留資格者数

2017年の政府統計によると、「朝鮮籍」のうち、在留資格別でみると永住者が452名、日本人の配偶者等が44名、永住者の配偶者等が7名、特別永住者30243名、定住者112名、経営・管理が1名となっています。

出入国の統計上、「朝鮮籍」は北朝鮮籍も含みます。

国籍別出入国者数の政府統計上では、かつては「(北朝鮮)」という表記があり、「(朝鮮)」という表記がなかったのですが、現在は「(朝鮮)」に統一されています。これは表記の変更のみであり、中身は北朝鮮籍と朝鮮籍が混ざっていることは変わりありません。

なお、国籍別【新規】入国者数の統計では、「(北朝鮮)」となっています。

新規入国者に「朝鮮籍」が居ることはありえませんので、これはそのままの表記となっています。

これらを合わせ読むと「(朝鮮)」の内訳の多くは北朝鮮人ではなく、戦後便宜的に作られた籍たる「朝鮮籍」の人たちであると言えます。

国連安保理決議の法的拘束力

ところで、国連安保理決議があったとして、加盟国に対して法的拘束力はあるのか?

興味深い研究論文があったのでそちらを参考にすると

①当該安保理決議を含む関連決議中において国連憲章 39 条の「平和に対する脅威」(“threat to the peace”)等の事実認定がなされた上で、②「国連憲章第七章に基づいて行動し」(“Acting under Chapter VII of the Charter of the United Nations”)という文言が当該安保理決議の前文に置かれ51、③本文において「決定する」(“decides”)という 文言に加え「する(しなければならない)」(“shall”)という文言が用いられている場合、当該文言を含む本文の該当項が「法的拘束力」を有するという安保理の意思表示と推定することができよう。これはほぼ確立された解釈方法であると言える。

これらの要件のうち、①②③の全てが先述の安保理決議第2397号8項に存在していることが原文で確認できます。

したがって、国連安全保障理事会としては法的拘束力を有するという意思を持っているということは確定しています。

では、日本国はこの決議に100%拘束されるのでしょうか?

イ 決議第2397号で北朝鮮労働者等の送還が決定されたが、日本は、以前から北朝鮮籍者の入国をその目的にかかわらず原則禁止している

この説明からは日本政府の態度は判然としません。

北朝鮮人Jリーガーの例からも分かるように、北朝鮮籍で適法に入国している者がいることは明らかであり、「入国希望者」ではなく「在留者」の扱いが問題になっているにもかかわらず、このようなお茶を濁した対応であるということは、送還されない者が一定数居るのだろうと思われます。

「北朝鮮人は2019年12月22日までに強制送還」の内実

  1. 国連安保理決議は「北朝鮮人」の一部を対象
  2. 北朝鮮人は平成28年2月以降、原則として入国禁止となっている
  3. 在日=特別永住権者に「北朝鮮国籍」は存在しない
    (脱法的重国籍者は分かりません)
  4. したがって、この決議に基づく強制送還の対象となる者は極めて限定される
  5. 国連安保理は当該決議に法的拘束力を付す趣旨
  6. 日本国が決議の内容を100%実施するかは未知数

平成28年2月以前に適法に入国した者で未だに国内に留まり収入を得ている北朝鮮籍の者は、単に在留資格の更新が認められなくなるということになるでしょう。

対象者が「強制送還」の形式になるかは、北朝鮮人の態度次第ということになります。

収入を得ていても例外の対象になる者がどれほどになるのかは、分かりません。

ただ、国連安保理決議によって、なにやら膨大な数の「在日」の人たちが新たに強制送還されるかのように騒ぐ界隈がありますが、そういうことにはなりません。

以上