事実を整える

Nathan(ねーさん) 法的観点を含む社会問題についても、事実に基づいて整理します。

小林貴虎議員,公開質問状の同性カップル住所ブログUPと法律上のプライバシー

小林貴虎同性カップル住所プライバシー

公開質問状の同性カップルの住所のネットUPについて。

※追記:小林議員のブログから住所部掲載部分が削除されました。

小林貴虎議員、公開質問状の同性カップル住所公開

三重県議会議員の小林貴虎議員が、自身のブログ上で同性カップルからの公開質問状に記載されている住所を公開したということがニュースになっています。

「公開質問状だから問題ない」として考えるには少し慎重になる必要があります。

公開情報のネットUPと法律上のプライバシー

上掲のエントリで全てを書き尽くしているのですが、官報情報や登記簿などネット上で閲覧可能な情報であっても、それを再拡散する行為についてはその必要性などを検討してプライバシー侵害の違法性が判断されることとなっています。

判決文記載の住所のネット掲載がプライバシー侵害になった裁判例もあるくらいです。

小林貴虎議員「違法性は無い」

小林議員は「違法性は無い」、という立場のようです。

公開質問状に対する回答へのレスポンス

毎日新聞の山下記者の書いた記事に関して

伊賀市選出の稲森としなお議員から住所部分だけは削除できないか要請があったが、それを断っている様子が分かります。

上記のブログ記事を見る限り、小林議員は公務員の「守秘義務」との関係で違法性が無いという認識のようですが、民法上の不法行為になるプライバシー侵害との関係ではどのように考えているのかは定かではありません。

公開質問状が入った封筒の記載住所のネット公開はプライバシー侵害?

判決文記載の住所のネット掲載がプライバシー侵害になった裁判例では

登記簿や電話帳への自宅住所の記載は、いずれも一定の目的の下に限定された媒体ないし方法で公開されるもので、同目的に照らし限定的に利用され、同目的と関係ない目的のために利用される危険は少ないものと考えられ、公開する者もそのように期待して公開に係る自宅住所情報の伝搬を上記範囲に制限しているというべきであるから、原告X1が自宅住所情報につきプライバシーの利益として保護されることまで放棄していると評価することはできない

として、この事案では原告X1の住所をネット上に公開する必要性がなく、公開する利益が優越するとは認められないと判断されています。

では、小林貴虎議員の公開質問状の相手方について、その住所をネット上に公開する必要性があり、公開する利益が公開されない利益を優越すると言えるのか?

公開質問状といっても、公開される内容はお互いの名前や主張の内容であることが通常であり、住所が主張と関係するような場面というのは必ずしも存在しないと思われます。

公開質問状が掲載されたページを見ると

先日私宛に「公開質問状」なるものが送りつけられてきました。送付した本人は事前に自身のSNSにもアップし、同じ物をメディアにも送ったと書いてあります。

この質問状の冒頭には「本質問状及びご回答は報道機関、ウェブサイトやSNS等へ、広く公表させて頂きます。ご回答頂けない場合もその旨を公表します。」と書かれているとおり、議論による相互理解ではなくはじめから公にさらすことを目的にした質問状だと理解しています。

と、小林議員は認識しているものの、ここにいう「公表」はその意見の内容を意味すると限定的に解することも可能です。「本質問状及びご回答」には住所を含まないかもしれません。

公開質問状が送付された発端は同性婚に関する小林議員の認識ですが、この議論において住所が関係するとは思われません。

ただ、送付した本人が事前に自身のSNSにもアップしているようで(住所欄がどうなのかは未確認)、小林議員も公開質問状の宛名欄の後援会事務所の住所を問題視されているブログ記事上でもUPしていることから、それとの均衡上、どのように判断されるのかは正直言ってよく分かりません。
(小林議員の場合、政治家として後援会事務所の住所を既に公開している点がどう判断されるか)

追記:同性カップル本人らが運用している通販サイト上に当該住所の表記がありました(現在も掲載中)。神戸地裁平成11年6月23日判決ではNTTの電話帳記載の氏名・住所・電話番号等をネット上の掲示板にUPした行為がプライバシー侵害の不法行為となるとしましたが、本件は本人らが既にネット上にUPしていた事案で、この事情がどのように影響するか、といったところでしょうか。

アウティングの問題?

性的少数者であることを本人の同意なく暴露する「アウティング」を禁止する条例がどうやら三重県ではあるようですが、この話は性自認に関するいわゆる「アウティング」とはまったく無関係です。

「同性カップルからの公開質問状」ということで本人らが公開書簡を送付している以上、その点は最初からオープンなわけですから。
(※稲森議員も「現住所の公開」の点だけを責めている)

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