事実を整える

Nathan(ねーさん) 法的観点を含む社会問題についても、事実に基づいて整理します。

【皇籍復帰】松野官房長官「旧11宮家の方々の意向について政府として具体的に把握・接触は行っていない」

現段階での皇位継承の議論状況について

内閣法制局「皇籍復帰は一般論として憲法14条に反しない」

令和5年11月15日、立憲民主党の馬淵澄夫議員の質疑に対して内閣法制局が「旧宮家の男系男子の皇籍復帰は制度によるが一般論として憲法14条に反しない」という趣旨の答弁をしました。

本稿は馬淵議員の続きの質疑内容の書き起こしと、それに対する注意点、今後の展開の見通しについて触れます。

馬淵澄夫議員:憲法2条「皇位は世襲のもの」解釈を再確認

〇立憲民主党馬淵澄夫

 これは法律によって定められた場合ということでありますから、今はそうなっておりません。したがって、現時点においては、この旧宮家の男系男子の方々は一般国民という扱いですから、門地差別の疑いがあるというおそれがあるということについては、これは否定できない部分だと思います。先ほどらい、法制局はそのことを飛ばして、法律で認められた前提でしかお答えいただいていませんので、これはいつまでやっても時間がなくなりますので止めておきますが、現時点においては一般国民でありますから、平等原則が及ぶ、門地の差別のおそれがあるということになります。

 その上で憲法2条。憲法2条に関しては、これは皇位は世襲のものであって、国会の議決した皇室典範の定めるところにより、これを継承すると規定しています。この世襲のものという文言は、平成24年2月13日、第180回国会の衆議院予算委員会で、山本庸幸 内閣法制局長官は答弁で、「憲法2条は皇位が世襲であることのみを定めており、それ以外の皇位継承にかかることについては、全て法律たる皇室典範の定めるところによるということでございます」と述べています。内閣法制局これも端的にお願いしますね。皇位は世襲のみを要件としているということでありますが、これは間違いないですね。

〇内閣法制局木村陽一第1部長
 御指摘の山本内閣法制局長官の答弁で示されました見解は現在も変わっておりません。

「法律で認められた前提で」というのは、当たり前です。

現段階の皇室典範では、9条で皇族が養子を取ることを禁止していますし、「皇籍復帰」という制度は規定されていないからです。ただ、皇室の歴史上、先例があるので検討されているということです。

憲法2条の「皇位は世襲のもの」については以下参照。

令和3年6月2日の衆議院内閣委員会において、玄葉光一郎議員の質疑に対して加藤勝信官房長官が 「憲法2条の「世襲」には女系が含まれる」と、従来の政府答弁からは踏み込んだ答弁をしていました。

「天皇皇族に違憲の疑義がかけられるのを防げ」という『法解釈のゼロリスク論』

〇立憲民主党馬淵澄夫

 こういう形で皇室典範でいわゆる男系男子ということを示しているのは下位法によるということであり、憲法ではあくまでも世襲ということであります。つまり、男系女系、男性女性の双方が含まれるということになる。その上でですね、先ほど申し上げた有識者の報告書では、「皇族が男系による継承積み重ねてきたことを踏まえると養子となり、皇族となる者も皇統に属する男系の男子に該当するものに限ることが適切である」という記載になっています。つまり、これは歴史的な経緯、このことは私も決して蔑ろにするものではないと思いますが、そうした経緯と憲法を踏まえた法律論、これを全く混同してしまっている。やはりここは憲法解釈に疑義があるかないかということを明らかにしていかなければなりません。こうした14条2条に対するおそれがあるというところの中で、松野長官には私は前回もいろいろ確認しましたが、なかなか十分なお答えいただけなかったので、きょうは松野長官お越しいただきましたから確認をしたいんですが、事実関係で2021年3月26日の参議院の予算委員会、加藤勝信官房長官は、旧宮家の男性の皇族皇籍復帰について考えを問われたところ、「そうした皆さんに確認したことはない、していく考えもない。これは変わらない」と、こう答弁されています。今回の有識者会議の報告書は、養子縁組案が具体的な方策として盛り込まれ、国会の検討対象とされています。状況は2021年から大きく変わっています。今、この状況の中で当事者の御意向を無視して勝手に制度化を進めることはできないはずです。

 さて、こうした差し迫った状況のある中、松野官房長官、今申し上げたような形で、具体化しなければならない状況の中で、政府が予め当事者の御意向を確認したことはありますか。端的にお答えください。

〇松野官房長官

 馬淵先生にお答えをいたします。有識者会議の報告書においては、皇族数を確保する方策の一つとして、養子縁組により皇統に属する男系の男子を皇族とする方策を、制度論としてお示しをしたところでありますけれども、昭和22年10月に皇族の身分を離れた、いわゆる旧11宮家の子孫の方々について、政府として具体的に把握したり、接触を行っているものではありません。

「憲法解釈に疑義があるかないか」

「14条2条に対するおそれがあるというところの中」

馬淵議員の発言ですが、断定していないのがわかるでしょうか?

これは彼自身の見解とは別である、他人がそう思う可能性を示唆しています。

前回記事でも書きましたが、「そう言われることがないようにせよ」というものです。「天皇皇族に違憲の疑義がかけられるのを防ぐべき」という、一見すると天皇皇室の正統性を慮った正当な懸念なように見えるものです。

この懸念は、一定程度までは正当でしょう。

しかし、それを超えるレベルの懸念を延々と論じる、という難癖を付ける論者が多方面で観測されます。『法解釈のゼロリスク論』を求めてはいけない。

旧11宮家の男性の皇族皇籍復帰の意向:政府として具体的に把握・接触はしていない

〇立憲民主党馬淵澄夫

 接触が行っていない。加藤勝信長官のときにはですね、これからもないというふうにおっしゃっていました。行う予定もないということですか。

〇松野官房長官

 お答えをいたします。今後ですね、国会において具体的な制度についての御議論があるかと存じますので、それらの御議論を経て適切に対応していきたいと考えております。

松野官房長官の答弁は従来の政府通りです。

令和3年3月26日参議院予算委員会 当時の加藤勝信官房長官は「今までどおりというか、今までのスタンスは、そうした皆さんに確認をしたことはないし、していく考えもないと、これは変わらない」と答弁しています。

さらに遡って令和2年2月10日の衆議院予算委で当時の菅官房長官が「旧宮家の子孫の方々の皇籍取得の意向を政府として確認したことは無い、予定も考えていない」としていました。

○山尾志桜里委員 ~省略~ 長官に確認しますけれども、今現在においても、こういった旧宮家の子孫の方々の皇籍取得、この意向を政府として確認したことはありませんね。

○菅国務大臣 ありません。

○山尾志桜里委員 これからこうした御意向を確認する具体的な予定はありますか。

○菅国務大臣 まず私どもがやらなきゃならないのは、国会の附帯決議、それに基づいてのことであるというふうに思っています。ですから、今までやっておりませんし、そこは考えておりません。

これらは「未来永劫永遠に確認しない」などという意味ではなく、「先にやることがある」という意味であるのは明らかです。

旧皇族の男系男子に意向確認をする時期が、制度を完全に作ってからなのか、その道筋は付けた状況になってからなのか、それよりも前の段階にするのか?という点については、少なくとも道筋は付けなければいけないだろう、というのが歴史的経緯から言えます。

制度化されてからでは遅い?旧皇族の皇籍離脱の歴史的経緯と手続の順番の筋論

〇立憲民主党馬淵澄夫

 長官確認ですが、制度化されてからでは遅いですよね。これからの議論といいますが、国会の議論が始まったらじゃあ直ちにアプローチ何らかの方法をとるということですか。制度化されてからでは遅いですよ。お答えください。

〇松野官房長官

 前提の部分を繰り返してございますから省略させていただきますが、御指摘の事項につきましては、個人のプライバシーにもかかわることであり、慎重な対応が必要だと考えております。

〇立憲民主党馬淵澄夫

 プライバシーが大事なことは当然です。したがって、そのような状況というものについて、何か固有名詞を挙げるなどとか、そういったことは当然ながら憚られるものだと思います。しかし、国会で議論を真剣に行っていかなければならないという状況に際して、政府が当事者にアプローチ、或いはどのような意向かということについて、何も手だてを打たないということはこれはあり得ないと思います。長官、私はだから繰り返し言いますよ。個別の名前だとか、何か具体的なことを申せと言っているのではありません。今後、それは制度化される前に、有識者会議報告書に対して総裁の直轄の議論も始まるんでしょう、これから立法府で議論していく過程の中で、制度化される前にアプローチするということを、お考えはありませんか。お答えください。

〇松野官房長官

 お答えをいたします。先ほど申し上げましたとおり、御指摘の事項については個人のプライバシーにかかわることであり、慎重な対応が必要ということが前提でございますが、国会での御議論を注視をしながらですね、そこにある御議論の中において適切に対応していきたいと考えております。

〇立憲民主党馬淵澄夫

 議論の中で適切に対応ということで前向きな御答弁だというふうに受けとめます。以上です。終わります。

馬淵議員が「制度化される前に…」と何度も口走っているのが気になりますね。

そのようにする必然性について何ら述べられても居ません。

拙速な意思決定は避けるべきですが、制度化を早期に進めることで皇室の状況を放置しないことは求められているとは言えます。既に平成17年に最初の有識者会議の報告書が出てから約20年が経過しようとしており、当時の政治家も残っている者が少なくなってしまうので。

また、旧皇族の皇籍離脱の歴史的経緯からは、政府が制度面でも人員・施設面でも体制を整える筋道が立った上でお願いに上がるというのが本来の筋です。GHQの皇室財産縮減を狙う覚書の事実上の影響によるものだったからです。

また、「皇族方の皇籍復帰の意向」については、ライターの保阪正康氏がかつて取材した内容が誌面に掲載されたことがあります。

この際、旧皇族方は、皇籍復帰の意思を明言はしていないものの、否定もしていませんでした。旧十一宮家の当主たちが「皇室典範問題については一切意見を述べない」ことで意見を一致させていたとする旧皇族の竹田恒泰氏の証言があります。

「旧皇族(旧宮家)は復帰の意思は無いと回答」「旧皇族復帰は竹田恒泰が皇族になる」という話の実際

先に「皇籍復帰の意向」が明言されてしまうと、マスメディア・週刊誌らのターゲットにされてしまう。「天皇の座を狙う者」と扱われる危険、ネットでの誹謗中傷の対象となる懸念が出てくる、という観点からも、プライバシーを守る手続は重要と言えます。

「意向確認するが公にしなければよい」という声が聞こえそうですが、国会での議論の段階で固有名詞が念頭にあるような状況は、やはり上述の懸念が起こり、議論が歪んだものになる可能性もあるのではないかと思われます。

予想される皇室典範の改正の仕方を考えれば、意向確認を国会での議論より先行させることが必然とは思われません。

まとめ:福沢諭吉の「帝室論」:「帝室は政治社外のものなり」皇室制度決定の在り方について

安定的な皇位継承策につき立法府(国会)で議論していく、というのは既定路線です。

◎天皇の退位等に関する皇室典範特例法(平成二九年六月一六日法律第六三号)

○附帯決議(平成二九年六月七日)

一 政府は、安定的な皇位継承を確保するための諸課題、女性宮家の創設等について、皇族方の御年齢からしても先延ばしすることはできない重要な課題であることに鑑み、本法施行後速やかに、皇族方の御事情等を踏まえ、全体として整合性が取れるよう検討を行い、その結果を、速やかに国会に報告すること。

二 一の報告を受けた場合においては、国会は、安定的な皇位継承を確保するための方策について、「立法府の総意」が取りまとめられるよう検討を行うものとすること

三 政府は、本法施行に伴い元号を改める場合においては、改元に伴って国民生活に支障が生ずることがないようにするとともに、本法施行に関連するその他の各般の措置の実施に当たっては、広く国民の理解が得られるものとなるよう、万全の配慮を行うこと。
 右決議する。

附帯決議の一の政府による国会への報告は、令和3年12月22日 の「天皇の退位等に関する皇室典範特例法案に対する附帯決議」に関する有識者会議報告となりました。

附帯決議のニにより、今後、国会で検討を行うということが書かれています。

ただ、当該報告書には同時に以下書かれています。

 これらの方策について、国民の間には、様々な受け止めもあるかと思います。ここにお示しした会議の議論の結果が、国会を始め各方面における検討に資するものとなることを期待するものです。

 その際、福沢諭吉が「帝室論」の中で、「帝室は政治社外のものなり」と述べているように、この皇室をめぐる課題が、政争の対象になったり、国論を二分したりするようなことはあってはならないものと考えます。静ひつな環境の中で落ち着いた検討を行っていただきたいと願っています。  

参考:福沢諭吉 帝室論

国会での議論はするべきですが、それが不適切な話題もあるのではないでしょうか?

立后及び皇族男子の婚姻の際と同じく、養子縁組の決め方の段階では、皇室会議の議を経るものとするのが適切なように感じます。

上掲の福澤の論は、基本的な構成員が皇族方で構成されていた皇族会議の時代のものですが、宮務と政務の法体系がそれぞれ独立していた当時の制度の方が、より望ましいのではないか?ということは感じています。

宮務を政治マターにしている現行皇室典範の位置づけ|Nathan(ねーさん)

いずれにしても、皇位継承に関する議論がエンタメ的に取り上げられて騒がれ、歪められないようにして頂きたいと思います。

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