事実を整える

Nathan(ねーさん) 法的観点を含む社会問題についても、事実に基づいて整理します。

オウム真理教にはなぜ破壊活動防止法が適用されなかったのか

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オウム真理教には、破壊活動防止法が適用されなかったので解散指定処分がされませんでした。代わりに無差別大量殺人行為を行った団体の規制に関する法律が適用されて観察処分がなされ、後継団体についても現在までその状態が更新されています。

なぜオウム真理教には破防法が適用されなかったのか、各所は破防法適用についてどのように動いていたのかを簡単にまとめます。

公安調査庁が破防法適用請求(解散指定処分請求)

オウム真理教の一連の事件が終息しつつあった1996年(平成8年)7月11日、公安調査庁は破壊活動防止法に基づき教団の解散指定処分請求を公安審査委員会に行いました。

これは破壊活動防止法においては解散指定処分(7条)は公安調査庁の請求があった場合にのみ行う(11条)のですが、処分を行うのは公安審査委員会であるとされており、公安調査庁の請求の審査を行う(22条)と定められているからです。

この辺りの経緯は公安調査庁のHP過去の魚拓)でも詳しく書かれています。

宗教法人法上の解散事由には該当し、宗教法人は解散済み

公安調査庁の請求の前に、オウム真理教は宗教法人法81条の解散事由に該当するとして、検察官及びオウム真理教の所轄官庁たる東京都知事鈴木俊一が解散命令を請求しました。

この顛末は【平成8年1月30日 最高裁平成8(ク)8 宗教法人解散命令に対する抗告棄却決定に対する特別抗告】において解散命令の決定がなされ、宗教法人としてのオウム真理教は解散され、税法上の優遇措置は受けられなくなりました。

ただし、解散されたのは「宗教法人オウム真理教」であり、一団体としてのオウム真理教は存続しているため、破防法が適用されるかが注目されていたのです。

オウム真理教への破防法適用を反対していた団体等

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公安調査庁の破防法適用請求に対して、各界から反対意見が相次ぎました。

容易に確認できるものとしては、自由法曹団日本弁護士連合会(日弁連)の一部弁護士らがその筆頭でしょう。※適用棄却決定後の日弁連の声明はこちら

また、反天皇制問題連絡会、立川自衛隊監視テント村、アジア太平洋資料センター、国連・憲法問題研究会、明治大学駿台文学会などの連名による 破防法の適用に反対する声明(サイトは市民の意見30の会・東京)も出されています。

これらの反対声明は「人権」「民主主義」「法治国家」などのお題目を掲げてなされました。具体的な構成要件の検討を加えた上での反対意見を目にすることはありません。

結局、法務省直下の公安審査委員会が破防法適用棄却決定を行い、オウム真理教の解散指定処分はされませんでした。

では、なぜ公安審査委員会は破防法を適用しなかったのでしょうか?

公安審査委員会は「暴力主義的破壊活動を行う明らかなおそれ」を認めず

公安審査委員会は1997年(平成9年)1月31日「団体の危険性が消失したとはいえないが,今後ある程度近接した時期に,暴力主義的破壊活動に及ぶ明らかなおそれがあるとまでは認められない」として解散指定処分請求を棄却しました。

これは破防法7条の構成要件該当性判断を行っています。

第七条 公安審査委員会は、左に掲げる団体が継続又は反覆して将来さらに団体の活動として暴力主義的破壊活動を行う明らかなおそれがあると認めるに足りる十分な理由があり、且つ、第五条第一項の処分によつては、そのおそれを有効に除去することができないと認められるときは、当該団体に対して、解散の指定を行うことができる。
省略
二 団体の活動として第四条第一項第二号イからリまでに掲げる暴力主義的破壊活動を行い、若しくはその実行に着手してこれを遂げず、又は人を教唆し、若しくはこれを実行させる目的をもつて人をせヽ んヽ動して、これを行わせた団体
省略

破防法4条の規定も一応確認のため必要部分のみ示します。

第四条 この法律で「暴力主義的破壊活動」とは、次に掲げる行為をいう。

省略
二 政治上の主義若しくは施策を推進し、支持し、又はこれに反対する目的をもつて、次に掲げる行為の一をなすこと。
省略
ヘ 刑法第百九十九条(殺人)に規定する行為

要件を整理すると

  1. 団体性(7条)
  2. 政治目的(4条二号柱書)
  3. 暴力主義的破壊活動(4条に定める刑法が規定する行為)
  4. 明白性(明らかなおそれ)(7条)

公安審査委員会の決定は「武器としてのサリンの効果を試すとともに、松本市への進出の障害と考えた裁判官や地域住民を排除・抹殺するために行った」と認定し、破防法適用の要件のうちの2つである「団体性」と「政治目的」を満たすとしました。
※暴力主義的破壊活動が行われたことは明らかだったため最初から争点ではない(が、一応は検討、認定している)。

その上で、地下鉄サリン事件以降の強制捜査や宗教法人格のはく奪、破産手続きなどによって、「教団は人的・物的・資金的能力を弱体化させつつ、隔離された閉鎖集団から社会内に分散した宗教生活団体に移行している」と述べ、状況の変化を評価において考慮しました。

最終的に「公安調査庁提出の証拠では、近接した時期に暴力主義的破壊活動に及ぶ明らかなおそれがあると認めるに足りるだけの十分な理由があると認めることはできない」と結論づけました。

この「明らかなおそれ」というのは他の分野でも要件として登場することがありますが、これが認められる場面は相当限られてきます。要件レベルでかなりの困難があったということです。

さらに、明白性判断において状況の変化が考慮される点も問題視されました。

破壊活動防止法の問題、そして無差別大量殺人行為を行った団体の規制に関する法律へ

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第145回国会予算委員会第二分科会第1号平成十一年二月十七日では、破防法の問題点とその後の方向性について端的に言い表している質疑があります。

○堀込分科員 
 決定文を見ますと、人的、物的、資金的能力、これが縮小、弱体化しつつあり云々、こうあるわけでありまして、つまり、危険性が低下した、将来の危険性が薄らいでいる、こういうことを理由にしながら棄却決定をした、こういうことなのだろうと思います。しかし、実態は、棄却決定後、人的、物的、資金的能力を増大させているのは、先ほど答弁にあったとおりであります。
 私は、破防法の欠点というものが、そういう意味ではやはりこの過程の中で明らかになっているのだろうと思うわけであります。つまり、摘発が進まないと危険性は低下しないわけでありますが、証拠を集められないという事情が一方にあって、摘発が進むと今度は危険性が薄まってくるという矛盾があるわけでありまして、なかなか請求決定するにはその条件を満たすに難しいといいますか、そういう事情が働くのだろうというふうに思うわけであります。それで、どうしても、そういう意味では集団的な組織犯罪に対して機敏に対応できる法整備というものが必要なのだろう、こういうふうに考えるわけであります。
 私は、破防法を読んでみて、今度勉強してみて、問題点は、第一には、手続の簡素化、迅速化、あるいは、規制処分が六カ月以内の活動制限と解散指定の二つしかありませんから、保護観察処分的なものを入れるとかいう検討が必要なのだろうと思います。二つ目に、政治目的という問題、やはり無思想のテロ集団にこれでは対応できないという現代社会の犯罪に対する問題点を抱えておるのだろうというふうに思います。三つ目に、問題になりました将来の危険性、この規定はやはり緩和ないしは削除するというような検討がなされるべきだろうというふうに私自身は考えておるわけでありますが、現行破防法の組織犯罪に対する有効性についてどのような認識をお持ちなのか、伺っておきたいと思います。

中段の指摘は重要だと思います。

公安審査会の理屈で言えば、摘発が進まないと危険性は高いままだが証拠が集められない、しかし、摘発が進むと証拠が集まっても危険性は薄まってくるということになってしまいます。

法務省の公安審査委員会はオウム真理教に破防法を適用させないための理屈を使っているとしか思えません。

質疑の後半部分の「保護観察処分的なもの」というのはまさに「無差別大量殺人行為を行った団体の規制に関する法律」における「観察処分」につながっていきますし、同法には「政治目的を持った団体」という要件が課されていません。

そして、同法には観察処分の要件として危険性はありますが、「明白性」はなくなっています。

(観察処分)
第五条 公安審査委員会は、その団体の役職員又は構成員が当該団体の活動として無差別大量殺人行為を行った団体が、次の各号に掲げる事項のいずれかに該当し、その活動状況を継続して明らかにする必要があると認められる場合には、当該団体に対し、三年を超えない期間を定めて、公安調査庁長官の観察に付する処分を行うことができる。
一 当該無差別大量殺人行為の首謀者が当該団体の活動に影響力を有していること。
二 当該無差別大量殺人行為に関与した者の全部又は一部が当該団体の役職員又は構成員であること。
三 当該無差別大量殺人行為が行われた時に当該団体の役員(団体の意思決定に関与し得る者であって、当該団体の事務に従事するものをいう。以下同じ。)であった者の全部又は一部が当該団体の役員であること。
四 当該団体が殺人を明示的に又は暗示的に勧める綱領を保持していること。
五 前各号に掲げるもののほか、当該団体に無差別大量殺人行為に及ぶ危険性があると認めるに足りる事実があること

破防法が適用できなかった結果、新法で手当てをし、公安調査庁が後継団体であるアレフ等の観察をしているということですが、解散指定処分を出せない現状で果たして良いのでしょうか。破防法においてもこの明白性要件を削除するべきだと思います。

まとめ

外国の主な団体規制、解散適用組織等

外国の主な情報・団体規制機関の所属組織等:解散処分適用団体:https://www.kantei.go.jp/jp/gyokaku/houmu616.html

クリックで拡大。またはURL部分から政府のページに飛びます。

  1. オウム真理教は宗教法人としては解散命令がなされた
  2. しかし、一団体としてのオウム真理教は破防法による解散指定処分ができなかった
  3. 破防法の解散指定処分は明白性要件が厳し過ぎた
  4. 公安審査委員会の採った理屈が明白性要件の否定方向に働くものだった
  5. 現在は「無差別大量殺人行為を行った団体の規制に関する法律」における「観察処分」が公安調査庁によって後継団体に対して行われている

「破防法適用団体」と「破防法に基づく調査対象団体」は意味が違うので注意、以下にまとめてあります。

以上