事実を整える

Nathan(ねーさん) 法的観点を含む社会問題についても、事実に基づいて整理します。

内閣法制局「旧宮家の男系男子の皇籍復帰制度は一般論として憲法14条に反しない」

内閣法制局木村陽一第一部長

ついに政府は整理をつけたか

内閣法制局「旧宮家の男系男子の皇籍復帰制度は一般論として憲法14条に反しない」

皇族復帰、家柄差別の例外 皇位継承策巡り内閣法制局 - 産経ニュース

内閣法制局の木村陽一第1部長は15日の衆院内閣委員会で、皇統に属する一般国民から男系男子を皇族とするのは、門地(家柄)による差別を禁じた憲法14条に抵触しないとの見解を示した。安定的な皇位継承策を巡り浮上する皇族の養子縁組を認め、旧皇族男系男子が皇族復帰する案に関し「憲法14条の例外として認められた皇族という特殊な地位の取得で、問題は生じないと考えている」と答弁した。

内閣法制局が「旧宮家の男系男子の皇籍復帰は制度によるが一般論として憲法14条に反しない」という趣旨の答弁をしました。

これは大きなことです。

令和5年11月15日衆議院内閣委員会立憲民主党馬淵澄夫委員質疑

衆議院インターネット審議中継

2023年11月15日 (水)衆議院 内閣委員会

1時間25分くらいから当該場面が始まります。

以下は立憲民主党の馬淵議員質疑中、皇位継承問題に関するもののうち、旧皇族の皇籍復帰に関する答弁に絞った書き起こしです。

〇立憲民主党馬淵澄夫

皇位継承の問題を取り上げさせていただきます。

~省略~

憲法解釈などについて、あるいは制度設計については明確な政府の答弁は得られませんでした。そこで今回は内閣法制局の憲法解釈を中心に質問したいと思います。有識者報告書では、皇族の数の確保のために皇族には認められていない養子縁組を可能とし、皇統に属する男系の男子を皇族とすることが挙げられています。ここでこの養子案について、一般国民から皇統に属する特定の男系男子を選んで皇族にするということが憲法14条1項が禁止する門地の差別に該当するのではないかという問題が生じることは、私は2月10日、宍戸先生などの御意見などを開陳し指摘もしました。憲法によって、日本国の象徴、日本国統合の象徴であって、主権の存する国民の総意に基づく天皇並びに皇室をめぐる制度は憲法違反の疑いが指摘されるようなことが決してあってはなりません。そこで、内閣法制局に伺います。日本国憲法14条1項では、門地による差別が禁止されていますが、門地とは人の出生によって決定される社会的地位を指し、血統や家系等の家柄が該当します。天皇および皇族はまさに門地でありますが、それらは日本国憲法自体が認めた例外であって、憲法の14条の規律、平等原則の規定が及ばないという解釈でよろしいでしょうか。法制局、端的にお答えください。

〇内閣法制局木村陽一第一部長

 ご指摘の憲法第14条において、法の下の平等について定めつつ、天皇の世襲制を第2条で定めております。また、第5条には摂政の制度がございますし、第8条等において皇室の存在を規定しております。したがって、憲法は天皇皇族につきまして、一般国民と異なる特殊な地位を認めていると解されます。かかる地位は憲法第14条に規定する門地による差別の例外であると考えられます。

〇立憲民主党馬淵澄夫

 天皇皇族は一般国民と違って平等原則が及ばないということです。一般国民は当然ながら、この憲法14条の平等原則が及ぶと、では旧宮家の男系男子は現在一般国民です。したがって、平等原則が及ぶという結論になり、一般国民を皇室への養子縁組の対象として選ぶことは、血統や家系等の家柄に基づき地位を与えることになる。これは他の一般国民との間で平等原則に反するおそれがあるとともに、旧宮家以外の天皇の子孫たる男系男子との間でも平等原則違反が生じるおそれがあると考えられますが、内閣法制局、端的にお答えください、いかがですか。

〇内閣法制局木村陽一第一部長

 憲法第14条第1項は、すべて国民は法の下の平等である旨を定めております。お尋ねの一般国民である方々には当然、その保障が及ぶということでございます。ただ、もっとも、一般国民であっても、旧宮家に属する方々という皇統に属する方々が皇族の身分を取得するような制度を念頭に置かれたお尋ねだといたしますれば、具体的な制度が明らかではございませんけれども、一般論としては、皇族という憲法第14条の例外として認められた特殊の地位を取得するものでございますので、憲法第14条の問題は生じないものと考えております

〇立憲民主党馬淵澄夫
 それは取得をした前提であって、現時点においては一般国民である旧宮家の男系男子、これはこの14条の平等原則が及ぶということでないですか。もう一度確認します。仮定はいりませんよ。私が聞いているのは今確認したことですから。皇族の資格取得などという前提はありませんよ

〇内閣法制局木村陽一第一部長

 憲法は第14条の例外として、皇族という特殊な地位を認めております。その範囲は法律の定めるところにより委ねられているというふうに考えております。したがいまして、法律の定めるところに従って皇族の地位を取得するということになりますので、一般論でございますけれども、憲法の認めるところであると考えております

内閣法制局木村陽一第一部長答弁の意義と馬淵議員質疑の違和感

内閣法制局木村陽一第一部長答弁は、皇位継承問題に関する有識者会議での報告書で触れられた問題について、一定の整理をつけたという意義があります。

「憲法14条の問題」を述べる者は複数いましたが、憲法学者の宍戸常寿による論点提示の形式で為された実質的な女系天皇積極推進論がありました。

馬淵議員の質疑部分と、内閣法制局の木村第一部長の答弁との対応関係を確認してみてください。木村第一部長は、明確に旧皇族(旧宮家)の皇籍復帰(皇籍取得)の場面に関して述べています。

文脈からは、木村答弁には「お尋ねの一般国民である方々」とあるので、馬淵議員の質疑にある「旧宮家の男系男子」に限定した話と理解するとして、皇籍取得の方法は①皇籍復帰の制度を設ける②養子縁組により皇籍を取得するといった方法があります。

なので、いずれかの方法を採った場合に出てくるかもしれない問題については踏み込んでいない、ということにはなります。

「『旧宮家以外の天皇の子孫たる男系男子(皇別摂家)との間』でも平等原則違反が生じるおそれ」も無い

馬淵議員質疑の中で「『旧宮家以外の天皇の子孫たる男系男子との間』でも平等原則違反が生じるおそれ」という言及がありました。

要するに、「旧皇族以外の一般国民」との比較ではなく、旧皇族と言われる家系ではない家系で、歴代天皇の男系男子の子孫の血筋の方々との比較をしているわけです。

こうした人たちは「皇別摂家」と呼ばれ、五摂家のうち江戸時代に皇族が養子に入って相続した後の三家(近衛家・一条家・鷹司家)およびその男系子孫を指します。

内閣法制局は、これらの人たちとの比較でも平等違反は生じない、と答弁したことになります。

「天皇皇族に違憲の疑義がかけられるのを防ぐべき」という正当な懸念を装った永遠の難癖

ところで、馬淵議員質疑の言葉には違和感があります。

木村答弁を無視して「皇族の資格取得などという前提はありませんよ。」などとしていますが、結局はその前提に対して再答弁されています。

上で引用した馬淵議員の他の発言の下線部や、引用した以降の質疑の発言においても、なんとかして「違憲なんだ」ということにしたい意図、質疑を聞いた人や議事録を読んだ人にそのように印象付けたい意図がにじみ出ています。

これは馬淵議員だけの態度ではありません。

有識者会議の委員や、商業論客、ネット上のアカウントに至るまで、あらゆるところで見かけます。注意すべきです。

彼らは「天皇皇族に違憲の疑義がかけられるのを防ぐべき」という永遠の難癖をつけようとしているのです。

一見、天皇皇室の正統性を慮った正当な懸念なように見えるのでやっかいですが、何のことはありません、「天皇は新憲法の基本的人権理念に反している」という、かつての(今も言ってる者は居る)憲法学界隈上の難癖(「論点」と言う者もいるが)の焼き直しです。

私は、旧皇族の皇籍復帰に関してこのような論法を採る人らには複数の階層があると捉えています。

  1. 皇統断絶派
  2. 女系天皇推進派
  3. 英雄になりたい人たち
  4. 現実を停滞させたい人たち
  5. なんとなく疑問が解消されない人たち

皇統断絶派は外国勢力や共産党などで本心で天皇皇室を無くしたい人らです。

女系天皇推進派は、天皇皇室の存在は維持したいとしながらも、現在皇位継承権を持っておられる皇族方を蔑ろにし、特定の皇族をアイドル化させたりしている連中です。

③「英雄になりたい人たち」というのは、『天皇皇室の正統性を慮った正当な懸念』であるとして逆張りをするというか、特定の憲法学者らの権威を借りるだけで自分で考えることはしないような人たちが居るようです。この手の人たちは悪意は無いと思ってますが、議論の肥やしを提供するのではなく、単に英雄視されたい、ちやほやされたいだけなんだな、と私は感じています。

④「現実を停滞させたい人たち」は、現実が先に進むと困る人たちです。習った既存の法理論を振りかざして居たい、賞味期限切れになりたくない、解決しては困る、というような人たちです。

3番と4番に共通してるのは、彼らは往々にして「議論が大事」と言うことです。その割に反対意見を想定した再反論とかしてなくて、浅すぎるよなと。彼らは「議論状況」が心地よいだけです。

現段階でいくら問題点を潰した(と思った)ところで、①や②からは、将来も憲法上の疑義があるとして正統性にケチをつけるという事態は起こり得るのであって、一定レベルの合理的な説明があればそれでよい。もちろん、政治運動ではなく、憲法学上の真理探究としての批判分析であれば、差し支えありません(それを装っているかどうかは言動を見ればわかる)。

⑤「なんとなく疑問が解消されない人たち」というのは、その字面の通りで、純粋に整理がついていないだけの人たちです。「憲法学者が言ってるんだからもしかしたらそうかも…」みたいに考えてしまう人が出てしまうことは、仕方がないでしょう。私も、以下の論稿を書くまではここに属していたかもしれません。

再掲

以上:SNSシェア,はてなブックマーク,ブログ,note等でのご紹介をお願いします