事実を整える

Nathan(ねーさん) ほぼオープンソースをベースに法的観点を含む社会問題についても、事実に基づいて整理します。

公益通報者保護制度検討会報告書案『風評被害等を生じる濫用的通報の抑止が必要・消費者庁は実態調査を』

何故かこれだけが報道されない

公益通報者保護制度検討会報告書案がまとまる

消費者庁において有識者によって議論されている公益通報者保護制度検討会の報告書案が12月24日にまとまり、今後の対応すべき方向性が示されました。

公益通報者保護制度検討会 | 消費者庁

第9回公益通報者保護制度検討会(2024年12月24日) | 消費者庁

公益通報者保護制度検討会 報告書(案)

が、どうもマスメディアの報道に違和感があります。

風評被害等を生じる濫用的通報の抑止が必要・消費者庁は実態調査を

有識者からは「濫用的通報者への対応」について、罰則を設けるべきではないかという意見が出ていました。

 内部通報対応の取組みが進んでいる事業者の内部通報窓口において、公序良俗に反する形ではないものの、自己の利益を図る目的ではないかと考えられるような通報が少なからずあるとの指摘がある

 EU 指令に、通報者が故意に虚偽の通報を行った場合の罰則規定があることも踏まえ、制度の悪用を適切に防止する観点から、濫用的通報に対し、罰則を設けるべきとの意見があった

以下の脚注ではより具体的に書かれていました。

30 事業者からのヒアリングでは、「自己の人事上の処遇を有利にする目的自分が楽なように業務フローを変更させる目的自分がしたくない仕事をしなくて済むようにする目的自分が嫌な人を異動させたい自分が快適なように職場環境を変更させる目的会社に不満を述べることで自身のストレスを発散させる目的自分の主張を認めさせることで自己承認欲求を満たす目的などではないかと推測される通報も存在する」との指摘があった。
31 EU 指令には、「加盟国は、報告者が故意に虚偽の情報を報告し、又は公開したことが立証された場合、報告者に関して適用される、効果的、比例的かつ抑止力のある罰則を定めるものとする。」との規定がある(第 23 条第2項)。

結論としては、『公益通報者保護制度の健全な運営を確保する観点から、事業者の適切な内部通報対応を阻害したり、風評被害などの損害を生じさせるおそれがある濫用的通報の抑止が必要であり、消費者庁は、濫用的通報の実態を調査し、その結果を踏まえて、対応を検討すべきである。』と求めるにとどまりました。

濫用的通報についての本検討会での議論は以下でもまとめていますが、『半数近くは濫用的通報が含まれているのではないかというのが実務の肌感覚』とする旨の発言が出ています。

濫用的通報者に関する実態調査の求めを報じないマスメディア

ところが、公益通報者保護制度検討会について報道していたマスメディアは、濫用的通報者に関する実態調査の求めについて、まったく触れるところがありませんでした。

たとえば詳細に書いている日経新聞とNHKでも、通報者への不利益取り扱いに刑事罰を設けることや、「通報者捜し」への罰則が新設される方向性であること、通報妨害への罰則については、書かれています。

「公益通報者保護法」通報者を解雇・懲戒で事業者側に刑事罰へ | NHK | ニュース深掘り

公益通報者捜し禁止へ、手厚く保護 「報復人事」にも罰則 - 日本経済新聞

しかし、「通報者捜し=探索の禁止についての罰則、種々の考慮点が有識者らから指摘されており、検討会の結論としては「今後、必要に応じて、慎重に検討すべきである」とするに留めています。

他方で「通報者捜し=探索」の禁止は、全国民の代表たる国会議員が国会で審議して制定した法律では書かれておらず、行政官庁である消費者庁が決めた法11条の法定指針に書かれています。しかも、外部通報事例における事業者による探索の禁止は、当初は法定指針を策定するための会議でも明示的に除外されており、指針の記述もミスリーディングである上に、消費者庁の説明は法律上の記述と矛盾したものになっていました。

そのため、法改正で法律に明記しましょう、という指摘がありました。

それが「通報者捜しの禁止へ」と記事で書かれている意味なのかもしれません。これは現行制度の不都合を解消する意味があると言えます。

この点については9月に以下で指摘しています。

読売新聞「兵庫県の内部告発問題を受けて公益通報者捜し禁止へ」

兵庫県の内部告発問題を受け「公益通報者捜し」禁止へ、通報者への不利益な取り扱いには罰則 : 読売新聞魚拓

読売新聞の論調だけ、他のメディアとは異質です。他のメディアが「消費者庁の有識者検討会が」という主語で書いている中で、「政府は」という主語で書いています。

また、『兵庫県の内部告発問題を受けて公益通報者捜し禁止へ』と書いており、兵庫県の斎藤元彦知事に関する告発文書をめぐる知事の対応が発端だと明示しています。

この件は政局の争いとマスメディアの偏向報道が過熱し、それを受けてSNS上でもお祭りコンテンツと化しているという状況があります。

兵庫県の事案は、3月の文書と4月の窓口通報が混同されていることや、それぞれ参照する制度が違い、通報対象事実も異なる、といったことが、報道では理解できないような言論空間が作られているということは累次の記事で指摘してきました。

怪文書による内部告発という企業等への嫌がらせを封じ、正当な通報が無視されないように

兵庫県の事案の教訓は、怪文書による内部告発という企業等への嫌がらせを封じ、それによって本来の正当な通報が、いい加減な通報と同じ扱いを受けたり無視されないようにするべきということです。

NHK党の浜田聡参議院議員が12月の国会質疑で発言した以下の主張がまとまっているので記します。

アゴラの記事において要点をいくつか読み上げます。当該告発文書の中で匿名性を維持したまま調査によって事実関係が把握できる可能性が十分にあると言えるのは一部のみであり、仮にこの一部を調査するにしてもコストが現実的ではない可能性があるということ。兵庫県の事案の告発文書は調査によって実態解明可能な程度の具体的な記述に欠けるため、通報要件を満たしていないか、全体の記述が公益通報に相応しくないため「不正の目的でなく」の要件をみたしておらず公益通報として扱わなくて良いということ。このような怪文書が公益通報として扱わなければならないとして事業者に義務を負わせられる世の中はおかしくなる、ということでございます。いずれも重要な指摘と思います。

公益通報制度は不正を暴き、社会の透明性を高めるために重要な仕組みです。しかし、その制度が悪用されることによって企業や社会の活動が阻害されることは社会にとって望ましくありません。

ま、これって10月に以下の記事で書いたことなんですけどね。

希望したことが、ようやく実現に向かっているのだなと感じます。

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