事実を整える

Nathan(ねーさん) ほぼオープンソースをベースに法的観点を含む社会問題についても、事実に基づいて整理します。

プレバンキングの意味・定義とは:ファクトチェック・デバンキングとの違い

ファクトチェックと相互補完的なものでしょう

プレバンキングの意味・定義:予防接種理論による一般的類型的知見

It’s an approach called “pre-bunking” and it builds on years of research into an idea known as inoculation theory that suggests exposing people to how misinformation works, using harmless, fictional examples, can boost their defenses to false claims.

これは「プレバンキング」と呼ばれるアプローチで、無害な架空の例を使って誤った情報がどのように機能するかを人々に知らせることで、虚偽の主張に対する防御力を高めることができると示唆される、予防接種理論として知られるアイデアの長年の研究に基づいている。

本記事で紹介されてるJon Roozenbeek氏らの研究論文では、2分間のビデオを視聴した被験者は、虚偽の主張と正確な情報を区別する能力が大幅に向上したとし、この実験を YouTube で再現したところ、同じ肯定的な結果が得られ、100 万人近くがビデオを視聴したと報道されています。

Psychological inoculation improves resilience against misinformation on social media

プレバンキング」という手法の一応の意味・定義は次のように言えます。

  • 偽情報の典型的・類型的手法について学習させるもの
  • それにより、各個人が個別の事象について注意喚起を受けなくとも、自分自身で偽情報に引っかからない心構えや行動を身に着けさせること

プレバンキングの意味内容は、その手法が出て来た背景を知るとより深まります。

プレバンキングとファクトチェック・デバンキングとの違い

While journalistic fact checks can be effective in debunking a particular piece of misinformation, they’re time and labor intensive. By focusing on characteristics of misinformation in general instead of specific claims, pre-bunking videos can help a person spot false claims on a wider variety of topics.

ジャーナリスティックなファクトチェックは、特定の誤情報を暴くのに効果的だが時間と労力がかかる。が、特定の主張ではなく一般的な誤情報の特徴に焦点を当てることで、プレバンキング用のビデオは、様々なトピックに関する誤った主張を見つけるのに役立つとされています。

Jon Roozenbeek氏の以前の論文では、プレバンキングの沿革が書かれています。

Countering Misinformation: Evidence, Knowledge Gaps, and Implications of Current Interventions AUTHORS Jon RoozenbeekJane SuiterEileen Culloty

"prebunking"という言葉は"pre-emptive debunking"が語源です。

つまり沿革的には、プレバンキングはデバンキングの一種だったことが分かります。

それが、何らかの偽情報が拡散する前に先制的に予防させるのがプレバンキングであると意識された後に、特定の偽情報事象が拡散した後に対処するのがデバンキング(ファクトチェックはデバンキングの一手法)、という用語法に使い分けがされるようになったと言えます。

プレバンキングを「予防接種」=inoculationと位置付けるならば、デバンキング・ファクトチェックは、症状が出てからそれを抑え込む投薬のようなイメージと言えるかもしれません。

なお、Roozenbeek氏は、デバンキング・ファクトチェックとプレバンキングは、その効果を直接比較することには限界があると上掲論文内で指摘しています。

プレバンキングの具体性・抽象性と特定事案の偽情報予想

偽情報について、架空の事例や一般的・典型的・類型的手法を教育することに留まらず、特定の事案に関して予想される偽情報の展開を示すこともプレバンキングと言われることがあります。

「予防接種」という語のイメージに近いのは、むしろこちらの方法。

偽情報の類型的手法を学ぶことは食事・睡眠・運動等により身体の総合的な免疫力を向上させることに近いとは言えますが、言葉の来歴・使われ方はこんなようなものです。

上掲の事案では「ワクチン接種」という大きな括りで語っていますが、より具体的に「mRNAワクチンに関して予想される誤解について」とか、「ALPS処理水の海洋放出に関して拡散が予想される偽情報や不安煽動言説」といった形で、特定の事案において未だ発生していない言説について先制攻撃的に言及することまで含まれるのかは不明です。

既に発生している言説ならば、ファクトチェックや、それとは異なる分析・評価・批評と変わらないでしょう。

偽情報の拡散主体を知らせることとプレバンキング的な効果

プレバンキングという言葉の意味の外縁を拡張すると、【ミスリードばかりしている新聞・メディア・サイトがどこなのか?】を知ることも「予防接種」的に機能し得ると言えます。そういう所は安易に信じないようになるので。

wikipediaでリンクが禁止されているデイリーメール(イギリスメディア)が存在しているように、主体を覚えることで回避できる偽情報被害は確実にあります。

しかし、これはprebunkingの原義から遠いことは事実でしょう。

偽情報それ自体と偽情報拡散の主体は別。ある主体が偽情報拡散をしているとしても、他の話題について常にそうであるとは言えず、レッテル張りになるおそれがある。

本質的にも、拡散主体に言及すると、それは少数の主体を知るだけになり、各人があらゆる事案に関して偽情報に対する耐性を身に着けることができるという、プレバンキングとしての汎用性の意味が希薄化されてしまうと言えます。

まとめ:フェイクニュースや認識煽動への対策は使い分けが大事

フェイクニュースや認識煽動への対策の仕方は様々で、それをどう呼ぶかは便宜的な区分けでしかありません。

ただ、特定の手法に別個の名称を付けることで対策の仕方が洗練され、或いはコストを低くすることに貢献することが期待されるとは言えるでしょう。

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