事実を整える

Nathan(ねーさん) 法的観点を含む社会問題についても、事実に基づいて整理します。

安倍晋三回顧録「外務官僚が総理に核密約を知らせるか決めていた。私は第1次内閣では知らされず」「内閣法制局には歴代長官OBと現長官の参与会」

衝撃の事実

安倍晋三回顧録「外務官僚が総理に核密約を知らせるかを決めていた。私は第1次内閣では知らされず」

121頁

 例えば、日米間の核の持ち込みに関する密約だって、知っている総理もいれば、知らなかった総理もいる。米国は、米軍の艦船や航空機が日本に立ち寄っても核兵器の所在について否定も肯定もしない、という内容です。この密約を、時の総理に知らせるかどうか、外務官僚が勝手に決めているというのは、おかしいでしょう。実際、私は第1次内閣では知らされていなかった。

これは特定秘密保護法に関する質問の中で、尖閣諸島周辺で中国漁船が海上保安庁の巡視船に衝突した際の映像がインターネット流出した事件に触れ、国益に関わる動画を公開するかの判断は本来は首相がするべきだ、それが漏洩してしまう状況は厳しく罰する必要がある、と指摘した後に出て来た発言です。

特定秘密保護法が無かったら、もしかしたら韓国軍による自衛隊哨戒機に対する火器管制レーダー照射事件も、無かったことにされていたか、政権に知らされずに内部から流出と言う形になっていたのかもしれません。

安倍元総理「内閣法制局には歴代長官OBと現長官の参与会が絶対的権力を持ち人事や法解釈が決まる。これは変です」

安倍晋三 回顧録【電子書籍】[ 安倍晋三 ] 116頁

 内閣法制局といっても、政府の一部の局ですから、首相が人事を決めるのは当たり前ではないですか。ところが、内閣法制局には、長官を辞めた歴代長官OBと現在の長官が集まる参与会という会合があるのです。この組織が、法制局では絶対的な権力を持っているのだそうです。そこで、法制局の人事や法解釈が決まる。これは変でしょう。

内閣法制局について。

これは集団的自衛権の憲法解釈変更のために山本庸之長官を人事権行使で替えたことに触れて述べている場面です。

「参与会」というのは公式な機関ではないと思われますが、そのような場において法解釈が決まってきたのはおかしい、という総理経験者の主張は重いでしょう。

検証 内閣法制局の近現代史[ 倉山満 ]にてその歴史と問題が書かれてます。

他にも以下のような事例が紹介されていました。

安倍晋三 回顧録【電子書籍】[ 安倍晋三 ] 165頁

 PKO法で、武器を使って守ることができる対象は、自分や一緒に活動している自衛隊員だけでしたが、2001年に法改正し、自己の管理下に入った者の生命身体の防護に拡大したのです。そして安全保障関連法の成立で、ようやく遠隔地にいる民間人や他国部隊を助ける「駆けつけ警護」ができるようになりました。

 01年の法改正の時も、実は妙な議論をしていたのです。小泉総理を交えた官邸での法案協議で、「自己の管理下って、どこまでを指すのか」と内閣法制局に聞いたら、「そんな細かいことは言えない」と。「では、20メートル離れている人は守ってもいいの?」と聞いたら「20メートルは遠すぎるから、できない」と。私は「ゲリラが、自分と一緒に仕事をしている民間人を襲おうとした時、自衛官はちょっと待ってね、と言って、メジャーで20メートル以内かどうか、距離を測らなければならないの?現場は、命がかかっているんだから0.1秒で判断しなければいけない。その人に、20メートル以上だから、武器を使ったら憲法違反だ、と言うのか」と叱ったんですよ。小泉さんも、「全くその通りだ」と言っていましたね。駆けつけ警護を認めて、ようやく常識に沿うような形になりました。

このようなヘンテコな主張が為されていたということです。

内閣法制局の法解釈は、長官によって変わり得る。

それは国葬の際にも表れていたものです。

新型コロナ禍の入国制限でも内閣法制局の法解釈の壁があったが安倍内閣が突破

また、新型コロナ禍の入国制限についても法制局に関して以下の弁があります。

安倍晋三 回顧録【電子書籍】[ 安倍晋三 ] 44頁

 入国制限には、法律上のカベがあったのです。出入国管理・難民認定法(入管法)で入国を禁じている対象は、個人なんです。だから、国全体、地域全体を指定して入国者を拒否できるのか、という法律解釈の問題がありました。日本にとって好ましからざる外国人の入国を禁ずることはできるのだけれども、その対象は、「何の誰兵衛」と指定しなければいけなかった。それまで全土とか地域を指定して、入国を拒否したことがなかったのです。

 日本に危害を与えるという根拠がない人まで、入国を制限するのは難しいというのが、内閣法制局の見解でした。私をずっと支えてきてくれた杉田和博官房副長官でさえも、この時は入国制限に慎重だったのです。「もし全土からの入国を拒否するのであれば、入管法の改正が必要ですね」と言っていました。

 でも、法改正なんてしている暇はなかった。だからこれも政治決断で、対象者なしの入国制限を決めたのです。

――超法規的措置ということですか。

 超法規的措置ではありません。このスキームの入国制限については、法制局にずいぶんと粘られました。水際対策の関係閣僚会議に、法制局長官が遅刻してきたのです。安倍内閣は法制局を蔑ろにしている、という不満の意思表示だったのでしょう。法制局の立場もわかる。だけど、緊急事には、政治が過去の法解釈や先例をオーバーライト(上書き)しなければいけないことはあるのです。

これは故安倍晋三元内閣総理大臣の功績と足跡を偲ぶでも取り上げましたが、重要な解釈運用だったと言えます。

問題となるのは以下の規定です。

入管法

五条 次の各号のいずれかに該当する外国人は、本邦に上陸することができない。

~省略~
十四 前各号に掲げる者を除くほか、法務大臣において日本国の利益又は公安を害する行為を行うおそれがあると認めるに足りる相当の理由がある者

当時、政府は以下の答弁をしています。

第201回国会 衆議院 予算委員会 第18号 令和2年2月28日

○森国務大臣 お答えいたします。
 新型コロナウイルス感染症の感染が拡大し、無症状であっても、検査の結果ウイルスへの感染が確認された者もいる中、我が国へのさらなる流入を阻止するためには、機動的な水際対策を講じることが不可欠でございます。
 そこで、法務省においては、閣議了解及び政府対策本部における報告、公表を踏まえて、入管法五条一項十四号に基づき、我が国の利益と安全を害するおそれがあることを条件として、迅速に上陸拒否の措置を講じることとしているところでございます。
 新型コロナウイルスの拡大の状況が時々刻々と変化している中、どこの地域を危険地域として考えるべきなのか、上陸拒否の措置の対象地域をどのように定めるべきなのかということについては、政府において、対象地域の感染者数や移動制限措置の有無、医療体制の状況等のさまざまな情報や知見に基づき、検討の上、総合的に判断され、報告、公表されることとなるものでございます。
 その上で、今まで中国湖北省を始めとしてさまざまな地域を対象地域として入管法五条一項十四号を適用することとし、閣議了解も経ているところでございます。
 このような運用は、上陸拒否の事由を明示するという入管法五条の趣旨に沿う適正なものであると考えておりまして、法務省としては、引き続き、関係省庁と連携し、新型コロナウイルス感染症の感染の拡大の防止に向け、徹底した水際対策をとってまいります。

入管法の当該規定は、「前各号に掲げる者を除くほか」とあるように、最終的な漏れを全て受け止める規定となっています。

そもそも、「外国人の出入国、難民の認定又は帰化に関する処分及び行政指導」については、行政手続法で審査基準の設定などの義務規定の適用が明文で排除されているように、広範な裁量が認められていると解されるため、おかしな解釈ではないでしょう。

講学的に拡大解釈なのか類推解釈なのかわかりませんが、刑事法ではない上に国家主権の領域なのだから、そのような解釈をしても許容されるでしょう。

入国拒否とは異なりますが、ビザ発給については100%の裁量が政府にあります。

出入国管理及び難民認定法逐条解説 改訂第4版/日本加除出版/坂中英徳240頁

査証を発給するかどうかは、条約又は確立された国際法規に反しない限り、日本政府の裁量に属する事項であって、たとえこれを拒否したとしても、違法の問題が生じる余地はない

2020年3月時点の水際対策の制度については以下でまとめています。

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