事実を整える

Nathan(ねーさん) 法的観点を含む社会問題についても、事実に基づいて整理します。

国家公務員の定年の引上げ法案の見送りは英断になる可能性

国家公務員法改正案の審議が見送られましたが、これは良い事です。

多くの人は批判の仕方を間違えているのではないかと思うのです。

野田内閣時代にではなく福田内閣時代から

国家公務員法改正の定年65歳野田内閣

人事院の意見の申出

平成30年8月10日定年を段階的に65歳に引き上げるための国家公務員法等の改正についての意見の申出のポイント

 

最初に指摘しておきますが、国家公務員の定年を65歳に段階的に引き上げをする方針は、2008年の福田内閣時代から議論されてきたものです。

平成23年9月30日定年を段階的に65歳に引き上げるための国家公務員法等の改正についての意見の申出

この画像が出回って「民主党政権時代に提言されたものであり立憲民主党が反対するのはブーメランだ」などという底辺層が居ます(立憲民主党自体は当該法案審議の当初から検察庁法から切り離して国家公務員法改正案の成立を目指していた)。

そういう低レベルの「ブーメランだー」はいい加減やめましょう。

というわけで次から本題です。

国家公務員法改正案の定年上限を65歳に引き上げる意味

第201回 通常国会|内閣官房ホームページ

国家公務員法改正案では、定年上限が現在の60歳から65歳になることとなっていました。

公務員の定年については公的年金の支給が65歳からとされていることとの均衡から是正されるべきだという議論がありました。また、民間が65歳定年なのに公務員が60歳では天下りが起きるのでそれ自体は正当なものとされてきました。

ところが、状況が変わりました。

上記の論は、国会に提出されたのが3月13日ですが、この時点では雇用する側の方で人手が不足している状況での話です。

コロナ禍の影響下では話が変わります。

コロナ禍により若者雇用が壊滅的になる予測

「国民にバレたらまずい」安倍政権が検察庁法改正を急ぐもう一つの理由 民間での大失業が予測されるなか… (4/4) 磯山友幸| PRESIDENT Online(プレジデントオンライン)

だが、これは、あくまで人手不足が続いていた環境での話だ。安倍首相も国会答弁で、「高齢職員に活躍してもらう」点を定年延長の理由として繰り返し発言しているが、それは未曾有の人手不足が続いていた時の話だろう。目前に大失業の大津波が迫っている中で、公務員だけ定年延長を急げば大きな禍根を残すことになる。

定年が延びればどうなるか。財政が厳しい中で、総人件費を膨らませないようにしようと思えば、新規採用数を減らすことになる。特に財政状態の悪い地方自治体は新規雇用を抑えざるを得なくなるだろう。そうなれば若者の就職機会は減ることになる。

新規採用を絞らないとすれば、定年が延びる分、人件費は膨らむことになる。そのツケは税金の形で国民や住民にいずれ回ってくる。60歳時の7割に設定すれば、当然、新卒採用の賃金を大きく上回る。退職金も民間企業以上に手厚く支払われ、年金も保証されている公務員をさらに定年延長で優遇することで守る必要が本当にあるのだろうか。

高齢職員が職場に残り続けることで、組織の活力が失われる危険性もある。そうでなくても中央省庁では若手職員の退職・転職が相次いでいた。いつまで経っても責任を持たされない働き方に嫌気がさしているという。定年延長が、ますます優秀な若者人材を集められなくするかもしれない。

5月末に総務省統計局が毎月発表する「労働力調査」が公表され、新型コロナの影響を受けた数字が出てきます。それは最悪の数字が出てくることが予想されるため、それが公務員の定年上限の引き上げと関係してくる、薄井氏は書いてます。

「定員が延びても新規採用の間口を狭めなければ良い」 

などというのは理想論であり、現実には予算の制限からくる「総定員枠」の設定や「級別定数」があるので、年長者が増えれば若年者が圧迫されます。

「予算を増やせばよい」と言うことができますが、果たして「民間で仕事が無い中で公務員だけ予算を増やして人を囲う」ことに国民の理解が得られるでしょうか?

能力実績主義の仕組みなどの導入

そして、仮にそうしても現在の働き方では若者が忌避する結果になってしまうおそれも指摘されています。

よって、国家公務員の定年上限の引き上げについてはより議論を深めるべきであるということは論を待たないでしょう。

秋の国会で継続審議するようなので、その観点から改善を求めていくべきです。

安倍内閣・立憲民主党や自治労に対する批判方法

立憲民主党は国家公務員法等の改正案の審議の当初から、検察庁法から切り離して国家公務員の定年の引き上げの成立を目指していました。

で、この期に及んでもまだ同じ主張(現行法案をそのまま成立)をしています。

よって、安倍内閣・立憲民主党や自治労に対する批判の仕方としては「検察庁法改正案を叩いたため公務員の雇用が犠牲になった」ではなく

「現在の公務員」の雇用を守ろうとして現行のままの国家公務員法改正案に賛成するのは、「これから雇用されるべき若者の機会」を奪うものであるから、政権はコロナ禍の影響を考慮して見直しをするべき】ということだと思います。

内閣が提出した法案を見直すのは英断では?

「検察庁法の改正案と一体になってるから国家公務員法改正案もひっこめなければならなかった」と言い訳を唱える人が居ますが、本当に国家公務員法改正案を通そうとするならテクニカルな制約など嘘なので「やれよ」で終わり。それが仕事。

しかも内閣自身が提出した法案なので「立憲民主党や共産党が検察庁法改正案を攻撃したから~」などというのは理由にならない。それを自民党支持者らも気づいていないのが彼らの脳死状態を見せつけられているわけですが。

そうではなくて、安倍内閣(安倍総理が判断したのかは知らん)がコロナ禍の影響を受けて日本社会全体の雇用状況を考慮して国家公務員法改正案を審議しなおす方針にしたとすれば、それは英断ではないでしょうか。

現時点ではまだわかりません。単に検察庁法改正がポシャって同時にひっこめたくらいにしか思われません。

※追記:廃案の方針が固まったという報道がありました。安倍総理も「この法案を作ったときと違い、今社会的な状況は大変厳しい。そうしたことを含め、しっかり検討していく必要がある」と発言しています。これで検察庁法改正とは関係ない判断になりました。

《独自》国家公務員法改正案、政府が廃案方針固める - 産経ニュース

以上