一部の発言のみが独り歩きしそうなので
- 8月21日ALPS処理水放出に関して岸田総理と全漁連坂本会長が会談
- 全漁連坂本会長「約束は破られてはいない、果たされてもいない」記者会見発言全文
- なぜ漁連等は「海洋放出に反対」なのか:「風評加害者」を恐れる現場
8月21日ALPS処理水放出に関して岸田総理と全漁連坂本会長が会談
8月21日、福島第一原発のALPS処理水の海洋放出に関して岸田文雄総理大臣と全国漁業協同組合連合会の坂本雅信会長の会談が行われ、その後に記者団の取材がありましたのでその際の発言を書き起こします。
この取材時の発言は時事通信や産経新聞などを除いてネット上ではテキスト化されているものへのアクセスが困難になっています。
特に日テレは概要のテキスト化をも放棄しています。
また、この際の発言は「海洋放出に反対」という言葉だけが独り歩きしており、「全体の雰囲気」が伝わらないようになっているので、質疑応答全部を書き起こしました。
全漁連坂本会長「約束は破られてはいない、果たされてもいない」記者会見発言全文
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記者 今日は岸田総理からどういったことが伝えてそれから岸田総理の反応はどういったものでしょうか。
坂本会長 まず我々は考え方は変わらず、ALPS処理水の放流に関しては反対であると、そういう立場は堅持するというお話はしました。一方でIAEAの包括報告書、さらにまた西村大臣をはじめとした政府側の説明、これによって我々のALPS処理水そのものについての安全性というものに関しては理解が進んできていると、漁業者の理解は進んできているという、そういう話は一方でさせてもらいました。ただ、安全性要するに科学的な安全性とそれから社会的な安心、これは異なるものであると、一旦ALPS処理水が放流されれば風評被害等が起きるという懸念があるわけで、漁業者は決して安心できるものではないというそういう話もさせて貰いました。そういった中で、これから政府の方がどういった形でやるということはあるわけですけれど、我々としては、子々孫々まで漁業が継続できるように、それだけが我々の望みであるので、そこは国の方がしっかりと対応していってもらいたい。そういいう話をしてもらいました。
記者 政府の方からこの先の具体的な例えば放出の日程に関してなどそういった話などはあったんでしょうか。
坂本会長 総理の方からそういう話はありませんでした。また国の方が近いうちにという話でありますから、そちらの方は国の方からやがて私たちの方に連絡があるというように思います。
記者 そして国は2015年には福島県漁連に対して関係者の理解が得られなければ如何なる処分も行わないということを約束しましたが、この約束については今どう受け止めていらっしゃいますか
坂本会長 約束っていうのは、破られてはいないけれど、しかし果たされても居ないと、そういうように思っております。我々の理解というのは、進んでいますけれど、我々の望みっていうのは安心して漁業を継続するということであります。そういったものというのが我々の最大の要するに想いでありまして、そこのところを国がしっかりと受け止めていただくというのが現在の最大の関心事であります。
記者 また今放出が始まる前から中国などに対する輸出量が減っていますけれども、こういったことに対しては政府に対してはどういうことを求めていきますか。
坂本会長 政府にはその点は、今日は被災県の会長たち、さらにまた、中国向けに輸出をされている県の方々もいらっしゃいましたんで、それぞれの県の方々のそういう話はさせてもらいました。国はそういうものに対してしっかりした対応を取って我々が漁業を継続できるような、そういう万全の体制、そしてまたしっかりした責任を持って、この先何十年に渡ろうともしっかりとした対応を取っていってもらう。そういうことを申し上げました。
共同通信記者 総理が今回漁連側に何か仰ったこと、退室してから何を仰ったかをご紹介いただけますでしょうか。
坂本会長 総理の方からは、しっかり国の方がたとえ何十年に渡っても国が全責任を持って対処に当たる、そういう事で安心してほしいという、そういうようなお話を頂きました。
記者 それ以外特別何かこれまで出ている話と違うような話、受け止め方はありますか。
坂本会長 特別ありませんね。
記者 プラスで伺いたいんですけれども、先ほど約束については理解が進んでいるけれども果たされたとも思っていないと言っていたんですけれども、現時点では漁業者として理解をしたという段階ではないという理解でよろしいんでしょうか。
坂本会長 そうですね。理解って言うのは最後の要するに一滴まで、放流が行われるんだというように思いますけど、放流が行われて最終的に廃炉までもっていった、そしてそこの中で漁業者がしっかりと漁業を継続できたと、そのときに初めて100%の理解というものが生まれるもんだというように思ってます。現時点で理解が進んでいるというのはたとえば安全性であるとかそういうものに対してのものであって、また国が我々に対してしっかりと支えていく、そういう総理からの重い言葉をもらいましたんで、そういうものっていうのを我々は受けて漁業をやっていく、そういうことだというように思っています。
記者 放出されるものであろうということがありましたけれども、そうすると放出されるのはやむなしという理解になったということなんでしょうか。
坂本会長 違います。放流されることが我々が喜んでいいですよと言うわけはありません。
北海道新聞記者 坂本会長はこれまで廃炉となるまで、福島第一原発の問題は終わらないと考えていると述べて来たと思います。その中で文書の中では処理水を放出しないとそもそも廃炉に繋がらないのではないかという難しさも抱えていると思いますが、その点でお考えいかがでしょうか
坂本会長 もちろん廃炉のプロセスっていうものっていうのは我々がどうこう言えるものではありません。国の方がしっかりそこの所はプロセスを我々に説明をしていくものであると思っています。
NHK記者 今後国からALPS処理水の放出の日程についてどこかのタイミングでご提示があったときに、漁連としてはどのような対応をしていくのでしょうか。
坂本会長 ということは全漁連として何か行動を起こすのか?という事ですか?全漁連としては全漁連としてというよりも漁業者ですね。漁業者の想いっていうのは先ほども申し上げましたけれども漁業を継続することであります。我々はALPS処理水の安全性については理解が進んでいると先程申し上げました。ですから我々は漁業を継続していく。そういうことを第一に考えてます。
TBS記者 先程から科学的な安全性と社会的な安心はまた異なるモノだというふうに仰っていますが、これまでのIAEAの報告書などで、科学的な安全性っていうものは既に証明されたというふうに受け止められているのかどうか、また、社会的な安心というもの今後国にどのような保証のされ方を求めていくのかという点を教えてください。
坂本会長 科学的安全性というのは現在は説明を受けているわけでありますけれども、これは放流というのが前提ということになってしまいますが、放流された場合に、当然モニタリングっていうのをやっていくわけで、そのモニタリングの中で証明されていく、そういうものなのかなというふうには思っています。一方で、安心というのは、どこまで我々が安心をもっていけるのかということ、これは科学的な安全とは先程から申し上げましてるように違うというように思っています。
記者 社会的な安心っていう点において、どのレベルまで行けばこの放出っていうものを受け入れられるという段階になるという
坂本会長 あのね、廃炉にならないと最終的な安心ってならないんですよ。そういう事だと思います。
ブルームバーグ記者 予算措置のお願いをしていらっしゃいました。これはどういうところに対してどのような形を願って、規模など想定しているものがございましたら教えてください。
坂本会長 風評被害対策として300億円、そしてまた、漁業を継続していくための対策ということで500億円です。
記者 これは既にお願いしているものですか
坂本会長 お願いだけでなくて予算として措置をされています。
記者 今回はこれに加えてということではなくこの件に関して仰ったということですね。
坂本会長 そうですね。
NHK記者 理解についてなんですけども、やはり最後の一滴が安全に放出されて漁業が継続できるまでその理解はできたっていうことは、放出前に理解を示すということはやはり難しいんですか。
坂本会長 理解っていうのは先ほど安心っていうことを申し上げましたけれど、安心が100%ない限り100%の理解っていうのは無いんだと思うんですよ。ですから、現時点でそういう100%の理解があるのかといったら、そこまで行ってるわけはないということです。
記者 ということは今現時点で政府が理解なしに放流をしないというふうな約束をした上で理解が今100%ではないと仰ったということは、今この時点で放出をすれば約束を反故にされたというふうに漁業者側としては受け止めるということなんでしょうか
坂本会長 先程も申し上げましたけれど、破られてはいない、しかし果たされてもいないと、そういう状態だと思います。
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なお、全漁連HPでは関連する文書がUPされています。
ALPS処理水の海洋放出開始前の22日の全漁連会長の声明。
https://www.zengyoren.or.jp/news/press_20230822/
海洋放出開始後の全漁連会長コメント。
https://www.zengyoren.or.jp/news/press_20230824_02/
なぜ漁連等は「海洋放出に反対」なのか:「風評加害者」を恐れる現場
「海洋放出に反対」という立場は、宮城県・宮城県議会・県漁連等も同様です。
しかし、どういう言葉を使ってどういう立場を維持してきたのかについては以下で整理しています。
このような態度を取らざるを得ない事情として【「正しさ」の商人 情報災害を広める風評加害者は誰か】の著者である林智裕氏は国際環境経済研究所でも累次のレポートを発信している他、以下指摘しています。
処理水について漁業者は「海洋放出賛成」とは言えない立場にある。「風評は処理水放出に賛成した漁業者の自業自得」とされるのが目に見えているからだ。
— HAYASHI Tomohiro (@SonohennoKuma) 2023年8月4日
拉致被害者も、一時帰国が実現した際に「北朝鮮には帰らない」と自ら言える立場には無かったはずだ。北朝鮮には家族など「人質」がいるのだから。
利益団体として最大限の落としどころでしょうね。
— HAYASHI Tomohiro (@SonohennoKuma) 2023年8月23日
「納得した」と言ってしまえば、活動家の矛先は「お前たちが賛成したせいで!」と漁業者に向かう。(サブドレン時に前例あり)
「約束が反故にされた」と言ってしまえば廃炉は進まないし、むしろ自分達の首を絞めることなることも承知している。 https://t.co/e7g7Pd9L55