事実を整える

Nathan(ねーさん) 法的観点を含む社会問題についても、事実に基づいて整理します。

立憲民主党枝野幸男が加計学園理事長に経営権譲渡を要求:弁護士の懲戒請求対象?

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2018年7月20日の衆議院本会議で立憲民主党の枝野幸男氏が民間企業の私人に対して暴言を吐きました。

本来は内閣不信任案の決議に対して提出者の趣旨弁明をする場なのですが、2時間43分に渡る演説を行ったことで有名です。

国会議員からこのような攻撃を受けた場合に国民としては何ができるのかについて整理していきましょう。

立憲民主党、枝野幸男氏の衆議院本会議演説での発言

衆議院インターネット審議中継

演説は動画の4分あたりから始まり、加計学園に関する問題発言は1時間40分20秒あたりから始まります。発言の前後もきちんと聞きましょう。

ここまでに加計学園の許認可が問題であるという視点から縷々意見表明をしてきたという流れの中での発言です。

加計学園の加計理事長は今も理事長のままでおられます。まったく矛盾に満ちたまさに出まかせとも言っていい説明を繰り返し、逆に百歩譲ってもしこの加計理事長の言っていることが本当だとすれば、総理の腹心の友ってあまり日本語聞いたことがないんですが私は、相当親しい御友人がトップである法人が、総理の名をかたって、かたったわけですからね、愛媛県や今治市に対しては。しかも勝手にかたって獣医学部の設置を有利に進めようとしたことになるわけですねぇ。

総理とのご友人であったのは事務局長ではありませんねぇ。事務局長が言ったと百歩譲って言ったとしても、総理と加計理事長がご友人であったことを奇貨としてやっているわけですよね。なんらの責任も感じる姿勢も示さず、説明責任をまったく果たしていない、もう記者会見はやらないなんて言っているわけですよ。こんな方が教育機関のトップをやらせてていいんですか。この認可過程に決定的な問題があります。ありましたが学校として現に出来上がってしまい、そこに学んでいる学生さんたちがいらっしゃいます。そうした現実を踏まえるならば、やるべきことは加計理事長は加計学園の少なくとも獣医学部の経営から手を引かれ、第三者に経営権を委譲すべきであると思いますし、友人であるならば安倍総理にはそれを促す責任があると私は思います。そうでなければ、こんないいかげんな無責任な人間が教育機関のトップをやっているという教育におけるモラルの崩壊に繋がっていくと私は思います。

民間に口出すなとかって野次ってるのが居ますから、聞いてください。総理が友人として促すべきだと私は申し上げております。それが日本の社会の秩序モラルを維持すべき責任を持っている日本の政治のリーダーとしてのご友人に対する真摯な姿勢ではないでしょうか皆さん。

まぁ、総理の仰る友人というのは、同じような高い志を持って違う道だけど頑張っていこうね、というのが私は友人というものの定義だと思っていますが、一緒に楽しくゴルフをやるというのがお友達なのかなぁと思いますので、しょうがないのかもしれませんね。

この後も加計学園の許認可に対して疑問を呈する演説が続いていきます。

加計学園理事長の経営権譲渡を安倍総理から促す要求?

まずは加計学園に対するマスメディアと野党の主張についておさらいしましょう。

加計問題と言われていた主張

まず、許認可には何らの法的瑕疵は存在しないということについては以下の記事で言及しています。

なお、外形的公正性に疑義があるという橋下徹氏の主張がありますが、それは既に行われた行為に対する非難ではなく、制度変更の主張です。

 

「加計理事長と安倍総理が友人である事」はどのように言及されたか

加計理事長が記者会見を行った際に説明した内容は以下の通り

  1.  「渡辺事務局長が誤った情報を愛媛県と今治市に与えた」として謝罪
  2. 誤った情報とは、獣医学部新設に関連して安倍総理と会ったかのような発言があったこと
  3. 加計氏は「事を前に進めるためにそのような発言をした」という報告を受けた
  4. 本日の加計学園の理事会で渡辺氏が減給1割を半年間、加計氏が監督責任として減給1割を1年間とする処分を決定した
  5. 加計氏は「安倍総理と獣医学部について話したことはない」「昨年2月25日に会ったということはない」と発言。安倍総理とは仕事の話はやめようというスタンスで会っている。

枝野氏は演説で「総理の名をかたって」と言っていました。

ところで、「他人の名を騙る」とは、本来は「他人の名まえを名乗ってなりすます」という意味です。加計理事長や渡辺事務局長がそのようなことをした事実はありません。

流石にそのような意味で使っているとは考えられないので、枝野氏の発言は現時点では「総理の名を語って」と捉えるべきだと思います。そうすると、「総理の名まえをちらつかせて」「虎の威を借りて」というような意味合いだったものと思われます。(議事録がどのような表現になるかわかりませんが、議事録は本人が内容を確認するので公式にUPされたものが正式なものとなります。)

渡辺事務局長が、加計理事長が総理の友人であり国家戦略特区の申請中に面会したことを「匂わす」ことで、「相手に総理の意向を感じさせ、許認可に前向きになってもらおうとした」。というのは事実でしょう。

しかし、それは「まったく矛盾に満ちたまさに出まかせとも言っていい説明を繰り返し」と言えるものでしょうか?

まったく矛盾に満ちたまさに出まかせとも言っていい説明を繰り返し」

以上の通り、枝野氏のこの発言は加計理事長が主体となって説明をしたことが前提となっており、そのような事実は無いということが明らかです。枝野氏は「百歩譲って」と言っているので、基本的には加計理事長が「総理の名をかたって」いたという趣旨ですから、虚偽の事実を適示していることになります。

「なんらの責任も感じる姿勢を示さず」と言えるのか?

加計理事長はこれが渡辺事務局長の行ったことであるからこそ、それは「誤った情報を与えた」と表明し、監督責任として加計理事長も減給処分を受けたわけです。それは理事会での決定事項です。

では、「なんらの責任も感じる姿勢を示さず」とは、何を持ってそう言えるのか?

経営権譲渡という結論に向かわせるためにこのような無理な言及を敢えて行ったと言わざるを得ません。

私人に対して経営権譲渡を促すよう公人に要求する行為について

ここまでの主張は「内閣総理大臣の不信任決議案について提出者の趣旨弁明をする場」で行われたと言う点に注意すべきでしょう。

安倍総理の「これまでの行為」について資質を問題にするのであればそれはこの場にふさわしい内容でしょう。それは内閣総理大臣の不信任決議案を提出する理由になり得るからです。

では、安倍総理に対して「これからの行為として」私人への働きかけを要求することが、不信任決議案を提出する理由になるでしょうか?なり得ないということは明らかです。そのような言及は不要であり、無関係です。

その上で、友人関係に基づく意思表明について国会議員という公的な立場である枝野衆議院議員が要求するというのはどういう意味があるのでしょうか?私人間の関係について、公的な場で公的な役職の者が要求するのは「自己の意思決定の自由」たるプライバシーに配慮がない言動ではないでしょうか?

また、加計理事長という私人に対して安倍総理大臣が公人の立場からの経営権譲渡を促すというのは、これもまた国家による職業の自由や意思決定の自由の侵害に繋がりかねない、私人の権利利益について配慮の無い言動でしょう。

形式上、枝野氏は安倍総理に対して要求していると言っていますが、そうであるとしても上記のような問題が生じるのです。

ましてや、実質的には私人に対して直接経営権譲渡を要求していると言えるとすれば、それは明らかに職業の自由や意思決定の自由に配慮のない言動です。

枝野氏が内閣不信任決議案の趣旨説明の場で意見表明しただけでは何らの法的拘束力は発生せず、権利侵害があるとも思えないため違法ではないと思います。しかし、枝野氏は弁護士であり、公的な場で何等の必然性も無いのに私人間の意思決定に介入しようとするのは、問題ではないでしょうか?

私人たる民間企業(個人)に説明責任?

法的な説明責任は国家に求められます。

それはなぜかと言うと、国民と政府の関係を信託関係と捉え、国民主権の行使の信託を受けた政府が信託上の義務として説明責任を負うと考えられています。

しかし、私人はそのような信託を受けていません。無関係です。

愛媛県や今治市に対して加計学園が説明すべき道義的責任はあるかもしれませんが、私人が国に対する説明責任などという法的な義務は存在しないのです。

枝野氏がどういう意味で「説明責任」という語を使っているかは定かではありませんが、仮に法的な意味であれば弁護士としての品位を疑わざるを得ません。

また、道義的責任を言っているのであるとしても、それを主張する適格があるのは愛媛県や今治市の住民でしょう。無関係な枝野氏個人や国会議員としての枝野氏、一般国民には主張適格はありません。

全国的な国家戦略特区の申請の話だから一般国民に対しても道義的説明責任はあるという主張が出てきそうですが、国民の側としては国に対して「なぜ加計学園を認可したのか説明せよ」と言えば良い話です。その説明はこれまでの国会等で尽くされています。

具体的な場面において私人が逐一何を言ったのか、その理由を全国民に対して説明しなければならないという道義的責任があるのかどうかは、かなり怪しいと言わざるを得ません。

そもそも、いったい何を説明せよと言うのでしょうか?記者会見は既に開いています。

「こんないいかげんな無責任な人間が教育機関のトップをやっているという教育におけるモラルの崩壊に繋がっていく」

これは私人に対する名誉毀損ではないでしょうか?

既に述べた通り「まったく矛盾に満ちたまさに出まかせとも言っていい説明を繰り返し」「なんらの責任も感じる姿勢も示さず」「説明責任をまったく果たしていない」などという事実は無いのですから、真実性も何もないわけです。

騒がれていた当初は「真実であると信ずるにつき相当な理由」はあったと思いますが、現時点では情報が整理されていますから、相当性は無いと言えます。

したがって、「無責任な人間」「モラルの崩壊に繋がる」という論評の前提を欠いていますから、違法性阻却されるはずがありません。

 

国会議員の免責特権

国会議員には憲法51条で免責特権があります。

これに当たる場合、国会議員個人が演説等を理由に賠償請求されることはありません。

 

国会議員の発言によって名誉毀損等があった場合には、国家賠償請求として「国」に賠償金を求めることが可能ですが、そのハードルは高いです。

最高裁判所第3小法廷平成6年(オ)第1287号 損害賠償請求事件平成9年9月9日判決 

国会議員が国会で行った質疑等において、個別の国民の名誉や信用を低下させる発言があったとしても、これによって当然に国家賠償法一条一項の規定にいう違法な行為があったものとして国の損害賠償責任が生ずるものではなく、右責任が肯定されるためには、当該国会議員が、その職務とはかかわりなく違法又は不当な目的をもって事実を摘示し、あるいは、虚偽であることを知りながらあえてその事実を摘示するなど、国会議員がその付与された権限の趣旨に明らかに背いてこれを行使したものと認め得るような特別の事情があることを必要とすると解するのが相当である。

しかも、重要なのは、その賠償金は私たちの税金から出ていくものだということです。

どうも、このような関係を意識して国会で個人を攻撃する言動が横行しているような気がします。

国賠請求をするにしても加計学園側に主張適格があるのですから、私たちが騒いだところで無意味です。

弁護士の懲戒請求について

枝野氏は弁護士登録をしています。弁護士には懲戒請求制度ががあり、これは誰からでも請求可能です。

国会議員としての責任が免責されるとしても、弁護士の品位を保つ自治の観点から懲戒請求がなされることまでは否定されないのではないか、という意見もあると思われます。

ただ、国会議員の免責特権が自由な意見表明による使命遂行を保つために認められているのですから、そのような場における発言を取り上げて懲戒処分をするというのは憲法違反の可能性が高いと思われます。

仮に懲戒処分が可能だとしても、それは上述のような名誉毀損による国家賠償が認められるような極めて限定的な場合に限られると思われます。しかし、その場合は加計学園側が提訴しなければならず、国家賠償の分については我々の税金から成る国庫の負担となります。

名誉毀損の国賠請求が認められる場合ですらこうなのですから、それ以外の発言部分が懲戒事由を構成するとは思えません。

したがって、第三者たる一般国民からの懲戒請求はあまり現実的ではないと言えます。

まとめ

  1. 枝野氏の加計理事長に関する主張には問題点が多くある
  2. しかし、免責特権により個人に責任を求めることはできない
  3. 賠償が認められるとしても国に対してであり、主張適格は加計学園側にしか無い
  4. 弁護士の懲戒請求が可能だとしても、国賠訴訟で枝野氏が敗訴となるような事情が必要と思われ、その場合に支出されるのは我々からの税金負担となる

結局のところ、政治家の発言の評価は選挙の投票結果によって決まるということでしょう。有権者が枝野氏の発言を支持しなければ別の候補者に投票するだけであり、無関係の外野が殊更に何かできるような仕組みではないということでしょう。

ただ、「発言の妥当性」については、上記に示した通りではないでしょうか。

以上