毎日新聞が「政府は国家公務員の懲戒処分の免除を政府が検討している」とのフェイクニュースを流しました。
これに対して菅官房長官は全否定しました。
報道の整理と関係法令についてまとめていきます。
※一部に誤りがありましたので訂正しています。
- 毎日新聞「国家公務員の懲戒処分の免除を政府が検討」
- 菅官房長官「懲戒処分の恩赦を検討している事実は無い」
- 恩赦法について
- ※追記:恩赦法と公務員等の懲戒免除等に関する法律は無関係であることについて
- 公務員等の懲戒免除等に関する法律
- 昭和天皇の崩御に伴う職員の懲戒免除等(大喪の礼)
- 過去の恩赦を検討との報道と菅官房長官の言葉
- まとめ:毎日新聞だけじゃないフェイク
毎日新聞「国家公務員の懲戒処分の免除を政府が検討」
そもそも「皇位継承」ではなく「天皇代替わり」という言葉を使っている時点で不敬であり、正式名称でなく、ふざけていますね。
政府は2019年の天皇陛下の退位と皇太子さまの新天皇即位に伴う代替わりに合わせ、国家公務員が過去に受けた懲戒処分の免除を行う検討を始めた。複数の政府関係者が明らかにした。1989年2月の昭和天皇の「大喪の礼」の際に行われ、退職後でも「名誉回復」の意味合いで適用された。同じ基準を踏襲すると、財務省の決裁文書改ざんを巡る佐川宣寿前国税庁長官らの減給処分も免除される可能性があり、政府は基準を慎重に検討する。
ここにはいくつものフェイクがあるのですが、まずは政府の見解のソースを提示します。
菅官房長官「懲戒処分の恩赦を検討している事実は無い」
平成30年8月7日(火)午前-内閣官房長官記者会見
読売新聞「天皇陛下の退位の関係でお伺いいたします。天皇陛下の代替わりに合わせてですね、国家公務員の過去に受けた懲戒処分の免除を行う検討を始めたという報道が一部ありますが事実関係についてお願いします。」
菅「まず、そのような報道があったことは承知しておりませんが、懲戒処分の免除を検討する事実というものはありません。明快に否定しておきます。」
読売新聞が「国家公務員の過去に受けた懲戒処分の免除」という話題に対して菅官房長官が明確に否定しているということです。
ここで、恩赦すべてを否定しているわけではないことに注意です。
ただ、この時点で毎日新聞の「政府が検討している」という部分はフェイクだということがわかります。
さて、そうすると、それ以外の部分もフェイクがあったということになりますが、これは恩赦法等の知識が必要です。
恩赦法について
「恩赦」とは「大赦、特赦、減刑、刑の執行の免除及び復権」を意味します。
「恩赦法」に規定されているので関連規定を確認しましょう。
第一条 大赦、特赦、減刑、刑の執行の免除及び復権については、この法律の定めるところによる。
第二条 大赦は、政令で罪の種類を定めてこれを行う。
第三条 大赦は、前条の政令に特別の定のある場合を除いては、大赦のあつた罪について、左の効力を有する。
一 有罪の言渡を受けた者については、その言渡は、効力を失う。
二 まだ有罪の言渡を受けない者については、公訴権は、消滅する。
第四条 特赦は、有罪の言渡を受けた特定の者に対してこれを行う。
第六条 減刑は、刑の言渡を受けた者に対して政令で罪若しくは刑の種類を定めてこれを行い、又は刑の言渡を受けた特定の者に対してこれを行う。
第八条 刑の執行の免除は、刑の言渡しを受けた特定の者に対してこれを行う。省略
第九条 復権は、有罪の言渡を受けたため法令の定めるところにより資格を喪失し、又は停止された者に対して政令で要件を定めてこれを行い、又は特定の者に対してこれを行う。省略
第十条 復権は、資格を回復する。
○2 復権は、特定の資格についてこれを行うことができる。
「刑の言渡を受けた者に対して」「有罪の言渡を受けた特定の者に対して」「まだ有罪の言渡を受けない者については、公訴権は、消滅する」
公務員の懲戒免除等については別の法律があります。
※追記:恩赦法と公務員等の懲戒免除等に関する法律は無関係であることについて
公務員等の懲戒免除等に関する法律の審議経過を確認しました。
第二に、本案におきましては、大赦または一般的な復権が行われます場合において、これと並行して行われる懲戒の免除、弁償責任の免除につき、その基本的な事項を規定するのでありまして、実施についての具体的な必要な事項は、政令または地方公共団体の條例で定め得ることといたしました。
○菅野政府委員 今議題になつておりまする法律は、第一條の目的にもございますように、大赦とか一般的の復権が恩赦法によつて行われる場合における懲戒の免除とか、弁償責任の債務の減免でございまして、これはあくまでも恩赦法に基く大赦あるいは一般的復権を行います場合から考えますると同一の取扱いにしたい、こういうふうに考えております。従いまして、かりに大赦とか一般の復権というものに伴わない懲戒の免除とか、あるいは債務の減免というものがあり得るといたしましても、これは別の法律をつくらなければ、この法律では適用にならない、こういうことになるわけでございます。それから恩赦法に基く大赦、特赦というようなものは、別に法律によつて行うのでございまして、今までの実例から申しますると国家的の慶弔事に行つておるやに記憶いたしております。
公務員等の懲戒免除等に関する法律
公務員等の懲戒免除等に関する法律では以下のように規定されています。
第一条 この法律は、大赦又は復権(特定の者に対する復権を除く。以下同じ。)が行われる場合における公務員等に対する懲戒の免除及び公務員等の弁償責任に基く債務の減免について定めることを目的とする。
「大赦又は復権(特定の者に対する復権を除く。以下同じ。)が行われる場合」
訂正:これは、特定の人に対して大赦や復権が行われた場合に限らず、一般に大赦又は復権が行われる「タイミングで」適用されるものだということでした。
毎日新聞は「1989年2月の昭和天皇の「大喪の礼」の際と同じ基準を踏襲すると」と言っていますが、それがおかしいのです。
昭和天皇の崩御に伴う職員の懲戒免除等(大喪の礼)
こちらによれば、『「公務員等の懲戒免除等に関する法律」(昭和二七年法律第一一七号)に基づき』とありますが…刑の言渡しを受けていなくとも適用対象となります。
念のため、改正が無いか検索しましたが、これ以後の改正は【平成18年6月7日号外法律第53号〔地方自治法の一部を改正する法律附則三四条による改正〕】、【平成26年6月13日号外法律第69号〔行政不服審査法の施行に伴う関係法律の整備等に関する法律五条による改正〕】しかありません。
この改正の内容は、上記の判断に影響をするものではありませんでした。
なお、大喪の礼による免除は、より具体的には「昭和天皇の崩御に伴う国家公務員等の懲戒免除に関する政令」(平成元年政令第二九号)及び「昭和天皇の崩御に伴う予算執行職員等の弁償責任に基づく債務の免除に関する政令」に基づいて行われましたが、上記見解に影響しません。
追記:そうすると、公務員等の懲戒免除等に関する法律2条では「政令で定めるところにより」とあるので、別途新たに政令を定めなければ公務員等の懲戒処分の免除をすることはできないということになります。この「政令」に該当するのが上記の「昭和天皇の崩御に伴う…」になります。「政令」を定めるのは内閣ですから、今回、政府が現時点で検討していないということは、公務員の懲戒免除は出来ないと言うことになります。
過去の恩赦を検討との報道と菅官房長官の言葉
さて、そうするとこちらの報道とはどう整合性がつけられるでしょうか?
今回の報道は、最初に確認したように「国家公務員の懲戒処分の免除」についてです。
過去に報道されたのはそれに限らない「恩赦」であって「懲戒処分の免除」ではありません。
菅官房長官は、こちらについてまで否定したということではありません。
まとめ:毎日新聞だけじゃないフェイク
どうも最近「政府が検討」「政府関係者によると」「自民党の保守系議員によると」という文言を用いてフェイクを垂れ流す傾向が目に余ります。
「サマータイム」についても政府は検討しておらず、安倍総理が超党派の議員で検討するように言ったというだけで菅官房長官が「政府が検討」を否定したばかりです。
第一報でだまされて政府与党を非難する輩が大量に発生しているというのは悲しいことです。
こういう卑怯な手段による印象操作によって世の中の認識が支配されるということはあってはなりません。
以上