事実を整える

Nathan(ねーさん) 法的観点を含む社会問題についても、事実に基づいて整理します。

熊本市の自治基本条例「外国籍も市民」の方針撤回:「法令」の誤解?



市が誤解を与えた

熊本市の自治基本条例「外国籍も市民」の方針撤回

熊本市「外国籍も市民」の方針撤回…誤解を含んだ多数の反対意見、賛成は1件のみ : 読売新聞

昨年12月に市が発表した改正案では、市民の定義に「外国の国籍を有する者を含む」と追記することとした。大西一史市長はその趣旨を、「外国人に市民の一員との意識を持ってもらうため」と説明。市は同月~今年1月に、他の改正部分を含めて意見公募を行った。

 その結果、寄せられた1888件の意見のうち、市民の定義に関わるものが1315件を占め、1件の賛成意見の他は反対する内容だった。改正案は外国籍に新たな権利を認める内容ではなかったが、反対意見には「外国人参政権を与えるのか」など、誤解に基づくものが目立ったという。

 この結果を受けて、市は「誤解や不安を招きかねない」と判断。改正案から外国籍についての記載を削除することを決めた。9月開会予定の市議会定例会に提案することとした。

熊本市の自治基本条例の改正案で「外国籍も市民」の方針が撤回されることに。

これについては「市による条例の規定ぶりや説明がお粗末だった」としか言えません。

現行の自治基本条例の解説と改正案の「市民」の定義

魚拓:https://web.archive.org/web/20230328153656/https://www.city.kumamoto.jp/hpkiji/pub/Detail.aspx?c_id=5&id=47076

※追記:7月28日に最終的な結果についてのページが作られました⇒https://www.city.kumamoto.jp/hpKiji/pub/detail.aspx?c_id=5&id=49993&e_id=3

熊本市自治基本条例の改正案では、市民の定義に「外国の国籍を有する者を含む」という説明書きが追加されていました。

他方で、現行の自治基本条例の解説では、以下の説明がありました。

https://www.city.kumamoto.jp/common/UploadFileDsp.aspx?c_id=5&id=18067&sub_id=1&flid=125250

「市民には、日本国憲法や地方自治法など法令で定められている多くの権利(*3)があります」とし、その説明として…

日本国憲法、地方自治法など法令で定められている多くの権利

参政権(選挙権・被選挙権・国民投票権・国民審査権)、条例の制定改廃請求権、事務の監査請求権、議会の解散・議員及び市長の解職請求権、基本的人権、自らの生命、自由及び幸福追求に対する権利、健康で最低限の生活を営む権利など

このように書かれています。

しかし、改正案に関して、ここの解説との関係について触れるものが見当たりません。

これでは、熊本市民は「外国籍の者もここで書かれている選挙権等も外国人に付与されるのでは?」と考えるのは当然です。

もっとも、実際には「法令上保有できないものを除きます」という説明があります。

第5条 市民は、日本国憲法及び法令に定める権利を有するとともに、自治の基本理念を実現するため、次に掲げる権利を有します。ただし、法令上保有できないものを除きます

が、ここも「法令」と「条例」の関係が不明であるという問題があります。

誤解に基づく反対?「法令」と「条例」の意味・定義とは

https://www.soumu.go.jp/main_content/000836266.pdf

法体系上、「法令」は国の定める法律や政令・省令・命令などのルールの意味です。

対して、「条例」は「法令」とは区別されているということは、地方自治法などを見ると分かります。

しかし、一般的に、「条例」も「法令」に含めて理解する用語法があります。

https://www.kokusen.go.jp/wko/pdf/wko-202007_07.pdf

https://www.kokusen.go.jp/wko/pdf/wko-202008_07.pdf

この通り、元衆議院法制局の人がこの用語法の存在を認めています。

したがって、熊本市民が「外国籍の者もここで書かれている選挙権等も外国人に付与されるのでは?」と考えたとしても、それは誤解でもなんでありません。

行政のジャーゴンに市民の認識が搔き乱されてしまったということ。

本来であれば従前の解説との整合性について解説するというくらいは最低限やるべきでしょう。熊本市行政の怠慢でしかないと思います。

「参政権」の中身と不毛な議論の回避

参政権」の意味内容については、幅がある概念であり学説の違いもあり、誤解とすれ違いが生じがちです。

なお、外国人も政治的主張をする権利は憲法上、保護されています。政治家に働きかけて市政に関して意見を通そうとすること自体は不法行為や犯罪行為ではありません。

ただ、それが在留更新の際に消極的に評価されないまでの保護を受けることは無いというのが最高裁判所のマクリーン判決以来の実務・運用です。

今回の条例案でも市は「(選挙権など)法令上保有できないものを除き、市政への参画が認められている」と説明していますが、この事自体は誤魔化しでも何でもなく、本当のことです。

あらゆる自治体に言えることですが、市民の理解に誤解が生じないように解説をしたり、条例案において適切に表現することを、自治体の側が積極的に行うべきでしょう。

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