悪質なデマです
- 発端:愛知県安城市の日系ブラジル人生活保護拒否事件「国に帰ればいい」
- 中田大悟のヤフコメ「外国人生活保護排除は難民条約等の国際条約違反」
- 小野田紀美「外国人生活保護拒否は難民条約違反というのは嘘」
- 外国人生活保護の最高裁判例と厚生省局長通達と難民生活保護
- 外国人と自国民を別異に取り扱うことは人種差別撤廃条約違反ではない
- 諸外国の外国人に対する生活保護(公的扶助・所得補助)等の制度比較
発端:愛知県安城市の日系ブラジル人生活保護拒否事件「国に帰ればいい」
「国に帰ればいい」 日系ブラジル人の生活保護拒否、誤情報伝える 12/23(金) 7:30配信 毎日新聞 Yahoo
URL:https://news.yahoo.co.jp/articles/3ffae66ef4fc4c5d00d80e7a3fc9b57727170178
愛知県安城市の役所が生活保護を申請しようとした日系ブラジル人に対して「外国人は生活保護の対象ではない」「国に帰ればいい」などとされて拒否された事件。
まず、「外国人は生活保護の対象ではない」という部分は誤りであるため、その後、生活保護費は支給され、担当課長が謝罪したとあります。
そして、この事件に関する言及において、誤った認識が拡散されました。
中田大悟のヤフコメ「外国人生活保護排除は難民条約等の国際条約違反」
中田大悟氏によるyahooコメントで「外国人生活保護排除は難民条約等の国際条約違反」という言説があり、コメントの上位に来ていました。
これは端的に誤りです。
小野田紀美「外国人生活保護拒否は難民条約違反というのは嘘」
自民党の小野田紀美議員が整理しています。
https://t.co/95myFcOLT3
— 小野田紀美【参議院議員_岡山選挙区】 (@onoda_kimi) 2022年12月23日
外国人に生活保護を出さないことは難民条約違反ではありません。
難民条約第23条⁰締約国は、合法的にその領域内に滞在する難民に対し、公的扶助及び公的援助に関し、自国民に与える待遇と同一の待遇を与える。
↑これは合法的に滞在する「難民」が対象ですので。
こちらが難民条約における「難民」の定義です。自国で経済的に厳しいから、とか、日本で働きたいから、等は難民には該当しません。 pic.twitter.com/prdeVdfPkb
— 小野田紀美【参議院議員_岡山選挙区】 (@onoda_kimi) 2022年12月23日
勘違い…というよりはもはや意図的なんだろうと思いますが「保護すべき難民」と「一般の正規在留外国人」と「在留資格を持たない送還すべき不法滞在者」などを全て混ぜこぜにして語り、分かりづらくさせ、なし崩し的に扱おうとする人達もいますので、ご注意ください。
— 小野田紀美【参議院議員_岡山選挙区】 (@onoda_kimi) 2022年12月23日
「一般の正規在留外国人」と「保護すべき難民」は、まったく別の扱いです。
中田大悟氏の言説は、これらを混同しています。
また、別の方面から「在留資格を持たない送還すべき不法滞在者」と生活保護を紐づけて今回の事件を語る者が居ますが、これも誤謬であるということです。
しかし、「国に帰ればいい」という発言に対して「ヘイトスピーチだ」という指摘がありますが、生活保護の申請の場面では「親兄弟の所に帰ればいい・世話になれるだろう」ということが日本人に対しても当たり前に言われるわけで、そのような意味で言われていたのであれば何ら責められるべき話ではありません。
外国人生活保護の最高裁判例と厚生省局長通達と難民生活保護
小野田議員の発信の根拠となる資料を置いておきます。
外国人は生活保護法による保護の対象ではない、という最高裁判例がありますが、厚生省局長通知(通達)によって「当分の間」は外国人にも保護を行う、としています。
○最高裁判例⇒(最高裁平成26年7月18日判決(平成24年(行ヒ)第45号)参考:http://www.ipss.go.jp/syoushika/bunken/data/pdf/20038509.pdf
この最高裁判決では難民条約の存在と一般外国人への生活保護給付を紐づける見解が一蹴されています。
本件通知は行政庁の通達であり,それに基づく行政措置として一定範囲の外国人に対して生活保護が事実上実施されてきたとしても,そのことによって,生活保護法1条及び2条の規定の改正等の立法措置を経ることなく,生活保護法が一定の範囲の外国人に適用され又は準用されるものとなると解する余地はなく,…我が国が難民条約等に加入した際の経緯を勘案しても,本件通知を根拠として外国人が同法に基づく保護の対象となり得るものとは解されない。なお,本件通知は,その文言上も,生活に困窮する外国人に対し,生活保護法が適用されずその法律上の保護の対象とならないことを前提に,それとは別に事実上の保護を行う行政措置として,当分の間,日本国民に対する同法に基づく保護の決定実施と同様の手続きにより必要と認める保護を行うことを定めたものであることは明らかである。
○生活に困窮する外国人に対する生活保護の措置について(昭和二九年五月八日)(社発第三八二号)(各都道府県知事あて厚生省社会局長通知)⇒https://www.mhlw.go.jp/web/t_doc?dataId=00ta1609&dataType=1&pageNo=1
○「生活に困窮する外国人に対する生活保護の措置について」の一部改正等について(通知)(平成24年7月4日)(社援発0704第4号)(各都道府県・各指定都市・各中核市民生主管部(局)長あて厚生労働省社会・援護局長通知)⇒https://www.mhlw.go.jp/web/t_doc?dataId=00tb9594&dataType=1&pageNo=1
○生活に困窮する外国人に対する生活保護の措置について 改正平成26年6月30日厚生省社会局長通知社援発0630第1号による改正まで⇒https://www.cao.go.jp/bunken-suishin/teianbosyu/doc/tb_29_ko2_08_1_moj_b306.pdf
これとは別に、難民に関して難民条約批准に伴い発出された通達があります。
○難民等に対する生活保護の措置について(昭和五七年一月四日)(社保第二号)(各都道府県知事・各指定都市市長あて厚生省社会局長通知)⇒https://www.mhlw.go.jp/web/t_doc?dataId=00ta1613&dataType=1&pageNo=1
したがって、(受給要件を充たしている)難民に対して生活保護から排除した場合は、難民条約に反することとなる、というのは正しいことになります。
逆に言えば、一般外国人への生活保護と保護すべき難民への生活保護は、別扱いなのだということもこの通達が別建てになっていることから言えるわけです。
その難民の定義は難民条約(「難民の地位に関する条約」及び「難民の地位に関する議定書」)に書かれています。難民の定義だけで3ページにわたっているのでここでは触れませんが、大枠の理解としては小野田議員が画像で引用してる資料元である【現行入管法上の問題点 令和3年12月 出入国在留管理庁】を参照すれば足ります。
また、この資料では日本における難民申請の実態として、「そもそも申請理由自体が難民条約上の理由に直ちに該当するとは思われないもの」が相当数あることが指摘されています。
外国人と自国民を別異に取り扱うことは人種差別撤廃条約違反ではない
そして、原則的に、外国人を自国民と別異に取り扱うことは、合理的な限りにおいて人種差別撤廃条約違反ではないということは、条約自体が規定しています。
人種差別撤廃条約
第1条
2 この条約は、締約国が市民と市民でない者との間に設ける区別、排除、制限又は優先については、適用しない
Q4 「国籍」による区別は、この条約の対象となるのですか。
A4 この条約上、「人種差別」とは、「人種、皮膚の色、世系又は民族的若しくは種族的出身に基づく」差別と定義されていることより、「国籍」による区別は対象としていないと解されます。この点については、第1条2において、締約国が市民としての法的地位に基づいて行う区別等については、本条約の適用外であるとの趣旨の規定が置かれたことにより、締約国が行う「国籍」の有無という法的地位に基づく異なる取扱いはこの条約の対象とはならないことが明確にされています。
ただし、「国籍」の有無による異なる取扱いが認められるかは、例えば、参政権が公権力の行使又は国家の意思の形成に参画する行為という合理的な根拠を持っているように、このような取扱いに合理的な根拠のある場合に限られ、例えば、賃貸住宅における入居差別のように、むしろ人種、民族的、種族的出身等に基づく差別とみなすべきものは、この条約の対象となると考えられます。
もちろん、難民はその例外に当たるということですし、一般外国人に対しても、たとえば外国人だからという理由で食料品を売らないだとか、そういう合理性のない行為は本条約の差別に当たることになります。
したがって、難民ではない一般の(受給要件を充たす)外国人に対して生活保護を給付しないことは、条約上の義務違反には直ちにはならず、それは日本政府が容認し、各自治体が行政措置として行っている外国人への生活保護の仕組み上、許されないにとどまります。
諸外国の外国人に対する生活保護(公的扶助・所得補助)等の制度比較
諸外国の公的扶助制度の比較において、一般的な対象への公的扶助制度の国際比較が為されています。
では、外国人に対してはそれぞれの国においてどういう扱いが為されているのか?
諸外国における外国人受け入れ制度の概要と影響をめぐる各種議論に関する調査独立行政法人 労働政策研究・研修機構の【社会保障制度への影響】項目にまとまっています。
イギリスでは、EEA市民について、「労働者と求職者以外のグループについては、自らの生活を維持する資金があること(及び医療保健に加入していること)が居住権の条件となり、低所得者向け社会保障給付の申請は原則として認められない」とあります。
労働者と求職者についても、給付目当ての入国の実態が判明したことへの警戒感から、近年は取り扱いが厳格化していることが書かれています。
EEA域外の外国人については、「永住権の取得が低所得層向け給付制度の適用の条件となる」「期限付き滞在許可による外国人は、こうした公的扶助に頼らないことが滞在の条件となっているため、受給している場合は国外退去や滞在延長申請の却下、あるいは訴追の対象となりうる。」とあります。
ドイツに関しては以下の記述があります。
原則として、まず社会法典第 2 編による給付が優先され、その適用とならない者が社会法典第12編による社会扶助給付の対象となる。なお、社会法典第 2 編も社会法典第12編も国籍を給付要件としていない。しかし、外国人の場合、社会法典第 2 編は就労許可を得ているか、あるいは得ることができる「稼得能力を要する」という要件がある(同法 8 条 2 項)。他方、社会法典第12編はドイツに滞在する外国人も、生計扶助及び保健扶助、出産扶助などの支給対象となっている(同法23条 1 項)。ただし、社会扶助受給目的でドイツに入国した外国人などは社会扶助から排除される(同法23条 4 項)
フランスに関しては以下の記述があります。
合法滞在の外国人は、年金や医療保険、子どもに対する養育費としての家族給付(子どもにはフランスへの滞在要件あり)等、拠出制の給付を受給できる。無拠出制の給付については、労働市場への復帰が当面期待されていない者に対する給付には、成人障害者手当(AAH)等を除き、国籍要件が付されている。一方、労働市場への復帰が見込まれる者への給付である積極的連帯所得手当(RSA)(生活保護に相当)等には、国籍要件は存在しない。なお、年金若しくは労働災害及び職業病、又は親が社会保障の被保険者である未成年者の医療保険(疾病・出産・死亡)に関しては、不法滞在者であっても受給できる。
アメリカに関しては以下の記述があります。
市民権もしくは永住査証を申請中の合法的にアメリカに居住する外国人とその保証人の負担を第551条が定めている。市民権もしくは永住査証を取得する前に、外国人が社会保障給付を受けた場合、保証人が給付額を政府機関に返納しなければならない。また、保証人は貧困ラインの125%と同額の金額を生活費として援助する義務があるとする。
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