論文を真摯に読んでいるならこんな説明になるわけがない。
- 論文内容を捏造・歪曲していたメンタリストDaiGo
- メンタリストDaiGo「精液の99%は麻薬成分」動画
- 「精漿の成分で女性のうつ病防止」元ネタニューヨーク州立大学論文
- 参考文献に論文リンク無し、他者の著書等を張り付けているだけ
- ギャラップらの研究結果の再現に失敗した研究あり
- エビデンスレベル
- まとめ:誇張表現を超えた論文捏造をしているメンタリスト
論文内容を捏造・歪曲していたメンタリストDaiGo
最初に結論を言うと、メンタリストDaiGoの2018年7月31日にUPされた「精液の99%は麻薬成分〜男女の射出物の科学 」という動画内の説明は、以下の捏造と歪曲が含まれています。
- 複数の研究論文によって根拠づけられているかのように説明しているが、実は1つの論文の情報だけを語っている
- 論文の内容の説明が誇張的
- 研究において実施されていない内容を「この研究で統制・コントロールした結果、証明された」と虚偽の説明をしている
メンタリストDaiGo「精液の99%は麻薬成分」動画
メンタリストDaiGoの精液の99%は麻薬成分〜男女の射出物の科学 - YouTubeという動画で以下の発言をしていました。
12:18 中出しすると鬱が治るっていう面白い研究があって、そうですよ、中に出された女性は鬱が治るんです。でこれ別に、いわゆる避妊をするなということではなくてそういう研究があって、実際にですね、そうすると要は膣壁から精漿の成分が吸収されますのでそうすると何が起きるかと言うと、抗うつ作用があるプロラクチンとかが含まれれてるんです。プロラクチンとか、抗うつ〇×△って言われる、要するにうつにならないように気分をポジティブにしてくれるホルモンがいっぱい精漿中には含まれていて…
ー省略ー
13:19 実際にですね、そういう研究もいっぱいあって、いろんなですね科学者、たとえばギャラップさんだとかバーチさんだとか、それから心理学者のスティーブン・プラテックさんですね、とかの研究でも分かっていてですね、これらの研究で精液をですね、精漿の部分のホルモンのカクテルが抗うつ剤だと。生ですると鬱にならないっていう。実際これ研究してみると、いわゆる普段からパートナーとゴムをつけないで生でしている人たちと、ゴムをつけている人たちと比べると鬱病の発症リスクが全然違ったんですね。
ー省略ー
14:02 実際、他の研究もあるんですよ。ニューヨーク州立大学のアルバニー校のですね、293人の女子学生を調べたっていう研究なんです…
ー省略ー
14:21 ニューヨーク州立大学アルバニー校の293人の女子学生に対して彼らは調査を行いました、ギャラップさん、バーチさん、心理学者のスティーブン・プラテックさんがですね。ストレートです。あなた生でしてますか?ってアンケートとったんですよ。で、生でしてるかってことを調査して、かつ、鬱病の指標となる〇×△で「ベック抑鬱評価尺度」ってこれよく、うつ病のレベルとか図ったりとか、抑うつのレベルをですね図るために使われるテストってのを行ったんですね、それで、生でしている人とそうでない人は抑うつの度合いはどれくらい変わるのかってことを調べたんです。そしたらですね、性交頻度よくなる、たとえばよく、たくさん性交する人、セックスする人ってのは基本的にはメンタルがよくなるよとか気分がよくなるよとか夫婦関係だとかセックスレスは良くないですよとか出てくるんですけど、調べてみるとですね、性交頻度を、する頻度を揃えてもゴムをまったく使わない女性ってのは、ときどき又は常にゴムを使う女性よりもですね、鬱の症状が有意に少なくなったっていうことが分かっているんですね。だからつまり、頻度じゃなくてつけているかつけていないか、ゴムをつけているかどうか生でしているどうかっていうのが実は大きく鬱病になるかどうかっていうことですね、左右してるだろうってことなんですね…
ー省略ー
15:57 そして頻度とか揃えても鬱になりにくかったってことが分かってるんですね。ちなみに面白いのが、じゃあゴム付けててもたとえば毎日やっても大丈夫ですか?って質問が出ると思うんですけどこれにもお答えします。彼らの研究、ニューヨーク州立大学の研究によると、頻度がいかに多くてもゴム有りだと、ゴムが有りだと(性交を)しないのと変わらないぐらいなんです。鬱病の尺度だけで言ったら。もちろん、夫婦関係とか良くなるのかもしれないんですけど、ゴムつけてやっちゃったら鬱病の発症リスクってのは変わらないんですね。ゴム無しでやれば回数が少なければ鬱病の発症リスクは減るんだけど、ゴムつけてたらたくさんやったところで鬱病の発症リスクが落ちなかったんですよ。つまり、どういうことかというとそういうことです。つまり、精漿の中に含まれている物質が粘膜を通じて、膣壁の粘膜を通じて毛細血管に取り込まれて、それで脳に運ばれて、鬱病のリスク防止になるってことがこれで証明されてるわけですね。つまり、だからすること自体が鬱病を抑制してくれるんだったらゴムつけてててもいっぱいしている人の方がゴム無しで少なくしかしてない人よりも鬱病になりづらいはずなのに、実はですね、ゴム無しの人の方が鬱病になりづらかったんですね。
-省略ー
17:22 実際にですねこの研究面白くていろんなものを調整しました、研究すると、でも言うても他のことが影響してるんじゃないの?っていう方がいらっしゃるかと思うんですけど、一応ですねピルの使用とか、あとはですね最後に男女間で性交してからどれぐらいの日数が経っているのかとか、性交の頻度だったりだとか、相手の関係、たとえばラブラブの状態でしてるのか、それとももうそろそろ終わりみたいな感じで義務的事務的にしてるのかとか、そういったものとかですね関係の持続度、長い間付き合っている夫婦とかカップルなのか、それぞれの付き合ってる仲とか、そういったことをですね統制、コントロールしても変わらなかったんですね。だから生ですることだけが鬱病の発症リスクが下げてくれるってことが分かったんですね。
後述しますが、赤字で書いてある部分は虚偽の内容あるいは論文の内容を誇張・歪曲したものです。
「精漿の成分で女性のうつ病防止」元ネタニューヨーク州立大学論文
Does semen have antidepressant properties?
(PDF) Does Semen Have Antidepressant Properties?
メンタリストが「精漿の成分で女性のうつ病防止」と言っている話の元ネタは、2002年の"Does semen have antidepressant properties?"というタイトルのものです。
とても短い論文なので中身を見ました。
研究の方法
ニューヨーク州立大学アルバニー校の293人の女子学生に対して以下の質問を含めたアンケートを行いました。
- 性交渉の頻度
- 最後の性交渉からの日数
- 避妊方法の種類
性的に活発な女性を対象に、コンドームの使用を生殖管内での精液の存在を示す間接的な指標とし、各回答者には、抑うつ症状の個人差を測る尺度として広く用いられているBeck Depression Inventoryを記入してもらいました。
要するに、コンドームを使用したか否かしかわからず、血液検査等によって直接的に成分検査をしたわけではありません。
この研究ではなぜか「コンドームを使用しなかった場合には100%中出しする」というのが暗黙の前提になってますが、外出しをした可能性については全く触れていません。
メンタリストの説明は、この点を誇張・歪曲していることが明らかです。
なお、「精液中の成分の一部に抑うつ作用のある物質が含まれている」ことは判明していて(Ney (1986))、「精液に含まれるいくつかの生物学的生成物(エストロゲン、テストステロン、プロスタグランジンなど)を膣が吸収し、投与後数時間で女性の血流において測定されること」が研究で明らかになっていますが(先行研究⇒Benziger & Edleson, 1983)、アブストラクト部分を見ると吸収率には物質によって違いがあるようです。
結果
- コンドームを使わずにセックスをしていた女性は、コンドームを使っていた女性よりもうつ病のスコアが低かった。
- コンドームなしでセックスをしていた女性は、完全にセックスを控えていた女性に比べて、うつ病のスコアが低かった。
- セックスをしていない女性の抑うつスコアは、コンドームを使用している女性の抑うつスコアと変わらなかった。
性行為をしていない人とコンドームを使用している人と差がなかったということは、性行為そのものがうつ病を抑制するわけではないということが示唆されます。
このような結果となった理由について、いくつかの可能性が考えられています。
考察
以下、論文中の重要部分の和訳部分を載せつつコメントを入れていきます。
決定的な証拠を得るためには、生殖管内での精液の存在をより直接的に操作する必要があり、理想的には、レシピエント(被験者となった女性)の血液中の精液成分を測定する必要がある。
このように、論文著者自身が、研究の限界を自覚し、より正確な理解を得るための条件を呈示しています。
「この関係を説明する1つの方法として、コンドームを使用しない女性は、抑うつ症状を緩和するために部分的に性交渉を行っているのではないかと考えられます。この仮説を裏付けるように、私たちは、性交渉の頻度がコンドーム使用の一貫性に反比例することを発見しました(図1参照)。図1)。)実際、コンドームを使用していない女性は、コンドームを使用している女性の約2倍の頻度で性交渉を行っていました。」
コンドームの着用頻度は性交渉の頻度に反比例する、という傾向がみられたとの指摘。
ですから、精液の物質が影響を与えたのではなく、性交渉の頻度が高いことが抑うつ指標も低くなっていることに影響を与えたのでではないか、という反論を想定しているわけです。
精液が抗うつ剤として機能しているという命題に対して、もう一つの説明がある。コンドームを使用しない性的に活発な女性の方が 鬱病が少ないのは、単にセックスの回数が多かったからだと考えられる。
ただ、この点については、以下指摘しています。
しかし、コンドームを使用していない女性とコンドームを使用している女性を比較すると 性交渉の頻度は、Beck Depression Inventoryのスコアと相関しなかった。
また、抑うつスコアに影響を与えた別の可能性も見ています。
今回のサンプルでコンドームを使用しなかった性的に活発な女性の10人中7人以上は、経口避妊薬を使用していたことから、経口避妊薬には抑うつ症状を相殺したり拮抗したりする何かがあるのかもしれない。」
経口避妊薬の中にはエストロゲンベースのものがあり、それは若い女性の気分を高揚させることが報告されている、とも書いてます。
この点は判断不能なため可能性の呈示に留めています。
つまり、メンタリストの発言中、「ピルの使用」については「統制・コントロール」していないわけですから、この点においてメンタリストの説明は虚偽です。
3つ目の可能性は、コンドームを使用しない人の方が性感染症にかかる可能性が高いため、コンドームなしでセックスをすることが高リスク行動の指標となる可能性です。このように、リスクを取る行動の個人差が、コンドームの使用と混同されている可能性があるのではないかと考えられます。
しかし、いくつかの研究では、性的リスクをとる行動の様々な例が、Beck Depression Inventoryのスコアと相関しないことが示されている。
抑うつスコアに内在する誤謬の可能性として「高リスク行動」を取るような人か否か、という者がある可能性について、既に先行研究で相関しないという指摘があることを紹介しています。
また、コンドームを使用していない女性の方が憂鬱度が低かったのは、彼女たちが揺るぎない・長期的な性的関係を築いていたから、と言う仮説があります。が、性的関係期間の長さは 抑うつ症状の個人差とは相関していませんでした。
性的関係を持った期間(交際期間)の長短は抑うつスコアとは相関していないという指摘があります。
が、性交渉前後において「ラブラブ」だったのか「義務的事務的」だったのかという点までは調べていません。この点において「統制・コントロールしていた」とするメンタリストの説明は虚偽です。
作用部位を予備的に決定する一つの明白な方法は、避妊のためにダイアフラムを使用している女性と、ダイアフラムもコンドームも使用していない女性を比較すること。
ペッサリーと呼ばれることもあるダイアフラムという避妊具を使用した人と、コンドームを使用した人と、いずれも使用していない人とで比較すれば、精液の作用部位の決定に役立つだろう、という提案がなされていますが、これは本研究では実施されていません。
参考文献に論文リンク無し、他者の著書等を張り付けているだけ
当該動画(youtube版)では「参考文献」という語がありますが、リンク先は書かれておらず、ニコニコ動画の方に追加的に書かれている書籍がありました。
なぜペニスはそんな形なのか ヒトについての不謹慎で真面目な科学 ジェシー・ベリング/著 鈴木光太郎/訳という一般向け書籍が「参考文献」とされています。
まさか、元論文を読んでない?
この書籍の中身はまだ未確認ですが…
ギャラップらの研究結果の再現に失敗した研究あり
コンドーム無しの膣性交がメンタルヘルスの向上に関係しているということを示唆する論文は複数あるようですが、その理由として「考えられている」ものには「精漿内の物質が吸収される」以外のものが挙げられています。たとえばコスタとブロディによる以下のレター。
しかし、このレターに対しては以下の返答があります
しかし、彼らの主張の中には、さらなる議論が必要であるものがあります。
これらの関連性は、未婚の成人参加者を対象とした我々の調査結果とは逆の結果である。
参照した3つの研究の内の1つは南アフリカのコミュニティを対象にしていることからアメリカには一般化できない可能性があること、自己申告制の質問形式であることから「社会的望ましさのバイアス」によって自らの性行動を偽っている可能性があることなどから、彼らの述べた健康上の利点は決定的ではない、としています。
つまり、論文の結果から推論されている内容について、「より正確に検証すべき」どころではなく、「疑義が呈されている」わけです。
そして、2014年のPavolProkopによる261人のスロバキア人女性を対象にした研究では「ギャラップらの研究結果の再現に失敗した」というものまで出ています。
エビデンスレベル
GoogleスカラーでDoes semen have antidepressant properties?を検索すると⇒https://scholar.google.co.jp/
100程度の引用が為されているようですが、後続の研究として考察部分で示された方法が試された研究は為されていないようです。19年も経過したにもかかわらず。
さらに、「精液が鬱病を抑制する」という内容の一般メディアの記事が2~3年前のものでも見つかりますが、根拠としているのは悉く2002年のDoes semen have antidepressant properties?であり、それ以外の論文はありません。
「レシピエント(被験者となった女性)の血液中の精液成分を測定・経口避妊薬の成分の影響・ダイアフラム使用者との比較」ということを2002年の論文で言及していたのに、この点を調べた論文が無いのです。
前項の事情を併せると、「精液で女性のうつ病防止」のエビデンスレベルは、そんなに高いものではないということになります。
まとめ:誇張表現を超えた論文捏造をしているメンタリスト
- 「中出しすると鬱が治る研究」
⇒まぁそういう可能性を示唆する論文だから多少の誇張はいいでしょう - 「ピルの使用…ラブラブの状態でしてるのか、それとももうそろそろ終わりみたいな感じで義務的事務的にしてるのかとか、そういったことをですね統制、コントロールしても変わらなかった」
⇒明確な虚偽 - 「(コンドーム使用無しのセックスについて)そういう研究もいっぱいあって」
⇒精漿内の物質が影響を与えた、という意味なら1つしか見当たらない。それ以外の可能性について検討した研究は、結果的に複数あるが、動画内でメンタリストが言及したのは1つの論文の情報だけなので、歪曲した情報伝達 - メンタリストが参照した論文は「証明した」のではなく「考察」に過ぎない
- メンタリスト参照論文と同様の手法をした別の研究では別の結果が出ているケースがある
元論文を誠実に読むと、メンタリストが論文内容を捏造し、周辺事情を歪曲させているとしか言えません。
さらには、元論文の考察について否定的な研究があることをも隠蔽している?(気づいていないだけかもしれないが)という事実が明らかになりました。
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