事実を整える

Nathan(ねーさん) ほぼオープンソースをベースに法的観点を含む社会問題についても、事実に基づいて整理します。

日本ファクトチェックセンター古田大輔「個別の誤情報を取り上げないのはプレバンキング、ファクトチェックより効果があるデータも」⇒???

使う言葉の意味が概ね一致していることが議論の大前提なのにね

日本ファクトチェックセンター古田大輔「プレバンキング」

https://archive.is/bxs8C

日本ファクトチェックセンター(JFC)の古田大輔編集長が「あえて個別の誤情報を取り上げてません。こういう手法はプレバンキングと呼ばれ、ファクトチェックより効果があるというデータもあります」とツイート。

これは、JFCが福島第一原発から出る排水の処理水を海洋放出することに関して不安を煽る言説があることについて、IAEAの最終報告書等を用いて状況整理する記事を投稿し、それに対する反応を受けて為されたもの。

が、彼の発言は以下結論付けられます。

  1. JFCの当該記事は他と差別化できるようなプレバンキングの手法が採られていない
  2. 「プレバンキングはファクトチェックより効果がある」という直接効果の比較については疑義がある

プレバンキングの意味と用語法、ファクトチェックとの違い

  1. 偽情報の典型的・類型的手法について学習させるもの
  2. それにより、各個人が個別の事象について注意喚起を受けなくとも、自分自身で偽情報に引っかからない心構えや行動を身に着けさせること
  3. 進んで、特定の話題に関して予想される偽情報の展開やその弱点を示すこと
  4. より広い見方をすれば、何らかの偽情報が拡散される「前」に、予防的先制的に働きかけることがプレバンキング
  5. これに対してファクトチェックは、特定の偽情報が拡散された「後」に特定の事実関係を明らかにするもので、デバンキングの一種

プレバンキングの意味と用語法、ファクトチェックとの違いは、ざっくり言うとこのようなものです。

JFCの当該記事に「偽情報の典型的・類型的手法について注意喚起する」「事前に出て来るであろうフェイクを予想して否定する」という要素はありません。

「風評被害」に触れている部分はありますが、既に数年前から言われている話です。

決して"Pre"ではないし「どのような形で不安煽動が行われるか?」を書いていません。

既に社会に広く存在している偽情報や不安煽動言説に対する事実関係の整理により、未だそのような偽情報や不安煽動言説に暴露されていない個人にとっては、プレバンキングとしての効果が期待されるということはあるでしょう。

しかし、それはファクトチェックにもそのような効果が期待できるのであって、プレバンキングと差別化して言えるものではない。

古田編集長の弁では「個別の誤情報を取り上げない(=誤情報の発端となった記事やツイート、人物名を書かない)」で事実関係を整理することがプレバンキングになりますが、そういう用語法が為されている例は見当たりません。

したがって、JFCの当該記事はプレバンキングの手法が採られていないということになります。

いったい、どういう要素をもってJFCの当該記事がプレバンキングだと言っているのでしょうか?

プレバンキングはファクトチェックより効果があるデータ?論文では…

「プレバンキングはファクトチェックより効果があるデータがある」という言説。

これは、確かにワクチン陰謀論に対してはデバンキングよりもプレバンキングが有効という言及が為されている研究が存在します。

しかし、これは「既に陰謀論がその者の中で確立している相手」の存在が無視できず、手法の効果の直接比較と言うには不適でしょう。

また、Nevertheless, partisanship persisted: fake news warnings help briefly, but bias returns with timeという論文は、虚偽の政治ニュースの見出しを信じることを思いとどまらせるには、デバンキングよりも事前警告の方が記述的に効果的であるという結果が出ていると紹介されています。

が、これは具体性が高く時間的にも近接している"pre-warning"についての研究であり、そのまま比較できるものではないでしょう。
※上掲の論文では"pre-bunking"という単語は使われていないが、Jon Roozenbeek氏は、それに関するものであるという見方に基づいて記述を書いている
※「個別の誤情報を取り上げない」ことがファクトチェックと異なるプレバンキングの中核的要素であるのならば、この研究で使われた手法はプレバンキングではないということになる

プレバンキングの研究論文の筆頭著者であるJon Roozenbeek氏も、これらの論文に触れた上で、やはり両手法の効果の直接比較は限界があるとしています。

Countering Misinformation: Evidence, Knowledge Gaps, and Implications of Current Interventions AUTHORS Jon RoozenbeekJane SuiterEileen Culloty

IAEA最終報告書が無いと書きにくい?ALPS処理水海洋放出前の風評加害の無視

関連して、古田氏は「IAEA報告書がないと書きにくかった」と言い放っていました。

しかし、IAEAは昨年の2022年の段階でも報告書を出しており、人や環境への影響は非常に低いとしていました。

「放出間際にならないとわからないこと」ではない事柄について、ALPS処理水海洋放出前の風評加害が無視されてきたということ。

公人やメディア機関からも誤情報や不安煽動言説が垂れ流されてきました。

過去に行われてきたALPS処理水に関する難癖については以下で逐一取り上げて事実を示しています。

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