事実を整える

Nathan(ねーさん) 法的観点を含む社会問題についても、事実に基づいて整理します。

裁判官検察官の国籍条項としての内閣法制局の「当然の法理」・裁判官の守秘義務

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不文律としての国籍条項

「裁判官や検察官には国籍条項が無い」と言われますが、実際にはこれがあります。

裁判官の守秘義務と併せて整理しています。

国籍条項とは

法令等によって、日本人であることが就任要件であると明文で規定されていること

これが国籍条項の第一義的な意味です。

 例として国家公務員については人事院規則八-十八などがあります。

しかし、それ以外の「運用上の国籍条項」もあり、むしろこちらが基本です。

なぜか?公務員は日本人であることが「当たり前」だからです。

わざわざ規定しなくても当然にして日本国籍が求められるという不文法があります。

これを明らかにしたのが内閣法制局の「当然の法理」です。 

内閣法制局の当然の法理と国籍条項

「法の明文の規定が存在するわけではないが、公務員に関する当然の法理として、公権力の行使または国家意思の形成への参画にたずさわる公務員となるためには、日本国籍を必要とするものと解すべきである」

これが国籍条項としての「当然の法理」と言われるものです。

国家公務員について、1953年3月25日に内閣法制局が上記見解を示しました。*1

地方公務員についても、1973年に旧自治省が地方公務員にもこの法理が当てはまるとしました。

したがって、裁判官や検察官については、国籍条項は法令等で明文で規定されているわけではありませんが、「公権力の行使」を行うことは明らかなので、日本国籍が必要であると当然に理解されています。そして、これに基づいて採用も行われているという運用になります。

ネットのデマ1:「裁判官や検察官に外国人」という嘘 

したがって、裁判官や検察官に外国人が入り込んでいるというネット上のウワサは何ら根拠のないものです。 

はい、それだけです。終わり。

「いや、立法すべきだ」というそこの人、無駄ですよ。

どうせ立法して明文化としても、「実態としては外国人が入り込んでいる」と喧伝するでしょうからね。

「いや、元外国人が入り込んでいるのが問題だ」という人

だったらそう言いましょう。その上で、「帰化〇世代は国家公務員にはなれないように立法化しましょう」 という論を主張すればいい。

「国籍条項が無い」から「裁判官には外国人が入り込んでいる」という輩は、そういって建設的な意見を言うのではなく、単に政府に対する不信感を煽り、一般の人に憎悪を振りまく事を生業としています。そんな輩は反社会的でしかない。

反差別界隈が飯を食うためのヤラせ要員ではないか?と思ってしまいますね。

ただ、私はいわゆる「背乗り」や「予め帰化して裁判官や検察官に任官」という可能性は否定していませんので。

ネットのデマ2:「裁判官には守秘義務はない」という嘘

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なお、国籍条項とは離れますが、公務員の「守秘義務」について。

これもネット上で「裁判官には守秘義務はない」との根拠のない噂或いは誤解が広まっています。

これは裁判所法上の守秘義務一般的な守秘義務に分かれます。

裁判所法上の守秘義務:裁判所法75条

裁判所法75条に「評議の秘密」についての規定があります。

裁判所法第七十五条(評議の秘密)

第一項 合議体でする裁判の評議は、これを公行しない。但し、司法修習生の傍聴を許すことができる。
第二項 評議は、裁判長が、これを開き、且つこれを整理する。その評議の経過並びに各裁判官の意見及びその多少の数については、この法律に特別の定がない限り、秘密を守らなければならない。

 「評議」とは、複数の人(裁判官や裁判員)が事件について検討をする場、という大まかな理解でいいでしょう。 

一項では、評議の場で話し合われたことは秘密ですよ、ということです。

この規定は例えば評議外の場所で事件記録を読んだりした場合はカバーしてません。

そこで一般的な守秘義務があります。

一般的な守秘義務:国家公務員法100条

他の国家公務員では、国家公務員法100条に一般的守秘義務の規定があります。

国家公務員法100条

第一項 職員は、職務上知ることのできた秘密を漏らしてはならない。その職を退いた後といえども同様とする。

ここで、裁判官は国家公務員法2条3項13号に規定されている特別職の「職員」でありますが、国家公務員法の規定は適用されません。

 

「は?」

 

と思った方、2条4項があります。

国家公務員法2条4項前段

この法律の規定は、一般職に属するすべての職(以下その職を官職といい、その職を占める者を職員という。)に、これを適用する。

要するに、特別職は国家公務員法の規定は適用しませんということです。

官吏服務紀律:実質的な裁判官の守秘義務の淵源

では、裁判官には一般的な守秘義務はないのかというと、そんな事はありません。

官吏服務紀律という明治20年7月30日勅令第39号の規定が今も生きています。

通常国会第55回衆議院内閣委員会24号昭和42年06月27日

吉國政府委員 まず第一に官吏服務紀律についてでございますが、官吏服務紀律は、現在は形としては効力を有しておりません。と申しますのは、日本国憲法の施行の際に効力を有しておりました命令の規定で法律事項を内容としておりますものは、昭和二十二年十二月三十一日まで効力を有しておりまして、その後は効力を有しないということに、これは日本国憲法施行の際現に効力を有する命令の規定の効力等に関する法律というものによって、さような処理をされております。官吏服務紀律は、官吏の服務に関する事項について規定をしたものでございまして、官吏に関する事項は、憲法の規定等に徴しまして法律事項であると認められておりますので、官吏服務紀律は昭和二十二年十二月三十一日限りで失効いたしております。ただ、一般職の官吏につきましては、国家公務員法の規定で服務の詳細な規定がございますが、いわゆる特別職につきましては、国家公務員法の規定が適用せられるまでの官吏その他政府職員の任免等に関する法律、これは昭和二十二年法律第百二十一号でございますが、この法律の規定によりまして、特別職につきましては官吏服務紀律の規定がなおその効力を有すると申しますか、従前の例によるということで、官吏服務紀律と同じような規定に服するということになっております。

要するに、 官吏服務紀律は効力を持った形で残ってはいないが、昭和二十二年法律第百二十一号によって、特別職についてのみ国家公務員法の規定が適用されるまでの間に限って、官吏服務紀律の規定が効力を有する、ということですね。

ある種の不文法のような状態にあるとも言うことができると思います。

なお、その後もこの効力は確認されています。

通常国会第151回衆議院法務委員会 - 3号 平成13年02月27日

金築最高裁判所長官代理者 裁判官の服務につきましては、裁判所法、それから裁判官弾劾法、官吏服務紀律等におきましていろいろな義務が規定されておりますが、こうした規定によるほか、個々の裁判官におきまして、これらの規定や国家公務員倫理法等の規定の趣旨、内容を尊重するなどして、みずから律することによって倫理を保持してきたところでございます。

通常国会第159 回衆議院法務委員会 - 12号 平成16年04月09日

山崎政府参考人 裁判官も、評議の秘密につきましては、裁判所法で守秘義務がございます。それから一般的な守秘義務としては、大変古いものでございますけれども、勅令で、官吏服務規程ですか、たしか明治二十年ぐらいにできたものでございますけれども、この適用によりまして、守秘義務が一般的に課されている、こういう状況でございます。ただ、罰則は、御指摘のとおりございません。
 これは、裁判官につきましては、高度の職業倫理に基づき行動ができる、そういう期待ができるということ、あるいは、それを担保するものとして、弾劾裁判あるいは分限裁判というような手続が設けられておりまして、これらによってそのような義務違反を抑止することが十分に可能であるということで刑罰が設けられていないというふうに承知をしております。
 それから、裁判員の方に何でこれを設けるのかということでございますが、やはり、事件ごとに選任されるわけでございまして、他に担保措置がこれは考えられないということになるわけでございますので、その点で刑罰で担保をする、こういう発想ででき上がっているということでございます。

裁判官に重大な守秘義務違反があれば裁判官弾劾法2条で弾劾対象になります。

また、10年毎の任官継続を拒否さえる理由にもなり得ます。

さらに、民事上の国家賠償責任や不法行為責任も生じます。

まとめ:ネット上の法律・司法界隈に関するデマ

司法界隈についてはネット上でデマが多いです。

はっきり言って、これは保守とかサヨクとかパヨクとかネトウヨとか無関係に、あらゆる立場の者からもデマは発生しています。中には明らかなイデオロギーに基づいて嘘が喧伝される場合もありますが、今回の場合は全くそういうものではありません。

ネット上の情報は、往々にして煽動的であり、それは広告収入目的でのサイト流入目的のものがあります。

しかし、ネットがあることによって、こうして事実にたどり着くこともできます。

ただ、今回の場合はwikiなどでは情報量が膨大であり、ソースにたどり着くのも困難、且つ、辿り着いたとしても納得して理解できる者は、法解釈学で一定の素養(知識ではない)がある者しかいません。

したがって、今回こうして整理してみた次第です。

以上

*1:昭和28年3月25日法制局1発第29号。