事実を整える

Nathan(ねーさん) 法的観点を含む社会問題についても、事実に基づいて整理します。

濃厚接触者の定義とは:医学用語ではなく明確な定義はないが疾患毎に記述

濃厚接触者の定義は疾患毎に異なる

※4月20日の定義変更により本エントリを若干修正

濃厚接触者の定義とは何でしょうか?

検索してもハッキリと書かれている所が無いのでここでまとめます。

「濃厚接触者」の定義とは:医学用語ではない

「濃厚接触者」とは「医学用語ではありません

そのため、明確な定義はありません。

参考:新型肺炎患者の「濃厚接触」とは? 厚労省に定義を聞くと... : J-CASTニュース⇒厚労省の結核感染症課が「明確な定義はない」としている。白鴎大学の岡田晴恵教授も「ひるおび!」1月29日の放送で「医学用語ではない」と発言していた。

しかし、症例毎に厚労省が記述することがあります。

新型肺炎コロナウィルス対策においても一応の定義が書かれました。

具体的に見ていきましょう

新型肺炎コロナウィルスSARS-Cov-2感染症の患者等における濃厚接触者の意味

※過去の記述は【2月6日版までの本記事の魚拓:濃厚接触者の定義とは:医学用語ではなく明確な定義はないが疾患毎に記述 - 事実を整える】を参照してください。

新型コロナウイルス感染症患者に対する積極的疫学調査実施要領(2020年4月20日暫定版)魚拓

●「濃厚接触者」とは、「患者(確定例)」の感染可能期間に接触した者のうち、次の範囲に該当する者である。
・ 患者(確定例)と同居あるいは長時間の接触(車内、航空機内等を含む)があった者
・ 適切な感染防護無しに患者(確定例)を診察、看護若しくは介護していた者
・ 患者(確定例)の気道分泌液もしくは体液等の汚染物質に直接触れた可能性が高い者
・ その他: 手で触れることの出来る距離(目安として 1 メートル)で、必要な感染予防策なしで、「患者(確定例)」と 15 分以上の接触があった者(周辺の環境や接触の状況等個々の状況から患者の感染性を総合的に判断する)。

ポイントをまとめると

  • 同居のみならず「長時間の接触」のみで該当し得る
  • 体液等の汚染物質に直接触れただけでなく「その可能性が高い者」も
  • 物理的に身体が触れ合わなくとも「接触」になり得る

国立感染症研究所が用いるCOVID-19の濃厚接触者の定義の変遷

国立感染症研究所が用いるCOVID-19の濃厚接触者の定義の変遷と、主な内容変更の動きは以下になります。

1月17日:「新型コロナウイルス(Novel Coronavirus:nCoV)に対する積極的疫学調査実施要領(2020年1月17日暫定版)」

2月6日:「新型コロナウイルス感染症患者に対する積極的疫学調査実施要領(2020年2月6日暫定版)」⇒濃厚接触者の対象が広がるよう変更

2月27日:新型コロナウイルス感染症患者に対する積極的疫学調査実施要領(2020年2月27日暫定版)⇒クラスター対策が追記。「新型コロナウイルス感染症が疑われる」という記述部分が全て「患者(確定例)」に変更

3月12日:新型コロナウイルス感染症患者に対する積極的疫学調査実施要領(2020年3月12日暫定版)⇒家族に新型コロナウイルス感染が疑われる場合の注意点が追記

4月20日:新型コロナウイルス感染症患者に対する積極的疫学調査実施要領(2020年4月20日暫定版)⇒濃厚接触者の対象が広がるよう変更、感染可能期間概念の追加

なお、1月23日付の厚労省文書として「新型コロナウイルスに関する検査対応について(協力依頼)」があり、そこでは2月6日版以前の定義が記述してある。

物理的に肌が触れなくとも濃厚接触になり得る

上記定義を見ても分かるように、物理的に肌が触れなくとも濃厚接触になり得ます

また、上記の文書は「新型肺炎コロナウィルスに対するもの」という断りが付いており、定義の4には「患者の感染性を総合的に判断する」と書かれています。

このことから、上記定義は凡そ一般的なものではなく、疾患毎に一応定められたものであるということが分かります。

最大公約数的な意味内容としては国立感染症研究所において

・医療従事者や家族、または同様な状況で、症例の世話をした者。

・症例に症状があった時期に同じ場所に滞在(同居、訪問等)した者。

このように書かれている内容であるとざっくりと理解可能でしょう。

ただ、これだけだと誤解が生じることもあると思いますので、あくまでも目安という理解をするべきだと思います。

「濃厚接触」とは疾患相対的な概念

新型コロナウイルス どれぐらい警戒したらいいの? 感染症のスペシャリストに聞きました BuzzFeed

ーー「濃厚接触」とよく言われますが、その定義は?

数字での定義はありません。また疾患によって、定義が変わることがあります。ハグは濃厚接触と考えてもいいと思いますが、1回軽いあいさつで握手したぐらいではそうは言わないでしょうね。

触れていないとしても、このインタビューがこの部屋の中で半日続けば濃厚接触だと思います。同居している方の場合などは、まったく生活の場が切り離されていない限りは濃厚接触と考えても良いと思います。

強い飛沫感染であれば、カウンターで接客した場合も濃厚接触に入ってくるでしょう。様々な状況の中で感染のリスクが高まるような近距離とある程度の時間の接触を「濃厚接触」と言います。

このインタビューでは川崎市健康安全研究所所長の岡部信彦氏が答えています。

「疾患によって定義が変わる」とあるように、「濃厚接触」という言葉は疾患相対的な概念だということが分かります。ここではどのような疾患であっても概ね妥当するような公約数的な理解が示されていると考えるべきなのでしょう。

感染可能期間とは

新型コロナウイルス感染症患者に対する積極的疫学調査実施要領(2020年4月20日暫定版)魚拓

●「患者(確定例)の感染可能期間」とは、発熱及び咳・呼吸困難などの急性の呼吸器症状を含めた新型コロナウイルス感染症を疑う症状(以下参照)を呈した 2 日前から隔離開始までの間、とする。
*発熱、咳、呼吸困難、全身倦怠感、咽頭痛、鼻汁・鼻閉、頭痛、関節・筋肉痛、下痢、嘔気・嘔吐など

4月20日版からの変更点として、「感染可能期間」が新設され、「発症の2日前から隔離開始まで」という概念設定がなされました。

従前は濃厚接触者の定義に「患者が発病した日以降に接触した者」とあったものが、対象が拡大しました。

インフルエンザや結核などの濃厚接触者の定義

そのため、同じ厚労省の定義であっても、結核やインフルエンザの場合の濃厚接触者の定義は、今回の新型肺炎に際して定義された文言とは少し異なるものになっています。

新型インフルエンザ(パンデミックフェーズ 4 以降)における積極的疫学調査のガイドライン

改正感染症法に基づく結核の接触者健康診断の手引き(2007年7月 改訂2版)

まとめ:感染症の種類によって定義が違う用語だった

  1. 「濃厚接触」は医学用語ではない
  2. そのため、明確な定義はない
  3. ただし、公約数的な意味内容については共通理解がある
  4. 感染症疾患毎に厚生労働省が定義することがある

「濃厚接触」という用語は記述内容が一致しなくて混乱する人が多かったと思います。

それは、感染症の種類によって定義が違う用語だったため、ということでした。

以上