事実を整える

Nathan(ねーさん) 法的観点を含む社会問題についても、事実に基づいて整理します。

杉並区が産経新聞「岸本区長が他人の性自認を無断公表」に抗議:アウティング禁止条例違反ではない

どう説明されるんでしょうか?

杉並区が産経新聞「他人の性自認を無断公表」に抗議

https://www.city.suginami.tokyo.jp/greetings/kishakaiken/r5/1091093.html

11月20日、杉並区が産経新聞に対する抗議書と日本新聞協会に対する同趣旨の意見書を公式HPにUPし、送付したと報告しました。

産経新聞記事(8日夜の産経HP上のweb記事とそれを転載したYahoo上の記事と9日付の朝刊)で「杉並区の岸本聡子区長が、性別非公開としている区議の性自認をSNSで本人の了承を得ずに公表していた」との点につき、事実誤認があるとしています。

他人の性自認を無断公表 東京・杉並区長「性の多様性尊重条例」自ら破る 2023/11/8 21:03 大森 貴弘

岸本聡子区長の無断公表は当人の「性別」であり性自認ではない

https://archive.is/196Fl

発端となったのは 岸本聡子オフィス広報 (@satokokishi2022) の今年4月24日のX(Twitter)上での投稿。※岸本聡子個人のアカウントが別にある。

ここで「女性は25人」「上位4名はすべて新人女性」と書いていたことが、山名かなこ議員の性別を女性に含めることとなっていた点が取り上げられたということです。

杉並区議会議員選挙開票速報 更新日 令和5年4月24日

なお、X上の投稿では直後に「女性は24名」と「修正」しています。

https://archive.is/DpbZX

このことは、11月8日の区長記者会見の質疑応答で取り上げられており、産経新聞の大森記者がアウティングに関して問うているのが分かります。

令和5年11月8日 区長記者会見|杉並区公式ホームページ

この質疑では大森記者も「今回の問題がアウティングに当たる、当たらないということが本質ではなくて、そもそも性別非公表の方の性別を出していいかということを確認しないで出してしまったというところにあるような気もしますが」と言っており、決して性自認の問題とは明言はしていません

にもかかわらず、その後に出てきた記事がああなった、ということです。

山名かなこ議員の性別非公表問題:統計の混乱の可能性?

性別非公表は本人の従前からの態度でした。

上掲の動画では山名かなこ議員は「他者が性別を見て予断を持って評価する」ことに対する問題提起としてこのような態度を取っていると言っています。

あくまで「性別を隠したい」であって、「性自認を隠したい」とは別物です。

「性別を非公表にしている者の性別が女性と判明した」ということからは、本人の性自認は明らかではありません。なぜなら、選挙結果の場面で言及される性別は戸籍上の性別であり、そこから本人の主観である性自認についてはわかりようがないからです。

本件は、これによって女性議員の割合がどれくらいか?という統計上の問題が生じないのかどうかの話であって、「性自認の無断公表」の話ではありません。

山名議員の方針の趣旨からすれば、統計上の数値として扱う分には、彼女を女性として計算したものにしても、何ら問題ないはずです。具体的場面において性別から当人に対する評価を受けないことが彼女の狙いだからです。

そのため、岸本区長は選挙結果として議員の男女比を公表するに際しては、「修正」という扱いをする必要は無かったはずです。もしもこの場面でも山名議員が非公表を希望していたり、他の統計上で区が彼女を女性から外して算出していたなら、それ自体が問題でしょう。

日本社会における性別と性自認:欧米のXジェンダー等とは異なる

大前提として、現在の日本社会における「性別」と「性自認」は別物です。

「性自認」には行政上の用語法があり、「性別に関する自己意識のこと」です。
東京都国立市など、異なる定義のところもあるが、そのような規定をする所は極少数

「他者からの性別の認識をコントロールすること」までは含んでいません。

ここでの「性別」は男女のいずれかです。※「性的指向」の定義を見よ。

他方で、既に欧米では「Xジェンダー」という名称が性別欄に付された公的証明が発効されている例があります。

LGBT活動家らの言う「性自認」という用語は、Xジェンダー・クエスチョニングなど、男女に限定しないものとして扱われていることがあります。

SOGI理解増進法の施行の際にも誤解が生まれましたが、現在の日本社会における「性自認」は、「その場で思いついて勝手に自称できるもの」という意味はありません。
(「LGBT理解増進法」という表記が多いが、法の趣旨は特定の性的マイノリティに配慮せよというものではないので本来的には不適当)

産経新聞がLGBT活動家らの主張や海外の制度を念頭に置いていたために、山名議員が性別を非公開にしているという態度から、『彼女の性自認が「自己の性別を男女のいずれかに決めたくない・いずれにも当てはまらない・わからない・不定性・あるいはそれ以外のナニカ」であるに違いない』と考えてしまったのかもしれません。

産経新聞は、どう説明するのでしょうか?

東京都杉並区の「アウティング禁止条例」違反ではない

産経記事でも既に『岸本氏は、今回の問題について「本人からはアウティングに当たらないという理解を頂いた」とも発言している』とあるように、杉並区のいわゆる「アウティング禁止条例」には違反しません。

性の多様性が尊重される地域社会を実現するための取組の推進に関する条例|杉並区公式ホームページ

(基本理念)

第3条 性の多様性が尊重される地域社会を実現するための取組の推進は、性的指向又は性自認を内心にとどめることを希望する者の平穏な生活の確保に配慮しつつ、全ての区民が、性を理由とする差別等を受けないこと、性の多様性をめぐる個人としての尊厳が重んぜられること及び性別、性的指向、性自認等にかかわらず、自らの意思によって地域社会のあらゆる分野における活動に参画し、能力を発揮する機会が確保されることを旨として、行われなければならない。

杉並区の条例上の「性自認」の定義は、政府の定義と同じです。

そのため、「アウティング禁止」に違反しない、という岸本区長の説明は、その通りであると言えます。

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