事実を整える

Nathan(ねーさん) ほぼオープンソースをベースに法的観点を含む社会問題についても、事実に基づいて整理します。

安倍元総理国葬招待者名簿の黒塗り不開示報道について:個人情報保護と公益裁量開示

命が危ない

安倍元総理国葬招待者名簿の黒塗り不開示報道

2023年8月6日に共同通信から以下の記事が。

 

昨年9月に東京・日本武道館で営まれた安倍晋三元首相国葬に関し、共同通信が内閣府に招待者名簿などを情報公開請求したところ、74%の氏名が黒塗りだった。安倍氏と交友があった著名人を含む「遺族・遺族関係者」は96%が、元国会議員は100%が不開示だった。政府は国葬を内閣府設置法上の「国の儀式」とし、約12億円の経費を全額国費で賄っている。公費の使い道として透明性が問われそうだ。

もっとも、同じ内容の記事は既に5月19日に毎日新聞から出ていました。

先行報道から3ヵ月も経過しており、この時期に報道されるのはなぜなのか。

個人的には、安倍氏国葬に関して私人に関して氏名等を公開したら【命が危ない】と思うので、不開示はやむを得ないと思います。

他方で、「個人情報なんだから私人の不開示は当たり前だろ」とだけ言って「論破」している向きもSNSでは見受けられたので次項では法制度の整理をしていきます。

情報公開請求における個人情報保護と公益裁量開示

情報公開法の概要

自治体ではなく国の行政機関に対する情報公開請求なので、【行政機関の保有する情報の公開に関する法律】の話になります。

個人情報は不開示情報として原則不開示となりますが、そうであったとしても5条にある例外として以下の情報は対象外になっています

  • 法令の規定により又は慣行として公にされ、又は公にすることが予定されている情報
  • 人の生命、健康、生活又は財産を保護するため、公にすることが必要であると認められる情報
  • 当該個人が公務員等である場合において、当該情報がその職務の遂行に係る情報であるときは、当該情報のうち、当該公務員等の職及び当該職務遂行の内容に係る部分

Twitter(X)上のコミュニティーノートでは、「公務員は不開示」という辺りまで触れるにとどまるものしか見ていませんが、さらに不開示情報に該当していたとしても公益上の見地から開示すべきとされる場合があり、【公益裁量開示】と呼ばれています。

公にすることに当該保護すべき利益を上回る公益上の必要性があると認められる場合との趣旨であるとされています。

Ⅲ-G 公益裁量開示(法第 7 条)

公益裁量開示(法第7条)についての検討資料

これらを見るとたとえば…

  • 日本銀行において、退職者の再就職に係る文書 一部職員(本店課長職担当以上
    等)に係る公にすることが予定されていない個人情報
  • 預金保険機構において、退職者や出向者の再就職先に関する文書中の個人情報

こういった個人情報も開示された実績があります。

なので、安倍元総理の国葬に招待された者の名簿も、公益の観点から開示されるべきではないか?と考えることは正当ですし、そこがこの話の中心であったはずの所です。

安倍元総理国葬招待者名簿は公開すべきか?

5月時点で私はこう書いてました。

この基本線は、今でも変わりません。しかし…

こういう発想の人物が大量に居ると気づいたので、不開示になるのは仕方がないと思います。

「選ばれた人がどういう人間か?」については政府が招待をした事の妥当性や予算規模を決定した事の妥当性や招待基準が偏って居ないか?を見るために必要と言い得る。

しかし、「背景や関係性」なんて、そんなの政府も知らない本人の交友関係が無数にあって、邪推エンタメしか生まないでしょう。

特に今回のケースや時勢を鑑みる必要があります。

安倍元総理の国葬は、選挙演説中に背後から忍び寄った者による凶弾によって殉職された事件が背景としてあります。逆恨みのとばっちりを受けたのは安倍側なのに、「統一教会と関係があるか?」といった評価軸でマスメディアが人間関係をベースに非難する論調を蔓延させました

こうした世の中で、個人情報を公開したらどうなるか?公人は仕方ないとはいえ、私人があらぬ詮索を受け、ヘイトを向けられる危険が高い。

したがって、本件において「公益の観点から開示せよ」というのは、個人情報を公開した場合のデメリットを上回る公益上の必要性があるとは言えない。

このように判断されたとしても、仕方がないと思います。

「国葬は民主主義の破壊だぁー!」と、罵詈雑言が吹き荒れたのを思い出しました。

不開示になったのはお前らのせいだよ。

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