事実を整える

Nathan(ねーさん) 法的観点を含む社会問題についても、事実に基づいて整理します。

沖縄弁護士会が国民の懲戒請求を萎縮させる声明:「実質的に懲戒請求ではないが、違法な懲戒請求」という矛盾

f:id:Nathannate:20180727154651j:plain

沖縄弁護士会が天方徹会長名義で大量の懲戒請求書と題する書面に対して非難の声明を公表しました。

内容は沖縄弁護士会会長と在日コリアン弁護士協会所属の弁護士2名に対する懲戒請求がなされたが、その懲戒請求は違法行為を構成するというものであり、更には差別行為でもあるというものです。

この主張はどう考えてもおかしいので、何がおかしいのか指摘していきます。

懲戒請求制度と大量不当懲戒請求については以下の記事でまとめています。

沖縄弁護士会に届いた「懲戒請求書と題する書面」

沖縄弁護士会会長声明大量懲戒請求

http://www.okiben.org/modules/contribution/index.php?page=article&storyid=176

同じ内容の懲戒請求書と題する書面が961件届いたということですが、その内容は「日弁連会長声明」が「利敵行為」であり、沖縄弁護士会と沖縄弁護士会所属の弁護士がこれに賛同することが「犯罪行為」であるというものです。

日弁連会長声明」とは以下のものです。

朝鮮学校補助金日弁連会長声明

https://www.nichibenren.or.jp/activity/document/statement/year/2016/160729.html

日弁連会長声明とは要するに、朝鮮学校に補助金を支給しないようにと自治体に要請した文部科学大臣の通達は憲法違反のおそれがあるので通達を撤回しろということです。

この声明の是非はともかく、これが何らかの違法行為を構成しないことは確かです。

ただ、このような強制加入団体である日弁連の名称を使った政治的意見の表明については、弁護士から不満の声もあります。事案は違いますが声を紹介。

沖縄弁護士会は懲戒請求として扱わないと決定

沖縄弁護士会は961件の書面の性質について以下述べています。

本件各懲戒請求は,当会会員を対象とする懲戒請求の形式をとるものの,実質的には,日弁連の活動に対する反対意見の表明にほかならない本件各懲戒請求書には対象会員についての具体的な懲戒事由の説明が記載されておらず,日弁連の意見表明が当会会員の非行行為となるものではないことからすると,本件各懲戒請求は,当会会員弁護士の非行行為を問題とするものではない。

要するに、961件の書面は懲戒請求書と題する書面として懲戒請求の形式は備えているものの、実質的には会員(弁護士)の懲戒を求めるものとはみなせないと言っています。結局は日弁連の声明に対する反対の意見表明に過ぎないと言っています。

ところで、沖縄弁護士会は冒頭で下図の緑枠のように言っています。

f:id:Nathannate:20180727154651j:plain

http://www.okiben.org/modules/contribution/index.php?page=article&storyid=176

懲戒請求の流れとして、書面が届いたら綱紀委員会が調査をして懲戒委員会に付するかどうかを決定するという自動的な処理が行われているのが一般的です。沖縄弁護士会もそのように処理をしたということです。

弁護士全員に対するものは手続を止めているのに

f:id:Nathannate:20180727180627j:plain

上図は日弁連会長による大量の懲戒請求書と題する書面に対する扱いについて各弁護士会にあてた談話です。

いわゆる「大量懲戒請求事案」は二層構造となっていました。

  1. 弁護士会に所属する弁護士全員に対する懲戒請求
  2. 個々の弁護士に対する懲戒請求

このうち、弁護士会に所属する弁護士全員に対する懲戒請求は、綱紀委員会の調査を自動的に行うというこれまでの運用を採らないことが要請されたということです。全ての弁護士会に確認を取ったわけではないですが、これはどの単位弁護士会もそのようにしているようです。

そうしたことが出来るのですから、個別の事案においてもその内容が主張自体失当であったり、懲戒請求であると認めるに足らない表現の場合には綱紀委員会の調査を走らせないという扱いをすることもできたはずです。

沖縄弁護士会は、懲戒請求として扱うまでもない単なる怪文書に過ぎないものについては、弁護士会所属の弁護士全員に対する懲戒請求に対する扱いと同様の対応をすればよかったのです。それをせずに綱紀委員会の調査のために弁護士が負担を強いられたというのは、マッチポンプに他なりません。

今回の事案も記載されている事実(朝鮮学校に補助金を支給するべきとの日弁連の声明に加担したこと)が真実として存在していても懲戒事由を構成しえないということが分かりますから、主張自体失当と言える事案です。

この点については既に過去のエントリで触れています。

懲戒請求ではないと言いながら不当懲戒請求と言う矛盾

最初に指摘した通り、沖縄弁護士会は961件の懲戒請求書と題する書面は弁護士の非行行為を問題とするものではないと言い切っています。

にもかかわらず、懲戒請求が違法となる場合について判断した最高裁判決の判断基準を引用し、それに即して今回の事案を判断しています。

最高裁の判断は以下の通りです。

最高裁判所第3小法廷 平成17年(受)第2126号 損害賠償請求事件 平成19年4月24日

「懲戒請求が事実上又は法律上の根拠を欠く場合において,請求者が,そのことを知りながら又は通常人であれば普通の注意を払うことによりそのことを知り得たのに,あえて懲戒を請求するなど,懲戒請求が弁護士懲戒制度の趣旨目的に照らし相当性を欠くと認められるときには,違法な懲戒請求として不法行為を構成すると解するのが相当である。」

さて、沖縄弁護士会は「実質的には,日弁連の活動に対する反対意見の表明にほかならない」と言っておきながら、なぜか懲戒請求が違法となる場合についての最高裁の基準を持ち出しています。

これは甚だ矛盾ではないでしょうか?

そもそも、なぜ懲戒請求が違法と評価され、賠償の対象となるのか?

上記引用判決文における、裁判官田原睦夫の補足意見を紹介します

弁護士に対して懲戒請求がなされると,その請求を受けた弁護士会では,綱紀委員会において調査が開始されるが,被請求者たる弁護士は,その請求が全く根拠のないものであっても,それに対する反論や反証活動のために相当なエネルギーを割かれるとともに,たとえ根拠のない懲戒請求であっても,請求がなされた事実が外部に知られた場合には,それにより生じ得る誤解を解くためにも,相当のエネルギーを投じざるを得なくなり,それだけでも相当の負担となる。それに加えて,弁護士会に対して懲戒請求がなされて綱紀委員会の調査に付されると,その日以降,被請求者たる当該弁護士は,その手続が終了するまで,他の弁護士会への登録換え又は登録取消しの請求をすることができないと解されており(平成15年法律第128号による改正前の弁護士法63条1項。現行法では,同62条1項),その結果,その手続が係属している限りは,公務員への転職を希望する弁護士は,他の要件を満たしていても弁護士登録を取り消すことができないことから転職することができず,また,弁護士業務の新たな展開を図るべく,地方にて勤務しあるいは開業している弁護士は,東京や大阪等での勤務や開業を目指し,あるいは大都市から故郷に戻って業務を開始するべく,登録換えを請求することもできないのであって,弁護士の身分に対して重大な制約が課されることとなるのである。

補足意見を簡潔に整理すると以下です

  1. 弁護士は反論や反証活動のためのエネルギーが割かれる
  2. 懲戒請求がなされた事実が外部に知られた場合は誤解を解く必要がある
  3. 綱紀委員会の調査に付されると法律により転職等ができなくなる

これらの負担は、弁護士会が書面を懲戒請求であると判断した上で綱紀委員会の調査に付すことで生じるものです。

しかし、沖縄弁護士会は本件の961件の書面は実質的に懲戒請求を求めるものではないと判断しているのですから、本来は綱紀委員会の調査にすべきでないものをわざわざ取り上げて弁護士に無用な負担を負わせているということになります。

この負担を生じさせているのは沖縄弁護士会自身です。

弁護士会には弁護士の品位を保つとともに弁護士を不当懲戒請求から守るために弁護士自治によって広範な裁量が与えられているのですから、それを怠った結果に過ぎません。

弁護士法上も、懲戒請求があった場合には綱紀委員会の調査に付さなければならないと規定されており、「懲戒請求書と題する書面」をすべて懲戒請求として扱わなければならないとは規定されていません。

したがって、沖縄弁護士会は、懲戒請求として扱うべきではないものについて懲戒請求として扱ったという不手際があるということ、仮に今回の事案で懲戒請求として扱わなかった場合、違法懲戒請求としての実質が無い(反証活動のためのエネルギーが割かれるということが発生しない)ので、懲戒請求者に対して違法懲戒請求の基準に照らして違法であると主張する立場には無いということになります。

 

「人種差別的な懲戒請求」という無理筋

沖縄弁護士会声明は次いで以下述べます

さらに,LAZAK所属の当会会員に対する本件各懲戒請求については,日弁連会長声明の内容,当該会員が当会の役員等に就任していなかったこと,当該会員が個別に日弁連会長声明につき何らの関与する行為に及んでいないこと及び当会の他の一般会員に対しては同様の懲戒請求がなされていないこと等を総合的に勘案すると,当該会員のバックグラウンドを根拠に狙い撃ちしたものであることが明らかである。

他の一般会員に対して懲戒請求をしていないから差別的な懲戒請求であるとしています。こんな理屈が通用するとでも思っているのでしょうか?

同様の理屈で懲戒請求者に対して訴訟提起したのは金竜介弁護士がいます。

既にご存知の方にとっては当たり前なことですが、大量懲戒請求事案と呼ばれている事象は、「余命ブログ」を起因とした懲戒請求であり、沖縄弁護士会に対するものに限られません。全国の弁護士会に対して行われているのです。

その中では明らかに在日コリアンではない弁護士も懲戒請求対象となっており、人種・民族を理由に狙い撃ちをしたということは窺えません。

そもそも、狙い撃ちしたとしてヘイトにあたると評価してよいものなのでしょうか?

懲戒請求の対象として誰を選ぶのかは懲戒請求者の自由です。それは、通常の訴訟提起の場合も当てはまります。「特定の集団に対しては訴訟提起や懲戒請求をしてはいけない、人数制限が課されている」などという法規範はありませんし、訴訟提起や懲戒請求を受けた場合に被る負担は、日本人と変わりありません。

一人の人間が外国人・外国人団体ばかりを訴えていたとしても、それを封殺する法制度は存在していません。対象選択の自由が個人には認められています。なぜ国家から「お前は外国人に対する訴えはこれぐらいに控えろ」と言われなければならないのでしょうか?およそまともな思考であるとは思えません。

沖縄弁護士会の主張を再掲します

本件各懲戒請求は,当会会員を対象とする懲戒請求の形式をとるものの,実質的には,日弁連の活動に対する反対意見の表明にほかならない本件各懲戒請求書には対象会員についての具体的な懲戒事由の説明が記載されておらず,日弁連の意見表明が当会会員の非行行為となるものではないことからすると,本件各懲戒請求は,当会会員弁護士の非行行為を問題とするものではない。

最初に沖縄弁護士会は「懲戒請求ではなく実質的には日弁連の活動に対する反対意見の表明であるとし、当会会員弁護士の非行行為を問題とするものではない」 とはっきり明言しています。

そうであるならば、特定の弁護士への狙い撃ちであると評価することは出来ないはずであり、沖縄弁護士会の声明文の中でまたしても矛盾が生じていることになります。

特定の弁護士に対する懲戒請求なのか、日弁連の活動に対する反対意見に過ぎないのか?

論旨が一貫していない文章の典型例です。

まとめ

  1. 沖縄弁護士会は961件の書面について、実質的には日弁連の活動に対する反対意見の表明にほかならないと言った
  2. ということは、懲戒請求として扱うべきものではないと認めたことに
  3. にもかかわらず、沖縄弁護士会は懲戒請求として扱った
  4. 実質的には懲戒請求と評価できないと言及したものについて、懲戒請求が違法となる場合の判断基準を用いて論難しているのは自己矛盾である
  5. 狙い撃ちによる人種差別的な懲戒請求であるという主張も、実質的には日弁連の活動に対する反対意見の表明にほかならないという主張と矛盾する
  6. 狙い撃ちをしていたとしても違法になるという根拠はない

弁護士会はまず最初に自らの懲戒請求手続のスキームを見直し、無用な争いをわざわざ発生させることがないようにしなければならないと思います。

また、差別に名を借りたスラップ訴訟を弁護士会(会長)が率先して主導することは許し難い行いです。大量に懲戒請求書と題する書面を送った者は、自身の行いによってこうした動きを発生させてしまったということを反省すべきであり、懲戒請求をするのであれば相当の根拠をもって事に当たらなければいけません。

「外国人に対する訴訟提起(懲戒請求)は年に〇〇回まで!」
「同じ組織の外国人を同時に複数提訴(懲戒請求)しちゃダメ!」

このような例と同様の態度を国家が国民に強制させるべきである、というのが沖縄弁護士会の主張に思えて仕方がありません。

「大量懲戒請求の歯止め」に名を借りた国民の懲戒請求権への抑圧】にならないようにしていただきたいですね。

以上

立憲民主党枝野幸男が加計学園理事長に経営権譲渡を要求:弁護士の懲戒請求対象?

f:id:Nathannate:20180724134907j:plain

2018年7月20日の衆議院本会議で立憲民主党の枝野幸男氏が民間企業の私人に対して暴言を吐きました。

本来は内閣不信任案の決議に対して提出者の趣旨弁明をする場なのですが、2時間43分に渡る演説を行ったことで有名です。

国会議員からこのような攻撃を受けた場合に国民としては何ができるのかについて整理していきましょう。

立憲民主党、枝野幸男氏の衆議院本会議演説での発言

衆議院インターネット審議中継

演説は動画の4分あたりから始まり、加計学園に関する問題発言は1時間40分20秒あたりから始まります。発言の前後もきちんと聞きましょう。

ここまでに加計学園の許認可が問題であるという視点から縷々意見表明をしてきたという流れの中での発言です。

加計学園の加計理事長は今も理事長のままでおられます。まったく矛盾に満ちたまさに出まかせとも言っていい説明を繰り返し、逆に百歩譲ってもしこの加計理事長の言っていることが本当だとすれば、総理の腹心の友ってあまり日本語聞いたことがないんですが私は、相当親しい御友人がトップである法人が、総理の名をかたって、かたったわけですからね、愛媛県や今治市に対しては。しかも勝手にかたって獣医学部の設置を有利に進めようとしたことになるわけですねぇ。

総理とのご友人であったのは事務局長ではありませんねぇ。事務局長が言ったと百歩譲って言ったとしても、総理と加計理事長がご友人であったことを奇貨としてやっているわけですよね。なんらの責任も感じる姿勢も示さず、説明責任をまったく果たしていない、もう記者会見はやらないなんて言っているわけですよ。こんな方が教育機関のトップをやらせてていいんですか。この認可過程に決定的な問題があります。ありましたが学校として現に出来上がってしまい、そこに学んでいる学生さんたちがいらっしゃいます。そうした現実を踏まえるならば、やるべきことは加計理事長は加計学園の少なくとも獣医学部の経営から手を引かれ、第三者に経営権を委譲すべきであると思いますし、友人であるならば安倍総理にはそれを促す責任があると私は思います。そうでなければ、こんないいかげんな無責任な人間が教育機関のトップをやっているという教育におけるモラルの崩壊に繋がっていくと私は思います。

民間に口出すなとかって野次ってるのが居ますから、聞いてください。総理が友人として促すべきだと私は申し上げております。それが日本の社会の秩序モラルを維持すべき責任を持っている日本の政治のリーダーとしてのご友人に対する真摯な姿勢ではないでしょうか皆さん。

まぁ、総理の仰る友人というのは、同じような高い志を持って違う道だけど頑張っていこうね、というのが私は友人というものの定義だと思っていますが、一緒に楽しくゴルフをやるというのがお友達なのかなぁと思いますので、しょうがないのかもしれませんね。

この後も加計学園の許認可に対して疑問を呈する演説が続いていきます。

加計学園理事長の経営権譲渡を安倍総理から促す要求?

まずは加計学園に対するマスメディアと野党の主張についておさらいしましょう。

加計問題と言われていた主張

まず、許認可には何らの法的瑕疵は存在しないということについては以下の記事で言及しています。

なお、外形的公正性に疑義があるという橋下徹氏の主張がありますが、それは既に行われた行為に対する非難ではなく、制度変更の主張です。

 

「加計理事長と安倍総理が友人である事」はどのように言及されたか

加計理事長が記者会見を行った際に説明した内容は以下の通り

  1.  「渡辺事務局長が誤った情報を愛媛県と今治市に与えた」として謝罪
  2. 誤った情報とは、獣医学部新設に関連して安倍総理と会ったかのような発言があったこと
  3. 加計氏は「事を前に進めるためにそのような発言をした」という報告を受けた
  4. 本日の加計学園の理事会で渡辺氏が減給1割を半年間、加計氏が監督責任として減給1割を1年間とする処分を決定した
  5. 加計氏は「安倍総理と獣医学部について話したことはない」「昨年2月25日に会ったということはない」と発言。安倍総理とは仕事の話はやめようというスタンスで会っている。

枝野氏は演説で「総理の名をかたって」と言っていました。

ところで、「他人の名を騙る」とは、本来は「他人の名まえを名乗ってなりすます」という意味です。加計理事長や渡辺事務局長がそのようなことをした事実はありません。

流石にそのような意味で使っているとは考えられないので、枝野氏の発言は現時点では「総理の名を語って」と捉えるべきだと思います。そうすると、「総理の名まえをちらつかせて」「虎の威を借りて」というような意味合いだったものと思われます。(議事録がどのような表現になるかわかりませんが、議事録は本人が内容を確認するので公式にUPされたものが正式なものとなります。)

渡辺事務局長が、加計理事長が総理の友人であり国家戦略特区の申請中に面会したことを「匂わす」ことで、「相手に総理の意向を感じさせ、許認可に前向きになってもらおうとした」。というのは事実でしょう。

しかし、それは「まったく矛盾に満ちたまさに出まかせとも言っていい説明を繰り返し」と言えるものでしょうか?

まったく矛盾に満ちたまさに出まかせとも言っていい説明を繰り返し」

以上の通り、枝野氏のこの発言は加計理事長が主体となって説明をしたことが前提となっており、そのような事実は無いということが明らかです。枝野氏は「百歩譲って」と言っているので、基本的には加計理事長が「総理の名をかたって」いたという趣旨ですから、虚偽の事実を適示していることになります。

「なんらの責任も感じる姿勢を示さず」と言えるのか?

加計理事長はこれが渡辺事務局長の行ったことであるからこそ、それは「誤った情報を与えた」と表明し、監督責任として加計理事長も減給処分を受けたわけです。それは理事会での決定事項です。

では、「なんらの責任も感じる姿勢を示さず」とは、何を持ってそう言えるのか?

経営権譲渡という結論に向かわせるためにこのような無理な言及を敢えて行ったと言わざるを得ません。

私人に対して経営権譲渡を促すよう公人に要求する行為について

ここまでの主張は「内閣総理大臣の不信任決議案について提出者の趣旨弁明をする場」で行われたと言う点に注意すべきでしょう。

安倍総理の「これまでの行為」について資質を問題にするのであればそれはこの場にふさわしい内容でしょう。それは内閣総理大臣の不信任決議案を提出する理由になり得るからです。

では、安倍総理に対して「これからの行為として」私人への働きかけを要求することが、不信任決議案を提出する理由になるでしょうか?なり得ないということは明らかです。そのような言及は不要であり、無関係です。

その上で、友人関係に基づく意思表明について国会議員という公的な立場である枝野衆議院議員が要求するというのはどういう意味があるのでしょうか?私人間の関係について、公的な場で公的な役職の者が要求するのは「自己の意思決定の自由」たるプライバシーに配慮がない言動ではないでしょうか?

また、加計理事長という私人に対して安倍総理大臣が公人の立場からの経営権譲渡を促すというのは、これもまた国家による職業の自由や意思決定の自由の侵害に繋がりかねない、私人の権利利益について配慮の無い言動でしょう。

形式上、枝野氏は安倍総理に対して要求していると言っていますが、そうであるとしても上記のような問題が生じるのです。

ましてや、実質的には私人に対して直接経営権譲渡を要求していると言えるとすれば、それは明らかに職業の自由や意思決定の自由に配慮のない言動です。

枝野氏が内閣不信任決議案の趣旨説明の場で意見表明しただけでは何らの法的拘束力は発生せず、権利侵害があるとも思えないため違法ではないと思います。しかし、枝野氏は弁護士であり、公的な場で何等の必然性も無いのに私人間の意思決定に介入しようとするのは、問題ではないでしょうか?

私人たる民間企業(個人)に説明責任?

法的な説明責任は国家に求められます。

それはなぜかと言うと、国民と政府の関係を信託関係と捉え、国民主権の行使の信託を受けた政府が信託上の義務として説明責任を負うと考えられています。

しかし、私人はそのような信託を受けていません。無関係です。

愛媛県や今治市に対して加計学園が説明すべき道義的責任はあるかもしれませんが、私人が国に対する説明責任などという法的な義務は存在しないのです。

枝野氏がどういう意味で「説明責任」という語を使っているかは定かではありませんが、仮に法的な意味であれば弁護士としての品位を疑わざるを得ません。

また、道義的責任を言っているのであるとしても、それを主張する適格があるのは愛媛県や今治市の住民でしょう。無関係な枝野氏個人や国会議員としての枝野氏、一般国民には主張適格はありません。

全国的な国家戦略特区の申請の話だから一般国民に対しても道義的説明責任はあるという主張が出てきそうですが、国民の側としては国に対して「なぜ加計学園を認可したのか説明せよ」と言えば良い話です。その説明はこれまでの国会等で尽くされています。

具体的な場面において私人が逐一何を言ったのか、その理由を全国民に対して説明しなければならないという道義的責任があるのかどうかは、かなり怪しいと言わざるを得ません。

そもそも、いったい何を説明せよと言うのでしょうか?記者会見は既に開いています。

「こんないいかげんな無責任な人間が教育機関のトップをやっているという教育におけるモラルの崩壊に繋がっていく」

これは私人に対する名誉毀損ではないでしょうか?

既に述べた通り「まったく矛盾に満ちたまさに出まかせとも言っていい説明を繰り返し」「なんらの責任も感じる姿勢も示さず」「説明責任をまったく果たしていない」などという事実は無いのですから、真実性も何もないわけです。

騒がれていた当初は「真実であると信ずるにつき相当な理由」はあったと思いますが、現時点では情報が整理されていますから、相当性は無いと言えます。

したがって、「無責任な人間」「モラルの崩壊に繋がる」という論評の前提を欠いていますから、違法性阻却されるはずがありません。

 

国会議員の免責特権

国会議員には憲法51条で免責特権があります。

これに当たる場合、国会議員個人が演説等を理由に賠償請求されることはありません。

 

国会議員の発言によって名誉毀損等があった場合には、国家賠償請求として「国」に賠償金を求めることが可能ですが、そのハードルは高いです。

最高裁判所第3小法廷平成6年(オ)第1287号 損害賠償請求事件平成9年9月9日判決 

国会議員が国会で行った質疑等において、個別の国民の名誉や信用を低下させる発言があったとしても、これによって当然に国家賠償法一条一項の規定にいう違法な行為があったものとして国の損害賠償責任が生ずるものではなく、右責任が肯定されるためには、当該国会議員が、その職務とはかかわりなく違法又は不当な目的をもって事実を摘示し、あるいは、虚偽であることを知りながらあえてその事実を摘示するなど、国会議員がその付与された権限の趣旨に明らかに背いてこれを行使したものと認め得るような特別の事情があることを必要とすると解するのが相当である。

しかも、重要なのは、その賠償金は私たちの税金から出ていくものだということです。

どうも、このような関係を意識して国会で個人を攻撃する言動が横行しているような気がします。

国賠請求をするにしても加計学園側に主張適格があるのですから、私たちが騒いだところで無意味です。

弁護士の懲戒請求について

枝野氏は弁護士登録をしています。弁護士には懲戒請求制度ががあり、これは誰からでも請求可能です。

国会議員としての責任が免責されるとしても、弁護士の品位を保つ自治の観点から懲戒請求がなされることまでは否定されないのではないか、という意見もあると思われます。

ただ、国会議員の免責特権が自由な意見表明による使命遂行を保つために認められているのですから、そのような場における発言を取り上げて懲戒処分をするというのは憲法違反の可能性が高いと思われます。

仮に懲戒処分が可能だとしても、それは上述のような名誉毀損による国家賠償が認められるような極めて限定的な場合に限られると思われます。しかし、その場合は加計学園側が提訴しなければならず、国家賠償の分については我々の税金から成る国庫の負担となります。

名誉毀損の国賠請求が認められる場合ですらこうなのですから、それ以外の発言部分が懲戒事由を構成するとは思えません。

したがって、第三者たる一般国民からの懲戒請求はあまり現実的ではないと言えます。

まとめ

  1. 枝野氏の加計理事長に関する主張には問題点が多くある
  2. しかし、免責特権により個人に責任を求めることはできない
  3. 賠償が認められるとしても国に対してであり、主張適格は加計学園側にしか無い
  4. 弁護士の懲戒請求が可能だとしても、国賠訴訟で枝野氏が敗訴となるような事情が必要と思われ、その場合に支出されるのは我々からの税金負担となる

結局のところ、政治家の発言の評価は選挙の投票結果によって決まるということでしょう。有権者が枝野氏の発言を支持しなければ別の候補者に投票するだけであり、無関係の外野が殊更に何かできるような仕組みではないということでしょう。

ただ、「発言の妥当性」については、上記に示した通りではないでしょうか。

以上

カジノ整備法成立:IR法(特定複合観光施設区域整備法)の情報源まとめ

特定複合観光施設区域整備法

2018年7月20日、いわゆるカジノ整備法と言われるIR法(特定複合観光施設区域整備法)が可決されました。

この法律に関する情報の在り処を整理しましたので読み込みたい方はそちらへどうぞ。

まずは検索に成功するために法律(法案)の名称から整理します。

IRカジノ政策についての基本理解とデマについてはこちら。

カジノ整備法=IR法(Integrated Resort)の正式名称

カジノ整備法=IR整備法の正式名称は「特定複合観光施設区域整備法」です。

首相官邸HPに置かれている特定複合観光施設区域整備推進本部と、その傘下に設置された特定複合観光施設区域整備推進会議があります。

ここで各種議事録や付帯決議が確認できます。

おそらく、このページ以外でヒットする情報は過去のジャンク情報だと思われます。

「統合型リゾート施設(IR)整備法案」=昔の呼称

「IR法」「カジノ法」「カジノ整備法」などで検索すると、マスメディアのニュース記事がヒットし、「統合型リゾート施設(IR)整備法案」といった表記に出くわすと思います。

これは過去の情報なので、この時点の法案を見ても変更されており今国会で成立された法律とは内容が異なるのでジャンク情報です。注意しましょう。

「IR」の表記は意味内容が変化していないため、そのまま使われています。

特定複合観光施設区域整備法のファイル

IR法、カジノ推進法

現在、参議院の議案情報ページに提出法案のPDFが見られるようになっています。

これは後ほど修正がどれほどあったのかの記述、付帯決議があればその付帯決議のファイル、そして「成立法律」のファイルが今後UPされるハズです。

特定複合観光施設区域の整備の推進に関する法律

特定複合観光施設区域整備法は、根拠法があります。

1条にあるように、特定複合観光施設区域の整備の推進に関する法律(整備推進法と呼ばれているかもしれません)の5条に以下のような規定があります。

政府は、次章の規定に基づき、特定複合観光施設区域の整備の推進を行うものとし、このために必要な措置を講ずるものとする。この場合において、必要となる法制上の措置については、この法律の施行後一年以内を目途として講じなければならない。

「必要となる法制上の措置」が特定複合観光施設区域整備法(IR法)の成立ですね。

特定複合観光施設区域整備法(IR法)の関連法令としては、これの他に衆議院附帯決議と参議院附帯決議があります。

法案提出から修正がどれほどあったのかについては 参議院の議案情報ページ(本会議議決日平成28年12月14日)で分かります。

おそらく「カジノ推進法」は「カジノ整備法」ではなく、こちらの法律を指していることが多いと思われます。

参考資料:ギャンブル依存症対策など

Integrated-Resortパチンコ規制

必要な参考資料、ネットでヒットしやすいと思われる参考資料について整理します。

特定複合観光施設区域整備推進会議取りまとめ~「観光先進国」の実現に向けて~

特定複合観光施設区域整備推進会議において決定された、特定複合観光施設区域整備推進会議取りまとめ~「観光先進国」の実現に向けて~という資料があります。

これは法案ではなく、政策の全体像や公共政策としての方針が書かれているものです。

平成29年7月31日に、特定複合観光施設区域整備推進会議で決定されたもので、それまでの議論を反映しているものです。よって、会議のページに開催日毎に参考資料がありますが、この資料を見ればそれまでの資料は見なくてもだいたい制度の中身が分かるようになっていると思います。

パチンコとの違いについてはこちらを見ればわかりやすいと思います。

ギャンブル依存症対策についても書いてあります。

特定複合観光施設区域の整備の推進に関する法律関係資料

特定複合観光施設区域の整備の推進に関する法律関係資料があります。

多分ネットではこちらがヒットすることも多いのかもしれません。

しかし、これは特定複合観光施設区域整備推進会議の最初の開催日の参考資料です。

議論の経過を見る分にはいいのかもしれませんが、ここに書いてあることが何らかの方針であると考えるのは注意が必要だと思います。ただ、質問された疑問点などが末尾にまとめられており、使い方によっては有益だと思います。

ギャンブル等依存症対策基本法

ギャンブル等依存症対策推進関係閣僚会議において議論が重ねられてきました。

その成果が2018年7月13日成立のギャンブル等依存症対策基本法です。

この法律で捕捉しようとするものには、パチスロなどの遊技も含まれています。

今回のIR整備法においても、この法律に基づくIR事業者の義務が規定されています。

風俗営業等の規制及び業務の適正化等に関する法律

いわゆる風営法はパチンコ規制に関係します。

特に23条はパチンコの換金行為と関係します。

(遊技場営業者の禁止行為)
第二十三条 第二条第一項第四号の営業(ぱちんこ屋その他政令で定めるものに限る。)を営む者は、前条第一項の規定によるほか、その営業に関し、次に掲げる行為をしてはならない。
一 現金又は有価証券を賞品として提供すること。
二 客に提供した賞品を買い取ること。
三 遊技の用に供する玉、メダルその他これらに類する物(次号において「遊技球等」という。)を客に営業所外に持ち出させること。
四 遊技球等を客のために保管したことを表示する書面を客に発行すること。
2 第二条第一項第四号のまあじやん屋又は同項第五号の営業を営む者は、前条第一項の規定によるほか、その営業に関し、遊技の結果に応じて賞品を提供してはならない。
3 第一項第三号及び第四号の規定は、第二条第一項第五号の営業を営む者について準用する。

これを知らずしてIRやカジノの議論はできないと言っても過言ではないでしょう。

まとめ:パチンコ規制との連動を意識して

  1. カジノ整備法=IR法の正式名称は「特定複合観光施設区域整備法
  2. 特定複合観光施設区域整備推進本部、特定複合観光施設区域整備推進会議のページを見るべき
  3. 参議院の議案情報ページに修正経過が掲載されるはず
  4. 政策の全体像や方針を知りたければ「特定複合観光施設区域整備推進会議取りまとめ~「観光先進国」の実現に向けて~」が便利

カジノ政策はパチンコ規制と切っても切れない関係にあるものだと思います。

当然、パチンコ業界等から妨害があると予想され、今後は政策や法律について凄まじいデマが喧伝されることが考えられます。こちらの情報源を当たっていれば、デマに騙されず、将来的なデマの減殺に繋がるだろうと思います。

以上

山本太郎参議院議員がIR法案採決で委員長に暴行:公務執行妨害罪等の成否

f:id:Nathannate:20180720232648j:plain

山本太郎参議院議員が、参議院内閣委員におけるIR法案の採決の際、委員長の腕や手を強く掴む行為を行いました。

これが何らかの刑罰に該当するのではないでしょうか?

過去の事例から判断しましょう。

実は以下の過去記事で検討したことが丸々当てはまります。

山本太郎参議院議員による公務執行妨害罪か

動画を見ればわかりますが、明らかに委員長の腕をつかんで文書を奪い取ろうとしています。

公務執行妨害罪(刑法95条1項)にいう「暴行」について説示した国会乱闘事件の裁判例を参考にします。

東京地方裁判所昭和31年(刑わ)第3221号 公務執行妨害、傷害等 昭和41年1月21日

元来、公務執行妨害罪の構成要件たる暴行は、公務員の職務執行の妨害となるべきものであることを要しー中略ー、従つてこれが積極的な攻撃としての性質を帯びることは勿論(最判昭和二六年七月一八日集五巻八号一四九一頁参照)、公務員の身体に何らかの危険の及ぶべきことを感知せしめ、その行動の自由を阻害するに足る程度のものでなければならないと解するのが相当である。けだし、公務員が、その職務執行にあたり、身体に何らかの危険の及ぶべきことを感知する底の直接あるいは間接の攻撃を受ければ、これが回避もしくは遅疑、逡巡など、その職務遂行の意思に外部的な影響を受け、それがため、その行動の自由が阻害されて、職務執行の停滞ないし中絶を招くであろうことは当然予想されるところであり、一方、その攻撃にして、身体に何らの危険をも感知せしめず、公務員において全く意に介しないような性質のものであるかぎり、これによつて職務の適正な執行の害されるおそれはない、というべきだからである。しかし、右説示したごとき性質の有形力の行使である以上、それが一回的、瞬間的に加えられると、はたまた継続的、反覆的に行なわれるとを問わないことはいうまでもなく、むしろ、公務員の身体に対する攻撃であればその職務遂行の意思に何らかの影響を及ぼし、適正な職務執行を害するのが通常であるともいえよう

 「公務員の身体に対する攻撃であればその職務遂行の意思に何らかの影響を及ぼし、適正な職務執行を害するのが通常」

動画を見ても、山本太郎議員が委員長の腕をつかむなどの行為によって、採決の手続が遅延していることがわかります。

したがって、構成要件該当性はみたされることになります。

山本太郎参議院議員による威力業務妨害罪

仮に公務執行妨害にあたらなくても、威力業務妨害罪(刑法234条)にあたらないと言い得る根拠は乏しいと思います。

最高裁判所第1小法廷 平成20年(あ)第1132号 威力業務妨害被告事件 平成23年7月7日

卒業式の開式直前という時期に,式典会場である体育館において,主催者に無断で,着席していた保護者らに対して大声で呼び掛けを行い,これを制止した教頭に対して怒号し,被告人に退場を求めた校長に対しても怒鳴り声を上げるなどし,粗野な言動でその場を喧噪状態に陥れるなどした

これと比較すると、委員長の前に立ちはだかり、卓上の文書類を散らかし、委員長の腕を強く掴むなどしつつ言葉を浴びせかけることでもって採決を遅延させる行為は、「威力」に 該当すると言えると思います。

政治活動における超法規的違法性阻却事由について

国会乱闘事件では、事務次長のネクタイを引っ張って頸部圧迫をした事が公務執行妨害罪の構成要件に該当したが超法規的違法性阻却とされました。

国会乱闘事件でなぜ超法規的違法性阻却がされたのか?

東京地方裁判所昭和31年(刑わ)第3221号 公務執行妨害、傷害等 昭和
41年1月21日

しかるに、他面、同被告人らの右各行為は、その参議院議員としての本来の職務たる言論活動自体もしくはいわゆる附随的行為にあたらないとはいえ、これがいわば参議院議員の院内における広義の政治活動として、前叙各認定のごとき動機、目的のもとになされたもので、もとより議員の職務と全く無関係な個人的犯罪と異なり、この両者の相違は、犯罪成立要件もしくは量刑の面において、顕著に顕われるであろうことは、先に一言したごとくである。

まず、本件が参議院議員の院内の広義の政治活動としており、個人的犯罪と異なる判断過程を経るということを判示しています。

それぞれ前叙認定にかかるがごとき行為に出でた動機、目的は、その際、本会議開会の振鈴後、松野議長において開会を宣べるまでの時間が通常の場合におけるそれに比してかなり短かく、かつ、これにひきつづいて、直ちに記名投票のための議場閉鎖がなされたので、政府与党である自民党及びこれに同調していたと目される緑風会の各議員は殆んど入場し、一応会議のための定足数こそ充たしていたものの、一方、野党である社会党議員は、当時議運委などが開かれず、従つて、野党としての立場上、何時本会議が開かれるかも予知しえない状態にあつたという事情も加わつて、その大部分が右議場閉鎖に至るまでの短かい時間内に入場を果しえず、議場外に取り残され、事実上、同党議員については、その審議参加の機会もしくは表決権行使の機会が失なわれる結果となり、また、それがため、同被告人らにおいては、他の社会党議員と同様、当時の緊迫した参議院内の情勢下にあつて、閉鎖中の議場内で現に行なわれている議事もしくはその後の議事経過に予測しえないものがある、と感じて、強い不信感に駆られたところから、それぞれ閉鎖中の議場内にあえて入場し、被告人亀田においてはー中略ー、事実上失なわれる結果となつた審議参加の機会もしくは表決権行使の機会の回復をうるため、ー中略ー議院運営の適正を期さんとしたものにほかならないから、これがいわば政治的な意味においてはその立場を異にすることによつて自ずから評価を別にするであろうことはさておき、行為の動機、目的としては、やはりこれを正当なものとして是認しなければならない。
 次に、その際の同被告人らの行為の具体的な態様は、前叙において詳細に認定したとおりであり、いずれも外見上有形力の施用と目すべきものであるが、その程度は、まことに軽微であつて、これが同次長もしくは右佐藤宏に対してことさら危害を加えようというがごとき性質のものでないことはもとより、同被告人らは、その間それぞれ、同次長もしくは同議長に対する抗議ないし議事中止の進言を終始つづけており、ー中略ー、その身体に対する侵害の度合が低いこと、をあわせかんがみれば、その手段において未だ止むをえない限度を逸脱していないものと認むべきである。

まとめると

  1. 参議院議員の院内の広義の政治活動は個人的犯罪の場合と異なる判断過程を経て刑法的評価が加えられる。
  2. 野党の審議参加の機会、評決権行使の機会が不当に奪われた
  3. 行為の動機、目的は、失われた審議参加の機会、評決権を回復するため議院運営の適正を期するため
  4. 行為の具体的態様は、有形力の行使であるも軽微であって、危害を加えようとするようなものではなかった

山本太郎議員の場合はどうでしょうか?

確かに、行為の具体的態様は相手に危害を加えようとするものではなかったと思われます。しかし、審議参加の機会や評決権行使の機会が不当に奪われた事実はなく、それを回復するための行為として暴行が行われたということではないということが明らかです。

したがって、山本太郎議員には超法規的違法性阻却事由が存在しないと言えると思います。

国会の自律権・免責特権・議院警察権との関係

この先は、そもそも裁判で扱うことができるかどうかの話です。

既に上記記事で書いてますが、改めて本件について言及します。

国会の自律権について

憲法58条に国会の自律権が規定されているため、国会内での行為は司法審査の対象にならないという主張がありましたが、国会乱闘事件では司法審査の対象となると判示されました。

山本太郎議員の行為は有形力の行使なので、国会乱闘事件と同様、司法審査の対象になることが明らかだと思いましたので、既述の通り検討しています。

免責特権について

国会議員の免責特権(憲法51条)について

本条の免責特権が前述のような立法の目的および趣旨によつて国会議員に付与されたものであることに鑑みるときは、その特権の対象たる行為は同条に列挙された演説、討論または表決等の本来の行為そのものに限定せらるべきものではなく、議員の国会における意見の表明とみられる行為にまで拡大される

このような判断基準がありますが、山本太郎議員の行為が意見の表明とみられる行為でないということは明らかではないでしょうか?

議院警察権との関係

東京地方裁判所昭和31年(刑わ)第3143号 公務執行妨害被告事件 昭和37年1月22日

この告発は政府与党ならびに自由党側議員から為されたもので社会党議員はその告発者中に包含されていないから決して参議院自身の告発ということはできないが、斯の如き多数の国会議員によつてその告発の意思表示が為された以上、検察庁がこれに基き捜査を遂げた結果起訴するに至つたのはむしろ当然であつて、その間なんらの手続上の違法はないものといわなければならない。

国会法114条では議長に議院警察権が認められていることから、議長が何ら警察権を行使していないのに起訴することは許されないとする主張が過去になされました。

しかし、それも否定されています。 

したがって、議長の意思とは無関係に、国会議員が多数、告発の意思表示をすれば確実に検察は受理するということです。国会議員1人や数人程度で議院警察権との競合をクリアするかは不明ですが、必ず排除されるとも言えないということがわかります。

IR法案採決時の行為の懲罰動議について

上記記事では、過去に懲罰動議が出され、懲罰委員会で議事録化された事案について、除名処分となった事件を紹介しています。

除名処分となった事案ですら、暴行行為はありませんでした。

通常は議院内での暴行は除名処分となるべきですが、懲罰動議すらあがらないとしたら、与党は野党に何か後ろ暗いものを感じているか、何かを握られているか、ただ度胸が無いだけです。 

まとめ:公務執行妨害、威力業務妨害、懲罰動議

山本太郎IR法案暴行妨害

  1. 山本太郎議員の行為は公務執行妨害・威力業務妨害の構成要件に該当する
  2. 山本太郎議員には超法規的違法性阻却事由は存在しない
  3. よって、山本太郎議員は公務執行妨害又は威力業務妨害の罪を負うのではないか
  4. 国会議員が覚悟を持てば、告発・懲罰動議のいずれも可能

イギリス議会ではソードラインが設定されているということを知らない人は居ないでしょう。議会では言い争いをしても決して暴力に出てはいけないという理念を表したものです。

今回の事例を何らのお咎めなしにしてしまえば、議会制民主主義の秩序が保てなくなります。最終的には、テロリストによる議事妨害も可能になってしまうのではないでしょうか。

そして、上記画像にはカメラマンが山本太郎議員の行為を真正面から写していますが、妨害の瞬間をどこか流しているでしょうか?なぜ、この場面を報道しないのでしょうか?

以上

熱中症の危険:昔より暑いのに学校にエアコンが設置されない原因は何なのか?

f:id:Nathannate:20180720175804j:plain

学校において熱中症による「被害」が後を絶ちません。

エアコンがついてない学校が多いと聞いて、信じられない思いです。

日本の暑さが異常であること、昔よりも暑くなっていることは周知の事実だと思っていましたが、ここで改めて整理したいと思います。

また、学校においてエアコンが設置されないのはなぜかについても整理します。

日本の気温、気候とその変化

現在の日本の気温等と他の地域の気温を比較し、さらに過去の日本の気温がどうだったのかを確認していきます。

日本と東南アジアの気温・湿度

東南アジアインドネシアの気温湿度

https://web.archive.org/web/20180720060533/http://www.tenki.jp/world/4/77/96749.html

東京とインドネシアのジャカルタの最高気温を比べると、東京の方が高いということが分かります。

東南アジアダバオ気温湿度

https://web.archive.org/web/20180720060339/http://www.tenki.jp/world/4/81/98753.html

日本の中では比較的涼しい仙台とフィリピンのダバオの最高気温を比べると、ほぼ同じような値を示していることがわかります。ちなみに湿度を比べるとこの期間は仙台の方が高かったので、WBGT指数は仙台の方が高いことになります。

  • 東京>>東南アジア
  • 仙台=東南アジア

なお、仙台にある私の実家の2階の気温を測ったら37度だったらしいです(笑)

平成30年のご時世の現実はこうであるということです。

しかも、西日本はもっと熱帯です。

近畿地方のアメダス

yahoo天気アプリ提供アメダス

中東の砂漠地帯と同じような気温です。

しかも湿度があるので、日陰に居ても涼しくなく、危険度は高いと言えます。

さらに、コンクリート環境では夜でも気温が下がらないので朝の最低気温が29度なんていうこともあります。

沖縄の天気

「日本で暑い地域」と思われている沖縄の気温はどうでしょうか?

那覇市天気

https://tenki.jp/forecast/10/50/9110/47201/

仙台と良い勝負です。沖縄が避暑地だなんてしりませんでした。

なお、避暑地で有名な長野県軽井沢町と沖縄県那覇市は最高気温がほぼ同じですが、最低気温は軽井沢が19度にまで下がるなど、さすがに夜は過ごしやすいみたいです。

日本は昔よりも暑くなったのか?

日本昔暑くなったヒートアイランド現象気象庁

気象庁ヒートアイランド監視報告2017:https://www.data.jma.go.jp/cpdinfo/himr/h30/chapter1.pdf

気象庁がヒートアイランドについて調査した結果を載せているページでは、100年間の気温の変化を示しています。明らかに最高気温、最低気温、平均気温が上がっていることがわかります。
注意すべきは「15地点」とある表の部分ですが、これは都市化率が比較的低い地域を15地点選んだ平均の値を示しています。つまり、ヒートアイランド現象の影響を受けない地域と言えるのですが、それでも気温は2度弱上がっているということです。

  1. 地球温暖化による気温上昇
  2. +ヒートアイランド現象による気温上昇

日本の都市部の気温上昇は、このような2つの要因が重なっているということです。

都市化が進んでいない地域であっても、純粋な気温上昇があるということです。

ヒートアイランド現象とエアコンは関係があるのか?

魚拓:http://archive.is/gA7WZ

この記事では気象庁にインタビューをしていますが、熱中症になるリスクは昔よりも上がっていること、ヒートアイランドに寄与しているのはエアコンよりも遥かに工場排煙や自動車排気ガスなどの影響が強いと指摘しています。

そもそも、ヒートアイランド現象とは地球温暖化とは切り離された概念であり、「都市が無かったと仮定した場合に観測されるであろう気温に比べ、都市の気温が高い状態」という定義があります。

エアコンがヒートアイランド現象に大幅に寄与するということは無いということです。

さらに、エアコンが地球温暖化と関係があるなどという根拠はまったくありません。

小括:日本は昔よりも暑く、熱帯地域よりも暑い

  1. 東京は東南アジアより暑い
  2. 仙台は東南アジアと同等の暑さ
  3. 沖縄は仙台と同等の暑さ
  4. 地球温暖化により、日本は昔よりも2度弱暑くなっている
  5. 都市化が進んだ地域はさらに1~2度程度暑くなっている

年配の方々の認識と現代に生きる私たちの認識に乖離があるのは当然だと思いました。

ただ、年配の方でも情報取集している方や頻繁にスポーツをしている方は、気温の変化に気付いています。若い者でも、昔の経験則に基づく指導方針を疑うことなく現在も実施している者も居ます。

まずは「日本は暑い」「日本は暑くなっている」という認識をするのが大切です。

なぜ学校で熱中症が発生するのか?

さて、学校教育の現場での痛ましい熱中症の「被害」(決して「事故」と言いたくない)が頻発していますが、熱中症と報道されなくとも学校教育の現場では暑さによる体調不良者が続出しています。

その原因の一つとして「教室にエアコンが設置されていない」ことが挙げられます。

学校になぜエアコンが設置されない場所があるのか、その原因を調べてみました。

公立学校エアコン設置状況

公立学校エアコン設置状況

文科省:公立学校施設の空調(冷房)設備設置状況調査の結果:http://www.mext.go.jp/b_menu/houdou/29/06/1386475.htm

公立学校施設の空調(冷房)設備設置状況調査の結果という文科省のデータがあります。全ての学校に冷房(以下、エアコンとします)がついていないというのは北海道などもあるのでわかりますが、都道府県ごとに見ていくと必ずしも暑い地域だからエアコンがついているとは限らないようです。

エアコン設置状況

文科省:公立学校施設の空調(冷房)設備設置状況調査の結果:http://www.mext.go.jp/b_menu/houdou/29/06/1386475.htm

2007年当時の観測史上最高気温40.9度で有名な熊谷市を要する埼玉県をもってしても、小中学校のエアコンの設置率は他の地域と比べて高くありません。多治見市を要する岐阜県も他の地域と比べて高いわけではありません。

東京都は普通教室が99.9%という実績があります。他の地域との比較を見ればわかりますが、このような結果となっているのは「財政が潤沢な地域だから」というのは根拠にならないということがわかります。

エアコン設置状況体育館

文科省:公立学校施設の空調(冷房)設備設置状況調査の結果:http://www.mext.go.jp/b_menu/houdou/29/06/1386475.htm

体育館に至っては、東京都ですら10%にも満たない状況です。

西日本豪雨で多くの方が避難所として利用したのは地域の学校の体育館です。

そのため、猛暑に対応するためにエアコン設置が急ピッチで進められたということは記憶に新しいです。

気温上昇の現状を考えれば、もはやエアコン設置は子どもの学びの場としての学習効率という話ではなく、子どもの健康・生存を左右する話であると言えます。ましてや避難所としての機能を有する学校の体育館であればなおさら設置されていないというのは疑問です。 

なぜエアコンが設置されないのか:国の補助金・財務省の緊縮方針

魚拓:http://archive.is/Y95QL

こちらの記事では「義務教育段階の学習環境は公平に保障されるべきであり、それは国の役割である」 「エアコンはもはや贅沢品ではなく必需品である」という趣旨の記述があり、その通りだと思います。

この記事では国による補助金についても触れられており、学校施設環境改善交付金というものが用意されています。

エアコンクーラー補助金

文科省:公立学校施設の空調(冷房)設備設置状況調査の結果:http://www.mext.go.jp/b_menu/houdou/29/06/1386475.htm


交付金は3分の1補助ということですが、確かにこの割合を増やすなどして学校でのエアコン設置を促すべきであるという方向の議論も可能でしょう。

財務省がこの期に及んで増税方針であり、緊縮財政路線であるということが足かせになっているということは間違いありません。その意味で、「エアコンが設置されないのは国が悪い」という指摘はそれほど間違っていないと思います。

ただし、既に図示したように、自治体によって設置割合が異なるのは決して財政問題が主要因ではないということが分かります。

エアコンの設置を決断する者は誰か?というところが重要です。

自治体の長にエアコン設置権限があるのが通常

 

エアコン設置は平等に公立小中に設置されなければならないため、まとまった予算が必要です。そのため、教育員委員会レベルではなく、自治体の長の権限の話になってくるのが通常です。

大阪市の例では、市長の方針によってエアコン導入が進められたということが分かります。つまり、予算がかかろうが市長がエアコン設置の方針を推し進めれば達成できるものであるという事が分かります。

市長の方針でエアコン設置の方針が覆されたというとんでもない例が所沢市です。

所沢市のエアコン設置撤回・拒否・住民投票否決

f:id:Nathannate:20180720165641j:plain

埼玉県ではなぜか所沢市だけエアコン設置率が5%と極端に低いのは、所沢市の市長である藤本正人氏が元々エアコン設置の方針だったものを東日本大震災を理由として撤回したからです。

所沢市民は住民投票制度を作ってまで市長の判断を変えさせようとしましたが、住民投票の結果、賛成5万7000人でしたが反対が3万人もいたことから、賛成票が有権者の3分の1を上回らなかったという経緯があります。 

毎日新聞
埼玉県所沢市は14日、全校に空調設備を設置するため「所沢にふさわしいあり方」を探る調査費350万円を2018年度一般会計当初予算案に盛り込んだと発表した。 

橋下氏が指摘するように、「調査費」という名目でエアコン設置を仄めかして有権者の支持を得ようとする手法が行われているのかもしれません。

なお、所沢市の市長選はこのままだと来年行われます。 

「昔の人間」による凝り固まった観念

私は仙台出身なので、小中高とエアコン環境がありませんでした。大学は関東でしたが、エアコンがついてる教室とついてない教室が半々でした。当然夏場は暑くて集中できません。 

学習環境の整備という側面からエアコン設置の必要性が述べられることがありましたが、もやは子どもの健康・安全の面からエアコン設置が必要だと思います。

一方、2018年1月の所沢市新春の集いでは、藤本市長から以下のようなコメントがなされています。

私としては、最も暑い夏休み中は子どもも来ない、すなわち使わないのでありますし、7月と9月の土日を除いた20数日間くらい何とでもなる。発育途上の子ども達の健康面から考えても、夏は汗をかくもの。いや、温暖化がひどいというのなら、エアコンをつければさらに温暖化を進めてしまうのだから、大震災を経験した私たちは、アスファルトを土に戻し、緑をふやして、むしろエアコンなどいらない所沢にしていかねばならないのではないか、それが未来の子どもたちに対する責任なのではないか、と思うのです。

エアコンと地球温暖化は無関係ですし、ヒートアイランド現象との関係も極めて薄いということは既に書きました。このような非科学的な認識を前提にしている以上、藤本市長の考え方は明確に間違っていると言わざるを得ません。

それに、昨今の熱中症事案では、「学校の先生」も救急搬送されているという面を考えているのでしょうか?発育途上の子供だったら、なおさら危険であるという認識になるのが通常なのですが、何故か「発育のために苦しい思いをしろ」という価値観のようです。

現場の教員の判断に対して邪魔する管理職や教育委員会が居るということ。

こういった教員に対して、「事件」が起こったときに非難の目が向けられることが無いようにしていきたいですね。

電力が足りないからエアコン設置はダメだという主張に対する反論

現在の原子力発電所を使わないエネルギー政策の悪影響がここにも顕れていると言えます。夏の東京電力管内はピーク時の電力が許容量を超えそうになることがあります。学校でのエアコン設置ないしエアコン使用に制限がかけられているのは、ここにも原因の一端があるような気がします。

物理的な問題でエアコンが設置できない事例

学校の建物の構造がクーラー設置に適さないということが稀にあるようです。

「調査費」名目が問題視されていましたが、調査が必要かどうかの線引きは必要でしょうね。 ただ、基本的には調査不要であるべきというのはその通りだと思います。

エアコン設置していても…

エアコンを設置したとしても、「むやみに使うな」「電力がかかるから使用を控えろ」という運用がされていたら無意味です。このような障害を乗り越えられるように、やはり世の中全体で「エアコン設置&使用」を遠慮するということは辞めるべきだと思います。

現場教師の観察や工夫

魚拓:https://web.archive.org/web/20180717232721/http://www.chunichi.co.jp/article/front/list/CK2018071802000071.html

これまで現場の教師が気を付けるだけではどうしようもない要因について書いてきましたが、それでもやはり最終的に子供の命を預かっているのは現場の教師なわけです。昨今の熱中症事案を見ると、現場の行動としても不適切な例が多く、そこは改善していかなければならないと思います。

この痛ましい事件では、教師が児童の体調不良を認識しながらも、外遊びを強要させ、その後学校に帰ってきても涼しい環境に移動させなかったという信じられない行いがなされていました。

さらに、学校の監視下に無い状況においても、「学校の教員の指示」が危険な状況を生み出している場合があります。

水筒の持ち込みが禁止されているというのはビックリしました。もちろん別の観点からの禁止という面があるのでしょうが、健康・命にかかわることですから、早い時期に通学途中でも水分補給ができるようにしてほしいものです。

まとめ

学校にエアコン設置がされない、熱中症が学校で発生してしまう理由をまとめると

  1. 国の緊縮路線の経済政策が遠因である
  2. 自治体の長がやる気がない(やる気があればできる)ことが本質的な問題
  3. 電力政策によるピーク時電力供給の不足が遠因かもしれない
  4. 管理職教員など高齢者の理解不足
  5. 現場教師の判断、観察力不足

自治体の長の力でどうにかした後は、やはり教育の側で如何に熱中症に対する理解が進むかにかかります。

この記事が現場教員による説得の材料になればと思います。

以上

安倍総理大臣に菅直人が西日本豪雨の対応について難癖:原発事故時の菅の虚偽公表という裁判結果と裁判結果に対するデマ

f:id:Nathannate:20180715144902j:plain

魚拓:http://archive.is/JLGeH

西日本豪雨に関する政府の動きについて、菅直人氏が難癖をつけています。

しかも福島原発事故時の「菅直人による原子炉への海水注入指示」をでっち上げたことを安倍晋三メルマガ内で指摘され、それに「イラ菅」して訴訟した挙句に地裁から最高裁まで完全敗訴しているにもかかわらず、未だに当時の言動についてまでも難癖をつけています。

このツイートは2018年7月14日になされています。

菅直人氏の当該ツイートで「いかに政局に利用するかを考えてウソの情報を流し続け」が訴訟にもなったメルマガを指すのかは定かではないのでこの点については取り上げません。

しかし、菅氏が安倍総理に完全敗訴した訴訟の結果について、内容を曲解させるデマが横行していることが分かったため、改めて訴訟の結果について正しい事実を整えていきます。

より整理し直したもの⇒菅直人が安倍晋三に名誉毀損裁判で完全敗訴した判決文全文の解説:福島第一原発の「海水注入中断指示」 - 事実を整える

安倍晋三vs菅直人の名誉毀損裁判判決文

東京地裁平成27年12月3日判決平成25年(ワ)第18564号

東京高裁平成28年9月29日判決平成28年(ネ)第25

最高裁第三小法廷平成29年2月21日決定平成28年(オ)第1866号平成28年(受)第2347号

当該争訟の全体をまとめると、「菅直人氏の完全敗訴」です。

具体的には、菅氏の間違った判断がなされたこと、菅氏側の虚偽公表が認定され、また、安倍総理が虚偽の内容を主張したとは一言も触れられておらず、名誉毀損は不成立とされています。

地裁と高裁の判示に実質的な差異は見いだせないので、高裁の判決だけ見れば当該争訟を把握するのに十分です。なお、最高裁は上告受理の申立を受け付けないという決定ですので、中身の話はありません。

東京高裁における裁判の争点と読むべき箇所

安倍総理に対する菅直人の名誉棄損訴訟

高裁判決文の6ページを見ると、訴訟の争点は以下になります。

  1. 本件記事(安倍総理のメルマガ)の適示事実は何か及び同記事は控訴人(菅直人)の社会的評価を低下させるものか否か
  2. 真実性又は相当性の抗弁の成否
  3. 本件記事を被控訴人(安倍晋三)の管理する本件サイト(安倍総理のブログ)に掲載し続けたことが不法行為にあたるか
  4. 控訴人に生じた損害
  5. 名誉回復措置としての謝罪広告の要否

名誉毀損裁判の争点として複数の論点がありますが、最も重要なのは2番目の「真実性」に関する判断です。「事案の概要」「前提事実」「当該裁判所の判断の部分を見れば、海水注入に関する裁判所の認定がわかります。

2番目の内、「相当性」については、「真実性」が無いとされた場合に検討されるものなので、今回は「当該裁判所の判断」の中では検討されていません。

それから、名誉毀損が成立しないという結果なのですから、4番目と5番目の争点はこの判決の中では触れる必要がなく、書かれていません。また、3番目の争点も不法行為不成立となっており、2番目の争点についての判断がベースとなっているので本件の把握において重要ではありません。

以上より、真実性について把握するために読むべき箇所は以下です。

  1. 第2「事案の概要」と第2-1「前提事実」の部分:1頁~6頁
  2. 第3-1、第3-2「認定事実」の部分:21頁~31頁
  3. 第3-4「争点2(真実性)」の部分:34頁~39頁

当事者である安倍側と菅側が主張している内容を見ることは、名誉毀損裁判における争い方を学ぶ上では参考になりますが、裁判所の判断(事実として認定された内容)と混同しないよう注意して読みましょう。

安倍総理のメルマガ(ブログに再掲)の内容

福島第一原発問題で、菅首相の唯一の英断と言われている「3月12日の海水注入の指示。」が、実は全くのでっち上げである事が明らかになりました。

複数の関係者の証言によると、事実は次の通りです。

12日19時04分に海水注入を開始。

同時に官邸に報告したところ、菅総理が「俺は聞いてない!」と激怒。

官邸から東電への電話で、19時25分海水注入を中断。

実務者、識者の説得で20時20分注入再開

実際は、東電はマニュアル通り淡水が切れた後、海水を注入しようと考えており、実行した。

しかし、やっと始まった海水注入を止めたのは、何と菅総理その人だったのです

この事実を糊塗する為最初の注入を「試験注入」として、止めてしまったことをごまかし、そしてなんと海水注入を菅総理の英断とのウソを側近は新聞・テレビにばらまいたのです。

これが真実です。

菅総理は間違った判断と嘘について国民に謝罪し直ちに辞任すべきです。

この内、裁判で真実性が検討されたのは以下の2点です

  1. 海水注入を止めたのは菅総理
  2. 海水注入を菅総理の英断とのウソをばらまいた

これは、裁判所の名誉毀損訴訟における真実性の判断基準が「意見ないし論評の前提としている事実が主要な部分について真実であること」の証明があるかどうかであると判例によって決まっているからです。

その他の部分は「主要な部分」ではないため(意訳して言えば、枝葉末節に過ぎず)、いちいち検討する必要はないということになりました。

原発事故時の菅直人氏の行為の事実認定

重要人物一覧:「吉田所長」「本店対策本部(東京電力)」 「武黒フェロー」「海江田大臣」「保安院」「斑目委員長」

「海水注入」に関する事実の経過は以下

  1. 3月12日正午、淡水による原子炉冷却措置を講じていたところ、吉田所長は淡水枯渇の場合は海水注入することを決め、職員らに指示し、本店対策本部もこれを了承
  2. 同日午後5時55分頃、海江田大臣は武黒フェローに海水注入を指示。同時に保安院に対して措置命令の文書発出を準備するよう指示
  3. 同日午後6時5分、武黒フェローは海江田大臣の口頭指示を本店対策本部に伝達
  4. 当時、官邸においては重要な局面については原子力災害対策本部の本部長である菅内閣総理大臣の判断を経た上で動くというある程度の合意ができていたことから、海江田大臣は、海水注入について菅氏に報告し、了解を得る必要があると考えた
  5. 同日午後6時0分頃から同20分頃まで、菅氏の下で会議が開催され、海水注入に関する検討がされた
  6. 会議では菅氏が海水注入による原子炉の腐食の可能性等について出席者に質問
  7. 斑目委員長が再臨界の可能性についてゼロではないと回答したことから海水注入の再検討を求め、散会。※海水に変えることで再臨界の可能性が高くなるものではない
  8. 会議後の同日7時4分、吉田所長が海水注入を開始。
  9. 同日午後7時25分頃、武黒フェローが吉田所長に電話をした際に海水注入を知り、海水注入を停止するよう求めるも納得しない吉田所長に対し、「おまえ、うるせえ、官邸が、もうグジグジ言ってんだよ」と声を上げた
  10. 武黒フェローから連絡を受けた東電の本店対策本部も、海水注入の中断を吉田所長に指示したが、吉田所長は表向き受け入れる旨返事をしたが、実際には中断されることはなかった
  11. 同日午後7時40分頃、武黒フェローが菅氏に対して海水注入についての検討事項を報告。その際、海水注入開始の事実を菅氏や海江田大臣に伝えず、菅氏はそのことを知らないまま、午後7時55分、海水注入を命ずる海江田大臣の命令文書が作成

要するに「海水注入の事実」については、菅氏の指示とは関係無しに吉田所長の判断によって行われ、中断することもなかったということです。

しかし、「海水注入中断の指示の事実」については、事実として、菅氏の「直接の」指示は無かったということです。

「直接の」というところが重要で、「真実性」の判断に影響します。

この点は後の高裁の判断のところで詳述します。

海水注入に関する政府の発表等

  1. 3月12日午後8時50分頃、官邸ウェブサイトの本件事故に関する政府の対応を時系列で説明したページを開設
  2. ウェブサイトでは「18:00 総理大臣指示」「福島原発について、真水による処理はあきらめ海水を使え」との記載がされ、菅氏もその頃、自らマスコミ取材に応じ、同日午後8時20分から海水注入をする異例の措置を始めた旨を発表した
  3. 5月2日の参議院予算委員会において、海江田大臣は3月12日午後7時4分に「海水注入試験」を開始し、これを停止して、総理からの指示を受けて午後8時20分に海水注入を開始した旨答弁した

明らかに事実と異なる発表をしているということがわかります。

東京高裁の判断

以上を前提として東京高裁の判断内容を見ていきましょう。

主要な部分について真実性が認められる

安倍総理菅直人名誉毀損裁判

安倍総理のメルマガで問題となる点は以下の2つであると指摘しました。

  1. 海水注入を止めたのは菅総理
  2. 海水注入を菅総理の英断とのウソをばらまいた

この表現は結局のところ、以下の内容の趣旨であり、それが主要な点であるとされました。

  1. 海水注入の中断指示という「間違った判断」をしたのは菅総理
  2. 海水注入に関して事実に反する発表をした

1番について、確かに海水注入中断の指示を「直接」吉田所長に行ったのは武黒フェローであるとされています。

しかし、海水注入について検討した会議の中で、本来問題にする必要のなかった再臨界の可能性について菅氏が強い口調で問題視したことから、会議の参加者が菅氏が海水注入を了解していないと受け止め、それが内閣総理大臣としてのある判断を示し、その判断が東京電力による吉田所長への海水注入中断指示という誤った決断に繋がったという意味において、菅氏の間違った判断があったと認定されました。

菅氏は当時内閣総理大臣ですから、その言動による影響を受けて海水注入の中断指示がなされたということが認定されたということです。

安倍総理菅直人名誉毀損裁判

2番目については、海江田大臣から午後6時5分に海水注入の指示がなされ、午後7時4分には注入開始がされていたにもかかわらず、政府発表では午後8時20分から開始されたという事実と異なる発表をしたことが明らかです。また、海江田大臣の予算委員会での説明も事実に反することが明らかです。

主要な部分でないもの

安倍総理のメルマガの中で、菅氏が「俺は聞いてない」と激怒したことの指摘、実務者、識者の説得によって海水注入が再開したことの指摘などについては、主要な部分ではないとされました。

つまり、その内容が真実であるかどうかについて、裁判所は全く判断をしていません

この認識が重要であり、デマが蔓延る部分でもあります。

この点についてはネット上のデマの指摘において言及します。

小括:菅氏は安倍総理に完全敗訴

  1. 海水注入に関して、菅氏の間違った判断がなされたことが裁判所に認定された
  2. 菅氏側の虚偽公表が裁判所に認定された
  3. それ以外の部分につき安倍総理が虚偽の内容を主張したか否かは判断されてない

裁判の結果は菅直人氏の完全敗訴が自明なのですが、ネット上ではなぜかこの訴訟の結果を曲解するデマが蔓延っているので、具体的に指摘していきます。

ネット上に溢れる裁判結果の理解についてのデマ

ツイッター上に限りますが、デマの種類ごとに言及していきます。

「安倍総理のメルマガがデマと認定された」はデマ

魚拓:http://archive.is/hMcTO

 魚拓:http://archive.fo/oQ3LK

「安倍晋三のデマは認定されている」は完全なるデマです。

既述ですが、海水注入中断を「直接」指示したのは武黒フェローです。

しかし、 それは内閣総理大臣たる菅直人氏の意向の影響を受けたものであるということが裁判所によって明確に認定されています。

そして、安倍総理のメルマガの文のうち、「主要な部分」ではない部分について真実かデマかといった事については、「判断を加えていない」ということに過ぎません。

「真実であるという認定がなければデマと認定した」などという理解は間違いです。

「海水注入の事実」と「海水注入の中断指示の事実」の混同

魚拓:http://archive.fo/OQEbE

事実として、吉田所長が海水注入中断の指示を無視した結果、海水注入の中断と言う事実は発生していません。

しかし、それと海水注入の中断の指示の事実の存在は別個のものです。

被告(安倍総理側)の主張と混同しているもの

「当裁判所の判断」の部分を読めば、社会的信用を低下させると認められると判示していることは自明です。これは判決文を読んではいるが、読み方を間違えてしまったため起こった勘違いです。 

判決文の形式は事件の内容や判決文の長さなどによって様々ですが、比較的多い体裁としては、原告の主張、被告の主張(高裁では控訴人の主張、被控訴人の主張)ときて、最後に「当裁判所の判断」が各争点毎になされます。(どのような事件、文章構造のレベルであっても、裁判所の判断は最後に来ます)

この構造を頭に入れて読まないと、ページ数が多いと当事者の主張と裁判所の認定がごちゃごちゃになってしまいますので注意しましょう。慎重を期するなら紙媒体でインデックスをつけて読むと間違いがないでしょうし、素早く読み込めます。

また、「菅氏の名誉は傷ついていない=社会的信用は低下していない」というのは名誉毀損の構造がわかっていない+判決文を読んでいないことから生じる誤りの可能性もあります。

社会的信用が低下したかどうかが第一の関門で、低下した場合にはそれでも公益性・公共利害性・真実性があるから違法性阻却されるということです。

存在しない事実を言う者

魚拓:http://archive.fo/KVcg2

魚拓:http://archive.is/GsEWJ

「視察のために」「爆発させた」などということは判決文のどこにも取り上げられていません。

裁判結果を逆に伝えるデマ

魚拓: http://archive.fo/D3L4a

荻上氏の説明があったかのように伝えるもの

魚拓:http://archive.fo/yYWOk

判決文・音声解説のリンク先は荻上チキ氏のものですが、荻上氏はこのツイートにあるような点について言及していません。

荻上チキ氏の説明は正しいが

現在ネット上で「安倍 菅 名誉毀損裁判」 などで検索すると、荻上チキ氏のTBSラジオでこの裁判の結果を解説した音声が聞けるページが上位表示されます。

この音声を聞いて裁判結果の大枠を把握する者も多いと思いますが、おそらくこの説明を聞いた者が勘違いをする部分があります。

元々のメールマガジンに書かれていた全文が正しいというふうにお墨付きが与えられたというわけではない」という部分です。

念のために言うと、荻上氏の説明は、全く間違いではありません。

しかし、これを聞いた人の多くは、勘違いをするということが類型的に把握できます。民事訴訟は「原告の請求が認められるか」を争う場です。「被告の権利が認められるか」を争う場ではありません。被告は原告の主張を否定できればそれで良いのであって、そのために必要な限りの認定をするのが通常です(「傍論」と呼ばれる判断があったり、最高裁では補足意見などがありますが)。

しかし、それを知らないと、被告の主張している事実が真実であるという認定(判断)がされなかった(触れられなかった)というだけで、「被告の主張している事実が間違いであることを裁判所が認定した」と勘違いする可能性は多いと感じます。

安倍総理の側は、別にメルマガの内容がすべて真実であることを裁判所に認定してもらおうなどとは、最初から思っていないわけです。名誉毀損が不成立であればそれで十分なのです。

判決文の理解の誤りについて、より一般的な例を言うと、たとえば「外国人の生活保護は憲法違反という最高裁の判例がある」と理解している人が居ますが、間違いです。正しくは、「外国人の生活保護申請について自治体が不許可をしても憲法違反ではないという最高裁の判例がある」です。

この判例については、法的な知識が無くとも、通常の日本語の読解力のある人が原文を読めば理解できる話です。

しかし、それすらしない者が誤解するような表現を使う人物が存在しています。

そうした煽動に騙されないためにも、原文を読むということは判決文においては重要なのです。学者や弁護士は、容易に判決文を曲解して文章化する者も少数ですが存在しますので気を付けるべきです。 

菅直人氏による訴訟の総理大臣業務への影響

安倍総理菅直人名誉棄損訴訟

https://www.facebook.com/photo.php?fbid=1174462802677161&set=a.132334373556681.21871.100003403570846&type=3&theater

「総理としての時間の一部を裁判のために割かざるを得ないことになりました」

この部分を「裁判を受ける権利がー」「言論の自由がー」と言って非難する人がいます。

しかし、単なる論評とは違い、裁判は多大な時間とコストがかかります。特に菅氏の場合、元総理であり国会議員という公職の身であり政策論議を交わすはずの関係なのに、一度も抗議を受ける事がなかったのです。

しかも、わざわざ参院選挙の直前に提訴したのですから、それが権利行使として法的な評価としては正当な行為だと言っても、一般的な評価としては卑怯であると言わざるを得ません。

まとめ

  1. 訴訟は菅直人氏の完全敗訴
  2. 「安倍総理がデマを言ったと裁判所が認定した」というのはデマ
  3. デマは判決の理解の仕方に起因するため、原文を読む際は注意すること

裁判の結果については左右を問わず間違った理解が流通していることが多いので、注意していきましょう。

以上