45年前の伝聞情報にすがるしかない朝日
- 朝日新聞が平野貞夫の証言を元に「三権の合意が必要と吉國が」
- 平野貞夫の証言としての吉國一郎内閣法制局長官発言の信ぴょう性
- 吉國長官の佐藤元総理国葬断念時の発言に関する従前の報道
- 当時の朝日・読売・毎日・日経の報道内容「法的根拠が明確でない」のみ
- 政府答弁書では「法的根拠が明確でない」は「記録が見当たらない」
- 読売「内閣府設置法施行前の逐条解説で国の儀式に国葬を位置付けることを想定」
朝日新聞が平野貞夫の証言を元に「三権の合意が必要と吉國が」
国葬は「三権の了承必要」、過去に内閣法制局長官が見解 関係者証言 9/7(水) 朝日新聞デジタル
1975年に佐藤栄作元首相が死去した際、当時の吉国一郎内閣法制局長官(故人)が国葬について「法制度がない」「三権の了承が必要」との見解を三木武夫首相に示していたことが分かった。自民党の実力者だった前尾繁三郎衆院議長の秘書を務めていた平野貞夫元参院議員が朝日新聞に証言した。こうした指摘を受けて三木政権は国葬を見送り、国民葬とした。
当時の報道によると、佐藤氏が死去した75年6月3日、政府や自民党は約1時間半にわたる協議で政府、自民党、国民有志が主催する国民葬の実施を決定。平野氏によると、その結果を伝えるため三木首相が衆院議長室を訪れた。
前尾氏は不在だった。三木首相は、前尾氏の信頼が厚かった平野氏に「国葬はやるつもりはない」と伝言を求めたという。佐藤氏は当時、連続在職日数が7年8カ月で現憲法下最長。ノーベル平和賞を受賞し、党内からは国葬にすべきだとの意見も出ていたが、吉国長官が「法制度がないので、国葬とするには立法、行政、司法の三権の了承が必要」と語ったと伝えた。これが国葬見送りの理由になったとも語った。野党は国葬に反対していた。
佐藤元首相の国葬見送りをめぐって当時の朝日新聞は「決め手となったのは『法的根拠が明確でない』との内閣法制局見解だったといわれる」と記している。今回の証言で、佐藤氏の国葬を見送った三木内閣の意思決定過程の一端がより明らかになった形だ。
朝日新聞が9月7日の段階で、当時の吉國一郎内閣法制局長官が国葬について「法制度がない」「三権の了承が必要」との見解を示しており、それが国葬を見送った理由になった、と書き、その根拠として「平野貞夫氏の証言」を挙げています。
- 平野氏の記憶違い
- 本当に言っていたとしても絶対視すべき理由は無い
このどちらかでしょう。
平野貞夫の証言としての吉國一郎内閣法制局長官発言の信ぴょう性
「安倍国葬は、日本国憲法の葬式となる」。前例とする「吉田国葬」には、憲法を冒涜する自社55年体制の機密があった。社会党を説得した園田衆院副議長の秘書役の私が、オリーブ千葉の勉強会で公表した。『吉田元首相の国葬の真実』の動画のご視聴拡散を願う。https://t.co/nIiOPBTSJg
— 平野貞夫 (@hirano_sadao) 2022年8月23日
日本国憲法は国民主権、「安倍国葬」的なものを排除。内閣の権限で狂行する岸田首相は「憲法犯罪者」だ。政権維持を独裁化したい自民党が、旧統一協会の呪術に同調して、五輪疑惑・生存危機・亡国へ向う。3ジジ放談は「山高くして尊からず、樹あるをもって尊し」を提唱する。https://t.co/PvuPl99s6w
— 平野貞夫 (@hirano_sadao) 2022年8月26日
平野貞夫 氏は従前、このような動画を出しており、この中で国葬に関する話もしていますが、吉國長官に関する発言は無し。
23日の動画の最後には平野氏が書いた「メモ」が紹介され、「佐藤元首相の国民葬」の経緯が書かれ、吉國長官の発言として「法制度がないので、国葬とするには立法、行政、司法三権の了承が必要」とあります。
朝日新聞の記事で書かれた平野氏への取材結果は、これがもとになっているということがわかります。
しかし、このメモは「岸田内閣の安倍元首相国葬決定問題」とあるため、最も早くとも今年の7月14日に書かれたものとわかります。つまり、昭和50年(1975年)から45年以上もの間に記憶が変質している可能性が否定できないものです。
平野氏は前尾繁三郎衆院議長の秘書でしたが、前尾氏も平野氏も佐藤元総理の国民葬決定の場には居ません。
※当時の毎日新聞6月3日夕刊で「政府側から三木首相、福田副総理、大平総相、井出官房長官、植木総務長官、吉国内閣法制局長ら、党側から椎名副総裁、中曽根幹事長、灘尾総務会長、松野政調会長が出席」と詳細記述。
三木総理から伝えられたと朝日記事では書かれていますが、政権側の判断権者の発言と混同した可能性。
さらに、吉國長官の発言とするものは、既に多数のメディアが報じていますが、このような内容は書かれていません。
吉國長官の佐藤元総理国葬断念時の発言に関する従前の報道
8月1日にサンデー毎日が「吉國一郎内閣法制局長官も陪席した。吉國は「国葬の場合には立法、行政、司法三権に及」ぶ(『日本経済新聞』75年6月3日夕刊)と、国葬とするには三権の合意が重要だと説いた。」と報道していました。
上掲記事はそれを検証したもので、元ネタの日経新聞にあたっています。
結果は、吉國長官の発言としてかっこ書きされた部分で「国葬の場合は…三権に及び」とあるのは、出席者として裁判官が含まれるという趣旨の発言だったということ。
「国葬にする場合、三権の合意がなければならない」というのは、吉國長官の発言として明示的に書かれているわけではないということ。吉國長官の発言を受けてそういう判断が出てきたことを伝えているだけで、誰がそう言ったのかは不明です。
当時の朝日・読売・毎日・日経の報道内容「法的根拠が明確でない」のみ
当時の朝日新聞6月3日夕刊1.2面には以下書かれていました。
①国葬とする場合、衆参両院議長、最高裁長官など政府以外の三権の長との協議が必要②首相周辺が内々に野党の意向を当たったところ国葬には抵抗があり、いまの国会の状況をかんがえるとこれを押し切るにはムリがある③吉田氏の国葬に当たっては、これを先例としないという了解があったーーなどの理由からである。
国葬見送りの決め手となったのは「法的根拠が明確でない」との内閣法制局見解だったといわれる。戦前のような国葬令が存在しないだけでなく、国葬という以上、三権が合同で行うべきだが、吉田氏のような閣議決定だけでは他の二権に効力が及ばず、実質は「内閣葬」にすぎなくなる、といった点が考慮されたという。
1面の話は、「三権の了承」「三権の合意」というのは、三権の長が出席した協議の場を設ける、という意味だということが分かります。
しかし、2面の「閣議決定だけでは他の二権に効力が及ばず」という話は意味不明です。一権だけの決定で国全体の運営を決めたり国民全体の権利利益に潜在的影響を与えることは当たり前にしてあるわけです。国会での立法や最高裁判例なんかはそうでしょう。そこに三権の合意などというものは存在しません。
そして、吉國長官の見解であるとして書かれているのは「法的根拠が明確でない」ということだけです。これは理解できます。「法的根拠が無い」ではなく、明文規定が無い、というだけの意味であり、事実だからです。
明文規定(行政法学上の根拠規範)が無くとも問題が無いことについては以下で。
国葬儀の「法的根拠」と唯一の立法機関・法律の留保・内閣府設置法:安倍晋三元内閣総理大臣の国葬儀について - 事実を整える
読売新聞夕刊1面ではこれだけ
当時、社会党などが「国会の承認を求めるべきだ」と反発、先例としないよう主張したいきさつなどがあることから
朝日と異なり「了解」ではなく、社会党がそのように主張したとだけ書かれています。
なお、読売新聞4日朝刊では「消息筋の観測」として佐藤元総理と親しかった台湾の要人の扱いが日中平和友好条約の交渉に悪影響を及ぼすことを懸念したのではないか?という事が書かれていました。
政府答弁書では「法的根拠が明確でない」は「記録が見当たらない」
衆議院https://t.co/d5BCKKgEeP
— Nathan(ねーさん) (@Nathankirinoha) 2022年9月8日
参議院https://t.co/vALqN8tgrg
政府は8月に当時の法制局の見解について記録が見当たらないとする答弁書は出したが(辻元・江田議員らの質問主意書に対して)、対象は「法的根拠が明確でない」についてでした。
「立法、行政、司法の三権の了承が必要」については、そもそも問われていません。
野党議員も、さすがに与太話だと思ってるということでしょうか?あれだけ週刊誌のネタを元に国会質疑していた人らが…
そもそも「国全体の話だから三権が合意しなければならない」というルールはあるのでしょうか?
「国葬に限っては三権の合意を取り付けた方が良い」或いは「三権の長が集まった協議の場で決定すべき」という政策論を否定はしませんが、絶対的なルールとして存在しているとは言えません。
三権(の長)の合意を要するような国家の判断…他にあるんでしょうか?
国葬に関しては特に司法について、それは司法権の機能として適切なんでしょうか?
最高裁長官が、政治的功績を正しく評価できるんでしょうか?
政治政策の評価ができるのは政府と国会議員でしょう。
たとえば、三権の長が集まる場としては皇室会議(皇族2名、衆参両院議長・副議長、内閣総理大臣、最高裁判所長官とその他の裁判官、宮内庁長官の10名)があります。
しかし、両院議長や総理、最高裁長官は立法権・行政権・司法権をそこで行使するわけではありません。単に皇室会議を構成する「議員」として振る舞うだけです。
ということで、平野氏の発言内容が本当に正しくとも、吉國一郎長官の主張を絶対視する必然性は無い、ということにしかなりません。
読売「内閣府設置法施行前の逐条解説で国の儀式に国葬を位置付けることを想定」
「国の儀式」に国葬想定 内閣府設置法…法解釈 2000年文書に明記 : 読売新聞オンライン
内部文書は00年4月、政府の中央省庁等改革推進本部事務局内閣班が作成した「内閣府設置法コンメンタール(逐条解説)」。同法4条が所管事務に挙げる「国の儀式」には
〈1〉天皇の国事行為として憲法が定める儀式
〈2〉閣議決定で「国の儀式」に位置づけられた儀式
――の2種類があると説明
読売新聞は9月6日に内閣府発足前の内閣府設置法逐条解説において、「国の儀式」に国葬を位置付けることを想定していたと報じています。
これは朝日が報じたような佐藤元総理の国葬断念時よりも後の事情ですし、内閣府設置法という国会審議を経て成立した法律に関するものです。
これをもって「国の儀式」に国葬を位置付けるための民主的手続を経ていた、と評価して良いのか私には判別できませんが、はるか昔の伝聞情報に過ぎない平野証言など吹っ飛ぶ重要な事実であると言えます。
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