事実を整える

Nathan(ねーさん) ほぼオープンソースをベースに法的観点を含む社会問題についても、事実に基づいて整理します。

東京新聞「報道の自由度、日本の長期低迷は法的指標のせい」は根拠無し:「権力監視の決意」⇒事実は二の次

やはり事実は二の次だった

東京新聞「報道の自由度、権力監視の決意新たに」

東京新聞が国境なき記者団の報道の自由度ランキング発表を受けて「報道の自由度、権力監視の決意新たに」という社説を展開していました。

その中で根拠の無い主張も混じっていたため指摘します。

国境なき記者団指標「日本の長期低迷は法的指標のせい」は根拠無し

東京新聞は「日本の長期低迷は法的指標のせい」と文中に書いていました。

日本の順位の長期低迷は「法的指標」が改善されないためだ。

しかし、これは奇妙です。なぜなら、「法的指標」という項目ができて現行の5つの項目を明示したのは2022年からだからです。*1

国境なき記者団の報道の自由度ランキングの2023、2024年度版を見ると、ここ3年では「社会指標」の落ち込み幅が最も大きい事が分かります。

また、法的指標よりもスコアが低い指標は政治的指標や経済指標があり、「法的指標が足を引っ張っている」と言える事実も存在しません。

したがって、「法的指標」を起点とした分析として「長期低迷は法的指標が原因」と評価していることは、根拠が無いということになります。

さらに、次の事が言えます。

「長期低迷は法的指標が原因」は、虚偽:記者クラブ制度の閉鎖性が継続的に問題視

国境なき記者団の報道の自由度ランキング

「長期低迷は法的指標が原因」は、虚偽と言うべき実態があります。

なぜなら、当の国境なき記者団の報道の自由度ランキングのレポートにおいて、日本での特定の法律の制定が指標に大きく影響したとは全く書いていないからです。

2014年のアジア地域レポートでは「福島の検閲」などという題目が書かれていますが、この部分の記述は要するに【フリーランスや外国人記者が記者会見や取材から締め出されていること】がメインで、特定機密保護法は最後に無理やり捻じ込んでいるだけ。

翌年2015年に関しても福田充氏がアジア地域レポートを引いて記者クラブによるフリーランス記者や外国メディアの排除の構造」が中心的に論じられていることを指摘し、特定秘密保護法は追加要素、という扱いに過ぎませんでした。

そして、2016年にはクリティカルな分析がITmediaに掲載され、2009年に報道の自由度世界一になったスウェーデンについて、同年に秘密保護法が制定されており、次年度も9位だったこと、この種の法律は世界中のどこにもあることが指摘されています。

「記者クラブの閉鎖性がメイン、特定秘密保護法は追加要素」という記述は2017年、2018年2019年2020年2021年の国別レポートでも見られますが、どう見ても法律制定が自由度を下げている最も中心的な要素であるというものではありません。

国境なき記者団の報道の自由度ランキング

https://web.archive.org/web/20170504052310/rsf.org/en/japan

そして、そもそも特定秘密保護法に報道の自由を脅かす要素はほとんどなく、この間にそれが現実に脅かされたという実例は一件も発生していません。

特定秘密保護法

第二十二条 ~省略~
2 出版又は報道の業務に従事する者の取材行為については、専ら公益を図る目的を有し、かつ、法令違反又は著しく不当な方法によるものと認められない限りは、これを正当な業務による行為とするものとする

取材行為は原則的に正当業務行為とする、ということが書かれ、逐条解説には具体的な適法例が列挙されています。

特定秘密保護法関連|内閣官房ホームページ

特定秘密保護法やテロ等準備罪(共謀罪)が報道の自由を脅かしているというナラティブ創出報道

報道の自由度ランキングと関連するか否かを問わず、「特定秘密保護法やテロ等準備罪(共謀罪)が報道の自由を脅かしている」というナラティブ創出報道が為されている実態があります。

例えばハフポストは前掲2014年アジア地域レポートを引いておきながら記者クラブの問題については本文では書かず、タイトルに「特定秘密保護法などが原因」などと書いています。

朝日新聞は2017年の社説で報道の自由度ランキングに触れたパラグラフの直後に「特定秘密保護法の成立や、審議が進む「共謀罪」法案、防衛省の情報隠蔽(いんぺい)疑惑など、政権がすすめる政策やふるまいには、国民の「知る権利」を脅かしかねないものが目につく。」などと書いていました。

東京新聞の記事も同様です。

そもそも国境なき記者団の報道の自由度ランキングなんて、メディア専門家、弁護士、社会学者、人権活動家に対してアンケートをとった結果なので、それ自体は実態を反映しておらず、評価もいい加減なのでどうでもいいんですが。*2

米国のフリーダムハウスの報告はなぜか報道されることが少ないし、World of Journalismのアンケートなんかほぼ無視されています。

東京新聞「権力監視の役割」⇒やはり事実は二の次の日本のジャーナリスト

東京新聞の社説は最後、以下のようにして締めています。

報道の自由度の順位が低いことは謙虚に受け止めつつ、報道・言論機関として権力監視の役割を誠実に果たし、権力の圧力には屈しないとの決意を新たにしたい。

「権力監視の役割」がメディアの役割の第一義的なものであって、事実は二の次だというのが分かります。

こうした傾向はWorld of Journalismのアンケートで判明しており、日本は「事実をありのまま報じる」が4位で、1位が「政治リーダーの監視」となっている非常に特異な状況になっています。

他に「政治リーダーの監視」がTOPになっている国はシンガポール・香港・エチオピア・カタール・UAE・オマーンがありますが、全体的に「事実をありのまま報じる」の順位は高いです。

今回の東京新聞の社説は、この傾向を改めて裏付けることが垣間見えた、という以外に意味が無いものと言えます。

朝日新聞の慰安婦報道で捏造があったことを受けて作成された報告書でも、相変わらず「権力に対する監視は、メディアのもっとも重大な役割である」と書いていたように、この体質は変わらないのかもしれません。

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*1:政治的指標 経済指標 法的指標 社会指標 セキュリティ の5つ

*2:アンケートの対象については変遷があるが概ねこの通り