事実を整える

Nathan(ねーさん) 法的観点を含む社会問題についても、事実に基づいて整理します。

『チェルノブイリ』という認識の世界的誤解

「チェルノブイリ」という単語から来る認識に誤解が無いか?

*1*2

ちょうど一年前の記事ですが、私達が「チェルノブイリ」と呼んでいる、チェルノブイリ原子力発電所事故についての記事が紹介されています。

 チェルノブイリの真実は明らかになったのか?(フォーブス記事) « 放射線の正しい知識を普及する会 Web

これを読んだほぼ全ての方が

チェルノブイリについての認識を改めることになります。

チェルノブイリ事故についての世界的誤解が現在でも続いており、この問題については、日本のマスメディアと呼ばれる媒介を通して得る情報は、何の役に立たないばかりか、虚偽を私たちの頭に埋め込むことを意味する場合が多いという事実を目の当たりにすると思います。そして、このことが福島原発事故についての誤解を生む原因の一つにもなっています。

元記事はフォーブスですが、上記Webで全文掲載されているということで、科学的な裏付けは取れています。

歴史を学ぶということがどういうことか

この記事を読むと、このことについて考えざるを得ません。

なお、原発を稼働すべきかどうかという点については、全く別の話であり、ここでは一切触れません。

記事の引用(文字の強調は引用者)

 Will the truth about Chernobyl ever come out?

By James Conca (contributor) FORBES 2016/4/27

チェルノブイリの真実は明らかになったのか?

答えはイエス。真実は、既に明らかになった。ただその真実が、予測された大量死などなく、あまりにつまらないので無視されているだけだ

今年は(本日26日で)チェルノブイリの事故から30年、(3月11日の)福島の原発事故から5年という節目に当たる。原子力産業での深刻な事故は、歴史上この二つしかない。

チェルノブイリでは死者も出たが、福島での死者はたった一人もいない。それほど深刻でない事故も幾つかあったが、ほとんどが核兵器工場でのもので、原発産業はあらゆる観点で、世界で最も安全な産業である。

いったいチェルノブイリはどれほど深刻だったのか?放射線やそこから生じた癌によって、実際何人が死亡したのか?

事故後、34万人が避難、或いは移住させられた。北欧で汚染されたと考えられた地域には500万人が住むが、放射線が原因で健康に影響があったとは確認されていない。移住は、その世代の人々の生活を破壊した深刻な誤りであったと、今では考えられている。

(世界原子力機構調は、1986年4月26日のチェルノブイリ原発事故では、第4号炉の破壊によって3か月で原発作業員や消防士30名が死亡し、その後さらに数名の死者が出た。除染作業に従事した134名は強い被曝症状ARSが確認されたとしている。)


メディアは、専門家のチェルノブイリ死者数は数百人から数百万人まで議論が分かれている誤った報道を続けているが、実際には専門家の間でそのような議論はされていない。死者は約100名である。これは恐ろしい数ではあるが、大衆がこの事故の結果として現在信じ、そして原子力エネルギーへの世界の見方をこれほど不当に色付けしている、数百万人というレベルには達していない。

チェルノブイリ事故の影響についていくつかの団体が報告をしているが、1986年以前の同地域における信頼に足る公的な健康情報が欠けているため、どの団体も調査報告の重要性の評価に関して問題を抱えている。しっかり観察されたグループ(標本)が確立されなかったため、健康被害の乱暴な推測は、ほとんど捏造に近い。

世界保健機構は1989年、地域の医療関係者が、生物や健康へ影響を不当に放射線被爆に結びつけていると、最初に懸念を表明した。

これを受けてソ連政府は、国際原子力機関(IAEA)に対し、ベラルーシ、ロシアそしてウクライナで最も重く汚染された地域の選別地区におけるチェルノブイリ事故の放射線学上、環境上、健康上の帰結に関する専門家による国際的な評価の取りまとめを求めた。

1990年3月から1991年6月の間に、25ヶ国の200人の専門家、七つの組織、11の研究所によって計50回の現地調査が行われた。1986年以前のデータが欠落している中、惨禍の影響を受けていない人々のグループを、放射線被爆を受けた人々のグループと比較した。どちらのグループにも大きな健康面の不調は明らかに見られたが、放射線に関連するものは何もなかった。

健康影響は取り纏めされ、2005年9月6~7日にウィーンで開催されたチェルノブイリ・フォーラムで詳細に報告された。チェルノブイリ・フォーラムは、事故の影響について信頼できる合意を見出すために、2003年にIAEAによって設立されたものだ。フォーラムは、IAEA、国連人道問題調整局、国連開発計画、国連食糧農業機関、国連環境計画、原子放射線の影響に関する国連科学委員会、世界保健機関、世界銀行などの国際機関をはじめ、ベラルーシ、ロシア、ウクライナの政府代表もメンバーに構成されていた。

米国原子力学会の前会長、ウィリアム・バーチル博士が要約したように、実際の死亡者は、

 ・即死2名(非放射線原因)

 ・放射線原因の4か月以内の早期死亡者28名

 ・以後20年に亘る晩発の放射線原因の成人死亡者19名

 ・放射線原因の甲状腺癌による子供の後期死亡者9名

最後の9名については、ソ連政府の警告があれば全て回避できた(にもかかわらず、意図的に警告を出せなかったことによって生じた)弁解できない悲劇であった。またI-131が同地区に到達し食物連鎖に入る前に、ヨウ化カリウムを適切に配布することも、ソ連はしていなかった。

加えてソ連が事故当初の数日間に、約1,000名の消防隊員を消火活動のために投入、高線量の放射線を浴びた約50名がガンその他の健康被害で死亡した。

IAEAの科学部長、ミハイル・バラノフ氏によれば、事故以来チェルノブイリで働く60万人の復興作業員及びウクライナ、ベラルーシ、ロシアの汚染地区の住民500万人は、自然環境放射線と似通ったレベルの低線量を浴びたが、これらの人々には、特筆すべき放射線に起因する健康上の影響は出ていない。

当然、同地域外で被爆線量がさらに低い地区では何の影響も出ていない。

事故後、犠牲もいとわずチェルノブイリの火災に立ち向かい、環境汚染の浄化に取り組んだ人々はリクイデーター(Liquidator *清算人の意味)と呼ばれた。PNNL名誉教授のオーニシ・ヤスオ博士は、チェルノブイリ水や土壌の環境に関する米国政府調整官として、他の多くの放射線科学者のリクイデーターと一緒に働いて、重要な観察を行った。

“よく知られるように、こうした科学者たちは自分の命を危険に晒してチェルノブイリの環境放射線レベルを測定し、汚染環境を改善した。例えば放射線の危険を避けるためには、汚染地域に滞在できるのは1ヶ月だった。彼らはチェルノブイリに1ヶ月滞在し、その後帰宅。そしてまた1ヶ月後には現地に戻った。このサイクルを複数回繰り返したのだ。なぜそんな危険な行動をしたのかを尋ねると、人々を護ることが自分たちの使命だと答えた。彼らは同胞をほんとうに愛していた。”

2008年の放射線の影響に関する国連科学委員会の報告は、「全体としてのガンの事例、死亡率、或いは良性を損ねる放射線被爆等の増加を示す科学的な証拠は無い」と結論づけた。

事故の直後に、超保守的な規範である直線閾値なし(LNT)線量仮説によって、チェルノブイリからの放射線により最終的に4,000人の死者が発生し得るとあてずっぽに予測したが、これらの死者は未だ観察されていない。国連は当初より、そのような死亡数の計算にLNTモデルを利用するのは不適切で、避けるべきであるとして警告してきた。

皮肉なことに、この4,000人の死という数字は、実はリベラルな見解であったにも関わらず、メディアによって保守的として取り扱われ、一部で反核空論家によって二倍、三倍と次々に引き上げられ、ついにはお気に入りの百万といった数字に近づけられたのだった。事故から30年経った今日、この馬鹿げた数字がニュース・メディアやブログ世界を通して蔓延っている。

しかしながら、福島に於けるように、最も重要な健康面・経済面の被害は事故の見た目の酷さによるもので、放射線の影響に対する誤解と、時には反倫理的とも言える避難民の悪用によって、恐怖が拡散したのだった。

チェルノブイリ・フォーラムは、こう報告している。この地域の人々は、放射線の取り扱いに関する作り話や誤った認識によって、死亡説の呪縛に苦しみ、その結果、慢性的な依存症に陥ってしまった。喫煙やアルコールの濫用という精神の健康問題は、汚染地域全体で放射線よりもはるかに大きな問題となってきている。最悪なのは、根底にある貧弱な健康と栄養のレベルで、それが放射線とは無関係に、様々な健康問題を増加している。残念ながら、多くの人々を移住させたことは、極めて大きなトラウマを生じただけで、放射線被爆の減少には殆ど役立っていない。そもそも線量は低いのだ。

実際、チェルノブイリでの長年に渡る恐怖の煽動や水増しした死者数が、公衆や政府の過剰反応を福島に直接もたらし、何万もの日本国民に不必要な損害を与えた

チェルノブイリの原子炉周辺には未だ30㎞立ち入り制限地帯が存在し、同地帯での放射線レベルは健康への影響を及ぼすには遥かに低いにも拘らず、予防線として維持されている。チェルノブイリの立ち入り制限地帯は、人気の観光スポットとなっているばかりか、人の手に邪魔されることなく驚くような自然の野生動物の生息地となっている。実際、約1,000人の人々はチェルノブイリに留まったままで30年間元気に生きている。別の3,000人は原子炉複合施設でいまだに働いている。

真実は、つまらないものだった。しかし真実が認識され、国際的な原子力の安全利用や原子力発電に関する理性的な議論に活用されること、そしてそのことが人類及び人類の住む惑星の長期存続のために、低炭素エネルギーの多様な組み合わせを如何に選択すべきかを考えることへと結び付けられることが、重要である。

ジェームス・コンカ博士は地球化学者、RDD専門家、惑星地質学者であり、また専門分野での講演者でもある

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歴史に学ぶということ

上記の引用文の中で強調したように、2008年の時点で、既にこのような知見は得られていたのです。にもかかわらず、それから10年近く経った現在でも、このような事実は学校教育等でなされていないせいもあってあまり広まっておらず、福島に対する全く事実に反する根拠なき誹謗中傷が行われています。

以下の資料にチェルノブイリ事故と福島の事故の(比較にならない)比較がされていますが、事故から2年後の平成25年度の資料です。

https://warp.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/11241027/www.meti.go.jp/earthquake/nuclear/pdf/130314_01a.pdf

年間20ミリシーベルトの基準について-経済産業省

チェルノブイリ原発事故における避難措置等は過度に厳しいものだったと評価されています。

日本政府は、避難指示政策を行った段階では、このことは認識していなかったと思われます。もしも認識していたのであれば、原発から同心円状の距離を基準に避難者を決めるという発想になりえなかったはずです。政府や東電がチェルノブイリから学んでいたのであれば、地形や風向きから、どの地域に放射性物質が多く到達するかという見地から、事故時の対策をシミュレートしていたはずです。

ここで、私は「事故当時の避難政策の判断が間違っていた」と言うつもりはありません。総理大臣が誰であっても、その当時政府周辺に蓄積していた知見は、「その程度」だったのです。問題視すべきは、そのような状態にしておいた、歴代内閣と東電の態度であり、事故当時の判断としてはやむを得ないものであったと思います。

こうした準備の怠りは、原発の「安全神話」の影響がありますが、これについてはここでは触れません。

既に分かっているはずの知見が生かされていなかったという問題以外にも、例えば、放出された放射線量の総量は実測値ではなく予測値であり、それは在り得る値の中でも最大値を採用しているがために、実際に放出された放射線量の100倍1000倍の値が採用されているという指摘もあります。これについては別の機会に触れていこうと思います。

まとめ 正しい事実を認識するということ

  • チェルノブイリ事故において、放射線が原因で健康被害を受けたのは原発作業員等を含めて100人超であった。
  • チェルノブイリ原発事故における避難措置等は過度に厳しいものだった
  • 2008年時点で政府はこの情報を知り得たが、初動対応からしてこの調査結果を活かせていなかった。
  • 福島で行われている避難政策も、過剰なものであるという評価がなされている

正しい事実の認識が世の中に広まること、ただそれだけで、この世は良くなります。そして、それが福島の方々が故郷を取り戻すことに繋がります。みなさんで正しい事実の認識を共有していきましょう。

以上

*1:※本記事は平成27年=2017年に書かれたものが初稿です。それに対して追記する形を取っています。

*2:リンク切れになっていたのでアーカイブリンクを貼りました